# 二重の枷 第三章:全裸契約
蘇晴の視界は、無機質な白い照明に奪われていた。
「服を脱げ。」
教官アリの声には一切の感情がなかった。それは命令であり、拒否の余地など初めからない。
蘇晴の指が震えた。名家の令嬢として育てられた彼女の指は、これまで粗い布地すら触れたことがない。しかし今、その指は自らのブラウスのボタンを一つずつ外していく。
「遅い。」
アリの鞭が空気を切り裂き、床を打つ音が響いた。その鋭い爆音に、蘇晴の肩が跳ねる。
部屋の四隅に設置された監視カメラの赤いランプが、光源のように瞬いている。それら全てが蘇晴のすべてを捉えている。彼女の青白い肌を、彼女の弱々しい震えを、彼女の崩れゆく尊厳を。
ブラウスが床に落ちた。次にスカートが。そして下着の最後の一片が、指先から滑り落ちた。
全裸だ。
蘇晴は生まれたままの姿で、冷たいコンクリートの床に立っていた。腕で胸を隠そうとした瞬間、アリの鞭が再び鳴った。
「腕を下ろせ。カメラに身体を見せろ。これがお前の商品価値だ。」
商品。その言葉が蘇晴の心臓を抉った。自分はもう人間ではないのだ。売られるもの、買われるもの。それだけだ。
「さあ、ここに立て。」
アリは蘇晴の腕を掴み、壁に貼られた一枚の大きな紙の前に立たせた。そこには幾何学的な線で人の輪郭が描かれている。身長計測用だ。
「両手を上げろ。足を開け。」
言われるままに身体を動かす蘇晴。カメラのレンズが彼女の身体のすべての部位を捉えていく。まるで家畜の品評会のように。
アリはデジタルカメラを手に取り、正面、側面、背面と、蘇晴の裸体を詳細に撮影していく。フラッシュが光るたびに、蘇晴の顔から血の気が引いていった。
「次は、自発的売身動画の撮影だ。」
アリは三脚に据えられたビデオカメラの前に、蘇晴を立たせた。背景は無地の白い壁。そこに全裸で立つ蘇晴。
「台本を読め。」
差し出された紙には、日本語でこう書かれていた。
「私は、蘇晴。自らの意志により、奴隷としての身分を受け入れます。私は完全な所有物となり、主人のすべての命令に従うことを誓います。私の身体も、魂も、すべては主人のものです。私は法的、人道的なすべての権利を放棄します。この契約は、私の自由意志によるものです。」
蘇晴の喉が詰まった。声が出ない。
「読め。」
アリの鞭が蘇晴の太腿を打った。鋭い痛みが走り、肌に赤い痣が浮かぶ。
「い、たい…」
「読め。さもなくば、次の一撃はお前の顔だ。」
涙が溢れた。しかし蘇晴は、震える声で台本を読み始めた。
「私は、蘇晴…自らの意志により…」
言葉の一つ一つが、自分の尊厳を削り取っていく。声は次第にか細くなり、最後の方はほとんど聞き取れなかった。
「もう一度だ。今度ははっきりと。笑顔で。」
笑顔で?この状況で?蘇晴の理性が悲鳴を上げる。
「できないなら、お前を買う者はいない。そうなれば、お前は島の娯楽施設に回される。そこで何が行われるか、教えてやろうか?」
蘇晴は首を振った。想像するだけで恐ろしかった。
「もう一度、撮り直しだ。」
三度、四度、五度。同じ台本を繰り返し読まされ、そのたびにアリは細かい修正を加える。声のトーン、目の位置、口元の角度。すべてが「商品としての価値」を高めるためだと。
ようやく動画の撮影が終わると、次は書類作業だった。
アリは分厚い契約書の束を机の上に広げた。表紙には「自発的売身契約書」と太字で書かれている。
「読め。ただし時間はない。一ページ十秒だ。」
蘇晴はページをめくる手も震えていた。条文はすべて日本語で書かれている。彼女が必死に勉強してきた言語だが、そこに書かれている内容は理解したくないものばかりだった。
第一条:本人は奴隷としての身分を完全に受け入れる。
第二条:主人は奴隷に対して、身体的・精神的なすべての支配権を有する。
第三条:奴隷は逃亡、抵抗、拒否の権利を有さない。
