# 壁越えの声 - 第八章 官能の夜
四人はそれぞれ服を着直し、リビングに戻ってきた。旭はまだ少し肌がひりつくような感覚を覚えていたが、それを悟られないようにソファに腰を下ろした。向かい側では非がのんびりとビールを開けている。
「さて、映画でも見ようか」
非がリモコンを手に取り、テレビの電源を入れた。画面が明るくなると、部屋の空気が少し変わった気がした。
「何を見る?」と琳が隣に座りながら訊ねる。彼女の髪からはシャンプーの匂いがした。
「最近何か面白いのやってる?」葉がタブレットを操作しながら言った。
旭はスマートフォンを開き、ストリーミングサービスのラインナップを眺めた。コメディ、ドラマ、アクション……どれも今の気分には少し違う気がした。
「あ、そうだ」非が何かを思いついたように手を叩いた。「ちょっと面白い提案があるんだけど」
「提案?」琳が首を傾げる。
「今日はせっかく四人でいるし、ちょっと違うジャンルに挑戦してみないか?」
葉が夫の言葉の意味を察したように軽く笑った。「まさか、あなたが言ってるのは……」
「アダルト映画」非はあっさりと言った。「カップルで見ると結構盛り上がるんだって。ついでに感想を交換するってのはどう?」
琳の頬がほんのり赤くなったが、拒否はしなかった。むしろ興味があるような表情を見せている。
旭は自分の気持ちを確かめるように、ゆっくりと息を吐いた。非の提案は確かに大胆だったが、空気は悪くなかった。むしろ、今日という日がそんな雰囲気を許容しているように思えた。
「私は構わないよ」旭が静かに言った。「どうせ皆大人だし」
「ええっ、旭までそんなこと言うんだ」葉が驚いたふりをしたが、その口元には笑みが浮かんでいた。
「決まりだな」非がリモコンを操作して、あるサイトを開いた。プレミアム会員のアカウントを持っているらしい。
映画の選択画面で、四人は真剣に話し合った。いくつか候補を挙げ、最終的にストーリー性のある作品を選んだ。単なるハードコア作品よりも、むしろ人間関係や感情の描写がしっかりしているものだ。
「じゃあ、テーマを決めてそれぞれのカップルで見よう」非が提案した。「後で感想を交換する時、何に注目したかを話すんだ」
「テーマって?」琳が訊ねる。
「例えば、演出の仕方とか、会話の言葉遣いとか、体位のバリエーションとか」非は真面目な顔で言った。「それぞれのカップルで違う視点で見ると、後で話す時にも新しい発見があるだろう?」
葉がうなずいた。「確かに面白いかもね。私は演出とカメラワークを担当するわ」
「じゃあ俺は台詞回しとシチュエーションだな」非が言った。
旭は少し考えてから「僕は体位の自然さと、実際に再現できるかをチェックしようかな」
「旭!」琳が軽く彼の腕を叩いた。「本気で言ってるの?」
「半分冗談だけど半分本気」旭は肩をすくめた。
「なら私は……」琳は恥ずかしそうにしながらも「音楽と照明の効果について見てみるわ」
「よし、決まりだ」非が映画を再生した。
画面にタイトルが映し出されると、部屋の照明が自動的に暗くなった。四人はそれぞれのパートナーと寄り添いながら、映画に集中した。
映画は最初から官能的なシーンが続いた。派手なセックス描写ではなく、むしろ少しずつ盛り上がっていくタイプの作品だ。会話のテンポが良く、二人の関係が徐々に深まっていく過程が丁寧に描かれていた。
旭は横目で琳の様子をうかがった。彼女は画面に釘付けで、時折自分の唇を舐めたり、脚を組み替えたりしている。彼女の手が無意識に自分の太腿を撫でているのに気づいて、旭は胸が高鳴った。
向かいのソファでは、非と葉が何かを囁き合っている。葉が時折笑い声をあげ、非が彼女の腰に手を回しているのが見えた。
映画が進むにつれて、部屋の空気は徐々に熱を帯びていった。セックスシーンになると、四人は一様に沈黙したが、その沈黙には特別な緊張感が満ちていた。
「なあ」非が突然言った。「ちょっとゲームをしないか?」
「ゲーム?」琳が顔を上げる。
「エロサイコロってのがあるんだ」非が引き出しから小さなサイコロを取り出した。面には数字ではなく、さまざまな指示が書かれている。
サイコロの六面には「脱衣」「キス」「触る」「ポーズ」「命令」「ラッキー」と書かれていた。
「ルールは簡単だ」非が説明を始めた。「サイコロを振って出た目の指示に従う。負けたら服を一枚脱ぐか、指定された動作をする。カップル対抗で、先に全裸になった方が負け」
