# 玄罰天尊の罰
## 第一章
この世界は修仙の世界である。
天地の霊気が万物を育み、人々は修行によって力を得る。その道は幾層もの境界に分かれている。練気、筑基、金丹、元婴、そして最後に化神。化神に至れば、神通力は天を凌ぎ、寿命は悠久となる。
しかし、この世界には奇妙な特徴があった。修仙者の男女比が極端に偏っているのだ。女性の修仙者は数多く、門派の大半を占めることもしばしば。一方、男性の修仙者は数こそ少ないが、その一人ひとりが精鋭であり、強大な力を有していた。
そして、この世界にはもう一つの奇妙な慣わしがあった。
男性修仙者が女性修仙者の尻を叩くこと。それは単なる罰や辱めではない。それによって双方の修行が加速するというのだ。しかし、多くの女修はそれを望まなかった。自らの意思に反して辱められることを、誰が喜べようか。
この世界に、一人の男がいた。
名を玄罰天尊という。本姓は誰も知らない。彼を知る者は、ただ彼の恐ろしさだけを知っていた。
彼は強かった。化神大円満の境界に達し、世界最強の一角と称される存在だ。その実力は計り知れず、戦闘の際には指法を用いる。指一本で山を砕き、川の流れを変える。その力の前に立ちはだかる者はいない。
そして、彼には一つの性癖があった。
女の尻を叩くこと。それが何よりの趣味だった。
彼は冷淡で、ほとんど表情を変えなかった。黒い練習着を身にまとい、常に無表情で、その瞳には一切の感情が宿らない。しかし、約束だけは固く守り、言ったことは必ず実行した。その冷酷さと執念深さは、修真界中に知れ渡っていた。
ある日、玄罰は街を歩いていた。
彼の周囲から人々は避けるように去っていく。誰も彼に関わりたくなかった。玄罰の存在そのものが、周囲に圧倒的な威圧感を与えていたのだ。
その時だった。
一人の若い女修が、うっかり玄罰にぶつかりそうになった。
「あっ……!」
女修は顔を上げ、目の前の男を見て凍りついた。彼女は仙霞派の弟子だった。仙霞派は全員が女性で構成される門派で、この地域では名の知られた存在だ。
「申し訳ございません! 道をお譲りします」
女修は慌てて頭を下げ、横に避けようとした。
しかし、時すでに遅し。
玄罰の冷淡な目が、ゆっくりと女修に向けられた。その視線は獲物を見据える捕食者のそれだった。
「お前、今俺にぶつかりかけたな」
その声には一切の感情がなかった。しかし、その言葉の重みに女修の全身が震えた。
「も、申し訳ありません……うっかりしておりまして……」
「うっかり?」
玄罰の口元がわずかに歪んだ。それは笑みと言えるのか、それとも別の何かなのか。女修には判断できなかった。
「ならば、そのうっかりの代償を払ってもらおう」
「代償……?」
女修は恐怖で言葉を失った。
「仙霞派か。面白い。俺が直接出向いてやろう。全員の尻を叩きのめしてやる」
その言葉に、女修の顔から血の気が引いた。
「そ、そんな……! 掌門様が許しません!」
「許すも許さないもない。俺が行くのだ。お前たちに選択肢はない」
そう言い残すと、玄罰は悠然と歩き出した。その背中を見送りながら、女修は震える足で門派に走って戻った。
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仙霞派は、山の中腹に位置していた。清らかな泉が流れ、美しい花々が咲き乱れる、女性だけの楽園。しかし今日、その楽園に嵐が訪れようとしていた。
「大変です! 掌門様!」
女修が息を切らせながら、本堂に飛び込んできた。
その中央には、一人の女性が立っていた。
沈夢月。仙霞派の掌門であり、化神中期の強者だ。
彼女の黒い長髪は腰まで伸び、白い柔らかな肌は若い女性のように瑞々しい。しかし、その体躯は成熟した女性の色香を漂わせ、清楚な中にも妖艶な魅力を宿している。黒と白の道服が、彼女の気品を一層引き立てていた。
「どうしたの? そんなに慌てて」
沈夢月は穏やかな声で問いかけた。彼女はいつも門下の弟子や孫弟子を気にかける、優しい掌門だった。
「玄罰天尊が……! 彼がここに来るそうです! 私たち全員の尻を叩きのめすと!」
その言葉に、本堂にいた者たちがざわめいた。
