アリシアは大理石の階段をゆっくりと降りながら、城の中庭を見渡した。朝の光が噴水の水しぶきを虹色に染め、庭師たちが手入れを施したバラの花壇は完璧な幾何学模様を描いている。すべてが彼女のためのものだった。彼女の足音に合わせて、使用人たちが深く頭を下げる。彼女のドレスの裾が床を擦るたび、絹の衣擦れの音が荘厳な廊下に響いた。
「おはようございます、殿下。」
老執事の声が響く。アリシアはわずかに顎を上げ、微笑みすら返さずに歩き続けた。彼女が幼い頃から身につけた誇りは、血の色よりも深く、骨の髄まで染み込んでいた。自分こそがこの城の華であり、すべての視線が自分に向けられるべきだと信じていた。
朝食の席には、父王が珍しく同席していた。彼は政治的婚姻の話を切り出したが、アリシアは優雅にナイフを動かしながら、一言も答えなかった。答える価値もないと思っていた。彼女の美しさは政治の道具として使われるには惜しすぎる。そう、彼女の人生はもっと輝かしいものになるはずだった。
朝の散歩と称して、アリシアは護衛を連れずに馬車で街へ向かった。彼女は時折、貧民街の様子を自分の目で確かめるのが好きだった。それは退屈な日常にほんの少しの刺激を与えるからだ。市場の喧騒が近づくにつれ、彼女はカーテンを少しだけ開け、外の空気を吸い込んだ。腐った果物と汗の匂いが混ざった空気は、城の香料の香りとはまるで違っていた。
ふと、馬車が立ち止まる。奴隷市場の前だった。鎖につながれた人間たちが、まるで家畜のように並べられている。アリシアは軽く眉をひそめたが、すぐにその表情は関心に変わった。一人の若い女が、他の奴隷たちとは明らかに違って、うつむきながらも、身体の線はしなやかで、肌はまだ滑らかだった。彼女は群衆の中で特に目立っていた。見た目は貧しくとも、どこか気品のようなものが漂っていたのだ。
「あの女を買いなさい。」
アリシアは使用人に短く命じた。使用人が奴隷商人と交渉する間、彼女は馬車の中から淡々と見守っていた。女奴隷が鎖を外され、怯えた様子で馬車に導かれてくる。その目には涙が浮かんでいるように見えた。アリシアは心の中でほのかな優越感を味わった。哀れな存在を救うことで、自分の高潔さが証明されるような気がしたのだ。
リナは馬車の隅で小さくなっていた。粗末な布の服は汚れていたが、アリシアはそれも構わなかった。専属メイドとして城で働かせれば、覚えは早いだろう。馬車が城の門をくぐる時、リナは顔を上げ、一瞬、城の壮麗な影を目に焼き付けた。その瞳の奥で、何かが静かに燃え上がるのを、アリシアは見逃した。だが、それが何かを感じ取ることはできなかった。
リナはすぐに新しい制服を与えられ、アリシアの私室で働き始めた。初日から、彼女は驚くほど手際が良かった。床を磨き終えた布の動きは正確で、無駄がない。アリシアは少し感心して、彼女にいくつかの細かい雑用を任せることにした。リナは「かしこまりました、殿下」と恭しく答えたが、その声の底には震えるような響きがあった。
夜、城が静まり返った後、アリシアは自室で鏡の前に立っていた。豪華な櫛で髪を整え、満足げに微笑む。彼女の後ろで、リナが控えめに立っていた。ふとアリシアは振り返り、リナの目をまっすぐに見た。その瞬間、彼女は違和感を覚えた。リナの瞳の奥に、一瞬、蛇のように冷たい光が宿ったように思えたのだ。
「どうしたの?」
アリシアは問いかけた。リナはすぐにうつむき、声を詰まらせて「い、いいえ、殿下。ただ…この城は本当に美しいと、感動しただけです」と答えた。アリシアはその言葉に疑いを抱きながらも、あえて追及しなかった。何しろ自分は高貴な王女だ。下賤の者の心など、深く考える必要はない。
しかしその夜、アリシアは悪夢にうなされた。夢の中で、自分は鎖につながれ、見知らぬ者たちに嘲笑われていた。目を覚ますと、リナが静かに床に座って彼女の様子を見守っていた。その口元には、わずかな笑みの影が浮かんでいたような気がして、アリシアは背筋に冷たいものを感じた。
「あなた…何をそんなに見ているの?」
アリシアは声をひそめて問う。リナは優しく答えた。「殿下の寝顔が、まるで童話の絵本から抜け出たようで、見とれてしまいました。」
アリシアはその言葉に安心しながらも、なぜか懐かしさと共に、得体の知れない恐怖が胸の奥に巣食うのを感じた。その夜は長く、暗く、そして予感に満ちていた。