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站点:NovelAI.one内容:前8章在线试读ID:b0a9902a更新:2026-07-15 00:32
蘇婉児は初めて単独での奴隷登録状況検査を任された。実習監督員としての任務だが、今日ばかりは先輩も上司も同行しない。胸の奥に不安と期待が入り混じる。奴隷管理局の制服に身を包み、ID端末を携えて指定された豪邸へと向かった。 邸宅は都心から少し離れた高級住宅街にあった。門をくぐると、巨大な芝生の庭が広がり、白亜の洋館がそびえ
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初めての検査

蘇婉児は初めて単独での奴隷登録状況検査を任された。実習監督員としての任務だが、今日ばかりは先輩も上司も同行しない。胸の奥に不安と期待が入り混じる。奴隷管理局の制服に身を包み、ID端末を携えて指定された豪邸へと向かった。

邸宅は都心から少し離れた高級住宅街にあった。門をくぐると、巨大な芝生の庭が広がり、白亜の洋館がそびえている。蘇婉児はインターホンで来意を告げ、使用人に通された。内部は絢爛な装飾で彩られ、シャンデリアが煌めいている。しかし、空気には異様な匂いが漂っていた。甘く、かすかに汗と何か別の体液の混じった匂いだ。

応接間のドアが開かれ、蘇婉児は足を踏み入れた。そこで目にした光景に、一瞬、息が詰まった。

床には一人の女奴隷が四つん這いになっていた。いや、正確には犬のように両手両膝をつき、顔を主人の股間に埋めている。主人は応接ソファにだらりと腰掛け、片手で女奴隷の頭を押さえつけていた。女奴隷は口を大きく開け、主人の陰茎を啜っていた。唾液が糸を引き、床に滴る。

蘇婉児は立ちすくんだ。教材で学んだことはあったが、実際の光景は想像をはるかに超えていた。女奴隷の首には革製の首輪が嵌められ、鎖が主人の手に繋がれている。目は虚ろで、一切の感情が感じられない。ただ機械的に舌を動かし、主人の欲望を満たしていた。

主人は蘇婉児に気づくと、にやりと笑い、「検査か?どうぞ、ご自由に」と言った。彼は立ち上がり、女奴隣をそのままの姿勢で床に留まらせた。

蘇婉児は端末を起動し、登録情報を確認する。女奴隷の名前、年齢、健康状態、所有者の情報が表示される。しかし、目の前で繰り広げられる光景に、指が震える。

「この奴隷、最近登録したばかりでな。まだ調教が足りん。」主人は得意げに言い、女奴隷の髪を掴んで顔を上げさせた。「口を開けろ。監督官に見せてやれ。」

女奴隷は従順に口を開いた。舌の上には白濁した液体が絡みついている。蘇婉児は思わず顔を背けたが、同時に胸の奥が熱くなるのを感じた。

「次は後ろを見せろ。」主人の命令に、女奴隷は体の向きを変え、臀部を蘇婉児に向けた。主人はそのまま指を差し入れ、膣口を広げて見せた。「ここも検査したまえ。どうだ?よく締まるだろう。」

蘇婉児は手が震えた。だが、任務として記録を取らねばならない。彼女は機械的に端末を操作し、異常なしと入力した。その間、主人は女奴隷の尻を叩き、肛門も露出させた。

そこに同僚の一人が現れた。「ああ、検査中か。俺も少し手伝おう。」同僚は笑いながら女奴隷に近づき、自らのズボンを下ろした。主人は何も言わず、ただ見守っている。

同僚は女奴隷の膣に自身の陰茎を挿入した。女奴隷は短く悲鳴を上げたが、抵抗はしなかった。同僚は腰を打ち付けながら、蘇婉児に向かって言った。「おい、記録はちゃんと取れよ。この程度なら減点対象にはならん。」

蘇婉児は頷いたが、視線はその光景から外せなかった。同僚の動きに合わせて女奴隷の体が揺れ、無機質な声が漏れる。その音が、蘇婉児の耳に異様に響いた。自分の体が熱くなり、腰の奥が切なくなるのを感じた。

続いて同僚は肛門に移った。女奴隷は顔を歪め、涙を流し始めた。それでも主人は何の制止もせず、むしろ面白そうに眺めている。

蘇婉児は動悸が速まり、指先から汗が滲む。彼女は必死に任務を遂行しようとしたが、思考は混乱していた。この光景を、自分はなぜ記録しているのか。そしてなぜ、こんなにも興奮しているのか。

検査が終わり、蘇婉児は事務所に戻った。同僚は先に帰っており、彼女は一人デスクに座り込んだ。端末の画面には女奴隷のデータが残っている。何度も見返すうち、あの光景が頭の中で繰り返し再生された。

女奴隷の無力な表情。主人の傲岸な笑み。同僚の乱暴な動き。そして、そのすべてが蘇婉児の脳裏に焼き付いて離れない。

もっと見たい。もっと知りたい。あの女奴隷のように、あの場所にいてみたい――?

