十八歳の誕生日を迎えた夜、月月は自室で手にした書類にしばし呆然としていた。
父から託された家族企業のエンターテインメントグループは、表向きは音楽プロダクションや芸能事務所を擁する大手である。だが、その傘下には決して表に出せない子会社が存在した。一つはアダルトビデオの制作会社。もう一つは――「人材育成」と称する、特殊な調教施設だった。
彼女の指先がわずかに震える。それは恐怖か、それとも別の何かか。
幼い頃、父の書斎でこっそりと見つけた一冊の写真集を思い出していた。そこには鎖につながれ、跪く女性たちの姿があった。あの時は意味がわからなかった。ただ、胸の奥で何かが疼いた。その疼きは成長するにつれて形を変え、今や彼女の中で確かな渇望となっていた。
「お嬢様、お考えをお聞かせください」
書類を運んできた秘書の声に、月月は顔を上げた。
「…自分で見てくるわ。現場を」
秘書が一瞬、目を丸くした。
「しかし、お嬢様のようなお立場の方が――」
「小月という名で通す。身分は伏せて」
月月の声音には、もう迷いはなかった。
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翌日、彼女はシンプルなスカートにカーディガンという変装で、都心から少し外れたスタジオビルを訪れた。受付で「小月」と名乗ると、案内されたのは地下二階の撮影フロアだった。
薄暗い廊下を抜けると、突然視界が開けた。そこはリビングを模したセットで、ソファに若い女性が座っていた。彼女の目は虚ろで、胸元が大きく開かれたドレスからは肌が覗いていた。
「おい、君」
声をかけられて振り返ると、若い男が立っていた。阿杰、このスタジオの監督だ。
「見学か? 初めてか?」
月月は頷いた。阿杰はにやりと笑う。
「ちょうどいい。今から撮るシーン、ヒロインの表情がどうもパッとしないんだ。お前、あの娘と同じ顔立ちだな。雰囲気も似てる」
彼は手に持った脚本を月月に差し出した。
「ちょっと読んでみろよ。どんな感じか」
月月は受け取り、目を通す。そこには、初めて男に抱かれる少女の心情が克明に描かれていた。恥じらい、痛み、そして――どこか期待に似た感情。
心臓が大きく跳ねた。自分が書いたかのように、言葉が肌に染み込む。
「…演じられますか?」
阿杰の問いに、月月は唇を噛んだ。戸惑いと、抗い難い衝動がせめぎ合う。
「…はい」
声は震えていたが、確かにそう言っていた。
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撮影が始まった。
月月はベッドに横たわり、照明の熱を肌に感じていた。男優が覆いかぶさってくる。彼の吐息が耳元にかかる。カメラが回る音が遠くで聞こえる。
「最初は怖がっていい。でも、そのうちに…」
阿杰の指示が飛ぶ。月月は脚本通りに小さく悲鳴を上げ、男の胸を押しのけようとした。だが、男の腕はびくともしない。
彼の指がスカートの中に滑り込む。触れられたことのない場所に指が這う。月月の体が硬直した。
「しっかり、初めてなんだろ?」
男の声が耳元で囁く。月月の体が震えた。本当に初めてだ。誰にも触れられたことのない場所を、今、見知らぬ男が弄っている。
羞恥と、それに伴う奇妙な熱が腹の底から湧き上がる。
男が腰を進めてくる。圧迫感。痛み。彼女の唇から悲鳴が漏れた。だがそれは、演技ではなくなっていた。
「…いいぞ、そのまま」
阿杰の声が遠くで聞こえる。
男の動きが激しくなる。月月の意識がぼんやりとし始める。痛みの中に、何かが満たされていく感覚があった。遂に、全てを注ぎ込まれる感覚が彼女を襲う。
すべてが終わった。
月月は天井を見上げたまま動けなかった。体の奥がひくついている。涙が一筋、こめかみを伝った。
恥ずかしい。こんなにも恥ずかしい。
けれど、その奥で、確かに何かが目覚めていた。
自分から堕ちていく快楽。
彼女の唇に、ほのかな笑みが浮かんだ。