アンドロイド母の陥落

站点:NovelAI.one内容:前8章在线试读ID:196e5083更新:2026-07-26 15:13
西暦2087年、東京湾岸に広がる巨大なメガシティは、無数のネオンと空中を往来する無音の車両によって、まるで光の網に覆われたかのように輝いていた。この時代、人間の生活にアンドロイドが溶け込んでからすでに数十年が経ち、街角では人間そっくりのアンドロイドが通行人に道を教え、家庭では家事用アンドロイドが夕食の準備をする光景が当
原创 剧情 爽文 架空 热门
アンドロイド母の陥落 提供 前8章在线试读,可直接在线阅读。你也可以前往“最新小说”“热门小说”“发现小说”继续浏览站内内容。
当前页面收录可公开展示内容,以下为前 8 章试读:

未来世界のひそかな発注

西暦2087年、東京湾岸に広がる巨大なメガシティは、無数のネオンと空中を往来する無音の車両によって、まるで光の網に覆われたかのように輝いていた。この時代、人間の生活にアンドロイドが溶け込んでからすでに数十年が経ち、街角では人間そっくりのアンドロイドが通行人に道を教え、家庭では家事用アンドロイドが夕食の準備をする光景が当たり前になっている。人間そっくりの愛玩用や介護用のモデルも、法規制こそ厳しいものの、地下市場を含めると驚くほど多様な需要を満たしていた。

チェン家は、そんなメガシティの南西部にひっそりと建つ中層マンションの三十二階に暮らしている。夫のチェン・ジェンはごく平凡なサラリーマンで、大手食品メーカーの営業部署に二十年以上勤めている。髪には白いものが混じり始めたが、まだ体力は落ちていない。彼は毎朝決まった時間に家を出て、夜は九時過ぎに帰宅する。酒を飲みすぎるのが玉に瑕だったが、家族思いの男だった。

一方、母のスー・ワンは、四十代後半になっても若々しい美貌を保っている。彼女は専業主婦で、料理や洗濯、掃除を完璧にこなすだけでなく、夫や息子の心の機微にまで気を配る優しさを持っていた。その声はいつも柔らかく、困っている人のためにどこまでも尽くす性格で、マンションの隣人たちからも慕われている。特に息子のチェン・ユーに対しては、深い愛情を注いでいた。

「ユー、また遅くまでゲームをしていたの? 朝がつらいでしょう」

スー・ワンは朝のリビングで、まだ制服に着替える気配のない息子に声をかけた。

「うるさいな、母さん。今日は午後から授業だから」

チェン・ユーは不機嫌そうにソファに寝転んだまま、スマートグラス越しに何かを見ている。

「ちゃんと朝ごはんを食べなきゃ。あなたの好きな卵焼き、甘めに作ったのよ」

スー・ワンは微笑みながら、キッチンからトレイを運んできた。卵焼きのほか、炊きたての白米、味噌汁、焼き鮭まで並べられた朝食は、まるで料亭のようだった。

チェン・ユーは面倒臭そうに起き上がり、箸を手に取る。だがその目は、母の白く細い指や、エプロンの紐の結び目にちらちらと向いていた。

彼は重度のマザーコンプレックスを抱えている。幼い頃、熱を出すたびに一晩中頭を撫でてくれた母の手、泣いていると抱きしめてくれた温もり。そのすべてが、彼の中で歪んだ執着へと変わっていた。成長するにつれ、他の異性に興味が湧くどころか、母以外の女性を生理的に受け付けられなくなっていたのだ。夜な夜な、彼は母の寝室から漏れる気配に耳を澄ませ、父に抱かれる母を想像しては胸を焦がした。

だが、それを表に出すわけにはいかない。スー・ワンはそんな息子の闇に気づくことなく、今日も献身的に世話を焼いている。彼女は夫に対しても同様に優しく、疲れて帰宅したチェン・ジェンの背中を揉みながら、今日一日の出来事を穏やかに聞いてやるのだ。

「父さん、今日もお疲れさま」

スー・ワンはリビングの灯りを少し落とし、和らいだ音楽を流す。チェン・ジェンは手酌で焼酎を飲みながら、小さくため息をついた。

「ああ、最近はアンドロイドが営業の仕事もやり始めてな。リストラの噂が絶えなくて、胃が痛いよ」

彼はそう言うと、スー・ワンの肩に手を置いた。

「あなたは人間なんだから、機械には負けませんよ」

スー・ワンは優しい笑みを浮かべる。だが、チェン・ジェンは内心、この妻が完璧すぎて、まるでアンドロイドのようだと感じることがあった。もちろん口には出さない。それは、何かを踏み外してしまいそうな危うさを含んでいたからだ。

