# 第八章 制御不能の淵
ロックの体内で何かが変わったのは、ヴェリーナが彼を三晩連続で呼びつけなかった後のことだった。
法外区域の薄暗いバーで、ロックはジンを煽りながら、自分の指を眺めていた。あの女の太腿の感触が、まだ指先に残っている。彼女の喘ぎ声、震え、そして――支配されることに酔いしれる表情。ロックはグラスを握りしめた。なぜ俺がいつも下にいるんだ? あの女だって、結局は俺の腕の中で乱れる雌じゃないか。
「おい、ロック、元気ないな」
隣でジャンゴがニヤニヤしながら酒を注いだ。彼の分厚い唇が卑猥な弧を描く。
「あの貴婦人に飽きられたんじゃないか?」
「黙れ」
ロックはグラスを叩きつけた。度数を誤魔化すような店の照明の下で、彼の目つきが変わっていた。飢えた狼のような、あるいは――狂い始めた犬のような輝き。
「俺の方から行く。今夜、決着をつける」
「は? 正気か?」
ジャンゴの笑顔が消えた。しかしロックは答えず、コートを掴んでバーを出ていった。
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深夜零時を過ぎた高級住宅街。ヴェリーナの私邸は、石造りの外壁に蔦が絡まり、窓からは暖かな灯りが漏れていた。ロックは門扉を蹴り開けた。警備員の一人が駆け寄るが、彼はその胸倉を掴んで壁に叩きつけた。
「局長に用だ。通せ」
「あなたは…あの用務員の…」
「通せと言った!」
ロックの咆哮に、警備員は蒼白になって内線を取った。
数分後、応接間の重厚なドアが開いた。ヴェリーナはシルクのガウンに身を包み、ソファに優雅に腰掛けていた。彼女の脚は組まれ、白いストッキングが照明に照らされて微かに光っている。
「まあ、ロック。こんな時間にどうしたの?」
「俺はもう、お前の呼び鈴で飛んでくるペットじゃない」
ロックは彼女の前に立ちはだかった。酒の匂いが部屋に広がる。
「今日は、俺がお前を…」
「…何をするつもり?」
ヴェリーナの声は変わらず穏やかだった。しかしその瞳の奥で、何かが蠢いた。危険な、冷たい光。
ロックは彼女の両肩を掴み、ソファに押し倒そうとした。しかし、次の瞬間――。
「ぐあっ!」
彼の手首が、ヴェリーナの両手に捉えられていた。見えない力を感じたわけではない。彼女の指が、関節の正確なポイントを押さえていたのだ。
「調子に乗らないで」
囁くような声がロックの耳元に届く。次の瞬間、彼は背中から床に叩きつけられていた。ヴェリーナが立ち上がり、彼の上に馬乗りになる。ガウンの裾から、白いストッキングに包まれた太腿が露わになった。
「あなたは、私に飼われることの意味を、もう一度教わる必要があるようね」
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地下室の扉が重々しく閉まった。ここは邸宅の地下にある、特別に調達された部屋だった。天井から鎖が垂れ、壁には革鞭と各種の器具が整然と掛けられている。床は液体を流しやすい傾斜がつけられていた。
ヴェリーナはガウンを脱ぎ捨てた。下には黒いレースの下着だけ。彼女の肢体は完璧なプロポーションで、しかしその視線は獲物を見極める狩人のそれだった。
「まず、あなたに分からせるべきことは」
彼女は壁から一本の革鞭を取り上げた。
「誰が主で、誰が従か、ということよ」
「ふざけんな…!」
ロックが立ち上がろうとした。しかしヴェリーナの鞭の先が、正確に彼の鳩尾を打った。肺の空気がすべて絞り出される。
「大人しくしなさい」
彼女はロックの髪を掴み、膝立ちの姿勢にさせた。そして、自ら下着を脱ぐと、彼の前に腰を降ろした。
「舌で、私を満足させなさい。それこそが、あなたの唯一の役割」
ロックは抵抗しようとした。しかし――身体が勝手に反応した。彼女の匂い、熱、支配する者の余裕。それらが彼の理性を溶かしていく。
「はあ…あ…」
舌を伸ばし、彼女の中心に触れた。ヴェリーナは微かに身をよじる。
「そう…その調子…」
しかし、それだけでは終わらなかった。
