大三の春、厳喆珂は留学申請の通過を知らせるメールを受け取った。その日の夜、彼女は夫である楼成に報告し、彼の胸に顔を埋めてしばらく泣いた。そして結婚式を挙げ、短い新婚生活を経て、彼女は単身で海を渡り、康城大学へと向かった。
康城大学は東海岸の小さな都市にあり、キャンパスは森のように木々が生い茂り、レンガ造りの古い建物が点在していた。厳喆珂はここで金融工学を学び、同時に毎日の武道の鍛錬を欠かさなかった。彼女は職業九品の武者であり、たとえ異国の地であっても、己の肉体を怠ることなく鍛え続けた。
彼女は毎朝六時に起床し、キャンパスの湖畔で呼吸法を行い、授業の合間には図書館で専門書を読み、夕方には必ずジムで一時間の武道練習をこなした。そして夜、寮に戻ってからは、楼成とビデオ通話をするのが日課だった。
「今日の試合、見たか?」楼成が画面の向こうで笑いながら言った。彼の顔には新しい傷があり、目は相変わらず鋭かった。
「見たわよ。あの最後の一撃、危なかったんじゃない?」厳喆珂は優しい声で言った。
「ああ、でもなんとかなった。そっちはどうだ?慣れたか?」
「うん、だいぶ。授業も面白いし、武道の練習も続けてる。ただ……」
「ただ?」
「なんか、こっちの人たちの練習方法がちょっと変わってて。もっと……自由っていうか、自分勝手っていうか」
楼成が笑った。「お前は真面目すぎるんだよ。たまには気を抜けよ」
厳喆珂は小さく笑ったが、その目にはどこか不安げな光が宿っていた。
ある金曜日の夕方、厳喆珂はいつものようにジムで武道の練習を終えた。汗を拭き、タオルを肩にかけて更衣室へ向かおうとしたその時、彼女の耳に奇妙な音が届いた。
それは微かな、しかし確かに聞こえる音だった。何かを引きずるような、擦れるような音。そして時折、低いうめき声のようなものが混じっていた。
厳喆珂は足を止めた。武者として鍛え上げられた彼女の聴覚は、普通の人間のそれをはるかに超えていた。音の発生源は、廊下の奥にある個人用のトレーニングルームの方からだった。
彼女は無意識にその方向へ歩き出した。音は次第にはっきりとしてきた。何かが床を叩く音、そしてくぐもった人間の声。
個人用トレーニングルームの扉は、ほんのわずかに開いていた。厳喆珂は息を殺して近づき、その隙間から部屋の中を覗き込んだ。
そして彼女は見た。
中には、彼女のクラスメートでありルームメイトでもある朱莉がいた。金髪の白人女性で、いつもはクールで知的な印象を与える彼女が、今は男の上に座っていた。男はトレーニング用の長凳に仰向けに寝かされ、その両手両足は長凳の四本の脚に革製のベルトで固定されていた。全裸だった。
朱莉はスカートを履いたまま、その下着姿の腰を男の顔の上に落としていた。彼女の股間が男の口と鼻を完全に覆い、男は呼吸を奪われていた。男の体は激しく捩れ、固定された手足が長凳を叩く音が、先ほど厳喆珂が聞いた音の正体だった。
しかし朱莉は微動だにしなかった。彼女はただそこに座り、まるで自分の体重すら感じていないかのように、静かに、そして正確に男の顔を圧迫し続けていた。
历喆珂の心臓が激しく打ち始めた。彼女は息を呑み、その場に釘付けになった。
男の体は次第に激しく痙攣し始めた。固定された手が長凳の革ベルトを掴み、白目をむきながら、必死に何かを訴えているようだった。そして、その苦しみの中で、彼の陰茎が硬く勃起しているのが見えた。