蘇婉児は両手で顔を覆った。自分の考えが恐ろしかった。しかし、それ以上に、その考えに抗えない自分がいることを自覚していた。

彼女は端末を閉じ、深く息を吐いた。だが、鼓動は収まらず、耳の奥であの女奴隷の声がこだましている。

――今夜は眠れそうになかった。

秘密の世界

実習期間が終わりを告げた日、上司はスー・ワンアルを個室に呼び寄せた。

「よくやったな、スー。お前の働きぶりは目を見張るものがある。もう一歩踏み込んだ仕事を任せてもいい頃だ」

スー・ワンアルは背筋を伸ばし、上司の言葉を待った。机の上には書類が積み上がり、その中には見慣れない記号と共に「特別訓練施設」と印字されたファイルがあった。

「今日からお前は、第一種奴隷の実地観察に参加する。ここでしか見られない光景がある。しっかり目に焼き付けてこい」

上司は淡々と指示を出すと、スーに一枚の通行証を手渡した。それは管理局の最深部、一般職員すら立ち入りを禁じられた区域への鍵だった。

通路を進むにつれ、空気の質が変わる。消毒液と汗、そして甘ったるい何かが混ざった異様な匂いが漂い始める。壁の向こうからかすかに聞こえる嬌声と、鞭の鋭い音。スー・ワンアルの心臓が早鐘を打った。

案内役の職員が重厚な扉を開ける。中は薄暗く、スポットライトが一つの檻を照らしていた。

檻の中には、一糸まとわぬ女がいた。彼女は自らの両手を高く掲げ、首を反らせていた。その体には無数の鞭痕が赤く浮かび上がっている。しかし、その瞳は虚ろで、口元には恍惚の笑みが張り付いていた。

「刑奴だ。服従の証として、自ら主人の鞭を受け入れる。見ていろ」

職員が合図を送ると、檻の外に立つ男が鞭を振るった。しなやかな革が空気を裂き、女の背中に吸い込まれる。鋭い音の直後、女の体が震え、そして彼女は声を上げて笑った。

「ああ…ありがとうございます…主人様…」

女は自らの秘部に手を伸ばし、自ら指を差し入れた。その動きは淫らで、かつ機械的だった。男が腰に巻いたベルトを外し、硬くそそり立った陰茎を露わにする。そして、女の背後に回ると、何のためらいもなく後孔にそれを埋め込んだ。

女の悲鳴が室内に響く。しかし、その声には苦痛よりも歓喜が混じっていた。彼女は自らの乳房を揉みしだき、鞭痕が滲む肌を舐めながら、絶頂に達する。

スー・ワンアルは息を呑んだ。目の前で繰り広げられる光景は、彼女がこれまで想像したことのないものだった。規律と統制の象徴である奴隷管理局の奥で、これほどの生の欲望が渦巻いているとは。

「次は乳奴だ。こっちだ」

職員に促され、スーは隣の部屋へと足を進めた。そこでは、数人の女性がベッドに横たわり、胸に何本もの管を繋がれていた。その乳房は尋常ではない大きさに膨れ上がり、青い血管が透けて見えている。

一人の女の胸に、注射器が刺された。薬剤が注入されると同時に、女の体が弓なりに反る。乳房がさらに膨張し、乳首から乳白色の液体が滴り落ちる。女は荒い息を吐きながら、体をくねらせた。

「ああ…乳が…張って…搾って…ください…」

隣に立つ男性従業員が、その乳房に手を触れ、指で乳首を摘む。すると、勢いよく母乳が噴き出した。女は喘ぎ声を上げ、意識が飛びそうになりながらも、自ら腰を男に擦り寄せる。

「良い乳奴は、次世代の奴隷を産むための器だ。種付けの時間だ」

従業員は自らのズボンを下ろし、膨張した陰茎を女の秘部にあてがう。一気に突き上げると、女の体内で精液が放出される。女は痙攣しながら、また一つの生命を宿す準備を整えていった。

スー・ワンアルは、その一部始終をただ立ち尽くして見つめるしかなかった。心の奥底で、何かが崩れ落ちる音がした。それは倫理観なのか、それとも彼女自身の欲望の壁なのか、自分でもわからなかった。

その夜、スー・ワンアルは自室のベッドで眠れずにいた。まぶたの裏に、刑奴と乳奴の姿が焼き付いて離れない。鞭の痛み、搾乳される快感、種付けされる瞬間の恍惚。それらが混ざり合い、彼女の体は熱を帯びていく。

ふと、自分が檻の中にいる姿を想像した。顔には仮面を着けられ、身分は剥奪され、ただの肉塊として扱われる。しかし、その想像の中で、スーは自分が笑っていることに気づいた。

「…なぜ…?」

彼女は自問する。手が自分の胸に伸び、服の上から乳房を揉む。乳首が固くなり、脚の間が熱く濡れていくのを感じる。まるで、あの女たちのように、自分もあの快楽の渦に飲み込まれたいと願っているかのように。

スーは枕に顔をうずめ、声を殺して喘いだ。指が秘部に触れ、震えながらも自らを慰める。しかし、その行為は決して満足をもたらさなかった。むしろ、もっと深い闇へと誘うだけだった。

「先輩は…あのクラブで、どんな奴隷を抱いているんだろう…」

脳裏に、仮面をかぶった先輩の姿が浮かぶ。彼の手が、自分を鞭打つ。その想像に、スーの体はさらに熱くなった。

窓の外では、月が静かに都市を照らしていた。スー・ワンアルは、自分がこれから踏み込んでいく世界の底知れなさに、震えながらも抗えなかった。

違法な足跡

第3章:違法な足跡

定期検査の日はいつもより早く目が覚めた。スー・ワンアルは制服に腕を通しながら、窓の外の曇り空を見上げた。今日の巡回区域は郊外の工業地帯だ。そこには古い倉庫が立ち並び、登記上は使われていないはずの物件が多い。

管理局の車で向かう途中、同僚たちは冗談を交わしていた。先輩もその中にいた。彼は今日も女奴隷クラブの話をしていた。昨夜、新しい娘を試したのだと、隠しもしない。スー・ワンアルは唇を噛みしめ、俯いた。先輩はいつも、そういう話を彼女の前でも平気でする。彼はスー・ワンアルをただの同僚としてしか見ていない。それでよかった。はずだった。

「おい、スー。お前、顔色悪いぞ」

先輩の声に、スー・ワンアルははっと顔を上げた。

「いえ、大丈夫です。ちょっと寝不足で」

嘘だった。昨夜も、あのクラブの映像を観ていたのだ。画面の中で女奴隷が鞭で打たれるたびに、心臓が嫌な音を立てた。怖いのに、目が離せない。あれが自分の未来だと、どこかで思っているのかもしれなかった。

