# 第一章 キャンパスに戻る新生活
夏の暑さがまだ残る九月の初め、秦昊は大きなスーツケースを引きずりながら、二年ぶりにキャンパスへと戻ってきた。大学の正門をくぐると、両側に並ぶ銀杏の木々がまだ青々とした葉を茂らせ、その隙間から差し込む朝日がアスファルトの上に斑模様を描いている。一か月半の夏休みは、彼にとって忘れがたい日々だった。小雪先生と過ごした密やかな時間、そしてあの地下室での出来事が、まだ彼の脳裏に鮮明に焼き付いている。
「二年生か…」
秦昊は小さくつぶやき、学生証をポケットにしまった。身長は昨年からさらに数センチ伸び、百七十八センチになった。高校時代までは細身だった体つきも、この一か月で少し厚みを増したように感じる。それはおそらく、夏休み中に定期的に通ったジムの成果だった。小雪先生に「もっとたくましくなったね」と言われたとき、内心少し嬉しかったのを覚えている。
寮に荷物を置き、部屋の掃除を済ませると、秦昊はすぐに体育館へ向かった。昨年の終わりごろから、彼はバスケットボール部に入ることを考えていた。もともと運動は嫌いではなかったが、特にバスケに熱中していたわけではない。ただ、何か新しいことに挑戦したいという漠然とした思いがあったのだ。それに、絵を描くことに没頭しすぎて引きこもりがちだった自分を変えたかった。
体育館の入り口には、すでに数人の部員が集まっていた。彼らは汗を拭いながら、楽しそうに談笑している。秦昊は深呼吸を一つして、中へ足を踏み入れた。
「すみません、バスケ部の見学をしたいんですが…」
声をかけると、振り返ったのは二年のキャプテン、田中だった。田中は秦昊の顔を見て、少し驚いた表情を浮かべた。
「おい、秦昊じゃないか! お前、バスケに興味あったのか?」
「はい、少しやってみたくて」
「いいじゃないか! ちょうど新入部員も募集してるし、一緒にやってみるか?」
田中の言葉に促され、秦昊は更衣室でジャージに着替えた。コートに立つと、久しぶりの運動に体が少しこわばっているのを感じたが、同時に高揚感もあった。
最初の練習は基礎的なドリブル練習とシュート練習だった。秦昊は高校の体育の授業でバスケを経験した程度だったが、意外にも体が覚えていた。特に、夏休み中に筋力をつけたことで、ジャンプ力やシュートの飛距離が向上していることに気づいた。
「おい、秦昊、結構やるじゃないか!」
同じチームになった四年の先輩が声をかけてきた。秦昊は照れくさそうに笑いながら、パスを返す。
練習が進むにつれて、周りの部員たちも秦昊のプレイに注目し始めた。彼の動きは決して派手ではないが、正確で無駄がない。特に、相手の動きを読む力は、普段から人物を観察して絵を描いている習慣が生きているのかもしれない。彼は直感的に、相手の重心の移動や視線の先を読み取り、次の動作を予測することができた。
「秦昊、お前、初めてにしてはすごいセンスしてるな」
コーチ役の大学院生、山田が感心したように言った。秦昊は謙遜しながらも、内心では手応えを感じていた。
翌日から、秦昊は本格的にバスケ部の練習に参加するようになった。毎日午後四時から七時までの三時間、コートで汗を流す。最初の数日は筋肉痛に悩まされたが、それもすぐに慣れた。むしろ、体を動かすことで心がリフレッシュされるのを実感していた。
一週間が過ぎたころ、大学内で行われる学部対抗バスケットボール大会の代表選考が行われた。各学部から選抜された選手が集まり、紅白戦形式で実力を競う。秦昊は経済学部の代表として、精鋭たちの中で自分の力を試すことになった。
選考会の日、体育館には多くの学生が集まっていた。特に女子学生の姿が目立つ。それは、バスケ部のイケメン選手を見に来るのが、この大学の女子学生の間で一種のブームになっていたからだ。
秦昊はコートに立つと、周りの観客の視線を感じた。少し緊張したが、同時に不思議な高揚感があった。彼は深く息を吸い込み、試合の開始を待った。
