# 第一章: 魔羅劫起
大衍皇都·太極殿。
夜の帳が下りた宮殿の奥深く、皇帝の居室だけが異様な気配に満ちていた。朱色の柱に刻まれた龍の彫刻が、揺らめく灯明の光を受けて生きているかのように蠢く。床に敷き詰められた金襴の絨毯は、幾重にも重ねられた香の煙に霞んでいた。
「ううっ…」
か細い嗚咽が部屋の片隅から聞こえる。二人の宫女が震えながら金縁の座榻の前に跪いていた。彼女たちの白魚のような指は強く握りしめられ、青筋が浮かんでいる。彼女たちの視線の先には、黒龍の刺繍が施された暗紫色の袍をまとった男が座している。
大衍皇朝第三代皇帝・独孤邪。
三十路を少し過ぎたばかりの彼は、異様なまでの存在感を放っていた。刀で削ったような鋭利な輪郭に、瞳は底なしの闇のように深く、その口元には常に冷笑が張り付いている。彼が手にした酒杯の中で、血のように赤い酒が揺れていた。
「近づけ」
一言で、空気が凍りついた。二人の宫女は顔を見合わせ、恐怖に彩られた決意を交わす。彼女たちは知っていた。逆らえばどうなるかを。先週、命じに背いた宫女が、魔羅鉄騎の兵士たちの前で辱められた末、生きながら皮を剥がれた話は、宮中でまだ生々しく語り継がれている。
「は…はい…」
二人は這うようにして独孤邪の前に進み出た。彼の長い指が、一人の宫女のあごを掴み、上向かせる。彼女の涙で濡れた瞳が、恐怖に震えながらも、その美しさは変わらない。
「よく来た」
独孤邪の声は低く、甘く、毒のように絡みつく。彼は酒杯を置き、袍の前を緩やかに開いた。その下から現れたのは、常識を超えた存在だった。
「両儀邪龍茎」。
それは、もはや人間の陰茎と呼ぶにはあまりにも異様だった。赤子の腕ほどの太さを持ち、その表面一面を漆黒の龍鱗が覆っている。一鱗一鱗からは淡い魔気が立ち昇り、灯明の光を受けて妖しい光沢を放っていた。亀頭は異常なまでに発達し、その先端はわずかに上向きに反り返り、まるで肉の鉤のようである。その形状は、一度見たら決して忘れることのできない、禍々しい美しさを備えていた。
「口を開けろ」
命令は単純明快だった。二人の宫女は震える手を伸ばし、その異形の陰茎に触れた。鱗の感触は冷たく、そして不思議な温もりを帯びていた。一人が先に口を開け、亀頭を唇で包み込む。もう一人はその根元に舌を這わせた。
「んっ…」
宫女の悲鳴とも吐息ともつかない声が漏れる。口の中に広がるのは、鉄のような味と、甘美な香り。彼女の舌が亀頭の先端、反り返った鉤の部分を舐めた瞬間、ビリビリとした電流のような刺激が走った。
「ふっ…」
独孤邪の喉から低い笑いが漏れる。二人の宫女の口と舌が、彼の邪龍茎の上で織り成す動きは、まるで無意識のうちに調和していた。一人が亀頭を深く咥え込み、もう一人がその軸を舐めしゃぶる。唾液が混ざり合い、鱗の上を滑るたびに、かすかな魔気が立ち上った。
「もっと深く」
独孤邪の手が、宫女の頭を押さえつける。彼女の喉の奥に、巨大な亀頭がねじ込まれる。嗚咽が漏れ、涙が彼女の頬を伝うが、彼の手の力は緩まない。もう一人の宫女は、彼の睾丸を優しく揉みしだきながら、陰茎の裏側を舐め上げる。
「よく覚えておけ。これがお前たちの主の力だ」
独孤邪の声には、優越感と嗜虐的な喜びが混じっていた。彼の目は、二人の宫女が必死に奉仕する姿を、まるで面白い玩具を見るように観察している。
「うう…んちゅ…ぁ…」
陰茎を咥え込んだ宫女の口から、唾液が溢れ、彼女の顎を伝って滴り落ちる。異様なまでの速さで、彼女の舌は亀頭の先端を刺激し続けた。そのたびに、邪龍茎から放たれる微かな魔気が、彼女の体内を駆け巡る。それは苦痛でありながらも、そこには抗い難い快感の種が潜んでいた。
「もういい」
