# 第一章 魂の置換の始まり
深夜の寝宮には、かすかな灯りだけが揺れていた。
女帝・蘇清瑶は龍紋の寝台に横たわり、天蓋の刺繍をぼんやりと眺めていた。今日もまた、退屈な一日が終わろうとしている。朝廷の政務、臣下の諂い、それらすべてが彼女には空虚に思えた。
「誰かいるのか」
部屋の闇が異常に濃くなったことに気づき、彼女は身を起こそうとした。だが、その瞬間、全身が金縛りにあったように動かなくなる。
「久しいな、清瑶」
その声はどこからともなく聞こえてきた。低く、囁くような声音だが、確かに部屋の中にいた。
闇から浮かび上がるように現れた影がある。長身の男だった。漆黒の長袍をまとい、顔の半分を仮面で覆っている。残された翡翠色の瞳だけが、不気味な光を宿していた。
「夜無痕……貴様!」
蘇清瑶の声には怒りが込められていたが、それが震えているのを隠せなかった。彼女はこの邪修のことを知っている。十年前、彼を追放した張本人でもあった。
「覚えていてくれたか。光栄だ」
夜無痕は優雅に歩み寄ると、寝台の縁に腰を下ろした。その指が、彼女の頬をそっとなぞる。
「触るな!」
「ふっ……相変わらず気が強いな。だが、それも今だけだ」
彼の手が印を結ぶ。瞬間、部屋中に黒い霧が満ち始めた。それは生き物のようにうごめき、蘇清瑶の身体にまとわりつく。
「何をしている!やめろ!」
「心配するな。痛みは一瞬だ。お前の魂を、別の器に移すだけだ」
「なっ……!」
次の瞬間、激しい衝撃が蘇清瑶を襲った。彼女の意識は暗転し、身体が引き裂かれるような感覚に襲われる。悲鳴すらあげることもできず、彼女の存在は闇の中に呑み込まれていった。
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目覚めた時、異様な匂いが鼻を突いた。
汗と埃、そして何か腐ったような臭い。蘇清瑶は咳き込みながら目を開けた。見上げた先には、古びた木製の屋根がある。
「ここは……どこだ……」
声が出ない。喉がからからに乾いている。身体を起こそうとして、彼女は衝撃の事実に気づいた。
裸だった。
いや、それだけではない。両腕は頭上で縛られ、荒縄が乳房の周りをきつく巻き付けていた。柔らかい肉が縄によってくっきりと形作られ、その痕が赤く浮き上がっている。
「くっ……!」
蘇清瑶は自分の身体を見下ろした。そこにあったのは、見覚えのない肢体だった。肌は白く、傷一つない。だが、彼女の知っている強靭な身体ではない。どこか柔らかく、弱々しい女の身体。
「私が……娼婦だと……?」
記憶の断片が蘇る。青楼の娼婦、柳媚児。確かに、その女だ。奴隷市で見かけ、その下品な振る舞いに唾を吐きかけた、あの女。
「まさか……本当に……」
絶望が彼女の心を蝕んでいった。自分は女帝だ。天空の上に立つ存在だ。そんな自分が、街の淫売の身体に入れられている。
「どうやら目覚めたようだな」
声に振り返ると、見知らぬ男が立っていた。青楼の主人らしい、脂ぎった顔の男だ。
「お前、誰だ。私を誰だと思っている!」
「おや?随分と大口を叩くじゃねえか。まあ、お前の身体は確かに美人だがな。でも、ここは俺の店だ。てめえはただの娼婦だ」
「違う!私は蘇清瑶だ!女帝だ!」
「はっ、何言ってるんだ。どうやら寝ぼけてるみたいだな。まあいいや、後で客を取ってもらうから、その間にしっかり目を覚ませ」
男はそう言い残すと、薪小屋の扉を閉めた。閂がかかる音が重く響く。
「待て!待ちなさい!私は女帝だ!陛下と呼ばせろ!」
だが、誰も答える者はいない。ただ、外から聞こえてくる猥雑な笑い声だけが、彼女をさらに絶望の底に突き落とした。
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一方、皇宮では。
「ふふふ……これが女帝の身体か」
柳媚児は鏡の前で、自分の姿を見つめていた。かつて、彼女が顧客の前で体を売っていた時に見上げていた高嶺の花、それが今や自分のものだ。絹の寝衣に包まれた肢体は、確かに美しい。顔立ちも完璧だ。
「これで私も……女帝だ」
彼女は侍衛長を呼び寄せた。
「陛下、ご命令を」
「ああ。城の地下牢に、一人の女を入れよ。青楼の娼婦だ。だが、彼女が捉われた女帝の蘇清瑶を名乗るだろう。全ては狂人の妄言として処理しろ」
「ははっ、御意のままに」
侍衛長が下がると、柳媚児はソファに深く腰を下ろした。この柔らかさ、そして広々とした空間。それが彼女に、計り知れない快感をもたらしていた。
そして数時間後。
蘇清瑶は地下牢に放り込まれていた。薄暗い牢獄の中、彼女の裸体はさらに痛々しく見えた。乳房を縛る縄はまだ解かれず、木製の床の冷たさが彼女の芯まで冷やしていく。
「どうして……こんなことに……」
彼女は壁に寄りかかり、目を閉じた。涙が一筋、頬を伝う。
その時、閂が開く音がした。
「よく来たな、我が玩物よ」
闇から現れたのは、夜無痕だった。その翡翠色の瞳は、獲物を見る獣のように煌めいている。
「夜無痕……貴様の仕業だな!なぜこんなことを!」
「そう怒るな。お前をより深く、より狂わせるためにやったことだ。お前は今やただの娼婦。そして私はお前の主人だ」
「ふざけるな!私は女帝だ!お前ごときの玩具になる身ではない!」
「ほう、まだそんな口をきくのか」
夜無痕はゆっくりと近づくと、彼女の顎を掴み上げた。その指の力に、蘇清瑶の顔が歪む。
「いいだろう。これからじっくりと教えてやる。お前の立場を」
彼は懐から一本の鞭を取り出した。それは漆黒で、先端が細く尖っている。
「これがお前への最初の調教だ。よく味わえ」
鞭が振り下ろされる。空気を切る鋭い音と共に、蘇清瑶の背中に一条の赤い筋が浮かび上がった。
「ああっ!」
彼女の口から悲鳴が漏れる。何年も感じたことのなかった痛みが、彼女の身体を貫いた。
「一発目だ。これから始まる長い夜に備えろ」
夜無痕の手のひらが、鞭の跡を撫でる。その冷たく滑らかな感触は、焼けるような痛みとの対比で、さらに不快だった。
「お前の体は、もうお前のものではない。すべて、俺のものだ。そしてお前は、俺の性奴隷として、死ぬまで仕えるのだ」
「やめろ……やめてくれ……」
蘇清瑶の声は、もう震えていた。目の前に立つ男の恐ろしさ、そして自分が置かれた状況の絶望が、彼女の心を少しずつ蝕んでいく。
「まだまだ始まったばかりだ。これから、お前を徹底的に調教してやる。泣き叫び、許しを乞うまで、決して終わらせない」
夜無痕は再び鞭を振る。その度に、彼女の悲鳴が地下牢に響き渡った。