ホイッスルが鳴り、試合が始まった。最初の数分は互いに譲らず、緊迫した展開が続いた。秦昊はポイントガードとしてチームを指揮する。パスを回し、相手のディフェンスの隙を見つけ、味方に攻め込むよう指示を出す。
「秦昊、行け!」
味方からのパスを受けた秦昊は、素早く相手ディフェンダーをかわし、ゴール下へ切り込んだ。ジャンプしてボールを放つ。それは見事な弧を描き、リングを通過した。
「うおおお!」
観客から歓声が上がる。秦昊はその声に背中を押され、さらに攻め立てた。第二クォーターでは、スリーポイントシュートを三本連続で決め、チームのリードを広げた。
試合は秦昊のチームが八点差で勝利した。彼は一人で十八点を挙げ、アシストも七つ記録した。この結果は、瞬く間に大学中に広まった。
「ねえ、見た? 経済学部の秦昊って人、すごくカッコよかったよ!」
「うん、あのシュートフォーム、芸術的だったね」
「それに、顔もイケメンじゃない? 背も高いし」
「そうそう、何であの人が今まで目立たなかったんだろうね」
試合後、秦昊が体育館を出ようとすると、数人の女子学生が駆け寄ってきた。
「秦昊さん! サインもらえませんか?」
「写真一緒に撮ってください!」
秦昊は戸惑いながらも、笑顔で応じた。彼にとって、これはまったく予期しない出来事だった。今まで中学でも高校でも、こんなふうに注目されることは一度もなかった。ましてや、自分から積極的に人前に出るタイプでもない。絵を描くことに没頭し、静かな時間を愛する彼にとって、突然の注目は戸惑いと同時に、少しの快感ももたらしていた。
その日から、秦昊の日常は一変した。大学の廊下を歩けば、知らない女子学生から声をかけられる。授業中も、隣の席の女生徒がこっそり彼の方を覗いてくる。そして、何より驚いたのは、学内のイケメンランキングというものに彼の名前がランクインしたことだった。
「秦昊、見たか? お前、学内イケメンランキングの三位だってよ」
同じ部の友達がスマホの画面を見せながら笑った。画面には「××大学イケメンランキング 秋号」と書かれ、秦昊の写真が掲載されていた。どうやら試合の日に誰かが撮ったものらしい。写真の中の彼は、汗を拭いながら真剣な表情でコートを見つめている。
「こんなの、よくわかんないけど…」
秦昊は照れくさそうに笑ったが、内心では少し嬉しかった。人間とはかくも単純な生き物で、認められることへの欲求は誰にでもある。彼も例外ではなかった。
さらに、数日後には秦昊の下に初めてのラブレターが届いた。それは下駄箱に無造作に差し込まれていた。ピンク色の封筒に、丁寧な字で「秦昊様へ」と書かれている。中を開けると、便箋三枚にびっしりと気持ちが綴られていた。差出人の名前はない。匿名だった。
秦昊はその手紙を何度も読み返した。そして、絵を描くときのように、一つ一つの言葉を心に刻んだ。彼はその手紙を、大切に机の引き出しにしまった。後で小雪先生に見せよう。彼女ならきっと笑って許してくれるだろう。そう思った。
しかし、事はそう簡単にはいかなかった。
その週の金曜日、秦昊は久しぶりに小雪先生に会う約束をしていた。夏休み中に彼女のマンションを訪れてから、彼らの関係はさらに深まっていた。表向きは教師と生徒だが、その裏では彼女が彼に調教されるという、秘密の関係が続いている。しかし最近、秦昊はそのことに少し戸惑いを感じ始めていた。というのも、キャンパスでの人気が高まるにつれて、彼の心に少しずつ変化が生まれていたからだ。それは、支配欲というよりも、むしろ自分の存在が認められることへの喜びだった。
夕方六時、秦昊は数学科の研究室へ向かった。ドアをノックすると、中から「どうぞ」と小雪先生の声が聞こえる。
「お邪魔します」
秦昊が入っていくと、小雪先生はパソコンに向かって何か資料を作成していた。彼女は今日も白いブラウスに黒のスカートという、教授らしい装いだった。髪は後ろで一つにまとめ、眼鏡をかけている。その姿はまさに知的な美しさを体現していた。