「次は、あなたに本当の罰を与えるわ」
ヴェリーナは立ち上がると、壁から一本の滑らかな黒い器具を取った。それは男性器の形をしており、しかし異常に長く、太かった。
「これを、あなたの後ろに…」
「やめろ!」
ロックが叫んだ。しかし彼女の手は止まらない。
「あなたはモノなのよ。私がそう決めたのだから」
彼女の指が、ロックの後孔に触れる。抵抗に油を塗り、ゆっくりと侵入させる。
「ああああっ!」
悲鳴が地下室に響いた。しかしヴェリーナは容赦しない。器具を押し込み、抽挿を始める。
「いい感じ…この震え、私の手に伝わってくるわ」
彼女のもう一方の手がロックの前を握る。上昇と下降、相反する快感と苦痛が、彼の思考を混濁させた。
「お願い…もう…」
「お願い? 誰に?」
「ヴェリーナ様…」
「そうよ。それがあなたの言葉よ」
抽挿が激しくなる。ロックの叫びは、次第に嗚咽に変わっていた。彼の精液が、ヴェリーナの腹を汚す。しかし彼女は構わず、抽挿を続けた。
「あなたの中でイクのを感じる…。そう、私だけのものであることを刻みなさい」
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その後も罰は続いた。今度はイラマチオだった。ヴェリーナはロックの顔の上に立ち、彼の口に自身の陰部を押し付ける。
「舌を動かして。上手にできたら、褒めてあげる」
しかし彼の動きが鈍ると、彼女は容赦なく腰を打ちつける。鼻と口が彼女の蜜で塞がれ、呼吸さえままならない。
「間違えたわね」
彼女は彼の髪を引っ張り、顔を上げさせた。涙と唾液でぐしゃぐしゃのロックの顔を、冷たい目で見下ろす。
「もう一度。今度は私がイクまで許さない」
そして再び、彼女の腰が沈む。
「ああ…そう…最深部まで届いてる…」
ロックの喉が、彼女の pulsation を飲み込む。苦痛と恍惚の境界が、完全に溶けていた。
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地下室のドアが開き、ヴェリーナが優雅に廊下に出た。その後ろで、ロックは床に倒れ、痙攣している。彼女は振り返らずに言った。
「今日はここまで。籠に戻りなさい」
数分後、ロックがよろよろと立ち上がった。手足は震え、全身に鞭の跡と噛み痕が刻まれている。しかし彼の目は、虚ろだった。何かが、根底から壊れたような。
居間へ上がると、ジャンゴがソファで待っていた。彼はロックの姿を見て、ニヤリと笑った。
「おいおい、ずいぶんやられたな。俺も混ぜてくれよ、あの女」
「黙れ」
「そんなこと言うなって。俺もあの御方に奉仕したいんだ。この立派な竿を見ろよ」
ジャンゴが股間を撫でながら、階段へ向かおうとした。その時――。
「誰が、上がってくることを許した?」
冷酷な声が、階段の上から降ってきた。ヴェリーナが、新しいガウンを纏って立っている。その手には、小さな鞭が握られていた。
「お、俺も混ぜてくださいよ。ロックだけずるいじゃないですか」
「あなたは、規律を守れない。だから参加を許さない」
「そんな!」
ジャンゴが一歩踏み出そうとする。しかしヴェリーナの鞭が、彼の頬を打った。
「この家から出て行きなさい。二度と、私の前に現れないで」
「な…」
「警備員!」
二人の屈強な男が現れ、ジャンゴの両腕を掴んだ。
「出て行け!」
彼の抗議の声が遠ざかっていく。ドアが閉まる音が、家に響いた。
ロックは、その光景をただ眺めていた。身体は震え、唇はわなないている。しかし心の奥で――安堵していた。ジャンゴが追い出されたことで、自分はまだ、ここに残れる。その歪んだ安心感が、彼をさらに深い淵へと引きずり込んだ。
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翌朝、ヴェリーナはいつもの貴族の淑女の装いで、執務室に座っていた。机の上には、シューヤ会の秘密書類が広げられている。彼女の指が、一枚の報告書の上で止まった。
「TOPSグループ…」