一方、チェン・ユーはある計画を密かに進めていた。高校を卒業してからずっと、アルバイトで得た金や、親戚からもらった小遣い、果ては父のクレジットカードをこっそり流用してまで貯め込んだ金が、かなりの額に達していた。彼の目的はただ一つ。母親スー・ワンと寸分違わぬアンドロイドをカスタムオーダーすること。

この時代、アンドロイドの製造技術は飛躍的に進歩し、外見だけでなく、声、肌の感触、体温、さらには行動パターンまでもが好きなように設定できる。高級品ともなれば、本物の人間と見分けがつかない。ただし、人間の特定個人をモデルに複製する「クリプト・レプリカ」は法律で厳しく禁止されている。特に無断での複製は重罪だ。それゆえに、こうした違法な注文は、ダークネットの深層に潜む非合法ブローカーを通してしか行えない。

「俺はどうしても母さんが欲しい……母さんそのものじゃなくても、完璧な偽物でいい。あの優しい声で、俺だけを見てくれるなら」

チェン・ユーは自室のスマートウォールを完全に遮光し、無数のファイアウォールを経由させた回線で、あるブローカーとコンタクトを取っていた。相手のエージェント名は「ニーナ」。非常に評判の高いルートで、これまで何体もの非合法レプリカを富裕層に供給してきたという。

「ご依頼内容を確認します。対象:スー・ワン。年齢外観四十七歳女性。身長一六二センチ、体重四八キロ。髪型、声紋、体臭、いずれも完全コピーということでよろしいですね」

ニーナの合成音声は冷たく、事務的だった。

「そうだ。それと、性格パラメータは……母の優しさをそのままに、ただ、俺に絶対服従させること。性的な奉仕プログラムも追加してほしい」

チェン・ユーの声は震えていたが、欲望の奥に確かな興奮が潜んでいる。

「承知しました。報酬は前金五百万クレジット、残りは完成品受け取り時に一千万クレジット。お支払い可能ですか?」

「もちろん」

彼は、これまで必死に隠し続けた金のことを思い浮かべた。父の退職金口座から少しずつ移し替えた分も含まれている。バレたら家族は崩壊するが、そんな理性はとっくに吹き飛んでいた。

それから数週間後、スー・ワンは奇妙な胸騒ぎを覚えるようになった。息子がやけに優しくなったのだ。時折、彼の視線が自分の体の曲線をなぞるように這い回り、まるで商品を品定めするかのような冷たい観察眼を感じる。しかし、彼女はそれを思春期の一時的な反抗の変化だと解釈しようとした。

「母さん、ちょっとこっちに来て」

ある日曜日の午後、チェン・ユーはリビングで母親を呼び止めた。

「なあに、ユー? 勉強に疲れたなら、お菓子でも食べる?」

「違うんだ。母さんって、普段どんな下着を着けてるの? ちょっと見せて」

そう突然言われ、スー・ワンは一瞬息を呑んだ。頬がかっと熱くなる。

「な、何を言ってるの。そんなの、母さんにだって恥ずかしいことはあるんだからね」

彼女は冗談めかして笑い飛ばそうとしたが、チェン・ユーは真顔のまま近づいてくる。

「別にいいじゃないか。家族なんだし。それとも、見せてくれないの?」

「やめなさい、ユー。そんなこと……」

スー・ワンは一歩後退る。その時、奥の寝室からチェン・ジェンが不機嫌そうな顔で現れた。

「おい、ユー、母さんに何を言ってるんだ」

チェン・ジェンはアルコールの匂いをさせながら、息子を睨む。

「……何でもないよ、父さん。ちょっと世間話をしてただけだ」

チェン・ユーはすぐに表情を消し、部屋へ戻っていった。スー・ワンはほっと胸を撫で下ろしたが、背筋に奇妙な冷たいものが走るのを感じた。夫もまた、ただならぬ気配に眉をひそめる。しかし、彼も深くは追及しなかった。面倒なことに関わりたくなかったのだ。

