# 玄罰天尊の罰
## 章1
この世界は修仙の世界である。天と地の間には霊気が満ち、万物はその恩恵を受けている。人々は修行により力を得て、より高みを目指す。修行の道は厳しく、境界は煉気、筑基、金丹、元嬰、そして化神と続く。
この世界の特徴は、女性の修仙者が多く、男性の修仙者が少ないことだ。男性の強者は希少だが、それぞれが精鋭であり、恐るべき力を誇る。
さらに特筆すべきは、この世界の奇妙な掟である。男性修仙者が女性修仙者の尻を叩くことで、彼女たちを女奴隷とすることができる。そして、その行為は双方の修行を加速させる力を持つ。しかし、ほとんどの女修はそれを望まない。自らの尊厳を踏みにじられる行為だからだ。
ある日、東の果てにある仙霞派の門前で、一人の弟子と通りがかりの男が衝突した。
「あっ! 申し訳ございません!」
慌てて頭を下げる女弟子。白い道袍を纏った彼女は、門派の掟を守り、常に礼儀正しくあるよう心がけていた。
男は無言で立ち止まった。黒い修行服に身を包み、どこか冷たい雰囲気を漂わせている。その目は一切の感情を宿さず、まるで氷のように鋭く、そして深く、見る者を凍りつかせる。
「お前は、仙霞派の者か」
低く響く声。女弟子は震えながら頷いた。
「はい、そうです。私は仙霞派の三代弟子でございます……あの、本当に申し訳ありません。私が不注意で……」
「ふん」
男は軽く鼻を鳴らすと、そのまま門の奥へと歩き出す。足音もなく、まるで地面を滑るように進むその姿に、女弟子は言葉を失った。
「ちょ、ちょっと待ってください! 中へは勝手に——」
「玄罰だ」
その一言に、女弟子の血の気が引いた。
玄罰。この名は修仙界に知らぬ者はいない。化神大円満の境界に達した最強の一人。冷徹非情で知られる彼の行動は、常に予測不能であり、その結果は往々にして悲惨なものだった。
「玄罰……天尊……?」
「今日から三日間、仙霞派の女修は全員、俺の前で尻を差し出す。女弟子はおろか、掃除係も含めて、全員だ」
「な……!」
女弟子は顔を真っ青にした。この男が何を言っているのか、理解できたからだ。この世界の掟——男が女の尻を叩くことは、征服を意味する。彼女たちが奴隷になることを強要されているも同然だった。
「私は掌門様をお呼びします!」
女弟子は必死に叫び、門の奥へと駆け込んだ。玄罰はそれを止めず、ただ冷たくその背中を見送った。
「逃げようとするなら、それもいい。だが、その代償は大きくなる」
やがて、門の奥から一人の女性が現れた。
黒く長い髪が腰まで届き、白い肌が月光の下で輝く。清楚でありながら、どこか妖艶な雰囲気を纏った女——仙霞派の掌門、沈夢月。その境界は化神中期。彼女もまた、この世界でも有数の強者だった。
「玄罰天尊……存じ上げております。どうかお引き取りください」
沈夢月は静かに、しかし鋭い眼差しで玄罰を見据えた。
「引き取れと言われて引き取るとでも?」
玄罰は微かに口元を歪めた。その表情に、沈夢月は背筋に冷たいものを感じた。
「我が仙霞派は全女修の門派でございます。貴殿のそのような野蛮な行為を許すわけには参りません」
「野蛮? 俺からすれば、これは正当な権利だ。この世界の掟だ。お前たち女修が逃げようとするのが間違いなのだ」
「掟だと? それは男たちが勝手に作り出した都合のいい理屈だ!」
沈夢月の声に怒気が混じる。彼女は剣を抜いた。剣身は銀色に輝き、霊力を帯びて光る。
「どうやら、話し合いでは理解しないようだな」
玄罰は指を少し動かした。すると、周囲の空気が歪み、圧力が一気に増した。化神大円満の威圧——それだけで、周囲にいた弟子たちは膝をついた。
「弟子たちには手を出すな!」
沈夢月は剣を振るい、霊力を込めた一撃を玄罰に放った。斬撃は空気を裂き、地面に深い溝を刻みながら迫る。