工業地帯に到着すると、チームは二手に分かれて巡回を始めた。スー・ワンアルは部下一人を連れて、古びた倉庫群を一軒ずつ確認していく。どの扉も錠が下り、窓には埃が積もっている。異常はないように見えた。

三軒目の倉庫で、スー・ワンアルは足を止めた。扉の隙間から、微かに明かりが漏れている。それも、人の気配がした。彼女は部下に無線で待機を指示し、一人で近づいた。

「管理局の者です。開けてください」

返事はない。しかし、中から物音がした。スー・ワンアルはもう一度呼びかけたが、やはり無音が返るだけだった。彼女は腰の工具を取り出し、錠を外そうとした。その時、扉が内側から勢いよく開いた。

男たちが三人、立っていた。職工服を着ているが、眼つきが違う。彼らはスー・ワンアルを睨みつけ、口を開いた。

「何の用だ」

「定期検査です。こちらの倉庫は未登録の物件として記録されています。中を確認させてください」

男たちは顔を見合わせた。一人がにやりと笑い、口元を歪めた。

「ああ、いいぜ。見せてやるよ」

スー・ワンアルが中に踏み入れた瞬間、鼻を突く鉄の匂いがした。倉庫の奥には、鉄格子で仕切られた空間がある。その中には、数人の女たちが縮こまっていた。全裸で、首には首輪が嵌められている。彼女たちの目は虚ろで、身体中に古傷が刻まれていた。

「これは…」

振り返った時には、背後に五人の男が立っていた。先ほどの三人に加えて、さらに二人が現れていた。全員が鈍器やナイフを手にしている。

「残念だったな、お嬢さん。ここは俺たちのテリトリーだ」

男の一人が前に出て、スー・ワンアルの腕を掴んだ。その指の力は強く、骨が軋む音がした。

「面白い。奴隷管理局の女が、自ら餌食になりに来るとはな」

スー・ワンアルは必死に抵抗したが、男たちは嘲るように笑った。一人が彼女の制服のボタンを引きちぎった。胸元がはだけ、冷たい空気が肌を撫でる。恐怖で全身が震えた。

「やめ…やめてください…」

「命令するなよ。これからお前も、あいつらと一緒だ」

男の手がスー・ワンアルのスカートに伸びた。彼女は目を閉じた。その瞬間、倉庫の外で轟音が響いた。車のエンジン音と、複数の足音が近づいてくる。男たちが顔を見合わせ、動揺した。

「くそっ、管理局の応援か!」

先輩が扉を蹴り開けて入ってきた。その後ろには武装した管理局の職員が数人控えている。先輩は鋭い目つきで周囲を見渡し、スー・ワンアルの姿を認めた。

「おい、よくも俺の部下に手を出したな」

先輩は迷わず男に飛びかかり、一瞬で地面に押さえ込んだ。他の職員たちも次々に男たちを制圧していく。スー・ワンアルはぼろぼろの制服を胸元で押さえ、その光景を呆然と見つめていた。

「スー、大丈夫か」

先輩が駆け寄り、彼女の肩に手を置いた。その手の温かさに、スー・ワンアルの心臓は爆発しそうに高鳴った。

「あ、ありがとうございます…先輩」

「こんな時に敬語はいい。無事で良かった」

先輩はそう言うと、周囲の後始末を指示し始めた。スー・ワンアルはその背中を見つめながら、胸の内で複雑な感情が渦巻くのを感じた。恐怖はまだ消えていない。しかし、もう一つ、別の感情があった。

惜しい。そう思ってしまった自分がいた。あと少しで、自分もあの女奴隷たちと同じようになっていた。その瞬間を、心のどこかで待ち望んでいたかのように。

スー・ワンアルはその考えを振り払うように首を振った。そして、震える手で制服のボタンを直しながら、先輩の後を追った。倉庫の奥で、まだ解放されていない女奴隷たちが、無表情でこちらを見つめていた。

昇進と片思い

違法組織の摘発から一週間後、蘇婉児は局長室に呼び出された。上司の机の上には、彼女の手柄を称える辞令が置かれていた。

「スー、お前の働きは見事だった。今回の作戦、単独で違法組織のアジトに潜入し、女奴隷十二名を救出した。しかも組織の上位幹部三名を拘束した。これまでの成果を鑑み、本日付でお前をグループリーダーに昇進させる。直属のメンバーは二人、ジュンとリンだ。」

蘇婉児は深く一礼した。胸の奥で何かが熱く燃え上がるのを感じた。それは達成感だった。しかし同時に、あの日の記憶が鮮明に蘇る。先輩が廃工場に踏み込んだ瞬間、閃光のように現れ、奴隷商人たちを次々に制圧していった勇姿。屈強な男たちをまるで子供扱いするように倒し、血に染まった手首を拭いながら振り返った時、その瞳は冷酷でありながらも、救出された女奴隣たちに向けると一瞬だけ温かみを帯びた。

先輩は家庭があった。結婚指輪が薬指に輝いていた。蘇婉児はそれを知りながら、先輩の背中を追いかけるようにして、自分の机の引出しにしまった彼の写真を時折取り出しては眺めた。片思いだとわかっていても、気持ちは止められなかった。

昇進後、仕事の関係で以前より先輩と接する機会が増えた。グループリーダーとしての報告会、作戦会議、そしてたまにある二人きりの打ち合わせ。先輩が彼女の肩に手を置いて「よくやった」と褒めるたび、蘇婉児の心臓は早鐘を打った。しかし同時に、先輩の左手の薬指に光る指輪が、その幸福感をすぐに打ち消した。