厶喆珂は自分の頬が熱くなるのを感じた。彼女は今まで楼成としかセックスをしたことがなかった。それも、普通の正常位か対面座位だけだった。こんな方法で……人が興奮するなんて、想像もしたことがなかった。
男の体が大きく跳ねた。そして、彼の陰茎から白い液体が勢いよく噴き出し、長凳の上に飛び散った。同時に、男の痙攣は収まり、彼の体は力を失ったように弛緩した。
朱莉はそれでもしばらく座っていたが、やがてゆっくりと腰を上げた。男の顔が解放され、彼は荒い息を何度も繰り返した。その顔は真っ赤に腫れ上がり、呼吸を必死に取り戻そうとしていた。
その時、朱莉がゆっくりと顔を上げ、ドアの方を見た。
「誰?」
その声は冷たく、しかしどこか楽しげだった。厶喆珂の心臓がはね上がった。彼女は後退しようとしたが、その拍子に床にあった空のダンベルラックに足をぶつけ、ガチャンという音を立ててしまった。
朱莉が立ち上がり、スカートを整えながらドアへ向かってきた。彼女は優雅な動作でドアを開け、そこに立っている厶喆珂と視線を合わせた。
「あら、喆珂」
朱莉の顔には驚きの表情はなく、むしろ何かを予期していたかのような落ち着きがあった。彼女は白い歯を見せて微笑み、手を伸ばして厶喆珂の腕を掴んだ。
「入って」
その言葉は命令のように聞こえた。厶喆珂は本能的に後退しようとした。彼女は職業九品の武者であり、普通の人間である朱莉の力など、彼女にとっては抵抗するまでもなかった。しかし、何故か彼女の体は動かなかった。
朱莉の指が、厶喆珂の手首を優しく、しかし確かに包み込んだ。その温もりが、厶喆珂の肌に染み込んでいくようだった。
「どうしたの?怖がらなくていいわ」
朱莉の声は甘く、しかしどこか有無を言わせない力を持っていた。彼女はゆっくりと、しかし確実に厶喆珂を部屋の中へ引き込んだ。厶喆珂は抵抗しなかった。いや、できなかった。
ドアが閉められた。鍵が回る音が、部屋の中に響いた。
「ちゃんと閉めたわ」
朱莉はそう言って、厶喆珂に向き直った。彼女の目は、獲物を見つけた捕食者のように輝いていた。
「さっきの、見てたんでしょ?」
厶喆珂は何も言えず、ただ頷いた。
「どんな気持ちだった?」
朱莉は一歩前に出て、厶喆珂の顔を覗き込んだ。彼女の指が、厶喆珂の頬に触れた。その指はひんやりと冷たかった。
「正直に言ってごらん。僕はね、君のことが前から気になってたんだ。いつも一人で練習して、誰とも話さず、ただ黙々と動いてる。でも、君の目はいつも何かを探してるように見えた」
厶喆珂の呼吸が浅くなった。彼女の心臓は、武道の試合で対戦相手と向き合う時よりも激しく打っていた。
「君も……やってみたいんじゃない?」
朱莉の声が、甘い毒のように厶喆珂の耳に沁み込んだ。彼女は自分の口が勝手に動くのを感じた。まるで他人事のように。
「はい……」
その言葉が、自分の口から出たことに、厶喆珂自身が一番驚いた。
朱莉は満足そうに笑った。彼女は厶喆珂の手を引き、長凳のところへ連れて行った。そこにはまだ、先ほどの男が横たわっていた。彼は荒い息を整えながら、ぼんやりと天井を見つめていた。
「彼の上に座ってみて」
朱莉がそう言うと、厶喆珂はまるで操り人形のように、長凳に跨った。男の顔の上に、自分の股間が来るように位置を調整した。
「ゆっくりと、座って」
朱莉の指示に従い、彼女は体重をゆっくりと下ろした。男の顔が、彼女の下着越しに、熱を持った感触として伝わってきた。