「小昊、待ってたわよ」
小雪先生は顔を上げると、優しい微笑みを浮かべた。だが、その目はどこか冷たく、秦昊は一瞬たじろいだ。
「お疲れ様です、小雪先生」
秦昊はソファに腰掛け、彼女の仕事が終わるのを待った。しばらくして、小雪先生は立ち上がり、コーヒーを二杯入れてもってきた。
「どう? 大学の生活は慣れた?」
「はい、まあまあです」
「そう。バスケ部にも入ったんだって?」
「はい。友達に誘われて、やってみようかなって」
小雪先生はコーヒーを一口すすると、何気ない口調で言った。
「そういえば、最近女子学生の間で話題になっているわね。『イケメンランキング三位の秦昊くん』って」
秦昊は一瞬言葉を失った。まさか小雪先生の耳にまで入っているとは思わなかったからだ。
「あ、あの…それはただの噂で…」
「噂? でも、実際にラブレターももらっているんでしょう?」
小雪先生の声は相変わらず穏やかだったが、その眼差しは鋭く秦昊を射抜いていた。彼は居心地悪そうに視線をそらした。
「もらったけど、全然興味ないです」
「そうなの? でも、あなたは今、キャンパスの人気者。たくさんの女の子があなたに注目している。それはとても素晴らしいことよ」
小雪先生はそう言いながら、コーヒーカップをテーブルに置いた。その仕草には、かすかな苛立ちが感じられた。
「小雪先生、気にしてるんですか?」
秦昊が率直に尋ねると、小雪先生は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔を作った。
「気にしてなんかないわ。あなたは自由よ。私のものですらないしね」
「そんなことないです。僕は小雪先生のものです」
秦昊がそう言って彼女の手を握ろうとすると、小雪先生はさっと手を引いた。
「今日はもう帰りなさい。私、まだ仕事が残っているから」
「小雪先生…」
「いいから、帰って。おやすみなさい」
小雪先生はそう言うと、背を向けてパソコンの前に座り直した。その背中は、頑なに秦昊を受け入れようとしなかった。
秦昊は仕方なく研究室を後にした。廊下を歩きながら、彼は考え込んだ。小雪先生は明らかに怒っていた。いや、怒っているというより、嫉妬しているように見えた。それは当然かもしれない。自分が心から愛している相手が、他の女性から注目されるのは気分のいいものではない。ましてや、彼女は二十九歳で、自分は二十歳。年の差もある。彼女が不安に思うのも無理はなかった。
翌日から、小雪先生は秦昊の電話にも出ず、メッセージにも返事をしなかった。大学ですれ違っても、目を合わせようとしない。まるで秦昊という存在を無視しているかのようだった。
秦昊は焦った。彼は何度も電話をかけ、メッセージを送ったが、すべて既読無視された。直接研究室を訪ねても、「今忙しい」の一言で追い返された。
その間も、キャンパスでの秦昊の人気は留まることを知らなかった。バスケ部の練習試合では連日観客が増え、彼のプレイを見ようと女子学生が詰めかけた。ラブレターも日に日に増え、時には直接告白されることもあった。
「秦昊さん、私と付き合ってください!」
下校途中、突然呼び止められてそう言われたこともあった。秦昊は丁寧に断ったが、その女子学生は泣きながら走り去っていった。その様子を見ていた周りの学生たちが、ひそひそと噂をする。
「秦昊って、結構女に冷たいんだね」
「イケメンはみんなそうだよ。高嶺の花ってやつ」
秦昊はその言葉を聞きながら、心の中で苦笑した。自分は決して冷たいわけではない。ただ、心の中は小雪先生でいっぱいだったのだ。彼女が無視する日々が続くほど、秦昊の思いは募るばかりだった。
三日目の夜、秦昊はついに行動を起こした。彼は小雪先生のマンションへ向かい、インターホンを押した。しかし、応答はない。何度押しても同じだった。諦めて敷地を出ようとしたとき、ふと見上げると、彼女の部屋の灯りがついているのが見えた。いるのに、出てこないのだ。
