# 第二章: 辱めと種
月曜の朝、第一会議室には重苦しい空気が漂っていた。
柳晴は長机の上座に立ち、スーツのジャケットを脱ぎ、白いブラウスの袖をまくり上げていた。彼女の指先には最新の決算報告書が握られている。目は冷たく、唇の端には微かな嘲笑が浮かんでいた。
「では、次に——」
彼女の視線が部屋の中を這う。社員たちは皆、自分のデスクにうつむき、呼吸さえもできるだけ小さくしていた。その中で、最前列の隅に座る男だけが、他の者よりも一層縮こまっていた。
叶凡。
彼はできるだけ小さくなろうとしていた。肩を内側に巻き込み、背中を丸め、椅子に沈み込むように座っている。しかし、その努力も虚しく、彼の体格は決して小さくはなかった。座っていても明らかに周囲よりひと回り大きい。
「——叶凡」
名前を呼ばれ、彼の肩が跳ねた。
「は、はい」
「先週君に任せた営業資料、どこが問題だったか分かってるか?」
叶凡は必死に記憶を手繰り寄せた。確かにチェックはした。上司の確認も得た。問題はなかったはずだ。
「……数字の、転記ミスでしょうか」
「違う」
柳晴は一枚の紙を手に取り、ゆっくりと彼の前に歩み寄る。高いヒールの靴が大理石の床を打つ音が、沈黙の中でやけに大きく響いた。
「自分で見てみろ」
紙が彼の机の上に投げ落とされる。叶凡はそれを見た。見覚えのある数字の羅列。だが、彼の目はそこではなく、その端に書き込まれた赤い文字に釘付けになった。
『再提出。図表の形式が統一されていない』
「す、すみません。すぐに修正します」
「修正?」
柳晴は彼の隣に立ち、見下ろすように彼を見た。香水の香りが微かに漂う。しかし、その優雅な香りとは裏腹に、彼女の言葉は刃のように鋭かった。
「君はいつもそうだ。修正、修正、修正。それで何度目だ?三度目か?四度目か?」
「……」
「君はどうしてそんなに——」
彼女は一呼吸置き、まるで言葉を味わうかのように間を取った。
「——器ばかりが大きくて、中身が伴わないんだ」
周囲から、こっそりと息を呑む音が聞こえた。何人かの社員が顔を上げ、すぐにまた下げる。
叶凡の顔が一気に赤く染まった。耳の先まで熱くなるのを感じる。自分の手が微かに震えているのも分かった。
「わ、私は……」
「何?何か言いたいことでもあるのか?」
柳晴は彼の返答を待たずに、さらに近づいた。彼女の唇が彼の耳元に触れるほど近づく。そして、誰にも聞こえないほどの小声で、しかし確かに彼の鼓膜を震わせる声で囁いた。
「それとも、君のその『器』の大きさだけが取り柄だと言いたいのか?」
叶凡の全身が硬直した。
何を言われたのか。一瞬理解できなかった。しかし、次の瞬間、その言葉の意味が脳内で炸裂する。
彼女は——知っているのか?
いや、まさか。自分のことは誰にも——会社の更衣室も別だ。一緒に風呂に入ったことなんて——
「どうした?顔が真っ赤だぞ」
柳晴は一歩下がり、彼の反応を楽しむように見つめた。その目は、まるで罠にかかった獲物を観察する捕食者のようだった。
「……な、何も」
「そうか。ならいい」
彼女は体を起こし、会議の場に戻った。
「では、今日はここまで。各自、担当の修正箇所を確認しておけ。叶凡——」
彼の名前を呼ぶ声が、もう一度部屋に響く。
「お前は終わったら俺のところに来い。個別に指導してやる」
それは——命令だった。拒否の余地のない、絶対的な命令。
会議が終わり、社員たちが立ち上がり、それぞれの席へと戻っていく。叶凡はその中で、しばらく動けずにいた。膝の上で握りしめた拳が、小刻みに震えている。
屈辱だった。
人前で——しかもあんな形で——侮辱された。笑い者にされた。しかも、あの一言は明らかに——
彼は噛みしめた歯の奥で、鉄の味を感じた。
なぜ、なぜ彼女は知っているんだ?なぜ、あんなことを言ったんだ?
