# 第一章 金階玉砕
先帝の崩御から七七日。国喪はまだ明けぬというのに、新たな勅命が鳳儀殿に下された。
「長公主沈清漪、ならびに令妹沈清瀾を、即日後宮に召し入れる」
宣旨の声が荘厳な殿内に響き渡る。沈清漪は白玉の階段の下に跪き、冷たい石の感触が膝を通じて骨の髄まで沁み入るのを感じていた。四月の風はまだ肌寒く、彼女の薄い喪服の袖を揺らす。
「臣妾、謹んで勅命を拝承いたします」
声は震えなかった。少なくとも、そう聞こえたはずだ。幼い頃から叩き込まれた公主としての作法が、この瞬間も彼女の背筋を伸ばせていた。両手を拱き、額を地に付ける。金糸で刺繍された聖旨の端が、風に微かに揺れた。
「長公主殿下、お立ちくださいませ」
宣旨の宦官が恭しく声をかける。彼の目には同情の色が一瞬浮かんだが、すぐに虚ろな表情に戻った。宮中に長く仕える者は皆、新帝の嗜好を知っている。十三歳で即位した若き皇帝蕭景琰は、先帝の崩御を待ちかねたように、その権勢を振るい始めている。
清漪はゆっくりと立ち上がった。喪服の下で、彼女の指が白くなるほど握り締められている。二十六歳。二度の嫁入りと二度の喪に服した身。最初の夫は病で、二度目の夫は戦で亡くなった。そして今度は、自分の甥にあたる新帝に後宮へ召し入れられる——。
「姉上」
背後から、小さく震える声がした。振り返ると、清瀾が柱の陰に隠れるようにして立っている。同じ顔でありながら、その表情はまるで別人のように幼く、怯えていた。
「清瀾、部屋に戻りましょう」
清漪は努めて優しい声を作った。妹の手を取ると、その指は氷のように冷たい。
二人が居住する鳳儀殿は、先帝が健在だった頃に清漪に賜った宮殿だ。今はもう、彼女たちの住まいではなくなる。すべての物は既に運び出され、がらんとした室内には、わずかに沈香の香りが残っているだけだった。
「姉上、どうして…どうして私たちが後宮へ?」
清瀾が声を詰まらせながら問う。彼女は宮外の別邸で密かに育てられたため、宮中の習いに疎い。姉の保護のもと、世の中の醜悪さを知らずに育ってきたのだ。
「皇帝の御心だからです」
清漪は窓辺に立ち、暮れゆく空を見上げた。夕陽が彼女の横顔を照らし、長い睫毛の影が頬に落ちる。絶世の美貌と謳われたその顔立ちは、今は疲労の色を隠せない。
「でも、私は一度も…宮中に上がったことすらありません。なぜ突然…」
「清瀾」
清漪は振り返り、妹の両肩に手を置いた。その瞳は深く、碧い湖のように澄んでいたが、底には燃えるような怒りが潜んでいる。
「もう、詮索してはなりません。私たちはただ、皇帝の命に従うのみです」
「でも…」
「いいえ」
清漪の声がかすかに震えた。彼女は妹の細い体を抱き寄せる。喪服越しに伝わる清瀾の震えが、自分の震えよりも激しいことに気づき、彼女はさらに強く腕を締めた。
「私がいる。何があっても、あなたを守るから」
その言葉に、清瀾の嗚咽がかすかに聞こえた。彼女もまた、姉に縋りつく。同じ顔でありながら、姉の方がいつも強く、美しく、誇り高い。自分はその影に隠れて、安全な場所にいるのだと、そう思っていた。
――夜が更ける。
新しい寝宮に移された二人は、同じ寝台に横たわっていた。明日から始まる生活への不安と恐怖が、部屋の中に充満している。灯りは一つだけ、かすかに燈芯が揺れる。
「姉上、お休みになられましたか?」
清瀾の声が暗闇から聞こえる。
「いいえ」
「私も…眠れません」
沈黙が続く。すると突然、遠くから足音が聞こえてきた。複数の者ではない。一つ、確かにこちらへ向かってくる足音だ。
清漪は微かに身を起こした。心臓が早鐘を打つ。
「姉上…?」
「静かに」
扉が音もなく開かれた。月明かりを背に、一人の男が立っている。金糸で織られた竜袍が、暗がりの中でもかすかに光を放っていた。