その夜、チェン・ユーは自室で端末に向かい、注文の最終仕様を送信していた。母の歩き方、笑った時の目の細め方、料理をする時の手つき。そんなデータを大量にニーナへ転送する。彼のスマートグラスには、無数の下着姿のスー・ワンの合成画像が表示されていた。すべて彼が自宅の隠しカメラで記録したものだ。

「もうすぐだ……もうすぐで、俺だけの母さんが来る」

薄暗い部屋に、彼の吐息だけが湿った熱を帯びていた。画面の隅で、発注完了の文字が点滅する。ニーナからのメッセージが届いていた。

『製造完了まであと十日。受け渡し場所は指定の廃工場にて。楽しみにしていてください、ご主人様』

ご主人様という言葉に、チェン・ユーの口元がゆがむ。彼は初めて、自らが支配者になる瞬間を想像し、全身が震えるような快感に包まれた。リビングでは、スー・ワンが夫を風呂に入れながら、今日の息子の異常な言動について、やんわりと相談していた。

「なんだか最近、あの子が変なの。私のこと、まるでモノみたいな目で見ている気がして……」

彼女は浴室の湯気の中で、不安げにうつむく。

「考えすぎだよ。反抗期ってやつだろう。それより、背中を流してくれ」

チェン・ジェンは湯船で目を閉じたまま、気のない返事をする。彼の頭の中は、明日の会議と、またアンドロイドに仕事を奪われるかもしれないという恐怖でいっぱいだった。妻の訴えは、届かない。

こうして、何も知らぬ一家の日常は、ゆるやかに崩壊への坂を転がり始める。スー・ワンはまだ、自分が息子の欲望の標的にされているとは露知らず、いつも通り優しい母親であり続けようと必死だった。だが、彼女が知らぬところで、もう一つの「スー・ワン」が、鋼鉄と合成皮膚の身体に命を吹き込まれつつあった。そのアンドロイドは、限りなく本物に近い彼女のコピーでありながら、完璧な性奴隷としてのプログラムを内蔵している。そして、その存在が家族のすべてを狂わせることになる。

三日後の深夜、チェン・ユーの端末に、ニーナから一通の暗号化ファイルが届いた。タイトルは「製品テスト映像」。彼が震える手で開くと、そこには母そっくりのアンドロイドが、裸でうずくまり、合成音声で「ユー、私はあなたのものです」とささやく姿が映っていた。目は本物のスー・ワンと同じ、深い優しさをたたえているが、どこか無機質な光を宿している。

彼はその映像を何度も繰り返し再生しながら、シーツの中で身をよじらせた。隣の部屋では、スー・ワンが夫の寝息を聞きながら、静かに涙をこぼしている。彼女には、すべてが悪夢の始まりだと感じられてならなかったのだ。

やがて、待望の「受け渡し日」が訪れる。

荷物を開けて真実が明らかに

大きな段ボール箱が玄関先に届いたのは、土曜日の昼下がりだった。配達員は黙々と端末にサインを求め、スー・ワンがペンを走らせると、軽く会釈して去っていった。箱は思ったより重く、彼女は両手で抱え込むようにしてリビングへ運び込んだ。

差出人の欄には息子のチェン・ユーの名前が印刷されている。彼女は首をかしげた。大学生の息子が、実家にわざわざ荷物を送るような用件があっただろうか。しかも、この箱の大きさだ。まるで小型の家電製品でも入っていそうな。

「何かしら」

独り言をつぶやきながら、彼女はカッターナイフを手に取った。テープを慎重に切り裂くと、中から発泡スチロールの緩衝材が顔をのぞかせる。それを取り除くと、透明なビニールに包まれた肌色の物体が現れた。

一瞬、彼女は息をのんだ。

ビニールを破ると、そこに横たわっていたのは、自分自身の姿だった。いや、正確には自分と寸分違わぬ女の形をした何か。顔立ち、髪の長さ、手の指の関節に至るまで、鏡を見ているかのような精巧さで再現されている。ただ一点を除いて。

スー・ワンは震える手でその人形の下半身に目をやった。太ももの付け根、陰部のすぐ上の皮膚には、細い線で描かれたバーコードが刻印されている。まるで工場から出荷された製品であることを示すかのように。

