# 第一章:レストランの暗流
カトラリーのぶつかる軽やかな音が、ほどよい賑わいのレストランに満ちていた。
六花は白い布地のワンピースに身を包み、テーブルの下で白い五指マヨネーズソックスに包まれた足を微かに揺らしていた。彼女の小さな体つきは、周囲の賑やかな空気の中で一層幼く見える。ダイニングチェアに座っていても、テーブルの縁がちょうど胸の高さにあった。
「六花ちゃん、本当に可愛いね!まるでお人形さんみたい!」
友人の美咲が、無邪気な笑顔でそう言った。隣に座る彼氏の健太も頷いている。
「そうそう、浜田にはもったいないくらいだよな!」
六花の口元には、完璧な微笑みが浮かんでいる。しかしその目は一瞬、冷たく細められた。
(またか……いつもそうだ。小さい、可愛い、お人形……俺を何だと思っている?)
彼女の指が、白いナプキンの端をぎゅっと掴んだ。表面上は何気なくワイングラスを手に取り、優雅に口をつける。
その仕草に、誰も気づかない。
ただ一人、浜田だけは別だった。
身長180センチの筋肉質な体を小さく縮こまらせた浜田が、六花の様子をこっそりと伺っている。彼の目には明らかな緊張の色があった。
「あ、あのさ、美咲たち、次の連休の予定とかもう決まってるの?」
浜田は必死に話題を変えようと声を張り上げた。彼の額に、うっすらと汗が浮かんでいる。
美咲が首をかしげる。
「え?突然どうしたの?」
「いや、その……せっかくの休みだしさ、どこか行くのかなって思って」
浜田の声は上ずっていた。彼は六花を見ることができない。その代わりに、彼女の小さな手がテーブルの下でどんな仕草をしているか、それだけが気になっていた。
六花は微笑んだまま、一言も発さない。しかしその微笑みの裏で、彼女の心は冷たく燃えていた。
(逃げようとしているのか、浜田。可愛いものだ)
彼女はゆっくりとグラスを置き、立ち上がった。
「ごめんね、ちょっとトイレに行ってくる」
軽やかな声。しかしその目は、一瞬だけ浜田に向けられていた。
それは命令だった。従え、という沈黙の宣告。
浜田の喉が、ごくりと鳴った。
「わ、俺も……トイレ、行こうかな」
彼の言葉に、美咲と健太は何の疑いも持たなかった。
「お似合いのカップルだねえ、トイレまで一緒に行くなんて」
美咲の笑い声が背中に刺さる。浜田は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
個室へと続く廊下は、薄暗かった。
六花は振り返らず、一直線に歩いていく。その背中は小さく、少女そのものだ。しかし、その足取りには一切の迷いがない。
彼女が選んだのは、一番奥の個室。使用中の札が掛かっていないことを確認すると、素早くドアを押し開けた。
「入れ」
短い言葉。
浜田は大人しく従った。彼が個室の中に入った瞬間、背後でドアが閉まり、鍵が回される音がした。
狭い個室の中。二人の体が、ほとんど触れ合わんばかりの距離にあった。
「……六花」
「黙れ」
冷たい声。それだけで、浜田の体は硬直した。
六花はゆっくりと振り返った。その顔には、あの優しい微笑みはもうない。代わりに、獲物を見定める猛禽のような鋭い目つきがあった。
「よくもまあ、あんなに必死に話題を変えたな」
「ち、違うんだ……ただ、美咲たちが悪気なく言ってるだけで……」
「悪気がないから許されると思っているのか?」
六花の声は、ますます冷たくなった。彼女はゆっくりと手を伸ばし、浜田の頬に触れた。その指先は、氷のように冷たかった。
「俺はあの場で、どれだけ我慢したと思っている?『可愛い』『お人形さん』……ふん、まるで俺がただの飾り物だと言っているようなものだ」
「そんなことは……」
「違うと言うのか?」
六花の目が、細められる。その瞳の中に、浜田は自分の小さな姿を見た。
彼女の手が、浜田の頬から首筋へと移動する。爪が、皮膚を微かに引っかいた。
「あ、ああ……」
「痛いか?」
「い、いや……」
「嘘をつけ」
六花の手に、力が込められる。浜田の首筋を、優しく、しかし確実に絞めるように。
「正直に答えろ。お前は、俺が『小さい』と言われるのが嫌だと知っていて、あの場を逃げ出そうとしただろう?」
「……はい」
「懲罰が必要だな」
六花の口元に、危険な笑みが浮かんだ。彼女はゆっくりと、スカートの裾をまくり上げた。
ソックスを包む白い布地、その上からでもはっきりとわかる、太く、硬い隆起。
浜田の呼吸が、荒くなった。
「今夜は長くなるぞ、浜田」
六花の声には、抑えきれない愉悦が込められていた。彼女の手が、浜田の頭を優しく、しかし強制的に押し下げる。
「跪け」
命令に逆らうことはできない。
浜田の膝が、冷たいタイルの床に触れた。彼の耳に、六花の低い笑い声が響く。
「お前は俺のものだ。そのことを、しっかりと思い知らせてやる」
個室の薄暗い灯りの中で、六花の影が大きく揺れた。
レストランの賑やかな話し声が、遠くの出来事のように思えた。