しかし、それはあまり気持ちの良いものではなかった。男の鼻が彼女の尾てい骨に当たり、顎が恥骨に当たって痛かった。彼女は思わず眉をひそめた。
「どうしたの?」
朱莉が近づいてきて、彼女の表情を観察した。
「……ちょっと、痛いです」
「こうやって、角度を変えてみて」
朱莉は彼女の腰を掴み、少し後ろに移動させた。しかし、それでもやはり不快だった。彼女はただ男の顔の上に座っているだけで、何の快感も感じることができなかった。
数分が経った。朱莉は厶喆珂の反応をじっと観察していたが、やがて小さくため息をついた。
「無理みたいね。一旦やめましょう」
朱莉が男に指示を出し、彼の手足を固定していたベルトを外した。男は少しよろめきながら立ち上がり、服を着て、無言で部屋を出ていった。
部屋には、朱莉と厶喆珂だけが残された。
朱莉は厶喆珂の前に立ち、両手を腰に当てた。彼女の目には、ある種の遊び心が浮かんでいた。
「じゃあ、今度は逆のパターンを試してみない?」
「逆……?」
「そう。僕が君の上に座る。君は下になるんだ」
厶喆珂の心臓が、また激しく打ち始めた。彼女は自分が朱莉の下敷きになる光景を想像した。あの男のように、固定されて、そして朱莉の股間で窒息する自分を。
彼女は自分でも驚くほど、その想像に興奮している自分に気づいた。頬が火照り、体の芯が熱くなった。そして、足の力が抜けて、立っているのがやっとだった。
「嫌なら、やめてもいいんだよ」
朱莉がそう言ったが、それは完全に真実ではないことを、二人とも知っていた。厶喆珂はやはり何も言えず、ただ首を振った。
朱莉は何も言わず、長凳を指さした。
厶喆珂はゆっくりと長凳に横たわった。固い木の感触が背中に伝わる。天井の蛍光灯の光が、彼女の目にまぶしかった。
「もし息が苦しくなったら、僕の体を押して。そうしたらやめるから」
朱莉がそう言いながら、厶喆珂の手首を掴んだ。しかし、それを長凳の脚に固定することはしなかった。
「約束よ。ちゃんと押すのよ」
厶喆珂は頷いた。朱莉は長凳の上に跨り、ゆっくりと位置を調整した。彼女のスカートの裾が、厶喆珂の視界を覆った。
次第に、朱莉の股間が近づいてくる。それはまるで、ゆっくりと近づいてくる巨大な物体のように見えた。厶喆珂は思わず目を閉じた。
温かい感触が、彼女の顔の上に広がった。朱莉の太腿の内側の柔らかな肌が、彼女の頬を包み込む。そして、彼女の鼻と口の上に、布地を通して、朱莉の股間の中心が押し付けられた。
それは柔らかく、しかし確かに重かった。完全に、彼女の呼吸を遮断した。
厶喆珂は息をしようとしたが、できなかった。口も鼻も、朱莉の体で完全に塞がれていた。彼女は無意識に手を伸ばし、朱莉の尻を掴んだ。しかし、押しのけることはしなかった。
苦しかった。空気が欲しかった。しかし、同時に、その苦しさが何かを呼び覚ましているようにも感じられた。彼女の心臓は早鐘を打ち、全身の血が沸騰するように熱くなった。
彼女は通常、職業九品の武者として、長時間の息止めが可能だった。呼吸法を駆使すれば、五分近くは無呼吸でいられる。しかし、今の彼女にはそれどころではなかった。心が乱れ、気血をコントロールすることができない。ただ、朱莉の体重と温もりに圧倒されるだけだった。
時間が経つのが、とても長く感じられた。実際にはおそらく一分も経っていなかったが、彼女には永遠のように思えた。視界が暗くなり始め、耳の中で血の流れる音が聞こえ始めた。
そして、その時だった。
