# 第七章 役割交代
日曜日の午後、小健は自室で待っていた。昨日、母親から「明日は新しい遊び方をしよう」と言われていたのだ。何をするのか想像もつかなかったが、胸の高鳴りは抑えられなかった。
二時を少し過ぎた頃、リビングから声がした。
「小健、来なさい」
母の声だったが、どこかいつもと違う。もっと固く、命令的な響きがあった。
小健がリビングに入ると、そこには見慣れない光景が広がっていた。母と小姨が警察官の制服を着ているのだ。二人ともスカートの制服で、ベルトには警棒や手錠らしきものまでぶら下がっている。母はキャップをかぶり、サングラスまでかけていた。
「な、なにこれ…」
小健が呆然としていると、小姨が笑いながら言った。
「どう? 似合ってる?」
「姉さんがね、今日は役割を交代しようって言い出したのよ」
母がサングラスを外し、真剣な表情で小健を見つめた。
「今日は私たちが警察官、あなたが犯罪者。いいわね?」
小健の喉が鳴った。今まで自分が支配する側だったのに、今日はその立場が逆転するというのか。
「手錠、かけちゃおうか?」
小姨が手錠をじゃらじゃら鳴らしながら近づいてくる。小健は無意識に後退した。
「待て、まだだ」
母が制した。彼女はソファに座り、足を組んだ。制服のスカートから美しい脚が覗いている。
「小健、お前は夜の街で女性を襲った犯人だ。私たちはそれを追う刑事だ。わかったか?」
「でも…」
「口答えするな」
母の声が一段と低くなった。それは本物の警察官のような威圧感があった。小健は黙ってうなずいた。
「よし、では尋問を始める」
母が立ち上がり、小健の前に立った。彼女は小健の顎に手をかけ、上を向かせた。
「お前の名前は?」
「小健…です」
「姓は?」
「…林」
「林小健、お前を女性暴行の容疑で逮捕する。抵抗するなら容赦しない」
母が手錠を取り出した。小健の心臓が激しく鼓動を打つ。これはゲームだとわかっているのに、本物の取り調べを受けているような緊張感があった。
「ちょっと待って、姉さん」
小姨が割り込んだ。
「そのまま逮捕するだけじゃ面白くないでしょ。もっと…ね?」
小姨が母に耳打ちする。母は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。
「そうだな。では、林小健。お前にチャンスをやる。私たちの質問に正直に答えれば、罪を軽くしてやってもいい」
母がソファに戻り、小姨が小健の背後に立った。
「まず、なぜ女性を襲った?」
母の質問は続く。小健は即興で答えるしかなかった。緊張と興奮が入り混じる不思議な感覚だった。
「…寂しかったんです」
「寂しいからって、他人に迷惑をかけていいのか?」
母の声がさらに厳しくなる。小姨が後ろから小健の肩に手を置いた。
「ちゃんと答えなさいよ、犯人くん」
小姨の吐息が耳元でかすかに聞こえる。小健の体が震えた。
「すみません…」
「謝って済む問題じゃない」
母が立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。サングラスの奥の目が、獲物を見つめたように光っている。
「お前のような犯罪者は、ちゃんと罰を与えないとわからないようだな」
母が警棒を取り出した。それは本物のように見えたが、おそらく小姨が用意した偽物だろう。しかし、その迫力は本物だった。
「壁に向かって手をつけ」
母の命令に、小健は従うしかなかった。冷たい壁に手をつき、後ろ向きになる。背中に母の気配を感じた。
「お前の罪を、体で思い知れ」
警棒が小健の背中を軽く叩いた。痛くはなかったが、その衝撃に小健の体が跳ねた。
「もっと強くしてもいいのよ」
小姨が楽しそうに言った。彼女もまた、母と同じようにこのゲームを楽しんでいるようだ。
小健は自分の立場の逆転に戸惑いながらも、どこか新鮮な興奮を覚えていた。今まで自分が支配していた側が、今度は支配される側になる。その感覚が、彼の中で新たな快感に変わっていく。
「どうだ? 犯罪者の気分は」
母が耳元でささやく。小健は声を押し殺して答えた。
「…悪くないです」
「ふん、覚悟はできてるようだな」
母が警棒をしまい、代わりに縄を取り出した。それは小健がいつも使っていたものだ。今度は自分が縛られる側になるのか。
「手を後ろに回せ」
小健が従うと、母は手際よく彼の手首を縛り始めた。縄の感触が新鮮だった。自分が縛るときとは違う、縛られる側の感覚。それは未知の快感だった。
「どう? 縛られる気分は」
小姨が小健の正面に回り込んで笑った。小健は恥ずかしさと興奮が入り混じった複雑な表情を浮かべた。
「…なんか、変な感じです」
「これからもっと変になるわよ」
母が縄をさらに締める。手首が固定され、自由が奪われていく。その感覚が小健の心を逆撫でした。
「よし、それじゃあもう一つの取調室に行くぞ」
母が小健の腕を掴んで引っ張る。向かう先は、小健の部屋だった。
「待って、まさか…」
小健が抵抗しようとしたが、母の力は意外に強かった。いや、小健自身が縛られていてうまく力が入らないのだ。
部屋に入ると、ベッドの上にはさらに多くの縄や道具が並べられていた。それらは全て小健がこれまで使ってきたものだ。
「さあ、今夜はとことんお前を追い詰めてやる」
母の目に、いつもの優しさはなかった。代わりに、支配者の冷たい輝きがあった。
小健はベッドに座らされ、小姨が両足も縛り始める。完全に身動きが取れなくなった小健は、自分がまるで本当の犯罪者になったような気分だった。
「これからどうするの?」
小姨が母に尋ねる。母はゆっくりと手袋をはめながら答えた。
「まずは、じっくりと尋問だ。お前は一晩中、私たちの質問に答え続けるんだ」
母が小健の顎を持ち上げ、目をのぞき込む。その目に、小健は自分の姿を見た。普段、自分が母に対してしていたことを、今度は母が自分にしている。
「答えろ。お前はなぜ、女性を襲った?」
母の質問に、小健は震える声で答えた。
「…母を、愛しているからです」
その答えに、母の表情が一瞬緩んだ。しかしすぐにまた厳しい表情に戻った。
「ふざけるな。本当の理由を言え」
「本当です。母を愛しているから、他の女性に嫉妬したんです」
小健の言葉に、小姨が笑い出した。
「やっぱりマザコンなんだね、小健は」
「黙れ」
母が小姨を制した。彼女は小健の顔をじっと見つめたまま動かない。しばらくの沈黙の後、母が口を開いた。
「ならば、その愛を証明してみせろ」
母が制服のボタンをひとつ外した。その仕草が、小健の心臓を高鳴らせた。
「私たちの前で、お前の欲望を全て見せろ」
小健はその言葉に、全身が震えた。今まで自分が母に強いてきたことを、今度は母が自分に強いようとしている。立場が完全に逆転したゲームは、小健に新たな悦びと羞恥を与えていた。
「できないのか? ならば、もっと責めてやる」
母が小姨に目配せすると、小姨は小健の前にしゃがみ込み、優しくも冷たい微笑みを浮かべた。
「泣いても許さないよ、犯人くん」
その夜、三人は朝まで続く長いゲームに没頭した。役割が交代したことで、今までとは全く違う感覚が彼らを支配した。支配される側の快感、支配する側の新たな悦び。その全てが、家族という歪んだ関係の中で一層深まっていくのだった。