秦昊は近くの公園のベンチに腰掛け、小雪先生のマンションを見上げた。外灯の下で、自分の影が長く伸びている。秋の夜風が肌寒く、彼はコートの襟を立てた。
「小雪先生、どうして…」
彼はスマホを取り出し、もう一度メッセージを打った。
「小雪先生、謝りたいことがあります。会ってください。お願いします」
送信ボタンを押したが、既読はつかない。彼はそのままベンチに座り続けた。一時間ほど経っただろうか。突然、マンションのエントランスから小雪先生が出てきた。彼女はパジャマの上にカーディガンを羽織り、スリッパのままだ。
「小昊!」
彼女の声は少し震えていた。秦昊が立ち上がると、彼女は早足で近づいてきた。
「こんな時間まで何やってるの! 風邪ひくわよ!」
「小雪先生に会いたくて」
秦昊がそう言うと、小雪先生は一瞬息を呑み、そして涙を浮かべた。
「バカ… 私、ひどいことしたわね。あなたを無視して」
「いえ、僕が悪かったんです。小雪先生を不安にさせてしまって」
「違うの… 私、嫉妬してたのよ。あなたがキャンパスで女性に人気があるって聞いて、どうしても許せなかった。私のものなのに、他の誰かに取られるのが怖かったの」
小雪先生はそう言うと、秦昊の胸に顔を埋めた。彼女の体はかすかに震えていた。秦昊はそっと彼女の背中を抱きしめた。
「僕はずっと小雪先生のものです。他の誰かのものになるなんてありえません」
「本当?」
「本当です。約束します」
秦昊はそう言って、小雪先生の顎をそっと持ち上げた。月明かりに照らされた彼女の顔には、涙の跡が光っていた。秦昊はその涙を指で拭い、そして優しくキスをした。
「ごめんね、わがまま言って」
「わがままじゃないです。小雪先生が嫉妬してくれるなんて、僕は嬉しいです」
秦昊は微笑みながら、小雪先生の手を握った。彼女の指は冷たく、震えていた。
「もう帰ろう。風邪ひくよ」
「うん」
二人は手をつないでマンションへ戻った。エントランスを通り、エレベーターに乗る。狭い空間で、二人の距離は自然と近づいた。
部屋に入ると、小雪先生は秦昊のコートを脱がせ、ハンガーにかけた。そして、キッチンでホットミルクを温め始めた。
「座ってて」
秦昊はソファに腰掛け、彼女の後ろ姿を見つめた。細い肩、きゅっと締まったウエスト、そしてスリッパから覗く繊細な足首。彼女の全てが愛おしかった。
「はい、どうぞ」
小雪先生がホットミルクを差し出すと、秦昊はそれを受け取り、一口すする。温かいミルクが体に染み渡る。
「小雪先生、もう僕を無視しないでください」
「約束する。でも、その代わりに…」
「代わりに?」
「あなたは私だけのものだって、証明してほしいの」
小雪先生の目が、妖しく光った。秦昊はその意味を即座に理解した。彼はコップをテーブルに置き、小雪先生の手を取った。
「わかりました。今夜は、僕がしっかり小雪先生に教えてあげます」
秦昊は小雪先生を抱き上げ、寝室へと向かった。ベッドに優しく降ろすと、彼女は濡れた瞳で彼を見上げる。
「小昊… 私、あなたがいないとダメなの」
「僕もです。小雪先生がいないと、何もできません」
秦昊はそう言いながら、彼女のブラウスのボタンを一つずつ外していった。白い肌が露わになる。彼はその肌に顔を埋め、優しくキスを落とした。
「んっ…」
小雪先生の吐息が漏れる。秦昊は彼女の反応を確かめながら、ゆっくりと愛撫を続けた。今夜は、一日中ため込んだ想いを全て彼女にぶつけるつもりだった。
時計の針が深夜を回っても、部屋には二人の吐息と微かな声が響いていた。
翌朝、秦昊が目を覚ますと、隣には小雪先生がすやすやと眠っていた。彼女の寝顔は無防備で、まるで子供のように可愛らしかった。秦昊はそっと彼女の髪を撫でると、彼女が目を覚ました。
「おはよう…」
小雪先生は恥ずかしそうに顔を赤らめながら、シーツを胸のあたりまで引き上げた。
「おはようございます、小雪先生」
