**第一章 日記の始まり**
その夜、林雪は古びた机の前に座り、引き出しの奥から十年以上も開けていなかった日記帳を取り出した。革表紙はところどころ色あせ、背表紙の糊もはがれかけている。指でなぞると、微かに埃の感触が残っていた。
彼女は深く息を吸い込み、ペン先を紙に当てた。
*2000年4月7日。あの日から、すべてが始まった。*
二十歳の春、私はカメラの前で裸になった。家賃が三ヶ月滞納していて、母の入院費も払えなかった。モデル事務所に紹介されたSM撮影は、給料が良かった。最初はただの仕事だと思っていた。縛られて、叩かれて、写真を撮られる。それだけだ。
けれど、初めて革の縄が肌に食い込んだ瞬間、私は自分の中に眠っていた何かが目覚めるのを感じた。痛みは恐怖だった。同時に、その痛みが私を満たした。空虚だった心の隙間を、苦痛が埋めてくれたのだ。
三年後、私は業界で有名な「M女モデル」になっていた。タチの悪いカメラマンたちは、新人の頃より過激なプレイを私に強要した。私はすべてを受け入れた。首輪をつけられ、犬のように這い、唾液を飲まされ、鞭の痕が背中に幾重にも刻まれた。そのたびに、私は満足した。苦しいほど、自分が存在していると実感できた。
二十五歳の夏、私は妊娠した。相手は無責任なカメラマンだった。彼は「堕ろせ」の一言だけを残して姿を消した。それでも私は産むことを選んだ。子供を育てることで、自分を変えられると思ったのだ。
隆弘——後に私は息子に「小天」という名前をつけた。小さい頃から明るく、よく笑う子だった。私は彼を守るために、過去のすべてを封印した。日記も写真も、あらゆる道具も。それから十五年、私は普通の母親として生きてきた。
*だが、本能は消えなかった。むしろ、押し殺せば押し殺すほど、それは肥大化していった。*
林雪はペンを止め、二階から聞こえてくる物音に耳を澄ませた。息子の小天は自分の部屋で何かをしているようだ。十八歳になった彼は、母親よりも背が高くなり、声も低くなった。かつての幼い面影はもうほとんど残っていない。
彼女は再びペンを走らせた。
*小天が十五歳の時——私は決断した。*
*その日も、私は長い間押さえ込んでいた欲望に耐えかねていた。脳裏に浮かぶのは、かつて身に刻まれた革の感触、鞭の痛み、強靭な支配の声。それらが頭の中で反響し、私は毎晩のように自分を慰めることしかできなかった。*
*ある日曜日の午後、小天がリビングでテレビを見ていた。私は彼の隣に座り、肩に手を置いた。彼は気持ちよさそうに目を細め、私の手に頭を寄せてきた。*
*「母さん、何?」*
*「何でもないよ。ちょっと、遊んでみない?」*
*私はそう言いながら、机の引き出しから細いロープを取り出した。それは昔、ガーデニング用に買った麻紐だった。私は彼の手を優しく掴み、ロープを巻きつけた。*
*「これ、痛くない?」*
*「ううん、大丈夫。何をするの?」*
*「ちょっとしたゲームだよ。私のこと、縛ってみて。」*
*私は床にうつ伏せになり、両手を背中に回した。心臓は激しく打っていた。これで彼が拒絶したら、私はどうやって言い訳をすればいいのか——そんな恐怖が一瞬頭をよぎった。*
*だが、小天は躊躇いながらも、私の手首にロープを巻きつけた。ぎこちない手つきだった。結び目も緩く、すぐにほどけそうだった。それでも、あの縛られた感覚は、十五年の空白を一瞬で埋めた。*
*「もう少し強く結んでいいよ。締め付けられても大丈夫だから。」*
*「母さん、痛くない?」*
*「平気。続けて。」*
*彼の手が震えながらも、徐々に確かな動きに変わっていく。私は目を閉じ、久しぶりの充足感に身を委ねた。何よりも、私の欲求を満たしてくれる相手が、私の息子であるという倒錯的な事実が、さらに私を興奮させた。*
*あの日、私は小天を「飼いならす」計画を始めた。彼を私の理想の支配者に育て上げるために。*
*今では、その計画は成功している。あまりにも成功しすぎている。*
林雪はペンを置き、日記帳を閉じた。表紙を撫でながら、彼女は微かに笑った。その笑みには、苦悩と満足が入り混じっていた。
二階から、小天の足音が聞こえてきた。
「母さん、まだ起きてる?」
彼の声が階段を伝って降りてくる。林雪は慌てて日記帳を引き出しにしまい、鍵をかけた。
「起きてるよ。どうしたの?」
「いや、別に。ちょっと話したいことがあって。」
彼の声は低く、どこか含みがある。林雪は心臓が早鐘を打つのを感じながらも、平静を装って応えた。
「降りておいで。」
彼女は机の引き出しを見つめた。そこにはもう一つの鍵があった。それは、寝室のクローゼットに隠してある革の道具箱の鍵だ。小天が十五歳の時から少しずつ揃えてきた、彼女の「おもちゃ」たちが詰まった箱。
階段を下りてくる足音が近づく。
林雪は立ち上がり、服の裾を整えた。
今日のゲームは、まだ始まったばかりだ。