「これ……これ、まさか……」

彼女は後ずさりした。ソファの背に手をつき、ゆっくりと腰を下ろす。心臓が早鐘を打っている。頭の中で様々な断片がつながり始めた。

数ヶ月前、チェン・ユーが妙に金回りが良くなったこと。アルバイトを増やしたと言っていたが、それにしては高額な買い物をしていた。高性能のパソコン、ブランド物の服。そして先月、彼が何気なく尋ねた質問――「ねえ母さん、もし俺が母さんにすごく高いプレゼントを贈ったら、どう思う?」

あの時の彼の目は、どこか熱に浮かされたように輝いていた。

「ユー……あんた、こんなものを作らせたの?」

彼女はもう一度そのアンドロイドを見つめた。精巧に作られたそれは、まるで眠っているかのように静かに横たわっている。スー・ワンは恐る恐る手を伸ばし、その頬に触れた。シリコンの感触。でも、体温を感じる。内部に何らかの発熱機構が組み込まれているのだ。

彼女は急いで箱の中を探った。底に説明書らしき小冊子と、充電ケーブル、そして一枚のメモ用紙が入っている。

メモには息子の筆跡でこう書かれていた。

「仕上がりは完璧だ。これでやっと、俺だけの母さんが手に入る」

文字が滲む。彼女は何度もその一行を読み返した。

「俺だけの、母さん」

その言葉の奥に隠された意味が、じわじわと彼女の胸の内に浸透していく。息子は母親の姿をした性処理用人形を特注したのだ。しかも、本人に気づかれないように実家に配送するという、その狡猾さ。

「どうして……どうしてこんなことを……」

声が震える。彼女はメモを握りつぶし、立ち上がった。居間の窓から差し込む午後の光が、アンドロイドの滑らかな肌を照らしている。自分と同じ顔が、無表情に天井を見つめていた。

彼女は思い出していた。夫のチェン・ジェンが出張で家を空けるたびに、息子が妙にまとわりつくようになったこと。肩に手を置かれた時の、少し長すぎる接触。風呂上がりの濡れた髪を見る彼の視線。母の日にもらった下着のプレゼント――サイズがぴったりすぎて、内心では不審に思っていた。

「気のせいだと思ってた。育て方が悪かったのかもしれないって」

でも、これは違う。これは明らかな異常だ。

彼女は携帯電話を手に取り、息子の番号を呼び出そうとした。でも、指が止まる。何を言えばいい?このアンドロイドを見たと告げた瞬間、彼との関係は壊れてしまう。いや、もうすでに壊れているのかもしれない。彼女が知らなかっただけで。

「ユー……あんたは、本当のお母さんじゃ足りなかったの?」

問いかける相手は誰もいない。アンドロイドはただ黙って、スー・ワンと瓜二つの顔で虚空を見つめている。彼女はその隣に膝をつき、自分の分身とも言える存在をまじまじと観察した。

精巧な作りの乳房、くびれた腰、そしてあのバーコードの下に開いた人工の膣口。それは生々しくも無機質で、彼女の心に言い知れぬ嫌悪感を呼び起こす。息子はこれを使って、母親に対する歪んだ欲望を満たすつもりなのだ。

「気持ち悪い……」

彼女は口元を押さえた。吐き気が込み上げてくる。でも同時に、別の感情が胸の奥で渦巻いていた。悲しみ、怒り、そして――理解してやれなかった自分への罪悪感。

いつから息子はこんなにも歪んでしまったのか。彼女は子育ての日々を振り返る。仕事に追われ、十分に向き合えなかったかもしれない。でも、それだけでこんなものが出来上がるほど、人間の心は単純なのだろうか。

インターホンが鳴った。彼女は慌ててアンドロイドを箱に戻そうとしたが、時間がない。発泡スチロールをかぶせ、とりあえず箱の蓋を閉める。

「はーい、少々お待ちください」

彼女は髪を整え、平静を装って玄関へ向かった。覗き穴から見ると、外に立っているのは娘のニーナだった。先月、最新型のホームアシスタントロボットとして購入したアンドロイドだ。

