高級ホテルの重厚なドアの前で、私は一度深く息を吸い込んだ。心臓は胸の中で激しく打ち、手のひらには汗が滲んでいた。匿名の調教プラットフォームで予約した相手――プロフィールには経験豊富な女性調教師とだけ書かれていた。写真もなく、本名も知らない。ただ、今この部屋の向こうで待っているという事実だけが、私を震えさせていた。
ドアをノックすると、すぐに中から低い声が聞こえた。
「入れ。」
その声に聞き覚えがあった。しかし、まさか――そんなはずはない。私はそう自分に言い聞かせ、ゆっくりとドアを押し開けた。
部屋の中は薄暗く、カーテンの隙間から差し込む夕日が床に長い影を落としていた。窓辺には一人の女性が立っていた。黒のタイトスカート、細いハイヒール、背筋の伸びたシルエット。彼女は窓の外を見つめていて、まだこちらを向いていなかった。
「失礼します……」
私は声をかけたが、喉の奥で言葉がつっかえた。その立ち姿、首の傾げ方、手首の細さ――どれもが、あまりにも知っている人のものだった。
彼女がゆっくりと振り返った。
「……若溪叔母?」
言葉が唇から漏れた瞬間、私の全身は凍りついた。彼女もまた、一瞬だけ目を見開いた。だが、すぐにその驚きは小さな眉の動きに収まり、赤い唇がほんの少し開かれた。そして、遊び心を含んだ笑みが浮かんだ。
「まさかあなただったなんて。」
その声は、あの日々と変わらぬ低さで、私の心臓をさらに激しく打たせた。叔母――林若溪は、家族の中でも特に冷艶な印象を持つ女性だ。キャリアウーマンとして名を馳せ、誰に対しても優雅でありながらも距離を置く。私が子どもの頃から憧れと畏れを抱いてきた相手が、まさかこんな場にいるとは。
私はうつむいた。何も言えなかった。ただ、心臓の鼓動だけが耳の中で響いていた。
彼女が歩み寄ってくる。ハイヒールの靴音が一歩ごとに近づき、私の前に立った。かかとが私の顎に触れ、そっと上を向かされた。彼女の顔が、私の視界の上にあった。
「来たからには、この機会を無駄にしないで。」
その言葉に、私は震えながらうなずいた。彼女の指が、私の顎をさらに持ち上げる。その冷たい感触に、私はすべてを受け入れる覚悟を決めた。
「ひざまずけ。」
彼女の命令は短く、しかし威厳に満ちていた。私は床にひざまずいた。冷たい大理石の感触が膝に伝わる。彼女はその場にしゃがみ込み、持ってきたバッグを開けて、中から道具を取り出し始めた。
「これは……鞭、ろうそく、ロープ……」
彼女が一つ一つ手に取り、点検する。その指の動きは優雅でありながら、無駄がなかった。私はその手元を見つめ、震えを抑えきれなかった。
彼女は細長い鞭を手に取った。黒い革の表面が、夕日を反射して鈍く光る。彼女がゆっくりと立ち上がり、私の背後に回る。鞭が空気を切り、私の背中に触れた。軽い一打。痛みはまだない。だが、その予兆が私の全身を走る。
「床にうつ伏せになれ。」
私は言われた通りにする。冷たい床に頬を押し付け、目を閉じた。彼女がハイヒールを脱ぐ音が聞こえる。そして、ストッキングに包まれた足が、私の後ろ首をそっと踏みつけた。その圧力は徐々に強まり、息が詰まりそうになる。
「ベッドの端まで這え。」
私はゆっくりと、手と膝を使って動き始めた。彼女の足は私の首から離れ、後ろからついてくるのが感じられる。ベッドの端にたどり着くと、彼女がロープを取り出した。
「手首を出せ。」
私は両手を差し出した。ロープが手首に巻きつき、きつく締められる。その感覚が皮膚に浅い赤い跡を残す。縛られた手首はベッドの脚に結びつけられ、私はもう逃げ場を失った。
彼女がろうそくを灯す。ほのかな炎の揺らめきが、部屋の中に影を作る。彼女がろうそくを傾け、熱いろうが一滴、私の背中に落ちた。焼けるような痛みが走ったが、私は歯を食いしばって声を出さなかった。
「よく耐えたな。」
彼女の声には、ほのかな満足感が混じっていた。しかし、それだけでは終わらない。彼女はハイヒールを再び履き、かかとで私の背骨を軽く踏みつけた。
「数字を数えろ。一から十まで。間違えるたびに、罰を重くする。」
私は震える声で「一」と唱えた。次の瞬間、かかとが背骨を強く押す。痛みに息を呑みながらも、「二」と続けた。途中で数字を間違えてしまった。その瞬間、鞭が尻を打ちつけた。皮膚が焼けるような痛みが走る。私は声を絞り出して謝ろうとしたが、彼女はさらに鞭を振るった。
「許しを請うなら、ひざまずけ。」
私は縛られた手首を無理に動かし、なんとかひざまずく姿勢を取った。彼女は私の前に立ち、鞭を手にしたまま見下ろしていた。その目には、明らかな興奮が浮かんでいた。
「もっと……もっと罰を欲しいだろう?」
彼女の声が低く、甘く、私の耳に響く。私はうなずくしかなかった。
彼女は鞭を置き、代わりに金属製の頭かごを取り出した。それは無機質で、冷たい感触を私に与えた。彼女がそれを私の頭にかぶせ、目の部分が覆われる。世界が暗闇に変わった。視覚が奪われ、他の感覚が鋭くなる。
彼女の脚が、ストッキング越しに私の胸を踏みつける。体温と力が、布越しに伝わってくる。彼女の息遣いが、耳元で聞こえた。
「これは始まりにすぎないよ、私の小さな甥っ子。」
その声は危険な甘さを帯びていて、私の全身を震わせた。私は暗闇の中で、ただ彼女の次の言葉を待つことしかできなかった。