「ちょっと待ってよ」葉が慌てた声を出した。「ここで裸になるの?」
「なんだ、友達の前で恥ずかしいのか?」非がからかうように言った。
「だって……」葉は琳の方を見た。琳も同じように戸惑っているようだった。
しかし、旭はこのゲームに興味を持っていた。空気は確かに熱を帯びていたし、今日という日にふさわしい遊びかもしれない。
「やってみないか?」旭が琳の耳元で囁いた。
琳は少し迷った後、小さくうなずいた。
「やるならルールを決めよう」非が言った。「服の定義は何にする?靴下も服に入れるか?」
「普通の服だけにしよう」葉が提案した。「アクセサリーや靴下は除く」
「賛成」琳が手を挙げた。
「じゃあ、俺から行くよ」非がサイコロを振った。出た目は「脱衣」。
「おっと、初っ端からか」非は笑いながらTシャツを脱ぎ捨てた。彼の少し太めの体には、汗が光っていた。
次に葉が振る。出た目は「キス」だった。
「誰に?」葉が訊ねる。
「もちろん相手にだよ」非が答えた。
葉は恥ずかしそうにしながらも、非の唇に軽くキスをした。その光景を見ていると、旭の体の奥が熱くなった。
「次は旭の番だ」
旭は手を伸ばしてサイコロを掴み、振った。出た目は「触る」。
「触るってどこまで?」旭が訊ねる。
「肘から先は使わずに、相手の好きな場所を触っていい」非がニヤリと笑った。
旭は琳の方を見た。彼女の目は期待と緊張が混ざっていた。彼はゆっくりと手を伸ばし、琳の肩甲骨の間を撫でた。彼女の肌は驚くほど滑らかだった。
「もっと大胆に」非が囃し立てる。
旭はその言葉に従い、琳の腰のラインをなぞった。彼女は一瞬体を強張らせたが、すぐに力を抜いた。
「そろそろ私の番ね」琳が言ってサイコロを振った。出目は「脱衣」。
「あ、やっぱり来たか」琳は苦笑いしながらブラウスのボタンを外し始めた。中から現れたのはシンプルな白いブラジャーだった。彼女の豊かな胸が布の上で揺れた。
「次は何が出るかな」
非が再びサイコロを振る。今度は「ポーズ」だった。
「指定されたポーズを取れ。今日のテーマは『官能的なポーズ』だ」
非は立ち上がり、ソファの前で片膝をついて、両手を胸の前で組んだ。その姿はどこか演劇的で、みんなから笑いが漏れた。
「真面目にやってよ」葉が笑いながら言った。
「これが俺の官能的なポーズだ」非はあえて真面目な顔をして言った。
ゲームは続き、次第に服の枚数が減っていった。旭は自分の番で「命令」を引き出した。
「命令の内容は?」旭が訊ねる。
「じゃあ、琳に『指で一箇所触ってください』と命令する」非が言った。
琳は困惑した表情を見せたが、旭の指示に従うことにした。彼女は人差し指を伸ばし、旭の胸の真ん中、心臓の上に触れた。彼女の指は冷たく、しかし触れられた部分からは熱が広がった。
「そこじゃなくて……」非が言いかけたが、葉が彼の口を塞いだ。
「もう十分よ」
「分かった分かった」非は手を挙げて降参した。
三巡目に入ると、四人の服はかなり少なくなっていた。非はズボンと下着だけ、葉はブラとショーツだけ、琳はブラだけになっていた。旭だけがまだズボンを履いていた。
「旭、君の番だよ」非がサイコロを渡す。
旭が振ると、出た目は「ラッキー」だった。
「おっと、これは運がいいな」非が言った。「ラッキーの場合は、周りの誰かに服を脱がせる権利があるんだ」
旭は一瞬考えたが、狙いは決まっていた。
「非、君だ」旭が言った。
「俺かよ」非は笑いながら立ち上がり、あっさりと下着を脱いだ。彼の全裸が露わになったが、彼は恥ずかしがる様子もなくポーズを取った。
「これで俺は全裸だな」非が言った。「負けだ」
「じゃあ、何か罰ゲームをしてもらおう」葉が提案した。
「罰ゲーム?」非が首を傾げる。
「映画のワンシーンを再現してみせて」
その言葉に非は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。「了解」
非は映画のあるシーン——主人公が相手をベッドに押し倒して、ゆっくりと服を脱がせるシーン——を真似て、エアベッドに対して動作を始めた。
「もっとリアルに」葉がからかう。
非は空想の相手と触れ合うような動きをしながら、官能的な言葉を囁くふりをした。「君の肌はとても柔らかい……触れるだけで溶けてしまいそうだ……」
その演技はあまりにも真に迫っていて、三人は笑いをこらえるのに必死だった。しかし同時に、その滑稽さの中に何か挑発的な要素も含まれていた。
