堕ちた純白

站点:NovelAI.one内容:前8章在线试读ID:1f2064f0更新:2026-06-11 02:44
# 堕ちた純白 ## 第一章 純白の学園 九月の陽射しが、キャンパスの銀杏並木を透かして降り注いでいた。陳夢瑶は図書館の二階、窓際の席に座っていた。開いた教科書の上に、彼女の細い指先がそっと置かれている。 「夢瑶、ここ、わかる?」 隣から、幼馴染の李明の声が聞こえた。彼は几帳面な字で書き込まれたノートを指さしている。夢
原创 剧情 爽文 架空 热门
堕ちた純白 提供 前8章在线试读,可直接在线阅读。你也可以前往“最新小说”“热门小说”“发现小说”继续浏览站内内容。
当前页面收录可公开展示内容,以下为前 8 章试读:

純白の学園

# 堕ちた純白

## 第一章 純白の学園

九月の陽射しが、キャンパスの銀杏並木を透かして降り注いでいた。陳夢瑶は図書館の二階、窓際の席に座っていた。開いた教科書の上に、彼女の細い指先がそっと置かれている。

「夢瑶、ここ、わかる?」

隣から、幼馴染の李明の声が聞こえた。彼は几帳面な字で書き込まれたノートを指さしている。夢瑶は顔を上げ、微笑んだ。

「うん、ちょっと待ってね」

彼女はペンを手に取り、李明のノートに数式を書き加えた。二人は同じ大学の工学部に通っている。小さい頃からずっと一緒に勉強してきた仲だった。

李明が真剣な顔でノートを見つめる横顔を、夢瑶はこっそり盗み見た。彼の誠実な眼差しが、彼女の心を落ち着かせた。

「ありがとう、夢瑶。おかげで助かったよ」

「いいえ、こちらこそ。いつも一緒に勉強してくれてありがとう」

そう言いながら、夢瑶はふと窓の外を見た。キャンパスのベンチで、数人の学生が煙草を吸いながら大声で笑っている。彼女は眉をひそめた。

「ああいうの、嫌だな」

李明が小声で言った。

「うん。私も」

夢瑶は答えた。彼女は煙草の匂いも、酒の匂いも、それにまつわる全てが嫌いだった。キャンパスの中にも、そういうことに染まっていく学生が増えているのを感じていた。自分は絶対にああなりたくない、と心に誓っていた。

しかし、夢瑶はそれ以上そのことについて考えないようにした。彼女は再び教科書に目を落とした。

数時間後、図書館を出てキャンパスを歩いていると、突然、怒号が聞こえてきた。夢瑶は立ち止まった。声の方向を見ると、中庭の隅に人だかりができている。

「おい、一年坊主! 金出せよ!」

声の主は、明らかに年上の男だった。深く刻まれた刺青が腕から首にまで伸びている。彼は新入生らしい青年の胸倉を掴んでいる。

「た、頼むよ…そんなこと言われても、俺には…」

新入生の声は震えていた。周りの学生たちは、見て見ぬふりをしている。

「何やってるんですか!」

夢瑶は思わず叫んでいた。気づけば、彼女は人だかりの中に飛び込んでいた。

刺青の男が、ゆっくりと振り返った。その目つきは獣のように鋭かった。

「あ? 何だ、お前?」

「暴力はいけません。すぐに手を離してください」

夢瑶は震える声で言った。しかし、その目には強い意志が宿っていた。

「お前、正義の味方気取ってんのか? 俺の邪魔するとどうなるか、わかってんのか?」

男はにやりと笑った。周りの悪質な学生たちも、同じように笑っている。

「警察を呼びますよ」

夢瑶はスマートフォンを取り出そうとした。しかし、その手を男が掴んだ。

「呼べるもんなら呼んでみろよ。でもな、お前、この大学にこれからも通うんだろ? 俺みたいな奴が校内に何人いると思う?」

その言葉に、夢瑶の心臓が冷たく凍りついた。

「もういいよ、先輩」

新入生が弱々しい声で言った。「俺、金出すから…」

「そうかよ。じゃあな、お嬢ちゃん」

男は新入生を突き飛ばし、仲間と一緒に去っていった。夢瑶はその場に立ち尽くしていた。拳が震えているのがわかった。

「夢瑶!」

李明が駆け寄ってきた。彼は心配そうな顔で夢瑶の肩に触れた。

「大丈夫か? 無茶しすぎだよ」

「でも…あれを見過ごせなかったの」

夢瑶は唇を噛んだ。胸の奥で、怒りと悔しさが渦巻いていた。

「わかってる。でも、君は一人で立ち向かえる相手じゃない」

李明は優しく言った。夢瑶は、無意識に涙がこぼれそうになるのをこらえた。

夜が更けていた。夢瑶は寮の自分の部屋の机に向かっていた。窓の外には、キャンパスの灯りがぼんやりと浮かんでいる。彼女はペンを手に取り、日記を開いた。

「九月十五日。今日は、キャンパスで嫌なことを見てしまった。あの刺青の男たちはなぜあんなことをするのだろう? 自分たちの力を見せつけたいだけか? それとも、何かに苦しんでいるのか?」

彼女は一呼吸置いて、続けた。

「でも、私は信じている。この世の中には、きっと正しいことがあると。私はあの男たちみたいになりたくない。煙草も酒も、あらゆる悪い習慣から身を守りたい。いつか、誰かの力になれる人間になりたいと思う。」

夢瑶はペンを置き、窓の外を見た。満天の星が瞬いている。彼女は深呼吸をした。胸の奥で、希望の炎が静かに燃えていた。

「李明がいてくれるから、私は強くいられる。これからも、ずっと一緒だといいな。」

そう呟いて、彼女は日記を閉じた。キャンパスの静かな夜は、まだ続いていた。夢瑶は自分が保っている道徳の牙城に、確かな安心感を覚えていた。しかし、彼女の知らないところで、その牙城を崩す運命が、静かに忍び寄っていた。

