第八章
朝の鏡の前で、私は自分の顔を見つめる。最近、鏡に映る自分が日増しに変わっていくのを感じる。顔の輪郭が柔らかくなり、目元が潤み、睫毛が長くなったような気がする。口紅を塗る手が一瞬止まる。この口紅は先週、こっそりとドラッグストアで買ったものだ。ピンクベージュの、ほのかに艶めく色。自分では気に入っているけれど、外に出すときはいつも注意深くティッシュで拭き取る。男の相談員が口紅なんて塗っていたら、怪しまれるからだ。
化粧台の引き出しには、乳液や美容液、パックなどがぎっしりと詰まっている。最初はほんの少しのスキンケアだけだったのが、今では女子顔負けの品揃えだ。毎晩、化粧水を何度も重ねづけし、美容液を丁寧に馴染ませる。肌がふっくらとする感触が気持ちよくて、もう止められない。最近では、電動搾乳器も使うようになった。最初は怖かったけれど、陳剛に命じられて渋々だった。でも今は、もう慣れてしまった。毎晩、部屋に鍵をかけて、あの器具を胸に当てる。低い振動音が部屋に響き、乳首がびりびりと刺激される。最初は痛かったけれど、今ではその刺激を心地よく感じるようになっている。不思議なことに、薬を飲んでいるわけでもないのに、胸が少しずつ膨らみ始めた。今では、Aカップにほど近い。触ると、ふわっとした柔らかさがある。男の胸のはずなのに、明らかに違う。
だから、毎日、胸を包帯でぐるぐる巻きにして隠している。幅広の包帯を何重にも巻き、できるだけ平坦に見せかける。それでも、服の上からでもわずかに膨らみがわかる。最近では、悩みの種だ。学生たちと話すとき、彼らの視線が一瞬、胸元に留まるのを感じる。恥ずかしいような、複雑な気持ちになる。
「林先生、最近お肌すごくきれいですね。何か特別なスキンケアしてるんですか?」
そう言って近づいてきたのは、経済学部の3年生、小野さんだ。明るくて人懐っこい性格で、よく相談室に来る。
「いや、特に何も…」
私は慌てて視線を逸らす。
「でも、本当にきれいですよ。私よりずっと肌が白くてつやつやしてる。うらやましいなあ。何使ってるか教えてくださいよ」
小野さんが身を乗り出す。私はたじろいで、椅子の背に体を引く。
「あの…ただの洗顔石鹸だけですよ。本当に」
「えー、そんなわけない。林先生、絶対何か秘密にしてる」
小野さんが笑いながら言う。私の顔が赤くなるのを感じる。周りにいた他の学生たちも、こちらを見ている。視線が痛い。逃げ出したい。
「すみません、次の予約がありますので」
私は立ち上がり、カウンセリング室の奥へ引っ込む。ドアを閉めると、深く息を吐いた。胸がどきどきしている。鏡に映る自分の顔は、ほんのり赤く染まっていた。こんな日々がずっと続いている。誰かが「きれい」とか「かわいい」と褒めるたびに、私は内心恥ずかしくなる。かつては「かっこいい」と言われたことなんて一度もないけれど、今ではそれすらも遠い記憶だ。
最近、学生たちの間では「女の子みたいな相談員の先生」という噂が立っているらしい。廊下を歩けば、ひそひそ声と笑い声が聞こえる。私はうつむいて、早足で通り過ぎる。もう、みんなからどう思われてもいいやと、どこかで開き直っている自分がいる。でも、それが怖い。
午後の予約はすべて終わり、相談室は静かになった。私はパソコンを片付け、帰り支度を始める。その時、スマホが震えた。画面に表示された名前を見て、心臓が一瞬跳ねる。
「今日、来い。いつもの場所で。」