「もういいよ、もういい」葉が手を振った。「君は本当に恥ずかしい人だな」
非はにこにことしながら元の場所に座った。
「じゃあ、もう一ラウンドやるか」旭が言った。
今度は葉が振る番だ。出た目は「命令」だった。
「誰に命令する?」非が訊ねる。
「琳に」葉が答えた。「琳、あなたは……非と三人でキスをしなさい」
その命令に部屋の空気が一瞬凍りついた。琳は葉の顔を見て、彼女が冗談を言っているのか本気なのかを探ったが、葉の目は真剣だった。
「えっと……」琳は旭の方を見た。旭もうなずいた。
「良いよ」旭が言った。「ただのゲームだから」
琳はゆっくりと立ち上がり、非の前に立った。非も立ち上がり、二人は数秒見つめ合った。
「やっぱり恥ずかしいよ」琳が小声で言った。
「そんなこと言わずに」葉が背中を押す。
琳は決心したように目を閉じ、非の唇に自分の唇を重ねた。それは一瞬の出来事だったが、旭の目にはその瞬間がスローモーションのように映った。彼女の唇が非の唇に触れる音が、耳の奥で響いた。
「もう一回」葉が言った。
「さすがにそれは」非が止めに入ろうとしたが、琳が手を振り払った。
「いいよ」琳はもう一度非に向き直り、今度は少し長めにキスをした。その間、彼女の手が非の胸に触れていた。
「これで満足?」琳が葉に訊ねた。
「うん、満足した」葉は満足そうに笑った。
部屋の雰囲気はさらに熱を帯びていた。旭は自分の体が熱くなっているのを感じていた。隣では琳が息を整えている。
「そろそろ実質的なゲームにしよう」非が提案した。「もう一度サイコロを振って、出た目に従って、実際の動きを入れよう」
「それってどういう……」旭が訊ねる。
「例えば、『脱衣』なら今度は全部脱ぐ。『キス』ならただのキスじゃなくて、舌を入れる。『触る』なら……まあ、分かるだろ」
四人の間に微妙な沈黙が流れた。誰もが次に何が起こるかを予感しているようだった。
「分かった」旭が最初に言った。「やろう」
今度は琳がサイコロを振る。出た目は「触る」だった。
「触る範囲は?」琳が訊ねる。
「全身だ」非が答えた。
琳はゆっくりと旭に近づき、彼の腹筋のラインを指でなぞった。旭は息を呑んだ。彼女の指は冷たく、しかし触れられた部分だけが焼けるように熱くなっていた。
「ここ?」琳が囁くように言った。
「うん」旭は声を絞り出した。
琳の指はさらに下へと滑り、旭の陰部に触れた。旭は思わず声を漏らした。それはあまりにも直接的な刺激だった。
「次、俺の番だな」非がサイコロを振る。出た目は「キス」だった。
「相手は葉だよね?」非が確認する。
「もちろん」葉が答えた。
非は葉に近づき、彼女の唇にキスをした。そのキスは最初は優しかったが、次第に激しくなり、舌が絡み合う音が部屋に響いた。葉の腕が非の首に回り、二人は深く長いキスを交わした。
「次は私だ」葉が息を切らしながらサイコロを振る。出目は「命令」だった。
「命令の内容は……旭と琳で、お互いの服を全部脱がせ合うこと」
その命令に旭も琳も一瞬息を呑んだ。しかし、今となっては断る理由も見つからなかった。
旭は立ち上がり、琳の前に立った。彼女のブラジャーのホックを外すのは、いつものことだが、今は違った。非と葉の視線が彼らに注がれている。
「緊張してる?」旭が小声で訊ねた。
「ちょっとね」琳が答えた。
旭はゆっくりと琳のブラジャーのホックを外した。彼女の豊かな胸が解放された。琳も負けじと旭のズボンを下ろし、下着の中の彼の反応を露わにした。
「お互い様だね」琳が微笑んだ。
「そろそろ休憩にしないか?」非が突然言った。「ゲームはここまでにして、実際に……」
その言葉の意味を三人は即座に理解した。
「ここで?」葉が驚いた声を出した。
「どうせもう隠すものは何もないだろ」非が言った。「それに、今日の雰囲気を無駄にするのはもったいない」
旭は琳の目を見た。彼女の瞳は熱に潤み、彼女の体は期待で震えていた。
「良いよ」旭が言った。
「私も」琳が続いた。
非と葉もうなずいた。
四人はゆっくりと、カップルごとに別れた。非と葉はソファの上で、旭と琳は床に敷かれたカーペットの上で。
最初はぎこちなかった動きも、次第に激しくなり、部屋には四つの呼吸と、肌が触れ合う音が響いた。
「よかったな」非が旭の方に向かって言った。
「ああ」旭は息を切らしながら答えた。
言葉はそれ以上必要なかった。ただ官能の夜が、ゆっくりと深まっていくだけだった。