正邪の大戦が終わりを告げ、闇の神は完全に滅び去った。女娲をはじめとする神々は天上へと帰還し、人と神の境界は再び厚い雲に隔てられた。残された東方神娃、鳳娃と竜娃は、自らの神力の大部分を封じる代わりに、この凡人の世界に留まることを選んだ。
彼らは人里離れた小さな村に身を寄せ、平凡な暮らしに溶け込んでいった。鳳娃は村の子供たちに文字や理を教える導師となり、その清らかな声と優しい笑顔で人々の信頼を集めた。竜娃は村の守護を担い、定期的に光明の力を用いて大地を見渡し、異変の兆しがないかを確かめるのが日課となった。
長い年月が流れた。人間界は戦乱の傷跡を癒やし、村々は繁栄の兆しを見せ始めていた。鳳娃と竜娃もまた、時の流れとともに心性が次第に凡人へと近づいていった。彼らの容貌は幼い姿からはるかに成長し、鳳娃は清楚で美しい乙女へと変わり、竜娃はたくましい若者へと成長した。
鳳娃は、竜娃を見るたびに胸の奥が熱くなるのを感じていた。彼が村の外から帰ってくる姿、真剣な眼差しで空を見上げる横顔、自分に穏やかな微笑みを向けるときの優しさ。それらすべてが、彼女の心に甘い痛みをもたらした。しかし、自分たちは神娃であり、兄妹のように育てられてきた身だという思いが、その想いを言葉にすることを躊躇わせた。
ある日、異変が起きた。村の近くの林の中に、黒い霧が立ち込める透明な隕石が落下したのだ。それは天から地を穿つように降り立ち、周囲の土を焦がし、草木を枯らせた。隕石から漏れ出る異界の魔力は、かつての戦いで残存していた闇の力と融合し、瞬く間に無数の紫色の触手と棘を生やした。それは天を覆うほどの黒気を立ち上らせ、恐ろしい魔窟と化した。
竜娃はその日、見回りに出かけていた。鳳娃は村で授業を終え、ひとり家に戻ろうとしたとき、遠くの林から異様な気配を感じ取った。光明の神力の一部は封じていたが、それでも彼女の感覚は鋭かった。何かが、あってはならないものの気配を放っている。鳳娃は迷った末、単独で調査に向かうことを決めた。
林の中は異様な静けさに包まれていた。鳥の声も、虫の音もない。ただ、地の底から響くような低い唸りと、腐った甘い匂いが立ち込めている。鳳娃は慎重に足を進め、やがて巨大な穴の前に立った。穴の底からは紫色の光が揺らめき、不気味な輝きを放っていた。
「これは……魔窟……」
鳳娃が呟いた瞬間、地面が崩れた。彼女は足場を失い、暗闇の中へと落下した。悲鳴を上げる間もなく、身体が何かに絡め取られる。無数に生えた触手が、彼女の手足に巻き付き、胴体を締め付ける。紫色の棘が衣服を引き裂き、肌を傷つけた。
「離して……!」
鳳娃は神力を使って振り払おうとするが、封じられた力は十分に発揮できない。触手はますます激しく絡みつき、棘は彼女の体内に闇の毒液を注入し始めた。熱く、焼けるような痛みが全身を駆け巡る。鳳娃の意識は徐々に濁り始め、抵抗する力も弱まっていった。
そのとき、異界の隕石の核が彼女の身体に反応した。強い光と闇が渦巻き、鳳娃の体内に侵入する。神力と魔能が激しくぶつかり合い、彼女の身体は制御不能な変異を起こし始めた。
まず、彼女の両脚が激しい痙攣を起こした。皮膚が裂け、骨が溶け、筋肉が融合していく。苦痛にのたうち回る鳳娃の下半身は、徐々に一本の太く大きな蛇の尾へと変わっていった。金色に輝く鱗が生え揃い、白い複雑な模様が浮かび上がる。美しいが、明らかに人間のそれではない、魔性の姿だった。
上半身も変化した。耳は先端が尖り、瞳は金色の縦長の瞳孔に変わった。顔立ちはより妖艶になり、唇は紫の色を帯びて濡れたように輝く。乳房は大きく膨らみ、布地を押し上げた。腹部には蛇のうねるような淫紋が現れ、不気味な発光を放っている。
鳳娃の体内では、鳳の元が完全に蛇の魔元に汚染されていた。清らかだった光の力は、濁った闇の欲望に塗り替えられる。彼女の糧となるべきものは、もはや天の気ではなく、男性の精液そのものへと変わった。
変化が終わると、触手はゆっくりと彼女から離れていった。鳳娃は新しい身体の感覚に震えながら、自分の姿を見下ろした。そこには、美しくも恐ろしいラミアの姿があった。彼女は涙を流そうとしたが、その涙さえも紫に変色し、頬を伝って滴り落ちた。
「竜娃……私は……」
彼女の声はかすれ、切なさと、しかしどこか恍惚とした響きを帯びていた。清らかな鳳娃は、もうそこにはいなかった。代わりに、魔の毒に侵され、欲望に飢えたラミアが、闇の中で目を覚ました。