倉庫の前に停めた黒いセダンの中で、伊可儿はハンドルを握りながら前方の建物を睨んでいた。
「何かあったらすぐ連絡して」
そう言って降りていった利天と朴精硕の姿は、もう鉄格子の向こうに消えている。彼女は携帯電話を手に取り、時間を確認した。入ってからまだ三分も経っていない。
――なんでこんなに落ち着かないんだろう。
伊可儿は小さく息をついた。利天は確かに有能だ。朴精硕もまた、経験豊富な男だ。二人が揃っていれば、そうそう危険な目には遭わない。しかしそれでも、何かが引っかかっていた。
彼女は車のドアを開けた。外気がひんやりと肌を撫でる。倉庫の周囲は静まり返っており、不気味なほどに人の気配がなかった。
「ちょっとだけだ」
自分に言い訳しながら、彼女はエンジンを切り、車を降りた。足音を殺して、倉庫の横手にある小さな通用口へと向かう。ここから中を覗けるかもしれない。そう思ったのだ。
中は薄暗く、電灯の光がぼんやりと床を照らしている。大量のダンボール箱が積み上げられ、工場用の大きな棚が並んでいた。しかし、人の気配は――ない。
――本当に、何もないのか?
伊可儿は眉をひそめた。確かに情報では、竹奇組がここで違法薬物を製造しているという話だった。だが、今目に入る光景は、完全に“撤収後”のそれである。
彼女はさらに奥へと進んだ。すると突然、声が聞こえた。くぐもった男たちの声だ。
「……二人とも、見ろよ。でかいの引っかかったぜ」
「おい、本当に効くのかよ、あの薬」
「決まってんだろ。去年、実験体で試した時は見事に爆発したぜ」
伊可儿の背筋を冷たいものが走る。声のする方へ慎重に近づくと、角を曲がった先に三人の人影があった。床に倒れているのは――利天と朴精硕だ!
「まずい!」
思わず声が出そうになるのを噛み殺し、伊可儿は懐から小さなスタンガンを取り出した。二人の男はしゃがみ込み、倒れた二人の口に何かを流し込んでいる。液体だ。
「これで二時間後には死体だな。しかも、めちゃくちゃ悲惨な死に方するぜ」
「ははっ、楽しみだな」
男たちが笑い合う。伊可儿は歯を食いしばった。
「動くな!」
彼女は影から飛び出し、一番近い男の後頭部にスタンガンを叩きつけた。男は痙攣し、その場に崩れ落ちる。もう一人の男が驚いて振り返るが、すかさず伊可儿はその胸元に飛びかかり、体重を乗せて地面に押さえつけた。膝で背中を固定し、両腕を後ろで掴む。
「がっ!」
「おとなしくしろ!」
伊可儿は相手の腕を捻り上げ、顔を無理やり地面に押し付けた。男は苦しそうに息を漏らす。
「言え! さっき、あの二人に何を飲ませた!」
「い、言えねえよ……」
「言わなきゃ、腕をへし折るぞ」
彼女はさらに力を込めた。男の関節が悲鳴を上げる。
「ああっ! わ、分かった! 言う! 言うから!」
「早くしろ!」
「あ、あれは……去年、俺たちが見つけた薬だ。男が飲むと、十分後にはチンポが止まらなく勃起しやがる。んで、二時間後に……ぶちっといって、死ぬ」
「なに?」
「本当だ! チンポが爆発して、人間も即死だ。でも、その前に勃起が収まれば助かるって話だ」
伊可儿は眉をひそめた。そんな薬が存在するはずがない。荒唐無稽だ。
「ふざけるな! そんな薬があるわけがないだろう。本当のことを言え!」
「本当だって! 嘘じゃねえ!」
「じゃあ、彼らはどうやって気絶したんだ。正直に話せ!」
「そ、それは……俺たち特製の幻覚ガスだ。吸うと四時間は起きねえ」
伊可儿は唇を噛んだ。四時間。それだけの時間があれば、薬の効果が切れる前に……いや、それ以前に、この男はまだ何かを隠しているかもしれない。
「他には?」
「他には何も……」
その時、男が突然叫んだ。
「防衛起動! 無人機、発射!」
「なっ!」
天井のスピーカーから機械音が響き、頭上で何かが動いた。倉庫の天井に設置された鉄骨から、機械腕がせり出してくる。その先端には銃口が輝いていた。
「くそっ!」
伊可儿は咄嗟に男を解放し、近くのダンボールの陰へ飛び込んだ。次の瞬間、銃声が倉庫内に響き渡る。弾丸が彼女のさっきまでいた場所を抉った。