暗流うごめく

劉美玉は警察署のデスクに積み上げられた資料を睨みつけながら、煙草の火を消した。指先に残るヤニの匂いが、かつては耐え難かったはずなのに、今ではどこか落ち着く。彼女は深く息を吐き、机の上に広がる校内暴力事件の報告書に再び目を落とした。

「美玉、まだいたのか」

同僚の張強がコーヒーカップを手に、のぞき込むようにやって来た。彼の目には疲れの色が濃いが、それでも口調には気遣いが混じっている。

「ああ。この事件、ちょっと普通じゃない」

劉美玉は指で報告書の一部をなぞった。被害者の少年は先週、学校の裏庭で複数の暴徒に襲われ、重傷を負った。表面上は単なる学生同士の喧嘩に見えるが、調べるうちに奇妙な点が浮かび上がる。

「加害者たちの供述、全部揃ってるんだ。『命令されたからやった』ってな」

張強が眉をひそめる。「命令って、誰にだ?」

「そこがわからない。全員、口を揃えて『黒いスーツの男』って言うけど、具体的な特徴は一致しない。まるで催眠でもかけられたみたいに」

劉美玉は立ち上がり、窓の外に広がる夕暮れの街を見下ろした。ビルの隙間から差し込むオレンジ色の光が、アスファルトに長い影を落としている。彼女の胸の奥で、何かがざわついた。この街の闇は、思っていたより深いのかもしれない。

「明日、現場を再調査しよう。学校の周辺で何か掴めるかもしれない」

張強が頷く。「わかった。ただし、気をつけろよ。最近、何かが動いてる気がする」

劉美玉は小さく笑った。「警官が危険を恐れてどうする」

その夜、彼女は自宅のベッドに横たわりながら、天井のシミをぼんやりと見つめていた。かつては信じていた正義という言葉が、どこか遠くに感じられる。何かが彼女の中で静かに崩れ始めている。だが、その正体を掴むことはできなかった。

---

一方その頃、陳夢瑶は大学の図書館で遅くまで勉強していた。周りには数人の学生が散らばり、ページをめくる音と時折響く咳が静寂を破る。彼女はノートに書き込む手を止め、ペンを置いた。今日はどうも集中できない。

ふと顔を上げると、向かいの席に見知らぬ男が座っていた。薄汚れたコートを着た中年の男だ。彼は陳夢瑶の視線に気づくと、にこりと笑いかけてきた。

「遅くまで大変だね。学生さん?」

「ええ、まあ」

陳夢瑶は軽く会釈し、再びノートに視線を戻そうとした。だが、男は立ち上がり、彼女のテーブルの隅にペットボトルの水を置いた。

「喉が渇いてるだろう。遠慮しなくていいよ」

「いえ、大丈夫です。持ってますから」

彼女は自分の水筒を指さしたが、男は引かなかった。その笑顔には、どこか強引なものが含まれている。

「いいから、持っていきな。勉強の邪魔はしないよ」

陳夢瑶はためらいながらも、ペットボトルを受け取った。中身は透明で、特に異臭はない。普通の水のように見える。彼女は礼を言い、机の脇に置いた。

男はそのまま図書館の出口へと歩いていった。陳夢瑶は何気なくその背中を見送り、再びノートに目を落とした。彼女の指がペットボトルに触れることはなかった。だが、その夜遅く、疲れと喉の渇きに耐えかねて、彼女はついにその水を一口飲んだ。

何の味もしなかった。ただの水だった。しかし、その瞬間から、彼女の運命は静かに、確実に狂い始めていた。

薬剤の禍

陳夢瑶は、ペットボトルの水を一口含んだ。喉を潤す冷たい感触が、少しだけ心地よかった。講義の合間の短い休憩時間、彼女はいつものように図書館の隅で静かに本を読んでいた。周囲の学生たちはスマートフォンをいじったり、友人と談笑したりしている。彼女はそうした喧騒から距離を置くのが好きだった。

だが、その水を飲み終えた直後、異変が訪れた。こめかみのあたりがじんわりと熱を持ち、視界がゆっくりと歪み始める。立っているのも億劫になり、彼女は机に両肘をついて頭を支えた。

「夢瑶、大丈夫?」

隣の席にいたクラスメートが心配そうに声をかける。彼女は無理に笑顔を作ろうとしたが、唇が震えてうまく動かなかった。

「ちょっと……めまいが……」

それだけ言うと、意識が遠のく感覚に襲われた。クラスメートが慌てて彼女の肩を支え、誰かが教師を呼びに行く声が遠くで聞こえた。

保健室は静かだった。白いカーテンが揺れ、消毒液の匂いが鼻を刺激する。陳夢瑶はベッドに横たわり、ぼんやりと天井を見上げていた。頭はまだ重く、思考がまとまらない。医者と呼ばれた中年の男が、彼女の脈を診ている。

「水分不足でしょう。点滴を打ちますね」

医者の声は優しく、穏やかだった。しかし、その目にはどこか冷たい光が宿っているように彼女には思えた。錯覚だろうか。彼女は微かにうなずいた。

医者は注射器を準備し、アルコール綿で彼女の腕を拭いた。針が皮膚を刺す瞬間、少し痛みが走ったが、すぐに消えた。そのまま彼女は再び眠りの淵へ落ちていった。

どれくらい経っただろうか。陳夢瑶はゆっくりと目を覚ました。頭はすっきりしていたが、体に何かが変わったような違和感があった。自分でも説明できない、漠然とした昂ぶり。普段なら感じることのない、何かを求める衝動。

彼女は体を起こし、保健室の窓を開けた。外の空気が流れ込む。そこには煙草の煙が混じっていた。誰かが校舎の入り口で吸っているのだ。以前なら顔をしかめてすぐに窓を閉めたはずなのに、今はその匂いを少しだけ心地よく感じた。いや、嫌悪感が消えただけかもしれない。それでも変化だった。

