コダリ社本社ビル、二十八階の重役会議室。冷房の効きすぎた室内に、五人の部長クラスの男たちが並び、その正面にチョン・メイファが腕を組んで立っていた。床に敷き詰められた高級絨毯を傷つけるかのように、彼女の鋭い視線が机の端に立つワン・ダーシューを射抜く。
「ワン部長。あなたの担当するプロジェクトの進捗、説明してください」
チョン・メイファの声は氷のようだった。白いブラウスの胸元は彼女の豊かな乳房を強調し、細身のスカートから伸びる長い脚が、一歩前に踏み出される。その脚線美に、居並ぶ男たちが一瞬視線を奪われたが、すぐにうつむいた。誰も彼女の怒りを買いたくなかった。
ワン・ダーシューは汗をかいた手のひらをズボンの裾で拭いながら、声を絞り出した。
「あ、いや、その…数値自体は順調でして。ただ、先方との調整が少々遅れておりまして…」
「遅れているのが問題だと言っているのです。あなた、毎日何をしているのですか。午後三時には席を外し、四時には帰宅準備。その怠惰な態度、いつまで続けるつもりですか」
チョン・メイファの言葉は容赦なく、部屋の空気が凍りついた。ワン・ダーシューの顔が赤くなり、耳の先まで血が上る。彼は拳を握りしめ、歯を食いしばって耐えた。心の中では、この女がいつか俺の股間に跪く日を想像し、その光景で怒りをかろうじて抑えていた。
「…申し訳ございません。明日から改善いたします」
「改善ではなく、即実行です。次に遅れを取ったら、減俸処分もあり得ます。以上、解散」
チョン・メイファはそう言い放つと、書類を手に振り返りもせずに会議室を出て行った。残された部長たちは一斉に安堵の息をつき、ワン・ダーシューは机の端を拳で強く叩いた。
「ちっ…くそ女が…」
ワン・ダーシューは会議室を飛び出し、廊下の角で煙草に火をつけた。太い指が震えていた。そこへ同僚の田中部長が近づき、ひそひそ声で話しかける。
「ワン部長、大変でしたね。でも、チョンさんはああ見えて、部下の成績にはちゃんと目を配ってますからね。もう少し真面目にやれば」
「はっ、真面目に?あの女に気に入られるために働くのか?俺は違う。俺は結果で見せるんだ。あの冷たいツラを、いつの日か俺の前で泣かせてやる」
ワン・ダーシューは煙を吐き出し、太い指で消し潰した。田中部長は苦笑いを浮かべ、その場を離れた。
一方その頃、チョン・メイファは自席に戻ると、秘書に声をかけた。
「リン・ハイジーを呼んでください。彼の最近の報告書、評価が高いので」
数分後、リン・ハイジーが緊張した面持ちでドアをノックした。細身の体をスーツに包み、眼鏡の奥の目が不安げに揺れている。
「チョンさん、お呼びと伺いましたが…」
「ええ、入ってください」
チョン・メイファは手に持っていた書類を置き、リン・ハイジーをソファーに促した。彼女の態度は、先ほどとは打って変わって穏やかだった。
「あなたの先月のマーケティング提案、非常に良かったです。データ分析の深さ、ターゲットの設定、すべてが洗練されていました。あなたのような人材がいることで、この部署のレベルが上がっています」
「い、いえ…そんな、私はまだ未熟で…」
リン・ハイジーの声が上ずる。彼の心臓はドキドキと速くなり、顔が赤くなった。憧れの上司であるチョン・メイファに直接褒められるなんて、夢にも思わなかった。
「自己評価が低いのは美点ですが、現実を過小評価する必要はありません。来月のプロジェクトでは、あなたにリーダーを任せようと思っています。期待していますよ」
「ありがとうございます!絶対に、期待に応えます!」
リン・ハイジーは立ち上がり、深々と頭を下げた。チョン・メイファは軽くうなずき、もう一度書類に目を落とした。
退社時刻、ワン・ダーシューは駐車場で愛車の四輪駆動車に乗り込んだ。郊外の自宅までは高速道路で四十分。窓を全開にし、エンジンを唸らせて家路を急ぐ。彼の頭の中は、今日の屈辱と、チョン・メイファのあの冷たい瞳に支配されていた。
一方リン・ハイジーは、都心の賃貸アパートへ向かう電車の中で、スマートフォンに映るチョン・メイファの写真を何度も見返していた。彼女の凛とした美しさ、完璧なプロポーション。自分には遠い存在だと分かっていながら、心の奥底で何かが疼く。
電車を降り、雑居ビルの五階にある六畳一間のアパートに戻ると、彼はベッドに倒れ込み、天井を見上げた。
「今日は…褒められた。もっと頑張れば、もしかしたら…」
その言葉は、途中でかき消された。彼は自分の非力さ、劣等感の塊である体を呪った。しかし、その想いが逆に彼を奮い立たせる。
窓の外には、ネオンが瞬く都会の夜景。二つの男の運命は、まだ交わることなく、それぞれの夜を過ごしていた。