# 第七章: 反抗の刺青
北立大学の正門を出て、三つ目の交差点を左に曲がった路地裏に、その店はあった。看板もなく、ドアの上の小さなランプだけが薄暗く灯っている。陳妍希はスマートフォンの地図を何度も確認しながら、その店の前に立った。
心臓が早鐘を打っていた。自分でもなぜここに来たのか、はっきりとは説明できなかった。ただ、朝目覚めたときから、身体の奥底で何かが疼いていた。それは飢えにも似た、しかしもっと原始的な欲求だった。
「いらっしゃい」
中から出てきたのは、全身に入れ墨を施した大柄な男性だった。彼の腕には龍が絡みつき、首筋からは炎のような模様がのぞいている。
陳妍希は自分の声が少し震えているのを感じながら言った。「黒いバラをお願いします。鎖骨のところに」
タトゥーアーティストは無言で彼女を椅子に座らせた。滅菌された器具の匂いが鼻をつく。陳妍希は目を閉じた。
針が肌を刺す最初の一瞬、彼女の身体は反射的に硬直した。痛みは鋭く、しかしどこか心地よかった。まるで、長い間閉じ込められていた何かが、針の穴からゆっくりと外に溢れ出しているような感覚。
「羅佳...」思わず口をついて出た名前を、彼女は慌てて飲み込んだ。
黒いインクが肌に染み込んでいく。バラの花びらが一枚ずつ刻まれていくたびに、陳妍希の中で何かが変わっていくのがわかった。それは彼女の意識の40%を占める異物——羅佳の意識——が、さらに深く、さらに広がっている証拠だった。
完成までに二時間かかった。鏡を見た陳妍希の唇に、自分のものではない笑みが浮かんだ。
「気に入ったよ」彼女は言った。その声には確かな満足感が溢れていた。
タトゥーショップを出たとき、外はもう夕暮れだった。陳妍希はスマートフォンを見る。楊鴻からの着信が十件、メッセージが二十件以上。すべて無視した。
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寮に戻ると、ルームメイトたちの視線が痛いほど刺さった。誰も彼女に話しかけようとしなかった。陳妍希——いや、羅佳の一部を持った陳妍希は——それすらも快感だった。
「陳妍希、あんた...」
声の主は、かつて彼女の親友だった女子生徒だった。その目には明らかな恐怖が浮かんでいた。
陳妍希はゆっくりと振り返り、にっこりと微笑んだ。「何か用?」
「タトゥー...入れたの?」
「見てわからない?」陳妍希はわざとスカーフをずらし、鎖骨の刺青を露わにした。黒いバラは、血のように赤い肌の上で、まるで生きているかのように蠢いていた。
ルームメイトが息を呑む音が聞こえた。
「そんなの、陳妍希らしくないよ!」
「らしくない?」陳妍希は首を傾げた。「じゃあ、私の『らしさ』って何? ずっと清楚ぶって、いい子ぶって、みんなの期待に応えるだけの人形?」
誰も答えられなかった。
陈妍希は自分のベッドに腰掛け、ゆっくりと髪をほどいた。鏡に映る自分の姿が、他人のように見える。いや、もはや他人ではない。羅佳の意識が、彼女の内側からじわじわと浸食していく。それはまるで毒が回るように静かで、確実だった。
スマートフォンがまた震えた。今度は楊鴻からの電話だった。陳妍希は少し迷った末に、通話ボタンを押した。
「もしもし?」
「妍希!どこにいたんだよ!心配したんだぞ!」
温かくて、切実な声。かつてはその声を聞くだけで心が満たされたのに、今は異様なほど冷めた気持ちで聞いていられる。
「ちょっと出かけてただけ」
「今どこにいる?会いたい」
陳妍希は短く息を吐いた。「寮にいるよ。来たいなら来れば?」
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三十分後、楊鴻が寮の玄関に立った。彼は息を切らせており、シャツの襟元が乱れていた。陳妍希を見るなり、彼の表情が一瞬で変わった。
「その...タトゥー?」
陳妍希は軽くうなずいた。彼女の鎖骨には、黒いバラが妖しく咲いている。
「今日入れたんだ」
「なんで...」楊鴻の声が震えていた。「お前、タトゥーなんて嫌いだって言ってたじゃないか。『清らかな肌が汚される』って」
「ああ、そんなことも言ってたね」
陳妍希は階段の手すりに寄りかかり、楊鴻を見下ろした。彼の困惑と苦しみが手に取るようにわかる。それがかつては彼女を苦しめたのに、今はある種の優越感を覚えていた。
「でもね、楊鴻。人は変わるんだよ」
「どうして急に...」
「好きだから」
冷たい一言。それは自分でも驚くほど平坦な口調だった。しかし、その奥で羅佳の意識が嬉しそうに震えているのが感じられた。
楊鴻の顔色が青ざめた。「好きだからって...それだけか?」
「それだけだよ」
沈黙が二人の間を流れた。楊鴻の目に涙が浮かんでいるのが見えた。彼は何かを言おうとしたが、唇が震えるだけで言葉にならない。