「なんてこった……」
彼女は息を潜め、機械腕の動きを観察する。どうやら熱探知か、あるいは音声認識で動いているようだ。射線を読みながら、次の動きを考える。
しかし、機械腕の照準は彼女ではなく、別の方向へ向いていた。
「うわっ!」
「や、やめ……!」
二つの悲鳴が続いた。最初に気絶していた男が、流れ弾を頭に受けて沈黙した。そして、もう一人――さっきまで伊可儿に組み敷かれていた男が、立ち上がって逃げ出そうとしたその時、機械腕が故障したのか、最後の一発を放ち、その背中を撃ち抜いた。
男は声もなく倒れた。
機械腕はガチャリと音を立て、そのまま動かなくなった。
倉庫内に静寂が戻る。伊可儿は数秒待ち、安全を確認してから立ち上がった。床には三人の男が倒れている。うち二人はすでに息をしていない。そして、利天と朴精硕はまだ意識を失ったままだ。
「大丈夫か……!」
彼女は二人の元へ駆け寄り、まず脈を確認した。生きている。良かった。しかし問題は、これからだ。
伊可儿は携帯電話を取り出し、車の位置を確認する。幸いにも、ここからそれほど遠くない。だが、二人を担いで運ぶには体力がいる。
「とにかく、ここを離れよう」
彼女はまず利天を抱え上げ、倉庫の外へと運んだ。次に朴精硕。大柄な男を運ぶのは骨が折れたが、何とか車まで辿り着く。
二人を後部座席に寝かせ、自分は運転席に飛び乗った。エンジンをかけ、アクセルを踏む。倉庫を後にして、暗い道を進む。
「……さて、どうするか」
逃げる道すがら、彼女は考えた。病院に行くわけにはいかない。何しろ、これは普通のケガではない。特殊な薬物だ。ましてや、自分たちは正規の身分ではない。
「……軟らかくすればいい、って言ってたな」
伊可儿は唇を噛んだ。本当かどうか、確証はない。しかし、他に方法があるとも思えなかった。
車が数十分走ったところで、ガソリン計が警告を点滅させ始めた。
「まさか……」
彼女はハンドルを握りしめ、近くの林道へと車を乗り入れた。エンジンがかぶり、やがて車は停まった。周囲は鬱蒼とした林の中だ。誰も来ない。――安全だ。
「仕方ない……」
彼女は振り返り、後部座席の様子を確認した。そこで初めて気づいた。
利天と朴精硕のズボンの前面が、明らかに盛り上がっている。
「……本当に、効いてるんだ」
伊可儿は顔を赤らめた。冗談ではない。これは現実だ。
彼女は深く息を吸い、決心した。
「時間がない。何とかしなきゃ」
まず、利天のズボンを下ろす。彼の陰茎は普段よりはっきりと大きく勃起していた。九センチほどだろうか。伊可儿はその大きさに軽く驚きつつも、手で包み込むようにして扱き始めた。
「……とにかく、早くイかせなきゃ」
しかし、三分も経たないうちに、利天が軽く震え、精液を少量放出した。すぐに陰茎が萎み始める。
「……早すぎだろ」
伊可儿は呆れたが、とりあえず利天の方は問題ないと判断し、次に朴精硕へと向かった。
彼のズボンを下ろした瞬間、伊可儿は言葉を失った。
「……うそ」
そこにあったのは、信じられないほど巨大な陰茎だった。長さは優に二十八センチを超え、太さも尋常ではない。表面には血管が浮き出て、異様な迫力を放っている。しかも、その立ち上がり方はまるで鉄の棒のようだ。
「こんなに……大きいなんて」
伊可儿は混乱した。利天の倍以上、いや三倍近い。こんなものが本当に人間の体に付いているのか。
彼女は震える手でその陰茎を握った。ずっしりとした重みと熱が手のひらに伝わる。顔を近づければ、独特の男臭さが鼻を突く。
「……やるしかない」
彼女は両手でそれを包み込み、上下に扱き始めた。必死に、少しでも早く射精させるために。
しかし、十分が経ち、二十分が経ち、四十分が経っても、朴精硕の巨根は微動だにしなかった。むしろ、さらに固さを増しているようにすら感じられる。
「どうすれば……!」
焦りと絶望が入り混じる中、朴精硕が突然、寝言を言い始めた。
「……伊可儿……お前、この小娘が……早く、俺の大チンポにパイズリしろ……!」
「はあ?」
