連邦の大都市に降り立った瞬間、蘇雪はまず空気の違いを感じ取った。帝国の重厚な古木と香料の匂いとはまるで異なる、何かしら甘やかで淫靡な香りが街全体に漂っている。彼女は留学の手続きを終え、連邦の最先端の経済学を学ぶためにここへ来たのだが、初日からその視覚的な衝撃は想像を絶していた。
街路を歩けば、革製の牝馬装具を身に着けた若い女性が、口に銜えられた轡から伸びる綱を引き手に、立派な馬車を引っ張っている。彼女の四肢には金属の蹄鉄が装着され、地面をカツカツと鳴らしながら、息を切らせて進む。周囲の通行人は特別な驚きもなく通り過ぎてゆく。蘇雪は足を止め、無意識のうちにその光景を凝視した。帝国では奴隷制は決して一般的ではない。家事使用人や庭師を雇うことはあっても、人間を獣のように扱うなど、想像すらしたことがなかったのだ。
「まあ、初めて見たの?」隣から声をかけられた。振り返ると、中年の女性が立っている。彼女は蘇雪の母の遠縁に当たる叔母だった。今回の留学に際し、連邦に住むこの叔母が後見人となる手配がされていたのだ。叔母は優雅に笑いながら、奴隿市場や牧場の話を日常会話のように語る。蘇雪は顔を赤らめ、ただ曖昧に頷くことしかできなかった。
昼食を取りに連れて行かれた高級レストランは、蘇雪の常識をさらに打ち砕いた。店内の中央にはガラスの檻があり、その中で若い女奴隷が胸を晒して立っている。彼女の乳房には柔らかいシリコンの乳管が取り付けられ、店員がその栓を抜けば、白い乳が耐えきれずに噴き出した。それを客がグラスに注ぎ入れ、その場で飲むのだ。蘇雪は目を背けたくなりながらも、どこか目が離せない。羞恥と好奇心が胸の中で絡み合っていた。
「これは連邦では普通のことよ。乳奴は栄養価も高くて、貴重な蛋白源なのよ」叔母は優雅にスープを飲みながら、なんでもないことのように説明する。蘇雪の耳の先が真っ赤に染まった。
午後になり、キャンパスで初めての授業に出た教室もまた、彼女の常識を根底から覆す場だった。教授が講義を始めると同時に、何人かの学生の机の下で微かな動きがある。蘇雪は横に座った男子学生の膝元がやけに落ち着かないのに気づいた。彼の下を覗き見て、彼女は息を呑んだ。女奴隷が裸のまま机の下に隠れ、口で彼の陰茎を奉仕しているのだ。男子学生は何食わぬ顔でノートを取り、たまに下の動きに合わせて微かに腰を動かす。
蘇雪の鼓動は速まった。帝国の貴族学院では、そんな光景は絶対に許されない。しかしここでは、それが日常の一部なのだ。彼女の視線を感じたのか、下の女奴隷が一瞬、目を上げて蘇雪を見た。その瞳には恥じらいもなければ、悲しみもない。むしろ、機械的な無感情が宿っていた。蘇雪は慌てて目を逸らし、ノートを取るふりをしたが、頬の熱は引かない。
講義が終わり、蘇雪は慌てて教室を飛び出した。廊下の隅で立ち止まり、深く息を吸い込む。あまりの衝撃に、まだ世界が揺れているように感じられた。
「大丈夫?顔色が悪いみたいだけど」
優しい声が聞こえてきた。顔を上げると、一人の少女が心配そうに蘇雪を見つめている。林婉と名乗ったその同級生は、蘇雪と同じ経済学部の学生だった。滑らかな黒髪を一つに結び、透き通るような白い肌を持ち、柔和な微笑みが印象的だ。どこか農家の娘らしい素朴な雰囲気が、この荒廃した連邦の空気の中で一際、清らかに映った。
「初めてここに来たの?私も初めは驚いたわ。でもすぐに慣れるから」林婉は蘇雪の腕をそっと取り、キャンパスの中庭へと連れて行った。木陰のベンチに腰を下ろし、彼女は持っていた果物を蘇雪に分けてくれた。甘酸っぱい果実の味が、やっと蘇雪の体の緊張を解きほぐした。
「どうして連邦に留学しに来たの?」林婉が尋ねた。蘇雪は帝国の生活を語り、隠していた興奮や好奇心も自然と口にのぼった。林婉は相槌を打ちながら、自分の話も始めた。彼女は連邦の南部、小さな農場出身だという。家は貧しかったが、奨学金を得てこの大学で学んでいる。
「君は奴隷を見てどう思う?」林婉が突然、真剣な目で聞いてきた。蘇雪は少し迷った。「怖いけど、どこか……魅力的だと感じてしまう。自分でも責めているんだ」林婉は静かにうなずいた。「多くの帝国の人間がそう言うわ。でもここにいる私たちにとって、奴隷制度は空気のようなもの。存在しているとしか言いようがないの」
日が暮れるまで、二人は語り合った。同じ年齢で、同じ学部。林婉の優しさと落ち着いた物腰は、蘇雪の心に強い信頼感を植え付けた。別れ際、林婉は来週のパーティーに誘ってくれた。連邦の貴族が主催するもので、多くの奴隷が調教される様子を見られるという。
「もし興味があったら、一緒に行かない?私も誘われているの」林婉は微笑んだ。蘇雪の胸は高鳴った。好奇心の衝動が、理性の枷を超えようとしている。彼女は深く息を吸い込み、うなずいた。