# 第6章 人間犬の調教
地下クラブの調教室は、白い蛍光灯に照らされ、無機質なほど清潔だった。壁には一面に鏡が張り巡らされ、中央には低い台座が設置されている。月月は両膝を床につけ、全身を震わせていた。
「さあ、首輪をつけてやろう」
李総の太い指が、黒い革の首輪を月月の細い首に巻きつける。革が肌に触れた瞬間、冷たい感触が全身を駆け巡った。カチリと金具が留まる乾いた音が、調教室に響く。
「立派な人間犬になりそうだな」
李総は満足げに微笑み、月月の顎に手をかけて上を向かせた。月月は潤んだ瞳で彼を見上げる。心の奥で、抑えきれない期待と羞恥が渦巻いていた。
「服を脱げ。全てだ」
月月は震える手で制服のボタンを外し始めた。一枚、また一枚と衣服が床に落ちる。最後の下着一枚になると、李総が苛立たしげに舌打ちした。
「遅い」
彼の手が一気に下着を引き裂いた。月月の裸体が鏡に映る。自分の姿を見た瞬間、恥ずかしさで頭の先まで赤くなった。
「四つん這いになれ。犬のように」
月月は両手を床につき、四つん這いの姿勢をとった。膝と手のひらに冷たい床の感触が伝わる。李総が首輪にリードを繋ぐと、その先を引っ張りながら調教室の中を歩き始めた。
「ついて来い」
月月は這いながら彼の後を追う。膝が擦れて痛いが、それ以上に胸が床に擦れる感触が生々しかった。鏡の中の自分は、まさに人間離れした生き物のように見える。
「止まれ。ここで待て」
李総が立ち止まり、月月の背中に手を置いた。彼の掌の温もりが、裸の背中に広がる。
「今日はお前にお友達を紹介しよう」
彼が手を叩くと、調教室の反対側のドアが開いた。そこから現れたのは、同じく裸で首輪をつけた女だった。年は月月より少し上だろうか。長い黒髪を背中に流し、目は虚ろでどこか遠くを見つめている。
「小蝶だ。お前より一ヶ月早くここに来た先輩だ」
小蝶は這ったまま近づいてきて、李総の足元に擦り寄った。喉からは「クゥン」というか細い鳴き声が漏れる。
「李総さま、ご機嫌いかがですか?」
「うむ。小蝶、今日からお前に妹分ができたぞ。ちゃんと教えてやれ」
李総の目に、残酷な愉悦の光が宿る。
「人間犬の第一歩は、主人を喜ばせることだ。いいか、見せてやれ」
小蝶がゆっくりと立ち上がったわけではない。四つん這いのまま、腰をくねらせながら李総の脚に擦り寄る。彼女の舌が彼の足の指を舐め始めた。一本一本、丁寧に、ねっとりと。
「お前もやれ」
月月は躊躇した。全身が強張り、動けなかった。しかし、李総が手にした鞭が空気を切る鋭い音が響いた。
「やらないのか?」
「や、やります……」
月月は這いながら彼に近づいた。吐息が荒くなる。初めての経験に、心臓が早鐘を打っている。彼女はそっと舌を出し、彼の足の甲に触れた。塩気のある味が口の中に広がる。
「もっとだ。もっと深く」
李総の声が上から降ってくる。月月は唇を開き、彼の足の指をくわえた。舌で転がすように舐めながら、彼の反応を伺う。彼が微かに息を呑んだ。
「よし。次はもっと深い奉仕だ」
彼は月月の髪を掴み、自分の股間へと顔を引き寄せた。ズボンのチャックが開かれる音が、やけに大きく聞こえる。
「口を開けろ」
月月は従った。彼の男根が口の中に押し込まれ、その大きさに息が詰まる。喉の奥まで達する感覚に、反射的に吐きそうになった。
「噛むなよ」
李総の手が月月の後頭部を掴み、リズムをつけて動き始めた。月月は涙を浮かべながら、必死に口を動かす。唾液が口の端から垂れ、床に滴る。
「小蝶、見ていろ。お前の妹分はなかなか飲み込みが早いぞ」
小蝶が横で見つめている。その目には同情と、かすかな嫉妬が混じっていた。
一時間ほどの調教の後、二人は並んで四つん這いにさせられた。李総はその前に立ち、両者を見比べながら鞭を手に弄んでいる。
「さて、どちらがより良い人間犬か、競わせよう」
彼は台座に置かれた二つの餌皿を指さした。中には犬の餌のようなものが盛られている。
「これから、お前たちに食事を与える。ただし、手は使うな。口だけで食え」
月月の胃が空腹で鳴る。今朝から何も食べていなかった。小蝶はすでに皿の前に這い寄り、犬のように顔を突っ込んで食べ始めている。
月月も恐る恐る近づき、口を皿に近づけた。鼻を突く独特の匂い。ドッグフードのようだ。彼女は目を瞑り、唇で餌をすくい取った。ざらざらとした食感が口の中で広がる。
「もっとだ。もっと見せろ」
李総の鞭が背中に当たる。痛みと快感が混ざり合い、月月の体が痙攣した。彼女は必死に食べ続けた。餌を噛み砕き、喉を鳴らして飲み込む。
「面白いな。お前は案外、向いているかもしれない」
李総が月月の頭を撫でた。優しいようでいて、掌には見下すような支配が感じられる。
「もっと鳴いてみろ。嬉しい時は、犬はこう鳴くんだ」
「ワン……」
月月の喉から自然と鳴き声が漏れた。最初は小さかったが、次第に大きく、はっきりとしたものになる。
「ワン!ワン!」
「そうだ。その調子だ」
李総は満足そうにうなずいた。月月の心の中に、奇妙な安堵感が広がる。すべてを委ねた時の、この解放感。自分がもはや人間ではなく、ただの犬のように扱われていることが、逆に心地よかった。
調教は一時間ごとに休憩を挟みながら続けられた。午後には、月月は完全に四つん這いでの移動に慣れていた。膝と手のひらは擦れて赤くなり、痛みはあるが、それもまた自分を犬たらしめる証のように思えた。
「次は、芸を教える」
李総が差し出したのは、小さなボールだった。
「これを持ってこい。投げるから」
彼がボールを投げると、月月は這いながら追いかけた。ボールを口で咥え、彼の元に戻る。彼が頭を撫でると、嬉しさで尻尾を振る犬のように、腰をくねらせた。
「いい子だ」
その一言が、月月の心に深く染み渡る。幼い頃から、父に褒められたことなどほとんどなかった。今、この男に認められていることが、何よりの喜びだった。
夕方、調教が終わりに近づいた頃、小蝶が月月に近づいてささやいた。
「あなたも、やっと仲間入りね」
その声には、どこか諦めにも似た温かさがあった。
「私も最初は怖かった。でも今は、ここが居場所だと思ってる」
小蝶が月月の手を握る。その手のひらは、同じ擦り傷で覆われていた。
「ありがとう……」
月月の目から涙がこぼれ落ちた。それは悲しみの涙ではなく、自分を見つけた安堵の涙だった。
李総が最後の指示を出す。
「今日の調教はここまでだ。お前たち、よく頑張った。明日からも続けるぞ」
月月は四つん這いのまま、頭を下げた。首輪の革が首に食い込み、その重みが心地よい。
「ありがとうございます、李総さま」
部屋を出る時、彼女の体は疲労で震えていたが、その目には不思議な輝きがあった。自ら選んだ道ではない。しかし、この道が自分の運命なのだと、月月は確信し始めていた。