私の指が、桜色の爪を立てたまま、革張りのファイルの表紙を撫でる。オフィスの中は、微かにレモンの香りが漂う空調が効いていた。けれど、その冷えた空気すら、私の肌を焼く熱を冷ますことはできない。
「蘇家の奴隷事業……第3四半期、純利益は前年同期比で二桁成長……」
声に出して読んだ瞬間、私の内腿がきゅっと疼いた。椅子の座面に押し付けるようにして、太腿を擦り合わせる。黒のストッキングが、微かな摩擦音を立てた。
一人称で蘇家の富を語るなら、それはまるで淫らな秘密を紡ぐようだ。私は幼い頃から、父が重役たちと執務室にこもる背中を見て育った。彼らの声は決して大きくならず、机の上にはいつも、表紙のないファイルが積まれていた。ある日、私は偶然その鍵のかかった金庫の暗証番号を知った。父が酔って呟いたのだ。あの夜、私は初めて、家の真の収入源が何かを知った。
「奴隷市場……奴隷競売…」
私はファイルのページを一枚一枚めくる。そこには、肉体の値段が羅列されていた。若い娘の健康状態、教育レベル、従順さの評価。数字が並ぶたびに、私の胸の奥がざわつく。まるで、自分がその檻の中にいるような錯覚に陥る。あるいは、檻の鍵を握る側なのか。
「お嬢様、陸霆様がお見えです」
インターホンから秘書の声が響く。私は慌ててファイルを閉じ、机の引き出しにしまい込んだ。鼓動が早くなる。陸霆——あの傲慢な社長が、なぜ今ここに来るのか。
「入れ」
声が掠れていた。自分でも驚くほど艶めいた響きだった。
ドアが開き、背の高い男が入ってくる。彼の黒いスーツは、シルクのような光沢を放っていた。目が合った瞬間、私の腰の奥が痺れる。
「おや、蘇お嬢様。顔が赤い。何か面白いものでもご覧になっていたのか?」
「……何のことだ」
「いや、ただの推測だ。だが、君の机の上には、先日取引した奴隷のファイルが積んであったはずだ。さては、こっそり見ていたな?」
陸霆はゆっくりと近づき、私の机の前に立った。その指が、私の顎に触れる。硬い感触に、私は息を飲んだ。
「違う…」
「本当か?ならば、なぜ君の脚が震えている?」
私は否定しようとした。けれど、彼の指が私の頬をなぞり、耳元に顔を寄せた。その吐息が、耳朶に触れる。
「お嬢様の目を見れば分かる。君は、奴隷の値札に興奮している。数字が増えるほど、君の心拍数が上がる。違うか?」
私は何も言えなかった。代わりに、唇が微かに開く。その隙に、彼の指が滑り込んだ。唾液が絡まり、私はぞくぞくする官能に襲われる。
「教えてやろう。明日、新たな奴隷が届く。君が初めて調教する一匹だ。その名は小薇——売られてきた娘だ。君の玩具になる。準備はいいか?」
私の目が見開かれた。全身の血液が、ある一点に集まるような錯覚。痛いほどの欲望が、腿の間で熱く膨らむ。
「……本当か?」
「ああ。お前が自らの手で、彼女を壊すのだ。これが、君の最初の産業だ」
私は深く息を吸い込んだ。その香りの中に、汗と皮革と、かすかに金属の臭いが混じっている。すべてが、私の五感をくすぐる。
「陸霆……私に、本当にそれができるのか?」
「当然だ。お前の血こそ、蘇家の血だ。それに、お前のその目——淫らな欲望に塗れた目を見れば、誰もが信じるさ」
彼の言葉が、私の奥底を刺激した。私はゆっくりと立ち上がり、彼の胸に手を当てる。心臓が激しく打っている。その鼓動すら、彼に伝わっているだろう。
「ならば……覚悟を決めよう。小薇とやらに、この身体と魂で、何が『私の玩具』かを思い知らせてやる」
陸霆は低く笑った。その笑い声が、オフィスの空気を震わせる。そして、彼は振り返らずに去っていった。
私は再び机の引き出しを開け、ファイルを取り出す。今度は、じっくりと、一枚一枚を指でなぞるように読んだ。数字の羅列が、まるで淫らな夢の風景のように広がる。脚の間が濡れているのを感じながら、私はそっと内腿を撫でた。
「小薇……お前はどんな声で啼くのだろうな。どんな風に身体を震わせるのだろう」
そんな問いかけが、私の唇から漏れた。明日——初めての産業ファイルが、本当の意味で完成する。私は奴隷帝国の令嬢として、一歩を踏み出すのだ。