李晓蕾は自分のデスクで月末の売上報告書に目を通していた。オフィスには他の社員もいる。パソコンのキーボードを叩く音、電話のベル、雑談——すべてが日常の雑音だ。そんな中、仕事用のスマートフォンが振動した。画面には趙迎新の名前。
彼女は特に気にせず、微信のメッセージを開いた。そこには画像が添付されていた。サムネイルはわずかにぼやけていて、何の写真かはすぐにわからなかった。
彼女はタップした。
一瞬、目が離せなくなった。それは男性器のアップ画像だった。角度といい、照明の当て方といい、明らかに意図的に撮られたものだ。白い背景に、露骨に主張するその姿。
李晓蕾の心臓が大きく跳ねた。全身の血が逆流するような感覚。顔が一瞬で熱くなり、耳の先まで火照るのが自分でもわかった。慌ててスマホの画面を伏せた。周りを見渡す。誰も気づいていない。同僚たちはそれぞれの業務に忙しそうだ。
彼女は深呼吸をした。指先が微かに震えていた。
すぐに削除しようと思った。だが、なぜか指が動かなかった。もう一度だけ見てしまった。細部まで脳裏に焼き付く。嫌悪感と、もう一つ、自分でも認めたくない何かが胸の奥で蠢いた。
メッセージの下に、趙迎新から文字が続いていた。
「これが俺のものだ。覚えておけ。」
李晓蕾は唇を噛んだ。歯を食いしばり、何食わぬ顔でスマホをバッグにしまった。そして何事もなかったかのように、再びパソコンの画面に向き合った。手はキーボードの上に置かれていたが、一字も打てなかった。
彼女はこのまま何もなかったことにしようと思った。返信しない。無視する。それで終わるはずだ。
しかし、10分後、再びスマホが震えた。今度は別の画像。女性の口元が大写しになっていて、何かを咥えている構図だった。その口元の形が、自分に命令されているような気がした。
李晓蕾は席を立ち、トイレに駆け込んだ。個室に入り、鍵をかける。そこで初めて大きく息を吐いた。手が震えていた。
何をされているんだろう……。わかっている。これはセクハラだ。訴えればいい。でも、彼女はそれができなかった。趙迎新の目が、声が、頭から離れない。あの薬のせいか、それとも自分自身のせいか。
彼女は便座に座り込んだ。スカートの布地がストッキングに張り付く。この服装も、最近趙迎新に選ばせられたものだ。細身のペンシルスカート。会社の規定内だが、明らかに体のラインを強調するデザイン。それを自分で選んだわけではないのに、着ているうちに慣れてしまった。むしろ、こうして誰かの視線を集めていることを感じると、逆に落ち着くような気さえしていた。
スマホがもう一度震えた。彼女は嫌な予感がして見ないようにした。しかし、通知が気になって仕方ない。我慢できずに開いた。
三枚目の写真。今度は、女性の陰部をアップで撮ったものだった。そしてその隣に、男の指が写っている。
「今夜、お前のここに俺のものを入れる。」
李晓蕾はスマホを便座の上に落とした。耳元で心臓の音がうるさい。彼女は自分の下半身に違和感を覚えた。下着が少し湿っている。自分を恥じた。こんな写真で興奮しているなんて、自分のことなのに信じられなかった。
彼女はパンティストッキングの感触を確かめるように腿を擦り合わせた。趙迎新の指の映像が頭から離れない。あの指が、自分の体のどこを触るのか想像してしまう。
ダメだ。もう終わらせなければ。彼女は意を決して、赵迎新からのメッセージを全て削除しようとした。しかし、指が止まった。自分がなぜ止まるのか、その理由がわからなかった。
結局、削除しなかった。代わりに、彼女はスマホをバッグの奥深くにしまい、何事もなかったかのようにトイレを出た。洗面台の鏡に映る自分の顔は、少し赤くなっていたが、それを冷水で洗い流した。
残業はせず、定時で上がることにした。一刻も早くこのオフィスを離れたかった。
帰宅すると、玄関の明かりがついていた。夫の韓博はすでに帰宅していた。キッチンから包丁の音が聞こえる。いい匂いだ。李晓蕾は靴を脱ぎながら、声をかけた。
「ただいま。」
「おかえり、蕾。今日は早かったね。」
韓博が手を拭きながらキッチンから顔を出した。エプロン姿で、優しい笑顔を浮かべている。彼は李晓蕾の顔を見て、少し心配そうな表情になった。
「どうした?疲れた顔してるな。仕事、大変だった?」
李晓蕾は笑った。何でもないふりをして。
「ううん、ちょっと頭痛がしただけ。もう治った。」
「そうか。ならよかった。今、麻婆豆腐と玉子スープ作ってるから。あと少しでできるよ。」
「ありがとう。私も手伝うよ。」
「いいよいいよ、座ってて。今日は俺に任せてくれ。」