「玄罰天尊……? あの、化神大円満の?」
「なぜ私たちの門派が……?」
沈夢月は深く息を吸い込んだ。
彼女は玄罰の噂を聞いたことがあった。その強さ、その冷酷さ、そして女の尻を叩くことへの執着。彼が口にしたことは必ず実行するという話も。
「落ち着きなさい」
沈夢月の声には、力強さがあった。
「彼が来るというなら、この私が相手をするまで。門下の者たちに手を出させるわけにはいかない」
しかし、その声には微かな震えが混じっていた。彼女もまた、玄罰の恐ろしさを知っていたのだ。
その時だった。
「来たぞ」
本堂の空気が一瞬で凍りついた。入り口に立つ影。黒い練習着に身を包んだ男。
玄罰天尊その人だった。
「仙霞派の掌門よ。出て来い」
その声は低く、しかし全員の耳に明確に届いた。そこには一切の感情がなく、ただ冷徹な意志だけがあった。
沈夢月は身を引き締め、玄罰の前に進み出た。
「私は仙霞派の掌門、沈夢月。あなたが玄罰天尊か」
「そうだ」
玄罰はゆっくりと沈夢月を見つめた。その視線は、まるで彼女の全てを見透かすかのようだった。
「なぜ私の門派を狙う」
「お前の弟子が俺にぶつかりかけた。その代償として、お前たち全員の尻を叩く。それだけだ」
「そんな理由で……」
沈夢月の拳が震えた。
「だが、私はあなたに屈するわけにはいかない。門下を守るのが掌門の務めだ」
「ふん。ならば力で決着をつけるまでだ」
玄罰はそう言うと、右手をゆっくりと挙げた。
その瞬間、本堂の空気が激しく震え始めた。周囲の者たちが息を呑む中、沈夢月もまた剣を抜いた。彼女の武器は一振りの長剣。その剣にも霊力が宿り、淡い光を放っている。
「弟子たちは下がれ! これ以上は巻き込むわけにはいかない」
沈夢月の号令に、周囲の女修たちが一斉に後退する。本堂には二人だけが残された。
「来い」
玄罰の指先から、圧倒的な霊力が放たれた。
沈夢月はその瞬間、全ての力を解放した。化神中期の実力が爆発し、彼女の剣が光の弧を描く。
「はあっ!」
彼女の一撃は、まさに流星の如く。しかし、玄罰は微動だにせず、指一本でその斬撃を受け止めた。
「……甘い」
その声と同時に、玄罰の指先から衝撃波が放たれた。沈夢月はその衝撃に耐えきれず、数歩後退する。地面に深い跡が刻まれた。
「化神中期か。悪くない。だが、それだけだ」
玄罰の指が再び動く。今度は彼の周囲に無数の霊力の指が出現し、一斉に沈夢月に襲いかかった。
沈夢月は必死に防御した。剣を振り、霊力を放出し、それらを弾き返そうとする。しかし、その数は多すぎた。一つ、また一つと、彼女の防御を突破していく。
「くっ……!」
彼女の体に霊力の指が命中するたび、鋭い痛みが走る。しかし、何よりも恐ろしかったのは、玄罰の力の深さだった。
彼はまだ本気を出していない。それは明らかだった。
「どうした。それだけか?」
玄罰の声には嘲りが混じっていた。
沈夢月は歯を食いしばり、最後の力を振り絞った。彼女の剣が光を放ち、必殺の一撃を繰り出す。
「これで……終わりにしてやる!」
しかし、その一撃は玄罰に届かなかった。
玄罰の指先から放たれた一筋の光芒が、沈夢月の剣を砕き、彼女の体を吹き飛ばした。
「ぐあっ……!」
沈夢月の体は本堂の柱に激突し、そのまま地面に落下した。道服は破れ、彼女の白い肌が露わになっている。口元からは血が滴り落ちていた。
「化神大円満……こんなにも、違うものなのか……」
彼女の声は震えていた。化神中期と大円満。その差は、絶対的だった。玄罰はまだ七割の力しか使っていなかった。それでも彼女は完敗したのだ。
玄罰がゆっくりと歩み寄る。その足音が、沈夢月の耳に響く。
恐怖。彼女は初めて、心の底からの恐怖を味わっていた。
「これで分かったか。お前の力では俺に勝てない」
玄罰は沈夢月の目の前に立ち、見下ろした。その瞳には、依然として何の感情も宿っていない。
「だから、言っただろう。お前たち全員、俺が叩きのめすと」
そう言うと、玄罰の手がゆっくりと、沈夢月に向かって伸びていった。
沈夢月の体が恐怖で硬直する。逃げたい。しかし、体は動かなかった。彼女はただ、その手が迫ってくるのを、恐怖の目で見つめるしかなかった。