「スー、今夜、取引先との会食がある。お前も同席しろ。」

先輩の声に、蘇婉児は顔を上げた。二人きりの席ではないとわかっていても、少しでも長く同じ時間を過ごせるならと思った。しかしその夜、会食の席で先輩の携帯電話が震え、彼が優しい声で「ああ、今仕事中だ。すぐ帰るよ」と妻に話しかけるのを聞いた時、蘇婉児の喉の奥が苦くなった。

同席していた部下のジュンが、彼女の表情の変化に気づいたようだった。

「グループリーダー、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ。」

「何でもない。ちょっと疲れただけ。」

蘇婉児はそう言って、グラスの水を一気に飲み干した。自分でも信じられないほど虚ろな声が出た。

先輩は優しい。しかしそれは上司として、同僚としての優しさであり、決してそれ以上のものではなかった。蘇婉児はその事実を噛みしめるように飲み込み、ますます自分を律するようになった。

ある日、先輩が彼女を呼び止めた。

「スー、最近お前、なんだか様子が変だぞ。何か悩み事か?」

蘇婉児は咄嗟に笑顔を作った。

「いえ、特に何も。ただ新しい役割に慣れようとしているだけです。」

「そうか。無理するなよ。何かあればいつでも相談しろ。」

先輩はそう言って、また彼女の肩を軽く叩いた。その手の温もりが、蘇婉児の心に深く刻まれた。しかし同時に、その優しさが彼女をさらに苦しめるのだった。

職場に戻ると、デスクの上には新しい書類が積まれていた。グループリーダーとしての責任は重く、彼女は自分の感情に押し潰されそうになりながらも、それを仕事にぶつけるようにして乗り切ろうとしていた。

夜、一人帰宅したアパートの部屋で、蘇婉児は鏡の前に立った。自分の姿を見つめながら、心の中でつぶやいた。

「私はもう、あの頃の私じゃない。でも、この気持ちも、きっと変わらない。」

その夜、彼女は久しぶりに母の夢を見た。母は鎖に繋がれ、檻の中にいた。その瞳は虚ろで、何も映していなかった。蘇婉児は叫びたかったが、声は出なかった。

肉畜の真実

スー・ワンアルは、昇進してから初めて、女奴隷廃棄制度の全容を目の当たりにした。

上司の部屋に呼ばれ、分厚い書類を渡されたとき、彼女はそれが単なる事務手続きではないことを直感した。

「これは機密だ。お前が担当することになる」

上司は淡々と言い、机の上に置かれたファイルを指で叩いた。

スー・ワンアルはそれを開き、最初のページに書かれた文字に息を呑んだ。

「女奴隷廃棄手続き要綱」

その下には、詳細な規定が羅列されていた。女奴隷は特別な薬物管理のもと、五十歳まで若さを保つことができる。しかし、その年齢に達すると、人権が法的に剥奪され、管理局の承認を得て屠殺が許可されるのだ。

「これは……本当に必要な措置なのですか?」

スー・ワンアルの声が震えた。

上司は無表情で答えた。

「資源の無駄を防ぐためだ。年を取った女奴隷は維持費がかかる上に、若い女奴隷の需要を圧迫する。それに、彼女たちの肉は特別な薬物処理によって高級食材として取引される」

「食材……?」

「ああ。特に重要な宴会では、女奴隷の屠殺が余興として行われる。生きたまま解体される女奴隷の悲鳴は、客たちの食欲をそそるのだそうだ」

スー・ワンアルは胃のあたりが冷たくなるのを感じた。

数日後、彼女は初めて廃棄審査に立ち会うことになった。

管理局の地下にある特別な尋問室。そこには、五十歳目前の女奴隷が連れてこられていた。

彼女の名前はユイメイ。かつては上級官僚の愛人だったと聞く。今は痩せ細り、目は虚ろだった。

スー・ワンアルは定型の質問を読み上げた。

「あなたは廃棄対象として認定されました。異議はありますか?」

ユイメイはゆっくりと顔を上げた。

そして、微笑んだ。

「いいえ、待ち望んでいました」

スー・ワンアルは凍りついた。

「死を望むのですか?」

「死ではなく、終わりです。この苦しみの終わり」

ユイメイの声は穏やかだった。

「あなたには分からないでしょうね。私たち女奴隷にとって、生き続けることは延々と続く拷問のようなものです。毎日、見知らぬ男たちに体を弄ばれ、食事は最低限、睡眠すらも管理される。それならば、屠殺されるほうがましです」

「でも、あなたはまだ生きている。希望があるかもしれない」

「希望? そんなものはとっくに捨てました」

ユイメイは冷笑した。

「それに、屠殺されるときは、特別な薬物で意識が鮮明なまま、痛みを最大限に感じるように調整されるそうです。それが私たちの最後の役目。苦しみながら死ぬことで、客たちに興奮を与えるのです」

