長い年月、リュウキはすべてに飽いていた。
戦闘も、富も、異性も、あるいは讃美の言葉さえも。魔王としてこの世界の頂点に立ち、数千年もの間、誰も彼の前に立ちはだかることなどできなかった。彼の腕力に挑む者も、権謀術数を巡らせる者も、すべてはリュウキの前で塵と消えた。その圧倒的な力と知略は、敵対する者を打ち倒すのみならず、味方すら遠ざけた。誰も彼の隣に立つことなどできなかったのだ。
退屈だった。
この世のすべてのものを手に入れ、すべてのものを味わい尽くした魔王にとって、日々はただの繰り返しに過ぎなかった。城の玉座に座り、窓の外に広がる領土を見下ろす。魔王城の尖塔は雲を突き破り、眼下には無数の魔物たちが蠢いている。それらすべてが己の支配下にある。しかし、その事実に何の感慨も湧かない。
「……つまらん」
リュウキは玉座から立ち上がり、空へと飛び立った。
高度を上げれば上げるほど、空気は冷たく澄み渡り、風の音だけが耳に響く。雲海の上、陽光が燦々と降り注ぐその場所は、まるで別世界のように静かだった。だが、それすらも退屈だった。
やがて、ふと眼下に視線を落とした。遙か下の方、森林の開けた場所で、二つの影が動いている。何気なくその動きを追うと、それは二体のオークだった。
互いに組み合い、のしかかり、腰を打ちつけ合っている。交尾だ。
若いオークの雄が、雌の背後から激しく腰を動かしている。雌は四つん這いになり喘ぎ声を上げ、雄はその首筋に牙を立てながら、獣のように腰を振るっていた。
リュウキは思わず足を止めた。
何故だろう。その光景を見た時、彼の体内に何かが蘇った。長い間眠っていた、原始的な何か。魔力の奥深くで燻っていた苛立ちが、形を変えて蠢き始める。
リュウキは知らず、自分の下半身に視線を落とした。蛇尾の下、普段は腔内に収まっている陰茎が、確かにその重みを増している。腔内の奥でそれが膨張し、収まりきらなくなったそれが、ゆっくりと姿を現した。
「……くっ」
リュウキは喉の奥で呻いた。
誰もいない高空、雲に隠れたその空間で、彼は己の陰茎を握った。漆黒の蛇尾が無意識のうちに揺れ、先端のとがったその形が、自分の手のひらの中で熱を持っている。感触は久しぶりだ。そう、何百年ぶりだろうか。自らを慰めることなど。
彼はそのまま動かした。下ではオークたちがなおも交尾を続けている。雌の喘ぎ声と雄の咆哮が風に乗って微かに聞こえてくる。その音が、リュウキの官能をさらに刺激した。
「ああ……っ」
自分でも驚くような声が漏れた。高慢な魔王の口から、こんな掠れた吐息が漏れるなど。だが、止められなかった。手の動きは次第に激しくなり、蛇尾の先端が空気を切り裂くように揺れる。やがて、身体が震え、すべてが一瞬に収束する。
「あ……ァ……!」
その時、彼の全身に電流のような快感が走り、精を放った。黄金の液体が、雲の切れ間から陽の光を受けてキラキラと輝き、虚空へと消えていく。
リュウキはしばらくその場に留まり、荒い息を整えた。そして、ゆっくりと陰茎を腔内に収める。肛門に嵌められた肛栓が、ひんやりとした感触で彼を現実に引き戻した。
「……ふん」
魔王城へ戻ると、リュウキはすぐに側近に命じた。
「屈強なオークを数頭、私の元へ連れて来い」
その命令は異様だった。側近は一瞬面食らったが、逆らうことはできない。すぐに数体のオークが玉座の前に連れて来られた。皆、筋骨隆々で、牙を剥き出しにした歴戦の戦士たちだ。
リュウキは一人ずつと交わった。
最初のオークは雄々しく、抱きしめる力も強かった。だが、その行為自体はただの欲求のぶつけ合いに過ぎなかった。二頭目も、三頭目も、同じだった。彼らにはリュウキの何を知ることもなく、ただ命令に従って腰を動かしているだけだ。その無骨な動きは、リュウキの心を満たすことはなかった。
「……出て行け」
リュウキは吐き捨てるように言った。オークたちは困惑しながらも、玉座の間を退出していく。
一人取り残されたリュウキは、深く息を吐いた。
わかっていた。自分が求めているのは、こういうことではない。
彼は抱かれたいのだ。誰かに、腕の中に、強く、激しく、しかし優しく包み込まれるように。その相手は、己の力を超える者でなければならない。しかし、この世界にそんな者は存在しない。
リュウキは己の尊厳と、欲望の間で葛藤した。
魔王が、誰かに抱かれるなど。それは即ち、己の王としての立場を放棄することを意味する。臣下の前で、配下の前で、そんな姿を晒すなど、断じて許されない。
「……ならば」
リュウキはそう呟き、オークたちを追い返した。誰の目もない場所で、己の欲望を満たす方法を考えねばならない。それは、王としての尊厳を守るための、最後の妥協だった。
玉座の間に一人残された魔王の姿は、どこまでも孤独だった。