第七条:奴隷の身体は主人の所有物であり、主人はその使用、貸与、譲渡を自由に行える。
第十一条:奴隷は生殖能力を有する場合、その子孫もまた主人の所有物となる。
第十五条:本契約は本人の自由意志によるものであり、いかなる第三者もこの契約に異議を唱えることはできない。
ページの端々に、細かい活字でさらに多くの条項が書き連ねられている。それをすべて読み終えるのに、十分もかからなかった。
「読み終わったな。では、サインを。」
アリは契約書の最後のページを開いた。そこには署名欄と、指印欄、そして膣印欄があった。
「ここに、自らの名前を書け。」
差し出されたペンは、安物のボールペンだった。蘇晴がそれを受け取る。ペン先が震え、紙の上で小さな震えを描く。
『蘇晴』
漢字二文字。これが自分の名前だ。名家の令嬢として、大切に育てられてきた名前。その名前を、自分自身が奴隷契約書に記す。
文字が滲んだ。涙が一滴、紙の上に落ちた。
「指印を。」
アリは朱肉の箱を差し出した。蘇晴の右手の人差し指が、赤く染まる。その指を、署名の横にある四角い枠の中に押し付ける。
赤い指紋。これで自分が署名したことが証明される。
「次は、膣印だ。」
蘇晴の顔色が一瞬で真っ青になった。膣印。それは女性奴隷に特有の契約方法で、膣内に直接印鑑を押すことで、自分が性奴隷としての身分を受け入れたことを示すものだ。
「い、や…それは…」
「拒否権はない。」
アリは机の引き出しから、細長い棒状の物体を取り出した。先端には丸い印鑑の面がついている。殺菌液で拭いた後、それを蘇晴に差し出した。
「自分でやれ。抵抗するなら、お前の身体を拘束して、俺が代わりに押すことになる。どちらがいい?」
蘇晴の手が震えた。自分でやるか、強制的にやられるか。選べる余地はない。しかし、自分でやるということは、自ら進んで奴隷になると認めることと同じだ。
それでも、強制的に身体を拘束され、無理やり押されるよりはましだろうか。
蘇晴の指が、その冷たい金属の棒を受け取った。
「椅子に片足を載せろ。カメラの前でやれ。証拠が必要だ。」
アリがビデオカメラを回す。赤いランプが、蘇晴の裸体を捉えている。
蘇晴は椅子に左脚を載せた。身体が震える。羞恥と恐怖で、全身が粟立っていた。
「早くしろ。」
震える手で、その金属の棒を自分の身体に当てる。冷たい感触が、内腿を伝う。
「奥まで挿入しろ。印鑑面が子宮口に当たるまで。」
言われるままに、棒を押し込む。異物感と痛みが蘇晴の身体を襲った。息が詰まる。涙が止まらない。
「そこで、ゆっくりと回転させろ。そして押し付けろ。」
蘇晴はその指示に従った。棒の先端を回転させ、自分の内壁に印鑑を押し付ける。痛みと屈辱が混ざり合い、彼女の意識を蝕んでいった。
「よし、抜け。」
棒を引き抜く。先端には、赤い朱肉と体液が混ざった跡が付いていた。
契約書の指定された欄に、その棒を押し付ける。紙の上に、ぼんやりとした丸い印影が浮かび上がった。それが、蘇晴の膣印だった。
「完了だ。」
アリは契約書を確認し、満足そうに頷いた。蘇晴はその場に崩れ落ちた。全裸のまま、冷たい床の上で、自分の身体を抱きしめて泣き続けた。
自分はもう、自由ではない。身体も、心も、すべてが誰かの所有物になった。蘇晴という人間は、この瞬間、法的に死んだのだ。
「お前の所有者は、まだ決まっていない。明日のオークションで、お前の運命が決まる。」
アリの靴音が遠ざかっていく。部屋には蘇晴一人と、回り続けるカメラだけが残された。
壁の隅で、かすかに人の気配がした。老陳だ。彼は蘇晴を見守ることしかできない。彼の目には涙が浮かんでいたが、システムのルールを変える力は彼にはない。
蘇晴は、天井の白い照明を見上げた。この眩しい光の下で、自分の人生が終わったことを悟った。
「これから…どうやって生きていけばいいの…」
その問いかけに答える者は、誰もいなかった。