スー・ワンアルは言葉を失った。

その後も、何人もの女奴隷と面談した。彼女たちは皆、同じだった。

恐怖や悲しみではなく、むしろ安堵と期待の表情を浮かべていたのだ。

「屠殺の日を指折り数えて待っています」

そう言った女奴隷は、目を輝かせていた。

スー・ワンアルは混乱した。

なぜ彼女たちは死を喜ぶのか。なぜ苦しみを求めるのか。

その疑問は、次第に別の感情へと変わっていった。

好奇心。

彼女は密かに、屠殺の映像を閲覧した。最初は耐え難かったが、何度も見るうちに、心のどこかで興奮が芽生え始めていることに気づいた。

あの女奴隷たちの表情。苦痛に歪みながらも、どこか恍惚とした笑みを浮かべる瞬間。

それは、彼女の知らない世界の扉だった。

ある夜、スー・ワンアルは一人で廃棄審査の記録を整理していた。そこで、一人の女奴隷の名前に目が留まった。

「リーメイ」

その顔写真を見て、彼女の手が震えた。

それは、幼い頃に自分を捨てた母親だった。

母は五十歳を目前に控え、廃棄リストに載っていた。

スー・ワンアルはしばらく考えた後、上司に報告した。

「この女奴隷の廃棄審査は、私が担当します」

上司は一瞥しただけで、書類に印を押した。

「好きにしろ」

数日後、スー・ワンアルは母と面会した。

母は彼女の顔を見て、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷たい目で見返した。

「あなたが審査官なのね」

「……そうです」

「なら、早く終わらせてちょうだい」

母の声には、何の感情も込められていなかった。

スー・ワンアルは質問を始めたが、心臓が激しく打ち鳴っていた。

「あなたは廃棄を望みますか?」

「もちろん」

母は即答した。

「生きていても、もう何もない。あなたを捨てた日のことを、毎日後悔しながら生きてきた。でも、もう終わりにできる」

「後悔……?」

「ああ。あなたを捨てたことを、何度も後悔した。でも、取り返しはつかない。だから、せめて苦しみながら死んで、罪を償いたい」

スー・ワンアルの目から涙がこぼれ落ちた。

「お母さん……」

「もう二度と、そう呼ばないで」

母は顔を背けた。

「私はもう、あなたの母ではない。ただの肉畜だ」

その後、スー・ワンアルは母の廃棄承認書に署名した。

その夜、彼女は女奴隷クラブへ向かった。先輩と部下が待っていることを知っていたからだ。

彼女は仮面を着け、偽名を使った。先輩はそれに気づかなかった。

「新しい女か。なかなかいい体してるじゃないか」

先輩は彼女の体を撫で回しながら、酒を無理やり飲ませた。

スー・ワンアルは抵抗しなかった。

むしろ、快感を覚えていた。

自分が堕落していく感覚。それが彼女を満たしていた。

数時間後、彼女は意識を失った。目を覚ますと、見知らぬ部屋に横たわっていた。体は拘束され、口には猿ぐつわがはめられていた。

目の前に、数人の男が立っていた。

「新入りだ。特別な世話をしてやろう」

その言葉とともに、彼女の体に激痛が走った。

スー・ワンアルは叫ぼうとしたが、声が出なかった。

彼女は理解した。

自分はもう、逃げられない。

この世界の深淵に、自らの足で飛び込んでしまったのだ。

彼女の最後の意識の中で、母の言葉が響いた。

「私はもう、ただの肉畜だ」

そして、スー・ワンアルもまた、同じ運命を辿ろうとしていた。

母の死

# 母の死

蘇婉児は書類を手に、屠殺許可交付の立ち会いのために施設の奥へと足を進めていた。蛍光灯の冷たい光が無機質な廊下を照らし、消毒剤の匂いが鼻をつく。彼女のハイヒールの音だけが、静寂の中に規則正しく響いていた。

「本日の屠殺対象はNo. 4729、肉畜登録から三年経過、健康状態良好」

係員が無機質な声で読み上げる。蘇婉児は慣れた手つきで書類に目を通した。今月に入って三件目の屠殺許可だ。初めの頃は胃のあたりが重くなるような感覚があったが、今ではもう何も感じない。ただの業務だ。そう自分に言い聞かせていた。

「確認しました。許可証を発行します」

彼女が印鑑を押そうとしたその時、書類の隅に記載された肉畜の生体情報が目に飛び込んできた。

**生年月日: 1965年3月14日**

**血液型: AB型**

**特記事項: 出産歴あり(女児一人)**

蘇婉児の手が止まった。心臓が大きく脈打つ。1965年3月14日。それは彼女の母親の生年月日と完全に一致していた。ありえない。そんなはずはない。だが、次の瞬間、彼女の指は震えながら書類の別の項目をなぞっていた。

**肉畜番号 4729**

**由来: 個人放棄(本人名義、幼女出産後すぐに放棄)**

「どうかなさいましたか? 監督官」

係員の声で蘇婉児は我に返った。彼女は必死に平静を装い、書類を差し出した。

「い、いえ。問題ありません。許可証を発行します」

印鑑を押す手が微かに震えていた。彼女はそれを誤魔化すように素早く書類を処理すると、その場を離れた。だが、頭の中は混乱していた。

母だ。あの、私が三歳の時に私を捨てた母だ。

記憶の断片が蘇る。薄汚れたワンルームのアパート。酒臭い息。そして、冷たい目で自分を見下ろす女性の姿。「あんたなんか、いなければよかったのに」――その言葉だけは、今でも鮮明に覚えている。

蘇婉児は執務室に戻ると、すぐに端末で肉畜No. 4729の詳細記録を呼び出した。画面に表示されたのは、見覚えのある顔だった。老けてはいたが、間違いない。二十年以上ぶりに見る母の顔だった。

記録には、母がどのような経緯で肉畜となったかが克明に記されていた。娘を捨てた後、複数の男との関係、借金、薬物、そして自ら奴隷となることを選んだ経緯。全てが淡々とした行政用語で綴られていた。