彼女の体の奥底から、何かが弾けた。それは電流のような衝撃で、彼女の全身を駆け巡った。彼女の腰が跳ね、背中が反り返った。子宮の奥から、何かが溢れ出る感覚があった。
彼女は自分が絶頂に達したことを、ぼんやりと認識した。彼女の下腹部が痙攣し、子宮が収縮する感覚があった。そして、恥部から何かが溢れ出て、彼女の白いトレーニングパンツを濡らしていくのを感じた。
やがて、朱莉がゆっくりと腰を上げた。
光が戻ってきた。空気が、荒い息と共に厶喆珂の肺に流れ込んだ。彼女は何度も何度も息を吸い込み、肺が焼けるように痛むのを感じた。
「大丈夫?」
朱莉の声が、遠くから聞こえた。厶喆珂は焦点の合わない目で天井を見つめ、ゆっくりと体を起こした。彼女の体はまだ震えていた。
そして、彼女は自分のトレーニングパンツが、ぐっしょりと濡れているのに気づいた。白い布地に、自分の愛液が染み出し、恥ずかしい模様を作っていた。
「あ……」
彼女の顔が、一気に真っ赤に染まった。彼女は自分の股間を両手で隠し、うつむいた。
朱莉は笑っていた。しかし、それは嘲笑ではなく、むしろ優しい微笑みだった。
「初めての感覚でしょう?」
厶喆珂は答えられず、ただ頷いた。
「大丈夫、恥ずかしがらなくていいのよ。これが、あなたの新しい扉を開く鍵になるんだから」
朱莉はそう言って、厶喆珂の手を取った。彼女は彼女を立ち上がらせ、隣の小さなシャワールームへと連れて行った。
「さあ、服を脱いで。洗ってあげる」
朱莉の手が、厶喆珂のトレーニングウェアのファスナーを下ろした。彼女はされるがままに、一枚一枚服を脱がされていった。温水が彼女の体を流れ、朱莉の手が彼女の肌を優しく撫でていった。
その手は、まるで幼い子供を洗う母親のように優しく、そして同時に、恋人を愛撫するように丁寧だった。厶喆珂は目を閉じ、その感触に身を任せた。
シャワーが終わると、朱莉は彼女に新しいタオルを渡し、自分も簡単に体を洗った。二人は髪を乾かし、服を着て、ジムを後にした。
外はもう暗くなっていた。キャンパスの灯りが、並木道を淡く照らしていた。二人は並んで歩き、寮へと向かった。
「今日のことは、誰にも言わないでね」
朱莉が突然言った。その声には、先ほどの甘さはなく、むしろ警告のような響きがあった。
「もちろんです」
厶喆珂は小さな声で答えた。
「でも、もしまたやりたくなったら、いつでも言って。僕は君を待ってるから」
朱莉はそう言って、厶喆珂の肩に手を置いた。その手の温もりが、また厶喆珂の心臓を高鳴らせた。
寮の部屋に戻ると、朱莉は何事もなかったかのように、自分のベッドに座って本を読み始めた。一方、厶喆珂は自分のベッドに倒れ込み、天井を見つめながら、今日起こったことを反芻していた。
彼女の体はまだ熱を帯びていた。そして、彼女の心の奥底で、何かが変わってしまったことを、彼女ははっきりと認識していた。
彼女は、またあの感覚を味わいたいと思っている自分に気づいた。あの苦しさと快楽が混ざり合った、不思議な感覚を。
彼女は静かに、自分自身に言い聞かせた。
「これが……私なんだ」
窓の外では、夜のキャンパスが静かに闇に包まれていた。しかし、厶喆珂の心の中では、新しい何かが目覚めようとしていた。それは、彼女がこれまで知らなかった自分自身の姿だった。
楼成とのビデオ通話の時間になっても、彼女はベッドから起き上がれなかった。彼女の頭の中は、朱莉の温もりと、あの窒息感でいっぱいだった。
今夜は、彼女に少しだけ、自分の心と向き合う時間が必要だった。