その名は、法外区域の裏社会で暗躍する巨大組織だ。最近、シューヤ会との対立が激化している。そして、ヴェリーナの手元には、ある情報があった。
「TOPSは、メイソン卿を買収した…。そして、明日の総会で、私を嵌めるつもり…」
彼女の瞳が細くなる。メイソン卿は、シューヤ会の上級幹部。彼が買収されたということは、情報が漏れているということだ。
「私が誰に依頼されて動いているか、探りを入れている…」
ヴェリーナは書類を畳んだ。彼女の顔に、危険な微笑が浮かぶ。
「面白い…。ならば、罠には罠を返しましょう」
彼女は電話を手に取った。ダイヤルするのは、裏社会で最も信用ならない情報屋の番号だ。
「私よ。次の取引の場所を変えるわ。連絡役は…」
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その夜、法外区域の廃倉庫街。一棟の倉庫の前に、一台の高級車が停まった。ヴェリーナが運転席から降りる。彼女は黒いスーツに身を包み、ストッキングだけが白く輝いている。
「約束の時間を五分過ぎてるわね」
彼女の声が、倉庫の暗がりに響く。すると、向こう側から人影が現れた。五人の男たち。全員が武器を手にしている。
「ヴェリーナ局長。お待ちしておりました」
先頭の男が、慇懃にお辞儀をした。しかしその瞳は、獲物を狙うハイエナのそれだ。
「残念だが、あなたはここで…」
男が手を挙げる。背後から、さらに十人の武装した男たちが現れた。
「終わりだ」
「本当に?」
ヴェリーナが微笑む。その瞬間、倉庫の屋根から、五つの影が飛び降りた。ヴェリーナの私兵たちだ。銃弾が闇を切り裂く。
「なにっ!」
混乱に乗じて、ヴェリーナは車の陰に身を隠した。両手には、二丁の小型の拳銃。
「私は、罠を仕掛ける側よ」
彼女の手が正確に動く。最初の一発が、リーダーの膝を撃ち抜いた。二発目が、武器を構えようとした男の手首を砕く。
「伏せろ!」
しかし、敵の数は依然として多い。ヴェリーナの私兵たちも、徐々に押され始める。
「くそ…数が多い…」
「局長、撤退を!」
私兵の一人が叫ぶ。しかしヴェリーナは首を振った。
「いいえ、ここで逃げれば、TOPSに弱みを見せることになる」
彼女は銃を構え直す。そして、突然、ポケットから小さな装置を取り出した。それは、光学迷彩の起動装置だった。
「私のストッキングを、甘く見ないで」
彼女がボタンを押す。全身が、一瞬にして闇に溶け込む。TAUインジェクションで強化された肌が、周囲の景色を反射し、完全に透明になる。
「な、どこに行った!」
敵が騒然となる。その隙に、ヴェリーナは音もなく移動する。一発、また一発。正確な射撃が、敵を次々と倒していく。
「くそ、目に見えない!」
「撤退だ!」
残った敵が逃げ惑う。しかしヴェリーナは追撃しなかった。倉庫の前に立ち、煙のように姿を現す。
「伝えておきなさい。私は、罠にはかからないと」
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翌朝、邸宅に戻ったヴェリーナは、執務室のソファに深く身を沈めた。体は疲れていたが、目は爛々と輝いている。
「ロック」
「はい」
ロックが、トレイにお茶を乗せて入ってきた。その動作は、以前より明らかに従順だった。すべての抵抗の意志が、削ぎ落とされている。
「よくできたわ」
ヴェリーナは茶を一口すすると、優しく微笑んだ。
「結局、犬は飼い主に忠実な方が、可愛がられるものよ」
ロックの瞳が、虚ろに揺れる。彼の中の何かが、確かに死んでいた。しかし、その代わりに――。新たな依存が、深く根を下ろしていた。
ヴェリーナは立ち上がり、窓辺に立った。朝日が、白いストッキングを黄金に染める。彼女の口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
「TOPSグループ…。さあ、次の手は、何かな?」
その瞳には、危険な愉悦の色が宿っていた。制御不能の淵に立つ者は、いつだって――彼女だった。