蘇婉児はしばらく画面を見つめていたが、やがて決意して電話を取った。

「もしもし、肉畜No. 4729の主人である企業様でしょうか。奴隷管理局の者ですが……」

電話の向こうの声は、いかにも金を持っているという風だった。話を聞くと、母はある企業の社長に飼育されている肉畜で、もう飽きたから屠殺するとのことだった。

「一つお願いがあるのですが。本日の屠殺の見学をさせていただけませんか……? 私、監督官として、許可後の一連の流れを確認する必要がありまして」

上司からは、時々屠殺現場を見学するように言われていた。それは蘇婉児が自ら志願したことでもあった。彼女の中の何かが、母の最後を見届けさせようとしていた。

「構わないよ。うちの奴隷はいつでも見学可能だ。ただ、君のような若い女性がそんなものを見て大丈夫か?」

「はい。業務ですので」

電話を切ると、蘇婉児は深く息を吐いた。なぜ自分はこんなことをしているのか。母を恨んでいるのか。それとも、単なる好奇心なのか。自分でもわからなかった。

午後三時。蘇婉児は屠殺施設の見学室にいた。一方向鏡の向こう側には、清潔に保たれた屠殺室があった。白いタイル張りの部屋で、中央には金属製の屠殺台が設置されている。

見学室には彼女の他に三人の男がいた。母の主人らしき中年の男と、その連れの二人だ。彼らは酒を飲みながら、くすくすと笑っている。

「今日の肉は特別だ。三年もじっくりと熟成させた逸品だぞ」

男たちの下品な笑い声が聞こえる。蘇婉児は唇を噛みしめ、ただ黙ってガラスの向こうを見つめていた。

やがて、二人の係員に連れられた一人の女が屠殺室に現れた。蘇婉児は思わず息を呑んだ。確かに、母だった。白く濁った目、ぽっかりと開いた口、よだれを垂らしながらも、なぜか恍惚とした表情を浮かべている。

母は屠殺台の上に寝かされた。抵抗する様子は全くない。むしろ、待ち望んでいたかのような安堵感さえ漂わせている。

「おい、見ろよ。あの肉畜、笑ってるぞ」

男の一人が声を上げた。確かに、母の口元はわずかに上がっていた。それは、蘇婉児が一度も見たことのない表情だった。幸福そうで、満足げで、そして何より――落ち着いていた。

係員が機械のスイッチを入れる。ブーンという低い音と共に、屠殺台の上で金属のアームが動き始める。母の手足が固定され、首元に薄く刃があてがわれる。

その瞬間、母の口が動いた。

「……ありがとう……」

かすかに、しかし確かに聞こえた。蘇婉児の耳には、その言葉がはっきりと届いた。ありがとう。誰に言ったのか。係員に? 主人に? それとも――神に?

刃が一瞬で母の頸動脈を切断した。鮮血が弧を描いて飛び散り、白いタイルを真っ赤に染める。母の体が痙攣し、そしてゆっくりと動かなくなった。

だが、その顔は――最期まで笑っていた。

蘇婉児は愕然とした。なぜだ。なぜ、母は笑っている。自分を捨てた母が、肉畜として屠殺されるその瞬間に、なぜそんなに幸せそうな顔をしているのか。

「いい眺めだろう?」

すぐ横から声がした。母の主人だ。男はグラスを傾けながら、ニヤリと笑った。

「あの女はな、最後の一年間、本当に幸せそうだったよ。毎日、ただ餌をもらい、体を撫でられ、時々交配されて。それだけだ。人間らしい苦労も、悩みも、責任も何もない。ただの肉として生きる。それが、あの女にとっては一番の幸せだったんだろうな」

蘇婉児は言葉を失った。頭の中で何かが崩れ落ちる音がした。自分が信じてきた価値観が、音を立ててひび割れていく。

母は、人間として生きることを拒否した。責任も苦しみもない、ただの肉としての生を選んだ。そして、その選択に一片の後悔もなく、むしろ誇りさえ感じているように見えた。

「どうだ、監督官。君も一度、肉畜の屠殺を実際に体験してみないか? ただ見ているだけではわからないことがあるぞ」

男の言葉が、蘇婉児の耳に異様な響きで入ってきた。彼女はただ首を振ることもできず、しかし受け入れることもできず、その場に立ち尽くしていた。

ガラスの向こうでは、係員たちが母の死体を片付け始めていた。血の跡が雑巾で拭かれ、白いタイルが再び輝きを取り戻す。あっけないほどに、全てが終わっていた。

蘇婉児は見学室を後にした。足取りは重く、しかしどこか浮き足立っていた。頭の中は母の最期の笑顔でいっぱいだった。あの笑顔は何だったのか。なぜ、あんなに満たされた表情をしていたのか。

執務室に戻っても、仕事が手につかなかった。書類の文字が頭に入ってこない。代わりに、母の痙攣する体と、飛び散る血、そして笑顔が繰り返しフラッシュバックする。

気づけば、彼女は端末で「肉畜 屠殺 幸福感」と検索していた。いくつかの論文がヒットする。その中には、肉畜化された人間が屠殺の瞬間に多幸感を覚えるという研究結果もあった。

「脳内麻薬の分泌……苦痛からの解放……自己の消滅への歓喜……」

蘇婉児は呟きながら、その論文を読み進めた。そこには、ある種の肉畜が屠殺を待ち望み、その瞬間に最高の幸福感を得るという事例が数多く記載されていた。

「馬鹿げてる……」

そう言いながらも、彼女の指は次の論文をクリックしていた。心臓の鼓動が速まる。自分でも制御できない好奇心が、彼女をさらに深みへと導いていた。

窓の外では夕日が沈みかけていた。赤く染まる空が、母の血の色を思い出させる。蘇婉児はその窓の外を見つめながら、初めて自分の内側に芽生えた暗い欲望の存在を認めようとしていた。

それは、母が最後に味わったという幸福感。肉として屠られる瞬間の、あの恍惚――。

彼女はそれを、もっと知りたいと思った。

クラブの約束

スー・ワンアルは、いつものように書類を整理していると、先輩が同僚とひそひそ話をしているのが耳に入った。聞き慣れない単語が幾度か繰り返される。「女奴隷クラブ」「今夜の予約」「特別なサービス」—その言葉が彼女の心をざわつかせた。先輩は机の引き出しから一枚のカードを取り出し、素早くスーツの内ポケットにしまい込んだ。その動作はどこか慣れた様子で、スー・ワンアルの胸が嫌な感じに締め付けられた。

