# 第一章:新婚の朝
夏の朝の日差しが、カーテンの隙間から細く差し込んでいる。蝉の聲が絶え間なく聞こえてくる中、エアコンの低い駆動音が部屋に満ちていた。壁掛け時計はまだ七時を指していない。
台所からは、中華鍋が焦げ付く音と、油の弾ける香ばしい匂いが漂ってくる。張母は慣れた手つきで朝餉の準備を進めていた。左手でフライパンを揺すりながら、右手で塩を振る。その動きは何十年もの経験に裏打ちされた、無駄のないものだ。
居間では、張大牛が古い扇風機のモーターを分解していた。真鍮色のベアリングを手に取り、照明にかざして確認する。眉をひそめ、小さなドライバーで慎重に調整を始めた。
「父ちゃん、その扇風機、もう十年ものだよ。新しいの買ったほうが…」
宿題のノートに顔を向けたまま、張朋朋が口を挟む。
「新しいのを買えば金がかかる。直せばまだ使える」
張大牛は手を止めずに答えた。その声には、家族を養ってきた職人の誇りが滲んでいた。朋朋は肩をすくめ、再び数学の問題に目を戻す。しかし、その目線は時折、両親の寝室の扉へと向かっていた。
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主寝室では、二人の若い夫婦がゆっくりと目を覚ました。
張杰はまず、指先の感覚から始まる目覚めを感じた。上半身には何の感覚もない。しかし、腰から下には確かに熱が宿っている。隣で眠る妻の柔らかな体温が、太腿に伝わってくる。
「夢夢…」
囁くような聲に、夢夢の長い睫毛が震えた。彼女の大きな瞳がゆっくりと開く。最初はぼんやりとしていた視線が、夫の顔を認めた瞬間、甘えるような輝きを帯びた。
「杰哥哥…おはよう」
唯一自由に動かせる右手を伸ばし、彼女は夫の頬を撫でた。その指先は繊細で、まるで壊れ物を扱うように優しい。
張杰は微かに体を動かし、下半身でそっと妻の腰を擦った。その動きは、彼の唯一自由になる部分からの愛情表現だった。
「もう朝か…もっと一緒にいたいな」
夢夢の頬が朱に染まる。彼女は恥ずかしそうに笑い、顔を夫の胸に埋めた。
「杰哥哥、私…何かしたいの」
その聲は小さく、しかし決意を秘めていた。
「この家の役に立ちたい。ずっと杰哥哥やお義母さん、お義父さんに世話してもらってばかりで…」
張杰の目が優しく細められる。彼は妻の髪を撫でることができない代わりに、腰をわずかに揺らして安心させた。
「夢夢はもう十分頑張っているよ。でも、もし何かしたいなら…」
彼は一呼吸置いた。
「靴下や靴のネットショップを開いてみないか?最近はネット通販が盛り上がっているし、お前の審美眼ならきっと上手くいく」
夢夢の瞳が輝いた。彼女の口元がほころぶ。
「本当?私にできるかしら…」
「できるさ。お前は昔、ダンスの衣装だって自分でデザインしてたじゃないか。その才能を活かさない手はない」
その時、扉がノックされた。
「杰、夢夢、起きてるかい?体を拭く時間だよ」
張母の優しい聲が聞こえる。彼女は湯気の立つ桶を手に、慎重に部屋に入ってきた。
「お義母さん、おはようございます」
夢夢が笑顔で挨拶する。張母は桶を床に置き、タオルを湯に浸した。
「夢夢は今日も肌がきれいだね。白くて柔らかくて…まるで絹みたいだ」
張母は感慨深そうに言いながら、優しく夢夢の腕を拭き始めた。その手つきは、我が子を世話する母親のように丁寧だった。
「お義母さんの手も、とても温かいです」
夢夢の言葉に、張母の目が少し潤んだ。
扉のところに、張大牛の影が一瞬差した。彼は工具を手にしたまま、一瞥するように部屋の中を見た。その目は穏やかで、慈しみに満ちていた。彼は何も言わず、ただ静かに頷いてから、再び居間へと戻っていった。
張杰はその様子をしっかりと見ていた。彼の胸の奥で、義父への感謝の気持ちが熱く滾る。あの日、事故で両親を失った自分を引き取ってくれた人。そして今も、自分の妻をこんなにも大切に扱ってくれる人。
「父ちゃんは…本当にいい人だ」
張杰は小さく呟いた。
その時、張朋朋がこっそりと扉の隙間から覗き込んだ。彼の目は好奇心に輝いている。ベッドの上で、義姉がタオルで拭かれている様子に、思春期の少年ならではの興味を抑えきれない様子だ。
「朋朋!何してるんだ!」
張母が気づいて声を上げる。朋朋は慌てて顔を引っ込めた。
「べ、別に何も!」
「朝飯の準備ができたぞ。早く食べに来なさい!」
朋朋は足音を立てて台所へと走っていく。その後ろ姿に、張母は苦笑いを浮かべた。
「あの子も、もうそんな年頃か…」
張杰と夢夢は顔を見合わせ、優しい笑みを交わした。
窓の外では、蝉の聲がますます大きくなっていた。夏の日差しは、少しずつ部屋の奥まで差し込み始めている。この温かい家の中で、新しい一日が始まろうとしていた。