伊可儿は一瞬、耳を疑った。そして、怒りが込み上げる。
「ふざけるな!」
彼女は朴精硕の頬を平手で叩いた。鋭い音が林に響く。しかし、男は微睡みの中で、逆に嬉しそうな表情を浮かべた。
「ああ……痛え……でもいい女は痛いくらいが……うん……」
「……起きないのかよ」
伊可儿は額に手を当てた。どうやら幻覚ガスの効果はまだ続いているらしい。彼女はちらりと利天の方を見た。彼は静かに眠ったままだ。
「……見られてないなら、いいか」
彼女は観念し、上衣を脱いだ。ブラジャーも外す。露わになったのは、雪のように白く、豊かな双丘だった。彼女自身も自覚している、誇るべき体の一部だ。
「こんなこと、するつもりじゃなかったのに……」
彼女は巨根の上に自分の胸を乗せた。熱く、硬い亀頭が、彼女の柔らかい谷間にはさまれる。恐る恐る、上下に動かし始めた。
「あ……っ」
肌と肌が擦れる感触。男の樹液が彼女の胸を濡らす。さらに――その長さは、彼女の顎にまで届きそうだった。
「……二十八センチなんて、嘘だろ」
実際はそれ以上かもしれない。
彼女が必死にパイズリを続けていると、朴精硕が突然、上半身を起こした。
「え?!」
伊可儿は硬直した。まさか、本当に起きたのか? この状況を見られたら――
「お、起きたのか?!」
しかし、朴精硕の目はどこか虚ろで、焦点が合っていない。半分だけ開いたその瞳は、彼女を見てはいるが、目の前の現実を認識しているようには見えなかった。
「……おい、伊可儿。この小娘。俺のチンポ、気に入ったか?」
「……なにを」
「お前、笑えよ。笑って、亀頭にキスしろ」
伊可儿は悔しさに唇を噛んだ。しかし、他に方法はない。彼女は無理やり笑顔を作り、胸の谷間から顔を出した亀頭に軽くキスを落とした。
「……はい、喜んで」
「その調子だ。もっと口でしゃぶれよ。俺、イきそうだ」
伊可儿は心の中で悪態をつきながら、口を開き、亀頭をくわえた。熱い。大きくて、口の中が一杯になる。彼女は必死に舌を動かし、男の性感帯を刺激した。
「……うっ……出すぞ!」
次の瞬間、朴精硕の巨根が激しく脈打ち、大量の精液が伊可儿の口の中に噴き出した。あまりの量と勢いに、彼女は一瞬むせそうになる。しかし、服を汚してはいけないと必死にこらえ、全てを飲み込んだ。
粘度が高く、濃厚な味が口の中に広がる。彼女はそれを何度か咀嚼するようにしてから、ごくりと飲み下した。
ようやくそれが終わった時、朴精硕は再び後部座席に沈み、安らかな寝息を立て始めた。
伊可儿は大きく息をつき、口元を拭った。そして改めて利天を見る。彼はまだ眠っている。何も気づいていないようだ。
「……よかった」
彼女は服を着直し、車のトランクを確認した。幸い、予備のガソリン缶が入っていた。それを使って給油し、エンジンをかける。
二時間後――
「……んっ……」
後部座席で、利天が目を覚ました。彼は頭を振り、ぼんやりと周囲を見渡す。
「……ここは?」
「倉庫から脱出した。無事だ」
伊可儿が簡潔に答える。利天はしばらく考え込んだ後、体を確認した。
「……なんか、下半身に力が入らないな。すごくだるい」
「……ガスの影響だ。時間が経てば治る」
伊可儿は平静を装って答えた。
そして、もう一人。
「う……くそ、頭が痛え……」
朴精硕も目を覚ました。彼は顔を押さえ、何かを思い出そうとするように眉をひそめた。そして、突然、
「あれ? 俺、変な夢見てた気がする……」
「どんな?」
利天が何気なく聞く。
「……伊可儿さんの夢だ。なんか……俺、お前を――」
「思い出さなくていい!」
伊可儿が鋭い声で遮った。朴精硕は驚いて口を閉じる。彼は未だに頬に痛みを感じていたが、なぜ殴られたのか全く覚えていない。
「……何か、俺、怒らせるようなことしたか?」
「してない。黙ってて」
朴精硕は不満そうだったが、それ以上追求するのはやめた。何となく、それ以上聞いてはいけない気がしたのだ。
車は暗い道をひたすら走り続ける。三人の間にはしばらく沈黙が流れたが、それはどこか、不思議な安堵感に包まれていた。
――すべては、無事に終わったのだ。