「小昊… 昨日は、ごめんね。私、本当に子供だったわ」
「そんなことないです。僕は小雪先生の全部が大好きですから」
秦昊はそう言って、彼女の額にキスをした。小雪先生は嬉しそうに目を細めた。
「これからは、ちゃんと信じるからね。でも…」
「でも?」
「もし他の女の子と浮気したら、許さないから」
小雪先生は冗談めかして言ったが、その目は半分本気だった。秦昊は笑いながら、「もちろんです」と答えた。
それから、二人は朝食を一緒に取った。トーストとスクランブルエッグ、サラダというシンプルなものだが、小雪先生が作ってくれたものは何より美味しかった。
「今日、バスケ部の練習、あるの?」
「はい。三時からです」
「そう。じゃあ、練習終わったら、一緒に夕ご飯食べない? 久しぶりに外で」
「いいですね。楽しみにしてます」
秦昊は微笑んで頷いた。小雪先生も嬉しそうに笑った。彼女の笑顔を見ると、秦昊は心から安堵した。
その日から、二人の関係は以前よりもさらに深まった。小雪先生は秦昊を信頼し、自分の不安を素直に伝えるようになった。秦昊もまた、彼女への想いを言葉と行動で示し続けた。キャンパスでの人気は相変わらず続いていたが、彼の心は完全に小雪先生で占められていた。
しかし、その矢先に新たな展開が待っていた。一週間後、小雪先生が数学学会に出席するため、三日間の出張に出かけることになったのだ。
「小昊、私がいない間、ちゃんとご飯食べるのよ」
「はい、わかってます」
「それと、女の子と遊んだりしないでね」
小雪先生は最後まで心配そうだった。秦昊は彼女を駅まで見送り、手を振った。
「行ってらっしゃい、小雪先生。気をつけて」
「うん。行ってくるわ」
小雪先生が改札を通り、ホームへと消えていく。秦昊はその後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
そして、彼女が去ったその日の夜、一本の電話が秦昊のスマホを鳴らした。画面に表示された名前を見て、秦昊は少し驚いた。
「もしもし?」
『秦昊くん? 私よ、梁璐。久しぶりね』
それは、あの地下手術室を持つ女医、梁璐からの電話だった。
「梁璐さん… どうしたんですか?」
『ちょっと用事があってね。明日、会えないかしら? 大事な話があるの』
秦昊は一瞬迷ったが、結局「わかりました」と答えた。彼はまだ知らなかった。この電話が、新たな狂宴の始まりになることを。
翌日、秦昊は約束の時間に梁璐の医院へ向かった。彼の胸は期待と不安で高鳴っていた。小雪先生がいない三日間、何かが起こる予感がしていた。
キャンパスに戻る新生活は、秦昊にとって予想外の展開を次々ともたらしていた。バスケットボールでの成功、女子学生からの人気、小雪先生との確執と和解、そして新たな秘密の関係の始まり。彼の日常は、もはや「普通の大学生」とは言えなくなっていた。
それでも秦昊は、自らの選択に後悔はなかった。むしろ、その刺激的な日々を楽しんでいる自分がいた。彼の内に秘められた欲望は、少しずつ、しかし確実に表面化しつつあった。そして、その欲望はキャンパスという新たな舞台で、さらに大きなうねりを生み出していくことになる。
キャンパスの秋はまだ浅く、銀杏の葉が少しずつ色づき始めていた。秦昊はその木々の下を歩きながら、これから始まる二学期の日々に思いを馳せた。小雪先生が戻ってくるまでの三日間、彼は梁璐との新たなゲームに没頭するだろう。そして、そのゲームの果てに何が待っているのか、まだ誰も知らなかった。
秦昊のスマホが再び鳴る。梁璐からのメッセージだった。
「明日の夜、八時に来て。準備はできてる」
秦昊はそのメッセージを見つめ、そして小さく笑った。彼の指が素早く画面を滑り、「わかりました」と返信する。
秋風が吹き抜け、銀杏の葉が一枚、彼の肩に舞い降りた。秦昊はその葉を手に取り、空を見上げた。茜色に染まった空が、彼の新たな日常を静かに照らしていた。