彼女の指が無意識にベッドのシーツを撫でた。何かを掴みたい、壊したい、そんな衝動が腹の奥から湧き上がってくる。陳夢瑶は自分の手を見つめた。この手が、これまで触れたことのないものに触れようとしている。そんな予感がした。

同じ頃、劉美玉は人気のない路地を歩いていた。彼女は刑事課の女性警察官で、数日前から続く連続薬物事件の捜査を担当していた。手がかりは少なく、焦りが募る。彼女は今日も現場周辺の聞き込みを終え、交番へ戻る途中だった。

背後に気配を感じた。振り返ろうとした瞬間、何かが首筋に刺さった。鋭い痛みとともに、冷たい液体が体内に流れ込む感覚。

「なに——」

言葉を発する間もなく、彼女の膝が崩れた。視界が歪み、黒い影が迫る。意識を失う直前、誰かが低い声で笑うのが聞こえた。

「いい夢を見な……警察官さん」

劉美玉の意識は闇に飲まれた。

目覚めた時、彼女は知らない部屋にいた。窓はなく、薄暗い蛍光灯が一つだけ天井に光っている。体を起こそうとして、手錠がはめられていることに気づいた。壁のパイプに繋がれている。

「くそっ……」

彼女は歯を食いしばり、手錠を引きちぎろうとした。だが力は入らず、手首が痛むだけだった。全身がだるく、まるで鉛を飲み込んだように重い。

数時間後、誰かが部屋に入ってきた。医者らしい白衣を着た男だったが、その顔には笑みが浮かんでいた。彼は手に注射器を持っている。

「君にも味わってもらおう。この快楽を」

劉美玉は睨みつけた。

「やめろ……汚い薬を俺に使うな……」

男は構わず彼女の腕に針を刺した。薬剤がゆっくりと体内に入り込む。彼女の頭の中で何かが弾けたように音がした。

それから、時間の感覚が曖昧になった。どれだけ経ったのか、彼女は自分の髪を掴み、声を上げて笑っていた。初めて感じる解放感。今まで抑え込んできた全ての欲求が、堰を切ったように溢れ出した。

「はは……ははは……」

彼女は自分の腕に刻まれた痣を見つめ、むしろ美しいとさえ思えた。煙草の匂いが恋しくなり、酒の味を思い出した。正義感や信念が、まるで遠い夢のように薄れていく。

路地裏で目覚めた劉美玉は、よろめきながら立ち上がった。制服は汚れ、髪は乱れている。だが彼女の目には、かつての凛々しさはもうなかった。代わりに宿っていたのは、虚ろで、どこか陶酔したような光だった。

彼女はポケットを探り、見知らぬ男が残していった煙草の箱を見つけた。一本を取り出し、震える手で火をつける。煙を吸い込むと、せき込んだ。だが、その刺激が心地よかった。

「悪くない……」

呟いて、彼女はその場にしゃがみ込んだ。何もかもがどうでもよくなっていた。正義も、誇りも、全てが無意味に思えた。ただこの煙草の味だけが、彼女を今ここに繋ぎ止めている。

そして同じ頃、陳夢瑶もまた、自分の部屋で煙草を手にしていた。彼女は窓を開け、冷たい夜風に煙を吐き出した。以前は絶対に触らなかったものだ。今はそれが自然で、自分に必要なものに思えた。

彼女の部屋には、小さなピアスのセットが置いてある。明日、耳に穴を開けよう。そんな考えが頭をよぎった。少し怖いが、それ以上に期待が勝っていた。

夜の闇が二人の女を包み込む。薬剤の禍は彼女たちの内側に静かに、しかし確実に根を張り始めていた。

兆し現れる

# 第4章 兆し現れる

陳夢瑶の指は震えていた。コンビニで買った安物のライターを何度も擦るが、なかなか火がつかない。三度目の挑戦でようやくオレンジ色の炎が立ち上がり、彼女はその火を先端にくわえた煙草に近づけた。

「げほっ、げほっ……」

初めての煙は予想以上に辛かった。肺に入り込む刺激が喉を焼き、咳き込む。しかし、その痛みの中に何か別の感覚が混ざっていることに彼女は気づいた。まるで脳の奥深くで何かが目覚めるような、甘やかな痺れが広がっていく。

もう一口、吸ってみる。今度は少しだけ慣れた。吐き出された白い煙が風に流されて消えていくのを、彼女はぼんやりと眺めた。

「夢瑶?」

背後から声がかかった。振り返ると、李明が驚いた顔で立っていた。彼の視線は、彼女の指の間に挟まれた煙草に釘付けになっている。

「あ……李明くん」

慌てて煙草を背後に隠そうとしたが、もう遅かった。李明は一歩、二歩と近づき、複雑な表情を浮かべた。

「煙草、吸うようになったんだな」

「うん……ちょっと、試してみたくて」

彼女の言葉は曖昧だった。李明は何か言いたげに口を開きかけたが、結局は小さくため息をついただけだ。

「無理しないほうがいいよ。身体に良くないし」

それだけ言うと、彼は教室へと歩いていった。夢瑶はその背中を見送りながら、煙草の火を消した。李明は何も追求しなかった。それが逆に、彼女の胸に小さな罪悪感を残した。

***

警察署の一室は、緊迫した空気に包まれていた。

「どういうことだ、これは!」

劉美玉の怒声が響く。彼女の机の上には、扱いを誤った事件書類が無造作に散乱していた。向かい側に立つ若い同僚は、青ざめた顔で震えている。

「す、すみません、劉先輩。でも、それは私のミスではなくて……」

「言い訳をするな! お前の担当だろうが!」

美玉は手に持っていた資料を机に叩きつけた。バン、という大きな音に、周囲の警察官たちが一斉に顔を上げる。彼女はもともと厳しい性格だったが、ここ最近は特に苛立ちが激しくなっていた。

