# 第一章: 暗流渦巻く
夜の帳が下りた都市の片隅、廃ビルの一室に、七人の影が集まっていた。
薄暗い照明の下、一人の長身の女が壁に貼られた写真を指差す。彼女の名は林薇。この特工隊の隊長だ。すらりと伸びた脚、鋭い眼光、そして冷静沈着な佇まい。彼女の指先が写真の上を滑る。
「これが人身売買組織『暗網』の構成員だ。彼らはこの都市を拠点に、未成年の少女を拉致し、国外に売り飛ばしている。」
林薇の声は低く、しかし明確だった。隊員たちは真剣な表情で聞き入っている。
「我々の任務は、この組織のアジトを特定し、救出作戦の準備を整えること。だが、相手はプロだ。慎重に動く必要がある。」
「隊長、私が先行します。」
声の主は蘇晴。筋肉の付いた体躯、短く刈り込んだ髪、目つきは鋭く、右手は無意識に腰のホルスターに触れている。彼女は常に正面突破を好むタイプだった。
「蘇晴、落ち着け。まずは情報収集が先決だ。」
陳雪が静かに口を挟む。彼女は椅子に座り、脚を組みながら資料をめくっている。肌色のストッキングに包まれた脚が蛍光灯の光を反射していた。彼女は偵察の専門家で、冷静沈着な判断力を持つ。
「情報収集だって?時間の無駄だ。俺が直接乗り込んで、片っ端からぶん殴れば済む話だ。」
蘇晴は拳を握りしめ、立ち上がる。
「蘇晴、作戦を無視するな。」
林薇の声に含まれた静かな警告が、部屋の空気を一瞬で張り詰めさせる。蘇晴は唇を噛み、仕方なく腰を下ろした。
「作戦はこうだ。まず、蘇晴が単独で潜入し、アジトの内部構造を確認する。その後、全員で突入する。蘇晴、お前の役目は囮だ。無理をするな。異常を感じたら即座に撤退しろ。」
蘇晴の目が光った。
「了解。隊長、任せてください。」
彼女の声には興奮が混じっていた。
「待ってください。単独潜入は危険すぎます。私が後方支援を。」
陳雪が立ち上がる。
「いや、陳雪。お前は通信と監視を担当しろ。蘇晴のバックアップはお前の役目だ。」
林薇の指示に、陳雪は頷いた。
「準備はいいか?」
林薇が時計を見る。針は午後十一時を指していた。
「いつでも。」
蘇晴は既に立ち上がり、装備を確認している。
「よし、出動だ。」
林薇の号令と共に、七人の影はビルを後にした。
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廃工場の影に、蘇晴は身を潜めていた。風に乗って油と錆の臭いが漂ってくる。前方五十メートルには、改装された倉庫がある。今夜の目標だ。
耳元のイヤホンから、陳雪の声が聞こえる。
「蘇晴、周囲に異常はない。進入経路は確保されている。」
「了解。」
蘇晴は息を整え、倉庫の裏口へと駆け出した。足音を殺し、影を縫うように進む。彼女の身体能力は特工隊でもトップクラスだ。十メートルほどの壁も、助走なしで一気に駆け上がる。
裏口のドアは簡素な鍵で施錠されていた。蘇晴はポケットから特殊工具を取り出し、数秒でロックを解除する。
「進入した。」
イヤホンに軽く告げると、彼女は倉庫内に滑り込んだ。
内部は広々としていた。天井は高く、所々に裸電球がぶら下がっている。中央には木箱が積み上げられ、その向こうにはいくつかの部屋が見えた。
蘇晴は壁際に張り付きながら、慎重に進む。彼女の感覚が周囲の気配を探る。異常は感じられない。だが、何かが引っかかる。
(静かすぎる。)
彼女は直感的にそう感じた。人身売買組織のアジトならば、もっと人の気配があってもおかしくない。警備も甘すぎる。
「陳雪、異常を感じる。もっと上の階の情報をくれ。」
「待って…データベースに倉庫の設計図はない。もしかすると、改造されている可能性が高い。」
陳雪の声が僅かに緊張を含んでいた。
蘇晴は更に奥へと進む。木箱の間を縫って進むと、一つの部屋の前に出た。ドアの隙間から光が漏れている。彼女は慎重に覗き込んだ。
部屋の中には、複数のモニターが並んでいた。監視カメラの映像だろう。だが、そこに映っているのは、この倉庫の内部だけではなかった。別の場所の映像も混じっている。
「これは……」
蘇晴の眉がひそむ。この組織は、ただの人身売買業者ではない。何かもっと大きなものの一部なのかもしれない。
その時、背後で足音が聞こえた。
蘇晴は反射的に振り返り、腰のホルスターに手を伸ばす。だが、それよりも速く、複数の人影が暗闇から現れた。
「捉えたぞ。」
低い声が響く。
蘇晴の目が血走る。彼女は瞬時に戦闘態勢に入った。だが、相手は三人。しかも、全員が装備を整えている。
「お前ら…」
蘇晴は歯を食いしばり、拳を握りしめた。彼女の全身に闘志が漲る。
「相手になってやる。」
その言葉と同時に、彼女は一番手前の男に向かって飛びかかった。