アンドロイド技術が日常に溶け込んだ未来都市、陽はビルの隙間から細く差し込み、街の表面だけを撫でるように照らしていた。陳宇は自室の端末の前で、指をわずかに震わせながら注文を確定した。画面に表示された最終確認の文字は、彼の心の奥底で長年蠢いていた暗い欲望を具現化していた。注文内容は、一人の女性型アンドロイド。年齢は四十代後半、身長一六五センチ、体重五十三キロ、髪型は肩まで届くストレートの黒髪、瞳の色は薄い茶色、口元のほくろの位置まで指定されていた。すべてが彼の母、林薇と寸分違わぬものだった。唯一の違いは、アンドロイドの股間、膣口の真上に刻印される小さなバーコードだけだ。それは彼が所有する証であり、母との絶対的な隔たりの印だった。
注文確定ボタンを押した後も、陳宇は画面に張り付いたように動けなかった。心臓が早鐘を打ち、頬には薄っすらと汗が浮かんでいる。彼は自分の行動が常軌を逸していることを理解していた。だが、その背徳感こそが彼をさらに駆り立てた。幼い頃から母親に抱いてきた想いは、年を経るごとに歪み、成長した今では母親を完全に手中に収めたいという欲望へと変貌していた。現実の母を傷つける勇気はない。だからこそ、完璧な代用品を作り上げたのだ。
数日後、玄関の呼び鈴が静かに鳴った。林薇が台所で洗い物をしている手を拭きながら、何気なくドアを開けると、そこには簡素なダンボール箱が置かれていた。差出人は大手アンドロイドメーカーで、送り主は息子の名前だった。林薇は眉をひそめた。息子が何を買ったのか知りたくなり、彼女は箱を居間に運び込み、カッターナイフで封を切った。
開封と同時に、中から精巧に折り畳まれた人型のシルエットが露わになった。林薇は一瞬固まった。それは皮膚の質感、髪の一本一本に至るまで、あまりにもリアルで、彼女が思わず息を呑むほどだった。そして、その顔を見た瞬間、彼女の全身の血が逆流した。
それは紛れもなく自分自身だった。
アンドロイドの顔は、若い頃の林薇そのものだ。三十年もの年月を経た今の彼女より、やや若々しいものの、輪郭も目の形も口元の弧も、すべてが彼女の記憶の中の自分を映し出していた。林薇の手が震えた。恐怖よりも先に、恥辱と怒りが沸き上がる。彼女は乱暴にアンドロイドを箱から引きずり出し、その裸体をまじまじと見つめた。そして、股間の部分で視線が止まった。膣口の上に、小さな黒いバーコードが異様に浮かび上がっている。それはあたかも家畜に押された烙印のようだった。
「何てこと…」
林薇の声は掠れた。アンドロイドはまだ起動していなかったが、その無機質な肉体は、彼女の目には自分自身の死体のように映った。彼女の恥辱は怒りへと変わり、アンドロイドを床に叩きつけようとしたが、高額な品物であることに気づいて手を止めた。その代わりに、彼女は食卓の椅子に崩れ落ち、両手で顔を覆って静かに泣いた。
夕方、陳宇が帰宅した。玄関を開けると、リビングからかすかな嗚咽が聞こえてきた。彼は心臓が冷たく収縮するのを感じたが、同時に期待にも似た高揚感が湧き上がる。彼は靴を脱ぎ、ゆっくりと居間へ向かった。
アンドロイドはソファの隅に無造作に置かれ、起動もされていなかった。林薇はその反対側の椅子に座り、目は赤く腫れ上がっていた。陳宇を見るなり、彼女は唇を噛みしめて立ち上がった。
「宇、説明してくれ。あれは何だ?」
林薇の声は震えていたが、必死に平静を装っていた。陳宇は視線を逸らさず、逆にしっかりと母親の目を見つめた。彼の口元には微かな笑みが浮かんでいた。
「母さんが気づくと思ってたよ。君にそっくりだろ?俺が特注したんだ。」
「何てことを!あんたは正気なのか?私は…私はあんたの母親だぞ!」
林薇の声が裏返った。彼女は息子の頬を叩こうと手を上げたが、途中で止まった。彼女はまだ彼を愛していた。どんなに歪んだ行為であっても、それを憎み切ることができなかった。
陳宇は一歩前に進み、優しい口調で言った。
「母さん、怒らないでくれ。ただ、俺はずっと母さんと一緒にいたかったんだ。でも、現実の母さんは疲れてるし、俺に構ってくれない。だから、このアンドロイドが欲しかった。俺だけのものとして、ずっとそばにいてくれるように。」
林薇は息を呑んだ。彼女の脳裏に、夫の陳建国の姿がよぎった。あの男はここ数年、酒びたりで帰宅もままならない。家族のことはすべて林薇に任せきりで、息子の教育すらも放棄していた。自分が必死に守ってきた家庭は、いつの間にか歪みきっていたのだ。
「こんなことは許されない。すぐに返品しなさい。私は何も見なかったことにする。」
林薇は最後の理性を振り絞ってそう言った。だが、陳宇は首を振った。
「もう遅いよ、母さん。アンドロイドは起動していないけど、すでに俺の登録情報で紐づけられている。返品はできないんだ。それに、母さんが嫌なら、使わなければいいだけだ。ただ、アンドロイドを処分するのはもったいないと思わないか?」
彼は巧みに言葉を選び、林薇の罪悪感を刺激した。林薇は無言で立ち尽くした。彼女は息子の歪んだ愛情を受け入れることはできなかったが、それでも彼を見放すことはできなかった。彼女の沈黙は、陳宇にとっては暗黙の承諾に等しかった。
その夜、林薇は寝室にこもり、一晩中泣き明かした。一方、陳宇は満足げな表情でアンドロイドを自室に運び込み、慎重にベッドに横たえた。彼はアンドロイドの顔にそっと触れた。その冷たい感触が、彼の心を奇妙に落ち着かせた。
「母さん、これからはずっと一緒だよ。」
彼の囁きは暗闇の中に消えていった。バーコードの束縛は、まだ始まったばかりだった。