その日の業務が終わり、スー・ワンアルは先輩の後をつけた。彼は官舎には向かわず、駅とは反対方向の繁華街へと足を進める。人混みを縫って、彼は一軒のビルの地下へと消えていった。入り口には小さなネオンサインが一つ。「プライベートクラブ・アネモネ」と控えめに表示されている。スー・ワンアルは心臓の鼓動が速まるのを感じながら、一度深呼吸してからビルの中へ足を踏み入れた。

薄暗い照明が落ち着いた雰囲気を醸し出すロビーには、スーツを着た男性客が数人と、優雅なドレスに身を包んだ女性スタッフが静かに行き交っている。受付の女性が微笑みながら声をかけてきた。

「お客様、初めてのお越しでしょうか?」

スー・ワンアルは慌ててバッグから適当なカードケースを取り出しながら、首を振った。「いえ、友人の紹介で…会員登録をしたいのですが」

受付の女性が優雅に手元のタブレットを操作し、簡潔な説明を始める。「こちらは完全予約制の大人の社交クラブでございます。初回は会員登録料として三万円を頂戴しております。お支払いは現金かクレジットカードでお願いしております」

スー・ワンアルは震える手でバッグから財布を取り出した。本当なら今すぐここを飛び出したい衝動に駆られる。けれど、先輩がここに来ているという事実が、彼女をその場に留めさせた。受付を済ませると、彼女は会員証と共に、一枚のパンフレットを受け取った。

パンフレットには、「当クラブの特別体験プラン」と書かれたページがあり、その中に衝撃的な文言があった。「女性会員限定:本格奴隷体験サービス。奴隷調教場にて、お客様が希望する主人役の男性と、完全な主従関係を体験していただけます。安全面は厳重に管理されております」

スー・ワンアルの顔が一気に紅潮した。心臓が激しく打ち鳴り、手が汗で湿る。そんなサービスが、こんな形で自分の目の前に現れるなんて。おかしい、自分はなんでこんなことに興味を持っているんだ。けれど、それ以上に先輩がこのクラブで何をしているのか、知りたくてたまらなかった。

翌日、スー・ワンアルはクラブの予約窓口に電話を入れた。「特別体験サービスを申し込みたいのですが…主人役は、先日クラブにご来店された男性のお一人をお願いしたいんです。身長170センチくらいの、黒いスーツをよく着ている方で…」

受付の女性は落ち着いた声で応えた。「お客様のご要望に合う方として、木村様という常連様がございます。一度お問い合わせいたしますので、少々お待ちください」

数分の後、電話がつながった。「木村様がお受けいただけるとのことです。日時は来週の木曜日、夜9時から、二時間のコースでいかがでしょうか?」

スー・ワンアルの指が電話の受話器を強く握る。木村。確かに先輩の名字は木村だ。喉がカラカラに乾くのを感じながら、彼女は声を絞り出した。「はい、それでお願いします。あの…私は仮面をつけて参加したいんです。素顔を見られたくないので」

「かしこまりました。ご来店の際は、当クラブ指定の仮面をお渡しします。お楽しみに」

電話を切った後も、スー・ワンアルの鼓動は収まらなかった。自分は今、何をしてしまったのか。先輩に奴隷体験の主人役を頼んで、しかも自分が奴隷になる側だ。正常な人間なら絶対にやらない選択だ。でも、もう後戻りはできない。先輩と、自分だけの秘密の関係を築ける—その思いが、彼女の恐怖をかき消していた。

木曜日の夜が訪れた。スー・ワンアルは自宅で入念に身支度を整えた。普段の業務用スーツではなく、クラブの指示通り、下着は黒のレースのものに、上からはゆったりとしたワンピースを着た。バッグにはチェンジ用の衣服と、持って来いと言われたロープと目隠し用の布が入っている。彼女は鏡の前で自分の顔を見つめた。頬が上気し、目が潤んでいる。

「大丈夫。これはただの体験だ。きっと先輩と話すきっかけになる」

彼女は小声で自分に言い聞かせた。だが、その声は震えていた。

クラブに到着すると、受付で指定された仮面を渡された。黒いベルベットの素材で、目の部分だけが開いている。彼女はそれを装着し、細いリボンを後ろで結んだ。自分の顔が隠されたことで、かえって心が落ち着くのを感じた。

「お客様、こちらへどうぞ。木村様は既にお待ちです」

案内された部屋は薄暗く、部屋の中央には簡素なベッドと椅子だけが置かれている。壁際には鞭や縄、そして見慣れない器具が並んでいる。スー・ワンアルは思わず息を呑んだ。現実味が一気に迫ってくる。

やがて、扉が開き、一人の男性が入ってきた。スーツ姿で、顔には同じく黒の仮面をつけている。けれど、その立ち居振る舞い、ほのかに漂うコロンの香り—間違いなく木村先輩だった。

「初めまして。本日は私が主人役を務めさせていただきます」

先輩の声が、少し変えられているけれど、それでも馴染みのある響きを持っていた。スー・ワンアルの心臓が口から飛び出しそうになる。

「よ、よろしくお願いします」彼女はかすれた声で返した。

先輩はゆっくりと彼女の周りを一周し、その視線が仮面の下の肌を這うように感じられた。「君は、奴隷になるのは初めてか?」

「はい…でも、ちゃんとやります」

「そうか。ならば、まずは跪け。奴隷は主人よりも目線が低くなければならない」

スー・ワンアルは一瞬ためらったが、両膝を床につけた。冷たい感触が膝を通して伝わる。先輩は満足そうにうなずき、彼女の髪をそっと撫でた。その手の温もりが、逆に彼女の緊張を倍増させた。

初めての体験

薄暗い個室の空気は、甘やかな麝香の匂いと、かすかな緊張で満ちていた。スー・ワンアルは重い革の仮面を顔に着け、視界を狭められたまま、自分の心臓の鼓動が耳の奥で響くのを感じていた。彼女は今日、初めての体験女奴隷として、この部屋に立っている。上司から「上客の相手をしろ」と言われ、断る理由も見つからなかった。それに、心の奥底で、彼女は確かに何かを待ち望んでいたのかもしれない。先輩がこのクラブの常連だという噂は、ずっと前から知っていたからだ。