「劉さん」

背後から低い声がかかった。振り返ると、上司の山本部長が険しい表情で立っている。

「ちょっと来い」

美玉は歯ぎしりしながらも、渋々と部長の後について会議室へ向かった。ドアが閉まると同時に、山本は口を開いた。

「最近、お前の態度がおかしいぞ。同僚への当たりが強いし、仕事にも落ち着きがない。何かあったのか?」

「何もありません。ただ、部下のミスが目に余っただけです」

「嘘をつくな。お前、ここ一週間で三回も注意を受けているんだぞ。前の君なら考えられないことだ」

美玉は何も答えなかった。自分の感情がコントロールできない。理由はわかっている。あの日、注射された薬が、ゆっくりと彼女の内側を蝕んでいる。理性ではそれを理解していても、抑えきれない衝動が全身を駆け巡るのだ。

「とにかく、今日は早退しろ。頭を冷やせ」

山本の言葉に、美玉は無言で頷いた。外に出ると、夕暮れの街が広がっていた。普段なら気にも留めない看板が、やけに目につく。パチンコ店、バー、雀荘……かつては嫌悪していた場所だ。なのに今は、なぜかそこに吸い込まれそうな衝動を覚える。

彼女は頭を振り、無理やりその考えを追い出した。

***

駅前の交差点。信号が赤に変わり、歩行者が立ち止まる。

陳夢瑶もその一人だった。今日はバイト帰りで、手にはコンビニの袋。中には煙草とライター、それに缶チューハイが一本入っている。自分でも驚くほど自然に、それらを買っていた。

ふと、向かい側の歩道に立つ影に目が留まった。

女だ。黒いパンツスーツに身を包み、髪は無造作に束ねられている。しかし何より印象的だったのは、その目つきだ。鋭く、どこか危険な光を宿している。

劉美玉だった。

夢瑶は彼女を知っていた。数週間前、一度だけ話したことがある。あの時はお互いに、どちらかと言えば正反対の存在だと思った。自分はおとなしい大学生で、彼女は正義感あふれる警察官。しかし今、視線が合った瞬間、夢瑶は奇妙な感覚に襲われた。

まるで、鏡を見ているような。

美玉の方も夢瑶に気づいていた。彼女の目がわずかに見開かれ、何かを探るようにじっと見つめてくる。信号が青に変わったのに、誰も動こうとしない。二人の間を、人々が流れていく。

その時、風が吹いた。夢瑶の手に持った袋がガサガサと音を立てる。中から煙草の匂いが漏れ出し、美玉の鼻腔をかすめた。

微かに、美玉の口元が歪んだ。笑っているのか、それとも何かを噛みしめているのか。どちらとも取れない表情だった。

夢瑶もまた、唇の端を持ち上げた。自分でもなぜそんな表情を浮かべたのかわからない。ただ、目の前の女性に対して、得体の知れない親近感と、同時に危険な魅力を感じていた。

信号が再び赤に変わりそうだった。美玉がゆっくりと歩き出す。夢瑶もそれに合わせて、同じ方向へ足を進めた。

すれ違う瞬間、二人は無言のまま、もう一度だけ目を合わせた。

何も言葉は交わさなかった。しかし、その数十秒の間に、二人の間には見えない絆のようなものが生まれていた。同じ毒に侵された者同士の、共鳴。

歩き去る背中を見送りながら、夢瑶は小さくため息をついた。

「また、会うのかな……」

その問いに答える者はいない。ただ、夕闇が二人の影を飲み込み、街の灯りが次第に輝きを増していくだけだった。

黒の誘惑

# 第5章 黒の誘惑

夜の帳が下りる頃、繁華街の裏通りにあるバー「ブラックローズ」は、低く響く音楽と紫がかった照明に包まれていた。陳夢瑶はバーの入り口に立ち、一瞬ためらうように足を止めた。

彼女が身にまとっているのは、漆黒の光沢を放つ黒ストッキングと、足首まで覆う細身のハイヒール。足元から伝わる異物感が、全身を震わせる。かつては「そんな淫らな格好をする女は軽薄だ」と心の中で蔑んでいた姿そのものだった。

「もう、どうでもいいや……」

彼女の唇から漏れた言葉は、かすかに震えていた。しかし、それが諦めか、解放感か、自分でももうわからなかった。

バーのドアを押し開けると、むせ返るような煙草の煙と、甘ったるい香水の匂いが一気に押し寄せた。陳夢瑶は少し咳き込んだが、すぐにそれに慣れていく。むしろ、その空気が彼女の新しい皮膚のように馴染み始めていた。

カウンターに近づくと、数人の男たちの視線が彼女を舐め回すように這う。かつてなら羞恥と嫌悪で逃げ出していただろう。しかし今は違う。心の奥で、何かがざわつく。

「これはこれで……悪くないかも」

彼女はカウンターに腰掛け、バーテンダーにウイスキーのロックを注文した。グラスを手に取り、小さく口をつける。焼けるような感触が喉を通り抜ける。かつては「こんな苦いもの、何が美味しいの」と思っていた酒が、今では快感を運んでくる。

シルバーのチェーンが首元で揺れ、彼女が動くたびに鈍く光る。胸元には、昨日彫ったばかりの精巧な花の刺青が覗いていた。彼女の内面に巣食う闇が、刻々と外側に侵食しているようだった。

「お嬢さん、よかったら一曲踊らない?」

見知らぬ男の誘いに、陳夢瑶はグラスを置き、ゆっくりと振り返った。

「いいわよ」

かつての自分なら絶対に言えなかった返事が、ごく自然に口をついて出た。彼女はヒールの高い靴を鳴らしながら、ダンスフロアへと歩いていく。

音楽が体に浸透する。腰をくねらせ、腕を優雅に動かす。陳夢瑶は目を閉じて、酔いと中毒の境界を彷徨った。彼女の動きは次第に大胆になり、男たちの歓声が周囲から沸き起こる。純白だった彼女の魂は、今や深い闇の色に染まろうとしていた。