韓博はそう言って、またキッチンに戻っていった。李晓蕾はリビングのソファに座った。テーブルの上には、韓博が帰りに買ってきたのか、コンビニの袋があった。中には彼女の好きなお菓子が入っていた。何気ない気遣い。それが胸に刺さった。
彼女は深く息を吸い、吐いた。正常に戻らなければ。夫の前で、いつもの妻でいなければ。
夕食の準備ができて、二人は向かい合って座った。麻婆豆腐、玉子スープ、そして浅漬け。シンプルだけど、愛情のこもった夕食だ。
「ねえ、今日な、お昼休みに近くのパン屋さんで新しいメロンパン見つけたんだ。今度、一緒に行こう。」
「うん、いいね。」
张晓蕾は箸を動かしながら、相づちを打った。食べ物の味がよくわからなかった。頭の中はまだあの写真でいっぱいだった。夫の優しい声が遠くに聞こえる。
「それから、今週末、映画に行かないか?あの、ずっと見たがってたやつがまだ上映してるんだ。」
「あ……週末ね。仕事の予定が入るかもしれないから、確認してから返事する。」
「そうか。わかった。無理しなくていいよ。」
韓博は何も疑わず、にこにこと食事を続けている。彼は妻のスマホに届いた淫らな写真も、彼女の心の葛藤も知らない。ただ、妻が今日は少し疲れているだけだと思っている。
李晓蕾は自分の口元が強張っているのを感じた。それを隠すために、わざと大げさにスープを飲んだ。熱すぎて舌を火傷しそうになった。
「熱い!気をつけて。」
「うん、大丈夫。」
彼女はスプーンを置いた。そして、ふと夫の顔を見た。韓博は真剣に麻婆豆腐をご飯にかけて食べている。その無防備な横顔を見て、李晓蕾は急に自分がひどく汚い存在に思えた。夫は何も知らない。この純粋な愛情を裏切っている。でも、自分にはどうすることもできない。趙迎新の支配から逃れられない。
食事が終わり、韓博が皿を洗っている間、李晓蕾は風呂の準備をした。脱衣所で服を脱ぐとき、自分の体を見た。ストッキングの跡がくっきりと足に残っている。最近、彼女は家でもストッキングを履くことが増えた。夫は気づいていないが、それは趙迎新の命令だった。「家でも常にストッキングを履け。いつでも俺が触れるように。」その言葉が頭にこびりついている。
湯船に浸かった。温かいお湯が体を包み込む。リラックスできるはずなのに、頭の中は混乱していた。写真。メッセージ。夫の笑顔。すべてがぐちゃぐちゃに混ざり合って、吐き気がした。
自分はどうなってしまうんだろう。明日、出社すればまた趙迎新が待っている。あの写真を盾に、もっとえげつない要求をしてくるに違いない。でも、断れない。会社を辞めるわけにもいかない。家のローンがある。韓博の給料だけではやっていけない。
それに……彼女は認めたくなかったが、体の奥で何かが疼いている。趙迎新に操られる快感。薬のせいだけではない。自分という人間の弱さ、汚さが、少しずつ表面に出てきている。
風呂から上がると、韓博が寝室でタブレットを見ていた。彼は李晓蕾を見て、優しく笑った。
「上がったか。おやすみ。」
「うん。おやすみ。」
彼女は夫の隣に横たわった。韓博が電気を消す。暗闇の中で、彼の手が伸びてきて、自分の手を握った。温かい。優しい。何も知らない夫の手。
李晓蕾は夫の手を握り返した。そして、心の中で謝った。
ごめんね、博。私はもう、あなたの知っている蕾ではないのかもしれない。
目を閉じると、まぶたの裏に写真の映像が浮かんだ。趙迎新の言葉が頭の中で響く。今夜、お前のここに俺のものを入れる。
彼女は自分の腿の間に手をやった。夫の隣で、自分を慰める行為に及ぼうとして、慌てて手を離した。何をしているんだ。こんな場所で。夫が起きているのに。
だが、体の火照りは収まらなかった。李晓蕾は夫の寝息が規則的になるのを待った。そして、そっと自分のスマホを取り出し、トイレに行くふりをしてベッドを抜け出した。トイレの個室で、彼女は趙迎新からのメッセージを何度も見返した。三枚の写真。一つ一つをじっくりと見る。そして、返信した。
「わかりました。」
たった一言。それだけだったが、それは自分が降伏した証だった。スマホを置き、彼女はトイレットペーパーで濡れた指を拭いた。自分の体が、夫の愛ではなく、上司の淫らな写真に反応していることを痛感しながら。
再び寝室に戻ると、韓博はまだ寝ていた。彼女は夫の背中にそっと寄り添った。罪悪感と興奮が入り混じった感情が胸を渦巻く。この二重生活が、いつまで続くのか。それとも、もう戻れないところまできているのか。
李晓蕾は目を開けたまま、天井を見つめていた。明日も、またあのオフィスに行く。そして、趙迎新の前に立つ。その時、自分はどんな顔をしているのだろう。彼女は不安と、そしてそれ以上に——得体の知れない期待を感じていた。