陳剛からのメッセージだ。たった一言、それだけ。でも、その一言が私を支配する。私の心臓はどくどくと早鐘を打ち、下半身がじんわりと熱くなる。返事はしなかった。いや、できなかった。いつもそうだ。彼から連絡が来るたび、私は従うしかない。いや、従いたいのだ。彼の命令に。彼の支配に。
部屋に戻り、すぐに服を脱ぐ。鏡の前に立つ。身体の変化は明らかだった。胸は包帯の下でふっくらと膨らみ、乳首は大きくなって、ほんのりとピンク色に色づいている。肌は全体的に潤いを帯び、指で触れるとしっとりと吸い付く。尻も、以前より丸みを帯びてきた。自分でも驚くほど女らしくなっている。こんな身体になっていることに、恥ずかしさと、どこか奇妙な満足感を覚える。
私は念入りに化粧をした。ファンデーション、アイシャドウ、アイライン、口紅。すべてをきっちりと施す。そして、黒いレースの下着とストッキングを履き、アナルプラグを挿入する。慣れた手つきで、これらをつける。かつては恐怖と抵抗があったけれど、今ではもう、身体が自然にそれを求めるようになった。ドレスに袖を通す。それは陳剛が買い与えたものだ。腰のラインが強調されるシルクの黒いワンピース。胸元が深く開いていて、ふくらみかけた乳房が覗く。少し恥ずかしいけれど、彼はこれが好きだ。だから、私はそれを着る。
時間になる。私は指定された場所、彼のアパートへ向かう。ドアをノックすると、すぐに中から足音が近づく。鍵が開く音。そして、ドアが開く。
「来たか。」
陳剛の声。彼は太った男で、一見すると普通の大学生だ。けれど、その目は異様に鋭く、相手の弱みを見透かすようだ。彼は私を一目見て、口元に笑みを浮かべる。
「よくやった。中に入れ。」
私はうなずき、部屋に足を踏み入れる。彼の部屋は汚く、缶やペットボトル、本や書類が散乱している。しかし、今はそんなことはどうでもいい。私は彼の前に立つ。彼は私の姿をじろじろと眺め、満足そうに鼻を鳴らす。
「いいドレスだ。似合ってるぞ。」
彼の言葉に、私は顔が熱くなるのを感じる。褒められているのに、なぜか辱められている気分だ。彼は私の顎に手をかけ、顔を上向かせる。
「化粧も上手くなったな。最初は下手くそだったのに。もう、すっかり女だな。」
「…ありがとうございます。」
声が震える。彼、陳剛は私の答えに満足したのか、手を離す。
「よし、始めるぞ。俺の前にひざまずけ。」
私は彼の前にひざまずく。床は冷たいけれど、その冷たさが気持ちを落ち着かせる。彼はズボンのファスナーを下ろし、半勃ちになった性器を取り出す。私はそれを見つめる。もう、嫌悪感はない。むしろ、当然のこととして受け入れている。
「口を開けろ。」
命令に従い、私はゆっくりと口を開ける。彼の性器が口の中に入ってくる。独特の匂いと味が広がる。最初は吐き気がしたけれど、今ではもう慣れた。舌を使って、丹念に舐める。彼が気持ちよさそうに息を漏らす。
「うん…うまいぞ。その調子だ。」
彼の手が私の頭を掴み、リズムを取る。私はされるがまま、彼のペースに合わせて口を動かす。時々、彼が腰を突き出し、喉の奥まで突き込む。苦しいけれど、それもまた刺激的だ。
「お前の胸、前より膨らんだな。」
彼の手が私の胸元に伸びる。ドレスの上から、ふくらみを揉むように触る。
「ふん…柔らかい。女の胸みたいだ。いや、もう女の胸だな。お前、本当に男か?」
彼が笑う。その言葉に、私はさらに顔が熱くなる。心の中で、何かがぐしゃりと音を立てる。
「お前のこの身体、ますます良くなってる。肌もきれいだし、尻も丸くなった。さっきも後ろから見たけど、すごく良い感じだ。誰もお前を男だとは思わないだろうな。」