同じ頃、繁華街の中心部にあるナイトクラブ「ミッドナイトパラダイス」では、金色の髪がネオンに輝いていた。

劉美玉は真っ白なミニスカートの警官制服に身を包み、胸元は大胆に開かれ、手首にはいくつものシルバーブレスレットが絡みついている。かつて彼女が身につけていた本物の制服は、もうどこにもなかった。その代わりに、彼女は「倒錯した警官」の仮面を被り、夜の蝶として舞っていた。

金髪に染めた長い髪を振り乱しながら、彼女はクラブの奥へと歩いていく。かつては摘発の対象だった場所へ、今では自分の足で悠然と踏み入れる。

「おい、あの警官……」

「マジかよ、あれ本物じゃないだろ」

客たちの囁きが彼女を包む。劉美玉は鋭い目つきで二人の男を一瞥し、そしてゆっくりと口元に笑みを浮かべた。彼女の指には、薬指以外のすべての指にシルバーリングがはまっており、左耳には三つのピアスが連なっている。

「お二人さん、何を隠してるの?」

彼女は二人の男のテーブルに手をつき、身を乗り出した。胸元がさらに開き、彼女の白い肌と金色のネックレスが露わになる。

「い、いや、何も……」

「本当~?」

劉美玉は長い脚を組み替え、ハイヒールで軽く床を叩いた。かつての彼女なら、真面目な顔で職務質問をしていただろう。しかし今は、すべてが遊びのように感じられる。彼女の頭の中では、善悪の境界線が完全に消え去っていた。

「ちょっとだけ……君のポケットに何が入ってるのか、見せてもらおうかな」

囁くような声でそう言うと、彼女は男のポケットに手を伸ばした。男は慌てて後退りし、中から出てきたのは白い粉の小袋だった。

「あらあら~」

劉美玉は小袋を手に取り、軽やかにくるくると回した。彼女の目は危険な光を帯びている。本来ならば逮捕しなければならない相手に対して、彼女はむしろ楽しんでいるようだった。

「いいもの持ってるじゃない。今夜の私の役得ってやつ?」

そう言って彼女は小袋を男に返し、ウインクを一つ投げてから背を向けた。男たちは呆気に取られたように彼女の後ろ姿を見送る。

「また何か見つけたら、教えてよね」

劉美玉は振り返らずに手を振り、そのまま出口へと向かった。彼女の心は、もう昔の正義感に縛られてはいない。むしろ、それに逆らう快感を覚え始めていた。

時計が深夜の一時を回った頃、陳夢瑶はバーの外で煙草を吸っていた。一本の細長い煙が、彼女の指の間から立ち上る。かつては嫌悪していたその香りが、今は彼女の肺を満たすたびに、堕落の甘美さを思い起こさせる。

「一本、もらえる?」

聞き覚えのある声に振り返ると、そこには派手な金髪の女が立っていた。その顔には見覚えがある。しかし、すっかり雰囲気が変わってしまっている。

「あんた……」

「劉美玉よ。前は警察官だったけどね」彼女は軽く笑った。「今は自由人ってやつ」

陳夢瑶はしばらく彼女の顔を見つめ、そして煙草の箱を差し出した。

「変わったね、あんたも」

「お互い様でしょ」劉美玉は煙草を受け取り、ライターで火をつけた。「昔のあんたを知ってる身としては、ちょっと信じられない光景だよ」

陳夢瑶は苦笑した。彼女の頭の中には、かつて自分たちが交わした会話がよぎる。大学のキャンパスで偶然会った時、劉美玉は制服姿で真面目な顔をして彼女に注意を促した。「最近、こういう場所は危ないから気をつけて」と。あの時、陳夢瑶は素直に頷いたものだ。今では考えるだに滑稽だ。

「入らない?」陳夢瑶は吸い終わった煙草の吸い殻を地面に落とし、ヒールで踏み消した。「中で一杯どう?」

「いいね、行こうか」

二人はバーに戻り、カウンターの隅に並んで座った。バーテンダーにウイスキーのボトルを注文し、グラスを合わせる。

「乾杯」

「乾杯」

グラスのぶつかる澄んだ音が響く。陳夢瑶は一気にウイスキーを喉に流し込み、そのまま劉美玉に向き直った。

「ねえ、今の仕事は何やってるの?」

「今はね……フリーよ。好きな時に起きて、好きな時に寝て、好きな時に酒を飲む。それだけ」劉美玉は軽く肩をすくめた。「警察の制服は大好きだけど、あの規則や規律にはもう飽き飽きしてたのよ」

「わかるわ」陳夢瑶はグラスを弄りながら、目を細めた。「私もそう。昔は、何もかもがルール通りじゃないと気が済まなかった。煙草は体に悪い、酒は理性を失うって、あんなに嫌ってたのに」

「それが、今はどうよ」劉美玉は彼女の腕に絡まった刺青を指さした。「あんたのその刺青、結構いいね。どこで入れた?」

「裏通りの小さな店よ。よかったら今度、一緒に行かない?」

「乗った」

二人はまたグラスを重ね、次々と酒を飲み干した。会話は弾み、かつては交わることのなかった二人の人生が、今、同じ暗い流れの中に飲み込まれていく。

酒が進むにつれ、陳夢瑶の意識はぼんやりと曖昧になり始めた。彼女の目には、劉美玉の金髪が虹色に輝いて見える。そして彼女自身の黒いストッキングや、ハイヒールの感触が、一層敏感に肌に伝わってくる。

「もう一本、頼もう」劉美玉が手を挙げた。

「いいね……今日は飲み明かすつもりよ」

陳夢瑶の声には切なさと解放感が混ざっていた。彼女の心に巣食う闇は、もう二度と元の純白に戻ることはないだろう。しかし、それでも構わない。むしろ、それが心地よかった。