突然、独孤邪が彼女たちの頭を引き離した。邪龍茎は未だに異様なまでの硬度を保ち、その表面の鱗は一層妖しく輝いている。彼の手は、妃榻の肘掛けに置かれた玉匣に伸びた。
「お前たちには、特別な任務を課す」
彼の指が玉匣を開ける。中には、一振りの短剣と、一枚の羊皮紙が収められていた。羊皮紙には、見慣れない紋様と文字が刻まれている。
「これを、天機閣の夏綾に届けよ」
「な…夏綾様に…?」
宫女の一人が震える声で尋ねる。天機閣と言えば、当代随一の知謀を誇る仙道門派。その首席大師姐である夏綾は、百花榜第四位の絶世の美貌と、驚異的な天機演算の能力で名高い。そんな人物に、なぜ皇帝が接触を図るのか。
「黙って聞け」
独孤邪の冷笑が深くなる。彼は羊皮紙を手に取り、その表面を指で撫でた。
「この手紙には、『極楽魔羅功』の核心に関する一節が記されている。夏綾は、これを解読できる唯一の人物だ。彼女に伝えよ。解読に成功すれば、褒美を取らせるとな」
「しかし…陛下。天機閣は我が大衍とは…」
「敵対関係にある、と言いたいのだろう?」
独孤邪は立ち上がり、窓辺へと歩いていく。月明かりが彼の輪郭を浮かび上がらせ、その影は異様に長く伸びていた。
「『天下為公』の名の下に、我々は既に諸仙門を討伐し始めている。天機閣も、いずれ我が掌中に収まる。ただ、時期尚早というだけだ」
彼の目に、一瞬、狂気の光が走った。そう、彼は知っている。夏綾という女が、どれほどの価値を持つかを。彼女の身に宿る「清衍道体」――それは『極楽魔羅功』を完成させるための鍵の一つ。彼女を堕とし、その「名器」を極限まで覚醒させれば、確実に「極楽魔羅印」を刻むことができる。
「では…夏綾様は…」
「夏綾は、まずは我が側室として迎える。表向きは、和親のための策略だ。だが、いずれ彼女は……」
独孤邪は言葉を切った。彼の脳裏には、すでに次の標的が浮かんでいる。百花榜の頂点に立つ女、天劍閣の女剣仙・曦月。彼女こそ、『極楽魔羅功』を最終段階へと導く最高傑作となるだろう。
「下がれ」
一言で、二人の宫女は這うようにして部屋を去った。彼女たちの唇には、まだ邪龍茎の感触が残り、体の奥底に燻る熱が消えなかった。
独孤邪は再び座榻に腰を下ろし、手にした酒杯を一気に煽った。酒の熱が喉を焼き、全身に染み渡る。その時、彼の体内で蠢く「極楽魔羅功」の気が活性化し、陰茎の鱗が一瞬輝いた。
「極楽魔羅印……」
彼は声に出して呟いた。あと十二の印。十二人の名器を持つ絶世の美女を、魂の底まで堕とし、その「名器」を第四段階「極楽」へと至らしめねばならない。それは容易な道のりではない。しかし、だからこそ価値がある。
「百花榜の娘たちよ。お前たちの悲鳴と喘ぎが、我が極楽への階段となる」
彼の笑みは、夜の闇よりも深く、陰惨なものだった。
その夜、大衍皇都を覆う月明かりの下で、魔羅鉄騎の将・花擎天が跪いて皇帝の命令を待っていた。彼の鎧は月光に冷たく輝き、その手に握られた令符は、やがて多くの門派に血と炎をもたらすことを予感させる。
「花擎天」
「はっ」
「明日より、『天下為公』の旗の下、仙門討伐を本格化させる。まずは、天機閣の周辺門派から凋落せよ。そして……天機閣の夏綾を捕らえよ」
「承知いたしました」
花擎天の声は鉄のように硬い。彼は立ち上がり、その巨躯を闇の中へと消した。
独孤邪は一人、月を見上げる。彼の唇に浮かぶのは、征服者の勝利の笑みではなく、狂気に彩られた期待の笑みだった。
「さあ、始めよう。この世界に、新たな極楽をもたらす時だ」
彼の陰茎が、再び鈍く疼いた。二つの宫女の唾液がまだ鱗の上に残り、月明かりにきらめいている。その光景は、この夜から始まる凄絶な物語の予兆に他ならなかった。
大衍皇朝の闇は、今まさに拡がりを見せようとしていた。