彼の言葉が、耳に毒のように入り込む。辱められているのに、なぜか満たされる。彼に所有されている実感が、心の隙間を埋める。
「どうした?気持ちいいのか?お前の口、熱くて気持ちいいぞ。しっかり味わえ。」
彼が腰を動かすスピードが速くなる。私は必死に合わせる。涙が滲む。それでも、何かが心地いい。彼が私の頭を強く押し付け、喉の奥まで入ってくる。息ができない。苦しい。けれど、その苦しみすらも快感に変わる。
やがて、彼が体を震わせ、口内に熱いものが放出される。私はそれを飲み込んだ。もう何度もやっていることだ。最初は嫌で嫌で仕方なかったけれど、今ではもう、抵抗はない。むしろ、彼の精液を飲み干すことに、満足感さえ覚える。
彼が性器を引き抜く。私は口元を拭い、彼の顔を見上げる。陳剛は満足げな笑みを浮かべている。
「いいぞ、林非。今日も良かった。お前は本当にいい奴隷だ。」
奴隷。その言葉が胸に刺さる。けれど、その刺さり方が心地いい。私はうつむき、小さく「ありがとうございます」と呟く。
「よし、今日はもういい。次はまた連絡する。忘れるなよ、次はもっと過激なことをさせてやるからな。」
彼が言う。その言葉の意味が分からなくても、私はただうなずく。もう、逆らえない。逆らう気もない。彼の支配が、私を満たすのだから。
部屋を出るとき、私は振り返らずに一歩を踏み出す。空はすっかり暗くなっていた。街灯がまばらに光る道を、私は歩く。化粧が崩れていないか、周りの人に見られていないか、気にする余裕もない。ただ、自分の身体がまだ熱を持っていることに気づく。
次の日、大学の相談室で、学生と話す。表面上は普通の相談員だ。冷静に、彼女の悩みを聞く。けれど、胸の内は昨日のことがぐるぐると回っている。彼の声、彼の手、彼の命令。すべてが私の頭から離れない。
「先生、どうかしましたか?顔が赤いですよ。」
学生が心配そうに言う。
「いや、大丈夫。ちょっと疲れてるだけです。」
私は笑顔を作る。自分でも気持ち悪い笑顔だと思う。けれど、そうするしかない。
放課後、私はまた引き出しを開け、スキンケア用品を取り出す。鏡の前に座り、化粧水をパッティングする。肌に浸透していく感触が、何か正しいことのように思える。自分が何をしているのかわからなくなりながらも、手は動き続ける。
ふと、窓の外を見る。夕日が沈みかけていた。今日も、夜が来る。そして、明日もまた、彼の元へ行く。その繰り返し。
私は化粧台に残っている乳液を鏡に映る自分の顔に塗り込む。自分の顔が、もう男のそれではないことを確認する。女の顔だ。女の身体だ。女の、奴隷だ。
もう、戻れない。戻るつもりもない。
私は、陳剛に飼いならされた。最初は嫌々ながらだったけれど、今ではもう、自分からその関係に飛び込んでいる。毎日、彼の指示通りに動き、彼の命令を待つ。自分がこんなに変わるなんて、想像もしていなかった。けれど、もうその変化を受け入れている。
そして、その夜も、また彼から連絡があった。私は、迷うことなく、ドレスに着替え、彼のアパートへ向かう。その一歩一歩が、私をさらに深い奈落へと誘う。けれど、その奈落は、私にしか味わえない快楽の世界でもあった。
陳剛は、待っていた。彼の目の前に私はひざまずき、口を開ける。今日は、まだ何も言われていないけれど、私はもう彼の命令を待っている。彼の支配に、身を委ねる。それが、私にとっての安らぎだ。
暗い部屋の中で、彼の笑い声が響く。それは、私の身体を震わせる音だ。心の奥で、何かが壊れる音がする。しかし、その破片は、もうもとの形には戻らない。
戻らないのだ。
私は、自分の運命を、完全に受け入れていた。