夜は更け、バーの照明はさらに紫の色味を強めていく。二人の女は酒に溺れ、再び新たな一歩を堕落の階段へと踏み出していく。

「次は、どこに行こうか?」

劉美玉の問いかけに、陳夢瑶は微笑みながら答えた。

「どこでもいい……この夜が終わらない限り」

そう言って彼女はグラスを空にした。その唇の端には、かつての純粋さの名残が微かに滲んでいたが、それもすぐに酒と煙と暗闇の中に消えていった。

刺青初体験

# 第六章: 刺青初体験

陳夢瑶は、大学のサークルで知り合った朱莉の誘いで、繁華街の裏路地にある小さな彫り師の店に足を踏み入れた。一週間前までは絶対に来ることのなかった場所だ。

「ほら、夢瑶、怖がらないで。鎖骨に小さなバラなんて、すごくセクシーだよ」

朱莉が楽しそうに言いながら、スマホで見せたデザインを指さす。黒いインクで描かれた一輪のバラは、確かに美しかった。

「でも…痛いんじゃないの?」

「ちょっとチクチクするだけ。それに、今の夢瑶にはぴったりのシンボルだと思うな」

その言葉に、陳夢瑶の心が揺れた。自分は変わった。あの注射を打たれてから、すべてが変わった。かつて嫌悪していた煙草の味を今では愛し、酒の酩酊感に溺れるようになった。ならば、この身体に刻印を残すことも、自然な流れなのかもしれない。

「わかった。やる」

彫り師の男が無言でうなずき、準備を始める。滅菌された器具、インクの瓶、そして細い針。陳夢瑶はベッドに横たわり、目を閉じた。

針が鎖骨に触れた瞬間、鋭い痛みが走った。

「っ…!」

「大丈夫、深呼吸して」

朱莉が手を握る。痛みは徐々に慣れていった。むしろ、繰り返される針の刺激に、不思議な感覚が混ざり始める。痛みの奥で何かが疼く。それは快感に似ていた。

「綺麗だよ、夢瑶。本当に似合ってる」

一時間後、鏡に映った自分の鎖骨には、繊細な線で描かれた黒いバラが咲いていた。陳夢瑶はそっと指で触れる。まだひりひりとするその感触が、なぜか愛おしかった。

その頃、別の街の彫り師の店で、劉美玉が大きな鏡の前に座っていた。

「鳳凰の背中全体のデザインか。随分思い切ったな」

彫り師の職人がデザイン画を広げる。炎を纏った鳳凰が、大きく翼を広げていた。

「ええ。どうせやるなら、派手な方がいい」

劉美玉の声には迷いがなかった。既に髪は派手な金髪に染められ、指には何本もの指輪が光っている。警察官だった頃の自分は、もうどこにもいなかった。

上着を脱ぎ、うつ伏せに寝る。冷たい空気が背中を撫でた。

「いくぞ」

最初の一刺し。劉美玉は息を呑んだ。痛みが脊髄を駆け上る。しかし、その直後に訪れる解放感。何かを壊している実感。自由になっていく感覚。

「もっと」

無意識に言葉が漏れる。彫り師が手を止めて彼女を見た。

「強くしてもいいぞ」

針の動きが速くなる。痛みが快感に変わっていく。劉美玉の口元に笑みが浮かんだ。正義感に縛られ、規則に雁字搦めにされていた日々。あの頃は何もかもが重かった。だが今は違う。この痛みこそが、自分を解放している証だった。

「次はピアスもお願い」

三時間の施術が終わり、背中に大きな鳳凰を刻んだ劉美玉は、さらに耳と眉にピアスを開けるよう頼んだ。痛みはもう怖くない。むしろ求めてやまない。

針が耳たぶを貫通する。小さな金属の輪が通される。鏡の中の自分は、かつての劉美玉とは別人だった。それでいい。そうでなければならない。

夜、陳夢瑶がアパートに戻ると、李明が玄関で待っていた。

「今日も遊びに行ってたのか?」

李明の声には非難が込められていた。陳夢瑶は無言で靴を脱ぎ、リビングに向かおうとする。

「待ってくれ。話があるんだ」

李明が腕を掴む。その拍子に、Tシャツの襟元から鎖骨の刺青が覗いた。

「何だ、それ…」

李明の目が細くなる。陳夢瑶はあえてTシャツを肩までたくし上げ、刺青を見せつけた。

「刺青よ。綺麗でしょ」

「お前、正気か? そんなことするような人間じゃなかったはずだ!」

李明の声が震えている。陳夢瑶は冷めた目で彼を見返した。

「人間は変わるものよ。あなたも変わったほうがいいんじゃない?」

「どうしてそんな風になってしまったんだ…昔のお前はどこに行ったんだ!」

「昔の私は死んだの。もう戻れない」

陳夢瑶の言葉には一片の躊躇もなかった。李明は彼女の腕を離し、深いため息をついた。

「もう無理だ。俺たち、別れよう」

「そうね。それがいいわ」

陳夢瑶は淡々と答えた。心の奥で何かが切れる音がした。しかし、それももうどうでもよかった。鎖骨のバラが疼く。その痛みが、新しい自分の始まりを告げているようだった。

ピアスの痛み

# 第7章 ピアスの痛み

薄暗い部屋の中、陳夢瑶は鏡の前に立っていた。手にした小さな銀色のピアスが、蛍光灯の光を受けて冷たく輝いている。彼女の指先は微かに震えていたが、それは恐怖からではなかった。むしろ、これから味わう痛みへの期待に震えていたのだ。

「いよいよだね」

背後から劉美玉の声がした。彼女もまた、小さな金属片を手にしている。かつては制服の襟を正し、正義のバッジを胸に輝かせていた女警察官は、今やタンクトップ一枚で、肩に彫られた龍の刺青を露わにしていた。