いや、知っているはずがない。自分のことは誰にも言っていない。冗談だ。ただの嫌がらせだ。彼女はいつもそうだ。社員を弄ぶのが好きな、冷酷な女社長だ。
そう自分に言い聞かせて、彼は立ち上がった。
---
午後三時。社長室のドアの前で、叶凡は立ち尽くしていた。
ノックする手が震える。深呼吸を一度。二度。
「入れ」
中から返ってくる声に、彼はドアを押し開けた。
柳晴は窓辺に立ち、コーヒーカップを手に外の景色を見ていた。彼が入ってきても、振り返ろうとしない。
「ドアを閉めろ」
叶凡は言われた通りにする。室内には二人きり。沈黙が重くのしかかる。
「こ、こっちに来い」
ようやく振り返った柳晴の目は、会議の時とは違っていた。何か——熱を帯びた、危険な光が宿っている。
「今日の会議で言ったこと、どう思った?」
「……私の不注意です。すぐに修正します」
「そうじゃない」
柳晴はゆっくりと彼に近づく。コーヒーカップをデスクに置き、そのまま彼の前に立った。
「俺が言ったのは、あの一言だ。『器ばかりが大きくて』——というやつだ」
叶凡の喉が鳴る。
「……何の、ことですか」
「とぼけるな」
彼女の手が伸び、彼のネクタイを掴んだ。無理やり顔を上げさせる。
「俺は知ってるんだぞ。お前のその——」
彼女の視線が一瞬、彼の股間に向けられた。
「——秘蔵の品を」
「なっ——!」
叶凡は後ずさろうとしたが、ネクタイを掴まれたままでは動けなかった。
「どうして——」
「見たんだよ。先週、更衣室で着替えているところを、たまたまな」
柳晴の唇に、危険な笑みが浮かぶ。
「まさか、あんなものを持っているとは思わなかった。驚いたよ。本当に——驚いた」
叶凡の顔が真っ赤になる。羞恥と怒りが入り混じった感情が、胸の奥で渦巻いていた。
「それで、それをネタに——」
「ネタ?違うよ」
彼女は手を離し、一歩下がった。
「俺は、お前にチャンスを与えようと思ったんだ」
「……チャンス?」
「そうだ。お前のその——恵まれた体格——を、活かすチャンスだ」
柳晴の目が妖しく光る。
「俺はな、叶凡。普通の男には飽きているんだ。強くて、大きくて、支配できるような——そういう男が欲しい」
叶凡は呆然と彼女を見つめていた。何を言われているのか、理解が追いつかない。
「つまり——」
「言葉の通りだ」
柳晴は彼の耳元に顔を寄せ、囁くように言った。
「お前に——俺を満足させてほしい」
瞬間、叶凡の中で何かが切れた。
怒りか。屈辱か。それとも——欲望か。
彼は柳晴の手を振り払い、一歩下がった。
「もう——結構です」
「何?」
「私は、あなたの——おもちゃじゃない」
声が震えていた。自分でもそれが情けなかった。
「そんなこと——言ってないぞ」
「十分だ」
叶凡は背を向け、ドアに向かって歩き出した。
「叶凡」
後ろから名前を呼ばれても、振り返らなかった。
「お前は——逃げるのか?」
その言葉が、背中に突き刺さった。
彼は一瞬間を置き、そのままドアを開けて出て行った。
---
廊下を歩きながら、叶凡は拳を握りしめていた。
指の関節が白くなるほど強く。爪が掌に食い込む。
なぜ——なぜこんなことになるんだ。
俺はただ、普通に働いていただけだ。目立たず、トラブルを起こさず、誰にも構われずに生きていたかっただけだ。
それなのに——
頭の中で、柳晴の言葉が繰り返し再生される。
『お前に——俺を満足させてほしい』
あの目。あの声。あの——匂い。
叶凡は壁に手をつき、深く息を吐いた。
心臓が早鐘を打っている。ドクドクと、血液が全身を駆け巡る音が聞こえる。
怒りだ。そうだ、これは怒りだ。
だが——なぜか、その怒りの奥で、別の感情が蠢いているのも感じていた。