だが、玄罰は指を一本立てただけで、その斬撃を防いだ。まるで障壁のように、彼の周囲に無形の防御が張られている。
「甘い」
玄罰の指が微かに動く。すると、沈夢月の身体が重心を失い、前に倒れそうになった。彼女は即座に体勢を立て直し、再び攻撃を仕掛ける。
剣閃が何度も煌めき、周囲の木々や岩が破壊される。だが、玄罰は動じない。指一本で全てを防ぎ、時折指を動かすだけで沈夢月の攻撃を絡め取る。
「くっ……」
沈夢月は歯を食いしばった。彼女の全力の攻撃は、玄罰には全く通じていない。逆に、彼は手加減しているのが明らかだった。
「お前の実力は認めよう。化神中期でこれだけ戦える者は稀だ。だが、お前が全力を出しても、俺の七割にも届かない」
「黙れ!」
沈夢月は怒りに任せて剣を振るったが、その隙に玄罰の指が彼女の手首を捉えた。
「終わりだ」
瞬間、激しい衝撃が沈夢月の全身を駆け抜けた。彼女は地面に打ち倒され、剣が手から滑り落ちる。仰向けに倒れた彼女の目には、ゆっくりと近づいてくる玄罰の影が映った。
恐怖。
それは彼女が修行の道で何度も乗り越えてきた感情だったが、今この瞬間、その感情は彼女の全身を支配していた。玄罰の目は冷たく、何も語らない。その瞳の奥に、どれほどの残酷さが潜んでいるのか、想像もできなかった。
「仙霞派、よくも俺に逆らったな」
玄罰は淡々と言った。その声には感情が全く込められていない。
「お前たちが甘い姿勢で臨んだからだ。もし素直に従っていたなら、軽い罰で済んだものを」
「私たちには……選択肢がなかった」
沈夢月は震える声で言い返した。しかし、その言葉は虚しく響くだけだった。
「選択肢? 確かにな。お前たちには選択肢がなかった。だが、それも今は終わった」
玄罰は振り返ると、門前に集まる仙霞派の女弟子たちを見渡した。彼女たちは恐怖に震え、泣き出す者もいた。
「宣告する。仙霞派上下全員、本日より毎日、玄木板で尻を百回叩かれる刑に処す。期間は三年。抗う者は全て、罰を倍にする」
その言葉に、沈夢月は絶望の淵に落ちた。
玄木板——それはこの世界で最も屈辱的な刑罰に使われる道具だ。木の板に特殊な霊力を込めてあり、叩かれるたびに痛みだけでなく、精神的なダメージも与える。そして、それが百回、三年間も続くという。
「抗議します! そんなの認められません!」
一人の女弟子が叫んだ。だが、玄罰は一瞥もせず、指を軽く振った。すると、その女弟子は地面に叩きつけられ、動けなくなった。
「最初の抗議者だ。罰を倍にする。今日から毎日二百回だ。そして、明日からは玄木板ではなく、俺の手で直接叩く」
「ひっ!」
女弟子は息を呑んだ。玄罰の手で直接——それは、彼の霊力が直接肌に触れることを意味する。痛みは数倍に跳ね上がるだろう。
沈夢月はゆっくりと立ち上がった。彼女の目には涙が浮かんでいたが、それを必死にこらえていた。
「どうか……弟子たちだけは……」
「無駄だ」
玄罰は冷たく言い放った。
「お前は俺に逆らった。その代償は、お前の門派全てが払う。そして、お前自身も、毎日俺の前で尻を差し出せ」
沈夢月は唇を噛みしめた。その行動は、門派の尊厳を守るために取ったものだ。だが、その結果はあまりにも重すぎた。
「わ、わかりました……」
彼女は力なく頷いた。その声は、風に消えそうなほどか細かった。
玄罰は満足げに頷くと、門の中へと歩き出した。その背中は、まるで死神のようだった。
「明日の朝、日が出る前に全員集合しろ。遅れた者は、罰を倍にする」
その言葉を残して、玄罰は闇の中に消えた。
沈夢月はその場に立ち尽くし、空を見上げた。夜空には無数の星が輝いていたが、彼女の心には深い闇だけが広がっていた。
「私が……どうすれば……」
彼女は呟いた。だが、答えはどこにもなかった。
この日、仙霞派は一つの暗い運命を背負うことになった。そして、玄罰天尊の名は、再び修仙界に轟くことになる。