「怖くないの?」陳夢瑶が訊ねた。その声には、かつての純真さのかけらも残っていない。

「怖い?」劉美玉は低く笑った。「あの薬を打たれた時に比べたら、こんなの痛くも痒くもないさ」

陳夢瑶は舌を突き出し、鏡の中で自分を見つめた。ピンク色の舌の上に、銀色のピアスを置く。深く息を吸い込み、一気に舌を貫通させた。

「んっ…!」

鋭い痛みが走る。口の中に鉄の味が広がった。しかし、その痛みはすぐに奇妙な快感へと変わっていく。彼女は鏡に向かって舌を動かし、新しいピアスがキラリと光るのを確かめた。

「もう一つ、やろうかな」

陳夢瑶はシャツを捲り上げ、臍の周りを露出させた。かつては誰にも見せたことのなかった、白く滑らかな肌。そこに、もう一つのピアスを当てる。今度は躊躇しなかった。一気に皮膚を貫く。血が一筋、腹を伝って落ちた。

「はあ…っ」

痛みが全身を駆け巡る。しかし、それは彼女に生きている実感を与えてくれた。以前の自分なら、こんな自傷行為を狂気の沙汰だと笑っただろう。しかし今の彼女にとって、この痛みこそが自由への鍵だった。

「いい感じ?」劉美玉が訊ねる。

「最高だよ」

陳夢瑶は臍ピアスを指でそっと撫でた。金属の冷たさが、新しく開いた傷口に染みる。

「次は俺の番だ」

劉美玉はブラを外し、胸を露わにした。かつては誇り高き警察官の証だったその胸に、彼女はピアスを開けようとしている。

「手伝ってくれ」

陳夢瑶が消毒液とピアスを受け取り、劉美玉の胸に近づいた。かつての上司と部下の関係は、今や共犯者の絆に変わっていた。

「いくよ」

「ああ」

陳夢瑶が一気にピアスを貫通させる。劉美玉は歯を食いしばったが、声は漏らさなかった。

「もう一つ」

反対側も同じように貫く。二つの銀色のリングが、彼女の胸に輝いた。

「どうだい?」

「…なんともないな」

劉美玉は鏡の前に立ち、新しいピアスを眺めた。自分の身体に金属が通っている。それが、かつての自分を縛っていた道徳の枷を断ち切っているような気がした。

「自由だ」

彼女は呟いた。その言葉は、まるで呪文のように部屋に響いた。

その時、部屋の隅で微かな物音がした。二人が振り返ると、黒いスーツを着た男が立っていた。組織のメンバーだ。彼は手にしたノートに何かを書き留めている。

「順調だな」

男は無表情で言った。

「監視されてるってわけ?」

陳夢瑶が挑発的に笑った。

「記録だ。君たちの変化を、正確に記録するのが俺の役目だ」

男はペンを走らせ続ける。陳夢瑶の舌ピアス、臍ピアス。劉美玉の乳房ピアス。すべてが克明に記録されていく。

「こんな記録、何の役に立つの?」

劉美玉が訊ねた。

「データだ。人間の道徳が、どのように崩壊していくかの貴重なデータだよ」

男はそう言って、部屋を出ていった。

二人だけになった部屋で、陳夢瑶と劉美玉は見つめ合った。

「これで、もう戻れないね」

陳夢瑶が呟く。

「戻るつもりなんて、最初からなかったさ」

劉美玉は新しいピアスを撫でながら、低く笑った。

窓の外では、都会のネオンが煌めいていた。かつて彼女たちが忌み嫌っていた世界が、今はこんなにも魅力的に見える。ピアスの痛みが、その変容を確かに刻み付けていた。

黒ストッキングの夜

# 第8章 黒ストッキングの夜

午後九時、陳夢瑶は薄暗い部屋の鏡の前に立っていた。鏡の中の自分は、三ヶ月前までとはまったくの別人だった。黒のミニスカートは太ももの付け根までしか隠さず、その下には光沢のある黒ストッキングがぴったりと脚に沿っている。ハイヒールを履き、胸元が大きく開いた赤いブラウスを着ていた。

彼女はリップグロスを塗り直し、唇を軽く鳴らした。左耳には五つのピアスが銀色に輝き、首の後ろから肩にかけて、一輪のバラの刺青が覗いている。

「今日は思い切り楽しむのよ」

彼女はバッグから細長い煙草の箱を取り出し、一本を唇に挟んだ。かつては煙草の匂いさえも嫌悪していたのに、今ではその苦みが心地よかった。

ナイトクラブ『ブラックムーン』の入口には、真夜中だというのに長い列ができていた。陳夢瑶は列に並ぶことなく、直接ドアマンに顔を見せた。ドアマンは彼女を見てにやりと笑い、赤いロープを外した。

彼女が中に入ると、重低音のビートが全身を震わせた。赤と青の照明が交錯し、煙とアルコールの匂いが混ざり合っている。ダンスフロアでは大勢の若者が体を揺らしていた。

陳夢瑶はバーカウンターに向かい、肘をついた。すぐに隣に座っていたスーツ姿の男が近づいてきた。

「お嬢さん、一人かい?」

彼女は煙草の煙をゆっくりと吐き出し、男のネクタイの結び目を指でそっとなでた。

「うん、一人。退屈してたところよ」

男は笑いながらウイスキーを二杯注文した。陳夢瑶はグラスを受け取り、一気に半分を飲み干した。アルコールの熱が喉から胸に広がっていく。

「踊らないか?」男が手を差し出した。

「いいわよ」

彼女は男の手を取ってダンスフロアに降りた。照明が回転し、彼女の黒ストッキングの脚が光を反射する。男の手が彼女の腰に回り、二人は密着して踊り始めた。

陳夢瑶の心臓は激しく打っていたが、それは恐怖ではなく興奮だった。彼女は男の首に手を回し、耳元でささやいた。

「もっと激しく踊りたいわ」

男の手が彼女の太ももを撫でた時、彼女は快感に似た震えを覚えた。かつてこんなことをすれば、罪悪感に押しつぶされていただろう。しかし今は違う。麻薬が彼女の道徳心を溶かし、代わりに快楽への欲求だけを残したのだ。

