太陽の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の中に柔らかな金色の帯を作り出していた。エアコンの効いたワンルームは狭いながらも、夢夢が丹念に選んだ小さな花瓶や、壁に貼った写真たちが、温かみのある空間にしていた。ベッドは部屋の中央に置かれ、その向こうにはコンパクトなキッチンがあり、朝の味噌汁の香りがまだ微かに漂っている。
張傑はキッチンで卵焼きを焼きながら、背後から近づいてくる足音に気づいた。振り返ると、夢夢がパジャマ姿で、まだぼんやりとした目をこすりながら立っていた。
「おはよう、夢夢。」張傑が優しく微笑む。
「うーん…おはよう。」夢夢はあくびをしながら、小さなテーブルの前に座った。まだ半分眠っているような彼女の姿に、張傑は胸が温かくなるのを感じた。
二人は幼稚園の頃からの幼なじみだった。小学校、中学校、高校とずっと同じ学校に通い、大学を卒業するとすぐに結婚した。周りからは「運命の相手」とよく言われたものだ。実際、張傑にとって夢夢は世界で一番純粋で美しい女性であり、その笑顔を見るだけで一日の疲れが吹き飛ぶような気がした。
「今日は新しい仕事の初日だよね。」張傑が卵焼きを皿に盛りながら言った。
「そうなの!」夢夢の目が急に輝いた。「駅前のあのホテル、フロントの仕事がもらえたんだ。昨日面接の合格連絡が来て、今日から研修だって!」
「本当?おめでとう!」張傑が皿をテーブルに置きながら、夢夢の頭を優しく撫でた。「すごく頑張ったんだね。きっと上手くいくよ。」
夢夢は嬉しそうに笑ったが、ふと何かを思い出したように、少し困った顔で言った。「でもね、シフト勤務なんだ。夜勤もあるって言われた。…大丈夫かな?」
「大丈夫に決まってるだろ。君ならどんな仕事だってできるさ。」張傑は彼女の手を握りしめた。「もし困ったことがあったら、いつでも連絡して。俺がサポートするから。」
その言葉に夢夢の顔がほころんだ。彼女は卵焼きを一口食べて、美味しそうに頬を緩ませた。
朝食を終え、夢夢は急いで制服に着替えた。白いブラウスに紺色のスカート、清楚で可愛らしい姿に、張傑はしばらく見とれてしまった。
「どう?似合う?」夢夢がくるりと回って見せる。
「うん、すごく似合ってるよ。」張傑が正直に答えると、夢夢の頬が少し赤くなった。
「じゃあ行ってくるね!」
「気をつけて。」
ドアが閉まる音がして、部屋の中は静かになった。張傑は残った味噌汁を啜りながら、ふと昨夜のことを思い出していた。結婚して三年、二人の性生活はいつも決まったパターンだった。優しく、穏やかで、まるで儀式のように。夢夢がそれで満足しているのかどうか、張傑には確信が持てなかった。もっと情熱的な瞬間を共有したいという欲望はあったが、彼女に無理強いするのは嫌だった。
一方その頃、ホテルのフロントに立つ夢夢は、緊張しながら先輩の説明を聞いていた。チェックインの手順、予約システムの操作方法、クレーム対応のマニュアル――覚えることが山のようにあった。それでも、新しい環境に胸が高鳴る。何より、自分が家庭の役に立てるということが誇らしかった。
昼休み、休憩室でコンビニのおにぎりを食べながら、夢夢はふと考え込んだ。結婚してからというもの、張傑との夜の時間はいつも同じだった。彼はいつも優しく、慎重で、まるでガラス細工を扱うかのように彼女に触れる。時には、もっと激しいものを望んでいる自分に気づくこともあった。しかし、そういうことを彼に伝えるのは何となく恥ずかしかったし、彼女自身の魅力が足りないのではないかという不安が心の片隅に住み着いていた。
「私、ちゃんと奥さんとしてできてるのかな…」夢夢はおにぎりのラップを弄りながら、小さく呟いた。
その時、休憩室のドアが開いて、60歳ほどの男性が入ってきた。白髪交じりの髪に、穏やかそうな笑顔。ホテルのオーナーだと、先輩から紹介されたばかりだった。
「やあ、新入りの子だね。」オーナーが笑顔で近づいてきた。「緊張しなくていいよ。ゆっくり覚えればいいから。」
「はい、ありがとうございます。」夢夢がぺこりと頭を下げた。
オーナーはじっくりと彼女を見つめた。その目は一見穏やかだったが、どこか鋭さを秘めているようだった。しかし、夢夢はその視線の意味に気づくことはなかった。
今日の研修は無事に終わり、夢夢は疲れた体を引きずってアパートに帰った。ドアを開けると、張傑が夕飯の支度をしていた。
「おかえり。」彼が振り返って笑った。
「ただいま。」夢夢はその笑顔を見て、胸の奥の不安が少し和らぐのを感じた。
しかし、その夜、ベッドに入ってから、彼女はまた同じことを考えていた。張傑の手が優しく彼女の肩を撫でる。その感触は安心感を与えてくれるけれど、どこか物足りなさも感じさせる。
「ねえ、傑。」夢夢が暗闇の中で囁いた。
「うん?」
「…今日、仕事どうだったかって、まだ聞いてないよ。」
張傑は軽く笑った。「そうだね。どうだった?」
「すごく大変だったけど、楽しかった。フロントの仕事って、いろんな人と話せるから面白いんだ。」
「それは良かった。君にぴったりの仕事だと思うよ。」
会話はそこで途切れた。張傑の手は彼女の背中を優しく撫で続けていたが、それ以上は何も起こらなかった。彼はいつもそうだった。彼女が求めなければ、決して先に進むことはなかった。
夢夢は目を閉じながら思った。私のどこが足りないんだろう。もっと女らしくなければいけないのかな。それとも、私がちゃんと気持ちを伝えられていないだけなのか。
窓の外からは、夏の蝉の鳴き声が微かに聞こえていた。その声は部屋の中の静けさを一層際立たせていた。