ドアが開く音がして、スー・ワンアルの肩が微かに震えた。足音がゆっくりと近づいてくる。男の影が彼女の前に立ち止まった。見慣れた背格好、かすかに漂うコロンの香り――間違いない、先輩だ。スー・ワンアルの喉の奥が引き攣ったが、声を出すわけにはいかない。彼女はただ、深くうつむいて、黙って待つことしかできなかった。

「新しい顔だな」

先輩の声は、普段の優しい調子とは違っていた。低く、命令的な響きを帯びている。彼はスー・ワンアルの周りを一周し、その目つきはまるで商品を値踏みするかのようだった。

「名前は?」

「……ありません。番号でお呼びください」

スー・ワンアルは事前に教えられた台詞を、できるだけ平坦に呟いた。声が震えないように必死だった。

先輩は満足そうに鼻を鳴らし、「じゃあ、五番でいい。こっちに来い」と言った。

スー・ワンアルが一歩踏み出すと、先輩は迷いなく彼女の髪を掴み、壁際に引きずった。頭皮が引き攣れる痛みに、彼女は息を呑んだ。しかし、それ以上に胸を締め付けたのは、自分の憧れる人物から、こんなにも粗野に扱われるという現実そのものだった。

「初めてか?」

「……はい」

「なら、教えてやる。奴隷ってのは、こうやって使うもんだ」

先輩は手にした鞭を軽く振るった。空気を裂く鋭い音が、スー・ワンアルの耳を打つ。次の瞬間、鞭が背中に炸裂した。焼けるような痛みが走り、彼女は悲鳴を上げそうになったが、唇を噛んでこらえた。二度目、三度目と鞭が降り下ろされるたびに、彼女の体は跳ね、皮膚の上に熱い線が刻まれていく。痛みの合間に、不思議な高揚感がじわじわと湧き上がってくるのを、彼女は止められなかった。

「なかなかいい反応だ。素直だな」

先輩の声に、かすかな満足感が混じる。彼は鞭を置き、スー・ワンアルの顎を掴んで無理やり上を向かせた。

「次は、もっと深いとこまで教えてやる。犬になれ。四つん這いになれ」

スー・ワンアルは一瞬ためらった。だが、仮面の向こうから見える先輩の瞳には、普段の優しさは微塵もなかった。ただ、支配する快楽に酔いしれる男の目があった。彼女はゆっくりと膝をつき、手をついて、四つん這いの姿勢を取った。床の冷たさが掌に伝わる。

「そのまま、俺の足を舐めろ」

先輩は靴を彼女の目の前に差し出した。スー・ワンアルは、自分の中の何かが壊れる音を聞いた気がした。しかし、同時に、その破壊がもたらす解放感に抗えなかった。彼女は舌を出し、革靴の表面をなめ始めた。塩味と埃の味が口の中に広がる。涙が滲んだが、なぜかそれは悔しさだけのせいではなかった。

「よし。お前はいい奴隷だ」

先輩の手が彼女の頭を撫でた。その仕草が、かえって彼女の心を深く抉った。彼は彼女を抱き上げ、簡素なベッドに押し倒した。スー・ワンアルの服がはぎ取られていく。冷たい空気が肌を撫で、彼女は思わず体を縮めた。

「やっぱりな。お前、まさか」

先輩が突然、動きを止めた。スー・ワンアルの腿の間に手を入れ、何かを確認するように指を這わせた。彼女は声を殺して震えた。

「……本当に、初めてだったのか。いや、この感じは」

先輩の声が微かに上ずっていた。彼は顔を上げ、仮面の奥のスー・ワンアルの目をじっと見つめた。一瞬、何かが引っかかったような表情を浮かべたが、すぐに欲望の炎がそれをかき消した。

「お前、こんな場所に来るなんて、思い切ったな。いいだろう。俺がお前の最初の男だ」

そう言うと、彼は無造作に自分のズボンを下ろし、スー・ワンアルの足を大きく開かせた。抵抗する間もなく、熱く硬いものが彼女の体内に押し入ってきた。

突破される瞬間、鋭い痛みがスー・ワンアルの全身を走った。彼女は耐えきれず、短い悲鳴を上げた。それでも先輩は止まらなかった。むしろ、彼女が処女であることを知った喜びが、彼の動きを一層乱暴にした。

「すごい締めつけだ……こんなのは初めてだ」

先輩の荒い息遣いが耳元で聞こえる。彼はスー・ワンアルの腰を掴み、激しく打ちつけた。痛みは、次第に別の感覚と混ざり合い、彼女の意識をぼんやりとさせた。まるで自分が泡になって溶けていくような、不思議な浮遊感があった。快楽なのか、それとも苦痛なのか、もう区別がつかない。

先輩の声が遠くから聞こえる。彼の手が彼女の胸を揉みしだく。彼女の体は勝手に震え、涙が頬を伝ってシーツに染みを作った。頭の片隅で、ああ、この人は私のことを知らないんだ、とスー・ワンアルは思った。私がただの初めての奴隷だと思っている。それがなぜか、彼女の心に奇妙な安堵と、深い絶望を同時に与えた。

何度目かの波が押し寄せたとき、スー・ワンアルはもう自分がどこにいるのかも分からなかった。ただ、痛みと快楽の渦の中で、全てを放棄したような甘美な感覚に飲まれていった。先輩の最後の咆哮が耳の奥で響き、やがてすべてが静かになった。

スー・ワンアルはぼんやりと天井を見上げた。仮面の下で、涙と汗が混ざり合って流れ落ちる。彼女は知っていた。もう戻れない。この初めての体験が、自分を確実にどこかへ連れて行ってしまうことを。