数曲踊った後、彼女は男から離れ、バーの別の場所へ移動した。別の男が待っていた。彼女はこの夜、何人もの男と踊り、酒を交わした。それぞれの男が彼女に触れ、彼女はそれを許した。いや、むしろ求めた。

---

その頃、街の反対側にある廃工場の地下では、秘密のパーティーが開かれていた。劉美玉は黒のレザージャケットに、同じく黒のミニスカートと黒ストッキングという出で立ちだった。かつての彼女の制服だった警察の活動服は、もうクローゼットの奥にしまわれている。

彼女の髪は鮮やかな紫色に染められ、左腕全体には龍の刺青が彫られていた。警察官だった頃の正義感あふれる瞳は今や煙っている。彼女はウォッカのボトルを手に、がらんとした倉庫の片隅に座っていた。

周りでは十数人の若者たちが激しい音楽に合わせて踊っていた。天井から吊るされた裸電球が不気味な陰影を作り出している。

「ねえ、一人で飲んでるの?」

若い男が近づいてきた。彼の腕にも刺青があり、耳にはいくつものピアスが光っていた。

「ああ、そうだよ」劉美玉は低い声で答えた。かつての彼女の声はもっと明るかったが、今は喫煙と酒のせいで掠れていた。

「一緒に踊らない?」

「いいぜ」

彼女はウォッカのボトルをテーブルに置き、立ち上がった。男の手を取ると、ダンスフロアの中央に向かった。男が彼女の腰を抱き寄せ、二人は体を密着させて激しく動き始めた。

劉美玉の頭の中では、かつての自分が叫んでいた。「何をしてるんだ!お前は警察官だぞ!」しかしその声は日に日に小さくなり、今ではほとんど聞こえなくなっていた。代わりに、麻薬がもたらした無関心と快楽への渇望だけが彼女を支配していた。

「お前、すげえ腰使いだな」男が彼女の耳元で囁いた。

「うるさいな、黙って踊れよ」

彼女は男のシャツの襟を掴み、より激しく体をぶつけた。何かに抗うように、何かを忘れようとするように、彼女は踊り続けた。

---

夜が更けるにつれ、陳夢瑶は『ブラックムーン』を後にした。彼女の顔には酔いの赤みが差し、口元にはだらしない笑みが浮かんでいた。彼女はスマートフォンを取り出し、メッセージアプリを開いた。ある友人が送ってきたメッセージに「地下のパーティー、今から行かない?」とあった。

「行く行く!」

彼女はタクシーを拾い、廃工場へと向かった。車内で彼女は煙草に火をつけ、窓を開けて煙を外に吐き出した。街のネオンが流れていく。

廃工場に到着した時、既に音楽が外まで聞こえていた。彼女は入り口で名を告げ、地下へと続く階段を降りた。

中は煙と熱気でむせ返るようだった。彼女は群衆の中で見知らぬ男に肩を抱かれながら、踊る人々の間を縫って進んだ。そして、倉庫の片隅で、一人の女が激しく踊っているのに気づいた。

その女は紫色の髪を振り乱し、黒のレザージャケットを脱ぎ捨て、タンクトップ姿になっていた。腕の龍の刺青が照明に浮かび上がる。陳夢瑶はその女に見覚えがあった。

「美玉…?」

彼女は近づいた。踊っていた女——劉美玉も彼女に気づき、動きを止めた。

「夢瑶…」

二人はしばらく見つめ合った。かつて陳夢瑶はこの女警察官に助けられたことがあった。あの頃、劉美玉は正義の象徴だった。しかし今、彼女たちは同じ場所に立っていた。同じように刺青を入れ、同じように煙草と酒に溺れ、同じように淫らな夜を過ごしている。

陳夢瑶は微笑んだ。その笑顔には、かつての純粋さは欠片も残っていなかった。

「久しぶりね、美玉」

「ああ…久しぶりだな」劉美玉も口元を歪めて笑った。

「あなたも、こっち側の人間になったのね」

「ああ、なっちまったよ」

陳夢瑶は劉美玉の腕の刺青を指でなぞった。

「綺麗な龍ね」

「お前のバラもなかなかだぜ」

劉美玉が陳夢瑶の肩の刺青に触れる。その触れ方がとても自然で、二人はもう他人ではなかった。

「今夜は、どこまでも堕ちようぜ」劉美玉が言った。

陳夢瑶はうなずき、劉美玉の手を握った。

「全部忘れて、全部捨てて、今夜だけは何もかも忘れよう」

二人は手を取り合って、ダンスフロアの中央へと歩いていった。照明が交錯し、重低音が体を貫く。彼女たちは見知らぬ男たちに囲まれ、一緒に踊り始めた。

陳夢瑶は男の一人に腰を抱かれ、劉美玉は別の男と向かい合って激しく体を揺らした。二人は時折目を合わせ、微笑み合った。その笑顔には、かつての善良さへの未練も、正義への執着もなかった。ただ、快楽に身を任せる女の笑顔だけがあった。

音楽は最高潮に達し、彼女たちは完全に羽目を外した。陳夢瑶はブラウスのボタンを二つ外し、劉美玉は男のネクタイを引き抜いて投げ捨てた。群衆がどよめき、彼女たちを中心に輪ができた。

陳夢瑶の黒ストッキングは汗で光り、劉美玉のストッキングも同じように濡れていた。二人の脚が照明に照らされ、男たちの視線が一点に集中する。

「もっと行くぞ!」劉美玉が叫んだ。

「行くわ!」陳夢瑶が応えた。

彼女たちはもう、自分が誰だったのかさえ忘れかけていた。ただ、黒ストッキングの夜が、彼女たちをさらなる深みへと誘っていた。