それは——興奮。
彼の巨大な陰茎が、ズボンの中で疼き始めていた。
---
社長室に戻った柳晴は、デスクの前に立ち、窓の外を見つめていた。
唇の端に、微かな笑みが浮かんでいる。
「面白い」
彼女は呟いた。
叶凡の反応は、予想以上に——いや、予想通りのものだった。あの怒り。あの屈辱。そして——あの瞳の奥で一瞬光った、野性的な何か。
「あれは——使える」
柳晴はデスクの引き出しを開け、一枚の書類を取り出した。それは、叶凡の人事ファイルだった。
「システム……そうだ、システムを作ろう」
彼女はスマートフォンを手に取り、ある番号に電話をかけた。
「もしもし——俺だ。頼みがある。いいプログラマーを紹介してほしい。作ってほしいものがあるんだ」
通話を終え、彼女は再び笑った。
「叶凡——お前を、俺のものにしてやる」
その目には、冷酷な光が宿っていた。
---
その夜、叶凡は自宅の小さなアパートのベッドに横たわり、天井を見つめていた。
昼間の出来事が頭から離れない。
柳晴の言葉。彼女の目。彼女の手。
『お前に——俺を満足させてほしい』
「くそっ」
彼は拳でベッドを叩いた。
なぜだ。なぜあんなことを言われたんだ。
俺は——俺はただの社員だ。あの女の——おもちゃじゃない。
そう思っているのに、体は正直だった。
ズボンの中の圧迫感が増している。彼は仕方なく、ジッパーを下ろし、それを取り出した。
常人のそれをはるかに超える大きさ。太さ。長さ。
これが——原因だ。
彼は自分の手でそれを握りしめ、ゆっくりと扱き始めた。
頭に浮かぶのは、柳晴の姿。
あの冷たい目。あの傲慢な態度。あの——支配的な笑顔。
だが、同時に——あの目に宿っていた、熱。
彼女は——欲しがっていた。
自分を——
「くっ……」
吐精の感覚が、全身を駆け巡る。
白濁した液体が、彼の腹の上に飛び散った。
荒い息を整えながら、叶凡は天井を見つめ続けた。
この生活が——変わり始めている。
何かが——始まろうとしている。
---
翌日、柳晴はデスクの前に座り、プログラマーから送られてきたプロトタイプのシステムを確認していた。
画面に表示されたのは、一見すると普通のスマートフォンアプリのインターフェース。
『調教システム - アルファ版』
そのタイトルの下には、選択肢が並んでいる。
【目標の感情値を操作する】
【目標の身体感覚を制御する】
【目標に指令を送信する】
柳晴は指で画面をなぞりながら、冷たい笑みを浮かべた。
「これでいい」
彼女は立ち上がり、窓辺に歩いていく。
外には、ビルの谷間を縫うように、人々が行き交っている。その中に——叶凡もいるはずだ。
「叶凡——お前は、このシステムの最初の被験者だ」
彼女の目が、獲物を狙う蛇のように細められた。
「そして——お前は、俺の奴隷になる」
窓ガラスに映った自分の顔が、歪んで見えた。
興奮していた。
久しぶりに感じる——この高揚感。
「始めよう」
柳晴はスマートフォンを手に取り、キャビネットから何かを取り出した。
それは——小さな装置だった。肌に貼り付けるタイプの、バイブレーター。
「これを——お前に仕込んでやる」
彼女は笑った。
冷酷に。
そして——官能的に。
---
叶凡はその日、会社からの帰り道、突然奇妙な通知音を聞いた。
スマートフォンには、見覚えのないアプリのアイコンが出現している。
『調教システム』
「何だこれ——」
彼がタップすると、画面に文字が浮かび上がった。
『ようこそ、被験者01番』
『あなたは選ばれました』
『これより——調教を開始します』
叶凡はその文字を見て、全身が凍りつくのを感じた。
何かが——始まろうとしている。
抗えない何かが——