陳妍希——いや、陳妍希を支配しつつある羅佳の意識は——その光景を冷ややかに見つめていた。可哀想に。本当に愛していたんだね。でも、その愛はもう私のものだ。この身体も、この人生も、楊鴻も、すべては私のもの。
「もう帰ったほうがいいよ」陳妍希は背を向けた。「明日も授業があるし」
「妍希...」
振り返らずに、彼女は寮の階段を上がっていった。背中に楊鴻の視線を感じながら、その痛みすらも甘美だった。
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部屋に戻ると、ルームメイトたちはもう消灯していた。陳妍希は暗闇の中で目を開けたまま、天井を見つめていた。
「羅佳」彼女は声に出さずに呼びかけた。「お前の仕業か?」
返事はない。しかし、頭の奥で何かが動いた気がした。羅佳の意識は確実に成長していた。今はまだ40%かもしれないが、もうじき半分を超えるだろう。そのとき、陳妍希という人間は完全に消えてしまうのだろうか。
恐怖が一瞬よぎった。しかし、それよりも強かったのは、解放感だった。
陳妍希はそっと自分の鎖骨に触れた。タトゥーの部分はまだ少し熱を持っていた。黒いバラの花びらは、まるで彼女の皮膚の上で息づいているかのようだ。
「これでいいんだ」彼女は自分に言い聞かせた。「もっと自由になれる。もっと自分でいられる」
しかし、その思考は本当に彼女自身のものなのか。それとももうすでに、羅佳の意のままに動かされているのか。
区別は、もうつかなかった。
暗闇の中で、陳妍希の口元に冷たい笑みが浮かんだ。それは徐々に大きくなり、最後には押し殺した笑い声が部屋に響いた。
「ふふ...あはは...」
笑い声は次第に狂気を帯びていき、同じ部屋で寝ているルームメイトが寝返りを打つ音が聞こえた。
陳妍希は自分の手のひらを見つめた。細くて白い、かつては書画を愛でるための指。今はその指が、自分の意志とは無関係に動きだす。スマートフォンを手に取り、タトゥーの写真をSNSにアップした。
キャプションは一言だけ。
「変わっていく自分が好き」
すぐに「いいね」がつき始めた。コメントが次々に届く。驚き、非難、そして少数の称賛。陳妍希はそれらを一つ一つ指でなぞりながら、暗闇の中でほくそ笑んだ。
羅佳。お前は私の中でどんどん大きくなっている。でも、私はそれを止めない。なぜなら、これこそが真実の私の姿だから。
窓の外で風が吹き、カーテンを揺らした。月明かりが部屋の床に白い長方形を描き、その光の帯がベッドの上に横たわる陳妍希の身体を半分だけ照らし出した。
彼女の目は、かつての清楚な輝きを失い、どこか別の場所を見つめていた。それは羅佳の眼——嫉妬と執念に満ちた、底なしの暗い瞳だった。
反抗の刺青は、彼女の身体に刻まれた最初の変革の証だった。そして、これからもまだまだ続くのだ。陳妍希という存在が完全に消え去るまで、羅佳の侵食は止まらない。
陳妍希はそっと目を閉じた。
「おやすみ、私」
翌朝、彼女は目を覚ますと、鏡の前に立った。鎖骨の黒いバラが、朝日を受けて鈍く光っている。触れてみると、昨日よりもなじんでいる気がした。まるで最初からそこにあったかのように。
「今日は何をしようか」
自分の声が、自分のものではないように聞こえた。しかし、それすらも心地よかった。
彼女は薄く口紅を塗り、いつもより露出の多い服を選んだ。タトゥーがよく見えるように、わざとVネックのブラウスを着る。
教室に向かう廊下で、何人かの学生が彼女のタトゥーを見て驚きの声を上げた。かつての陳妍希なら、恥ずかしそうに隠しただろう。しかし今の彼女は、むしろ誇らしげに胸を張って歩く。
「陳妍希さん?」
呼び止めたのは、担任の教師だった。彼の顔には困惑の色が濃い。
「あの、そのタトゥーは...」
「何か問題でも?」陳妍希は笑顔で答えた。
教師は一瞬言葉を詰まらせたが、やがて「いや...ただ、君らしくないと思ってね」と言った。
「らしくないって、よく言われます」陳妍希は軽く肩をすくめた。「でも、それが本当の私なんです」
そう言い残して、彼女は教室に入っていった。後ろで教師が何か言っていたが、耳に入らなかった。
自分の席に座ると、隣の席の女子学生がヒソヒソと話しているのが聞こえる。
「陳妍希、最近変じゃない? 前はあんなじゃなかったのに」
「うん、なんか怖いよね。目つきが変わったっていうか...」
陳妍希は聞こえないふりをして、教科書を開いた。しかし、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。
羅佳よ、見ているか? 私は変わり始めている。お前の望む通りに。
彼女はペンを手に取り、ノートに何かを書き始めた。それは無意識の行動だった。気づいたときには、ノートの隅に黒いバラの花が描かれていた。
— それは、彼女の中の羅佳が確実に成長している証だった。