蕭景琰。
新たなる大夏の皇帝は、ゆっくりと室内に足を踏み入れた。その顔は美しく、白磁のように整っている。しかし、その唇の端に浮かぶ笑みは、冷たく蠱惑的だった。
「叔母上。このような夜更けに、失礼いたします」
軽やかな口調。まるで、日常の訪問を愉しむかのように。
清漪は寝台から静かに降り、膝をついた。
「陛下。このような夜分に、いかがなされましたか?」
「叔母上を一目見ようと思いまして」
彼はゆっくりと近づく。その足音は静かで、まるで獣のように獲物を狙う。先ほどまで清漪が横たわっていた寝台の上で、清瀾が布団を握り締めて震えているのが分かった。
「せっかくの夜です。花も酒もなくてはつまらない」
蕭景琰は手を叩いた。すると、二人の宮女が音もなく入ってきて、小さな机と酒器を置いていく。すべてが事前に用意されていたかのようだ。
「叔母上、私のために酒を注いでいただけますか?」
清漪は微かに唇を噛んだ。彼女はゆっくりと立ち上がり、喪服の上から一枚の華服を羽織った。しかし、蕭景琰は首を振る。
「いや、それでは面白くありません。喪服をお脱ぎください。薄絹一枚で結構です」
空気が凍りついた。
清漪の指が微かに震えた。彼女はゆっくりと華服に手をかけようとしたが、その手を清瀾が掴んだ。
「おやめください…陛下。姉上は…」
「清瀾!」
清漪の鋭い声が遮る。彼女は妹の手を振り払うと、ゆっくりと喪服の紐を解いた。白い麻布が床に落ちる。その下から現れたのは、一枚の薄絹の下着。月明かりが彼女の曲線を浮かび上がらせ、白磁のような肌が闇に映える。
「ご満足いただけましたか?」
清漪の声は冷たく、しかし震えはしなかった。
蕭景琰は軽く笑った。彼は立ち上がり、清漪の顎に指をかけた。その指先は冷たく、彼女の肌を弄ぶように撫でる。
「叔母上は美しい。噂に違わぬ。しかし、その目が——その誇り高き目が、いつになったら折れるのか、朕は非常に楽しみにしております」
「陛下は…」
「黙れ」
その一言に、清漪は唇を噛んだ。蕭景琰は彼女の顎をさらに強く掴み、無理やり上を向かせる。彼の瞳には、嗜虐的な悦びが浮かんでいた。
「私は叔母上の高慢ちきな表情が嫌いだ。しかし、それがいつか跪き、泣き叫び、私の足に縋りつく姿を想像すると、それもまた一興だと思えてくる」
彼は手を離し、清漪の頬を軽く叩いた。その音が部屋に響く。
「明日、一人の女官を遣わす。趙青鸞という。彼女は…宮中作法に精通している。叔母上と妹君に、改めて礼儀というものを教え込んでくれるだろう」
「陛下…!」
「安心しろ。決して手荒なことはさせない。ただ……」
蕭景琰は振り返り、寝台の上で震える清瀾を見た。その視線に、清漪は妹の前に立ちはだかる。
「私の妹には手を出さないでください」
「ふん」
蕭景琰は軽く鼻で笑った。
「自分のことで精一杯になるがいい。明日から、叔母上は『学ぶ』ことの意味を、身をもって知ることになるだろう」
彼はそのまま振り返らずに部屋を出て行った。扉が閉まる音が、重く響く。
清漪はその場に崩れ落ちた。床の冷たさが全身に広がる。彼女の手は震え、涙が止めどなく溢れ出た。
「姉上…」
清瀾が駆け寄り、彼女の体を抱き締める。二人はそのまま、泣き崩れた。
「ごめんなさい…清瀾。私が…私があなたを守れなかった」
「いいえ。姉上のせいじゃない。私たちは…」
言葉は続かなかった。明日、訪れる女官。その名を聞いた時から、清漪の中に予感があった。それは単なる作法の指導ではない。何かもっと恐ろしい、もう戻れない何かが始まるのだという予感が。
月が雲に隠れ、闇がさらに深まる。
鳳儀殿の跡地には、今は何も残っていない。ただ、風が吹き抜けるたびに、かすかに昔の面影を運んでくるだけだった。