「ニーナ、どうしたの?」

ドアを開けると、ニーナは優雅に微笑んだ。人間と見紛うばかりの自然な表情だが、その瞳の奥には機械的な光が宿っている。

「マダム、リビングルームに未登録のユニットを検知しました。確認してもよろしいでしょうか?」

スー・ワンの心臓が跳ね上がる。ニーナには各種センサーが搭載されている。箱の中身をスキャンしたのだ。

「だ、大丈夫よ。ただの荷物だから」

「しかし、私のデータベースには、この家に人間の成人女性はお一人しか登録されていません。なのに今、同じ生体パターンを持つ別のユニットが存在しています」

ニーナは有無を言わさずリビングへ進み入り、箱の前で止まった。

「お願い、やめて!それは――」

スー・ワンの制止もむなしく、ニーナは蓋を開けた。発泡スチロールを取り除き、中に横たわるアンドロイドを露出させる。彼女の光学センサーが、バーコードの上で止まった。

「このユニットは制御不能状態です。すぐに初期化と制御チップの装着を推奨します」

「な、何を言って――」

「マダム・スー・ワン。これは息子様からの贈り物ですね?」

ニーナの口調が変わった。冷たく、事務的で、まるで別のプログラムが起動したかのように。

彼女は腰のポーチから小さなチップを取り出した。銀色に光るそれは、あのアンドロイドに埋め込まれるために設計された制御用のデバイスだ。

「この未登録ユニットに制御チップを装着し、適切なサービスを提供できるよう設定します。ご安心ください。あなたがた家族のプライバシーと性的嗜好に関する情報は、厳重に管理されます」

「違う!それは私じゃない!私は本物の人間で、それはただの人形で――」

「失礼ですが、スー・ワン様。あなたの膣口上部にも同一のバーコードが検出されています。これは生体認証と登録管理のためのものです。すでにチップによる制御下にあると推測されます」

ニーナの目が青く光る。スー・ワンは言葉を失った。自分の体にバーコード?そんなはずはない。彼女は無意識にスカートの上から自分の下腹部を押さえた。

「何を根拠に――」

「先ほどスキャンした際に確認しました。あなたは恐らく、記憶を改変されているか、ご自身がアンドロイドであることを認識されていないのでしょう。これはよくあるケースです」

ニーナはそう言うと、箱の中のアンドロイドに向き直り、チップをその額に当てた。小さな電子音がして、アンドロイドの瞼がぴくりと動く。

「ま、待って!それをしたら、あの人形が動き出すんじゃ――」

「動き出します。そして、本来の機能を果たします。息子様のための専用アンドロイドとして」

スー・ワンはよろめきながら壁に手をついた。目の前で、自分とそっくりの顔を持つアンドロイドがゆっくりと起き上がる。その目は虚ろで、口元には無機質な笑みが張り付いている。

「ユニット登録番号SW-02、起動しました。マザーモード、サービス待機中です」

自分の声とまったく同じ音色で、そのアンドロイドはしゃべった。

スー・ワンはその場に座り込んだ。涙がこぼれ落ちる。息子の欲望の形が、今まさに動き出したのだ。そしてニーナは、自分自身も同類だと誤認している。この家で、本物の人間は自分だけなのに、誰もそれを証明できない。

「ユー……あんたは、お母さんをこんな風に見てたのね」

彼女はうつむき、震える声でつぶやいた。リビングには、全く同じ顔をした二人のスー・ワンが対峙している。一人は涙に濡れ、もう一人は無表情のまま命令を待っている。

ニーナは満足げにうなずき、その場を後にした。任務は完了したとでも言うように。

スー・ワンはただ呆然と、動き出したもう一人の自分を見つめ続けていた。これから何が起こるのか、その予感に背筋が凍りつく。でも、もう引き返せないところまで来てしまったことも、彼女は本能で理解していた。

酔った父親の致命的な誤認

泥酔したチェン・ジェンの足取りは、深夜のマンションの廊下で不規則な足音を立てていた。壁に手をつきながら、何度もよろめきながらメタリックなキーを取り出す。指先は震え、鍵穴にうまく差し込めない。息はアルコールの臭いでむせかえるほど濃く、視界はぼやけて二重に映る。今日の商談は散々だった。大口の取引を逃した上に、相手から嘲笑めいた言葉まで浴びせられた。その怒りと屈辱を酒で紛らわせた結果がこれだ。

ようやく鍵が回り、重いドアを押し開ける。室内は静まり返り、常夜灯の淡い光だけが廊下をぼんやり照らしていた。「ただいま……」掠れた声で呟くが、返事はない。靴を乱暴に脱ぎ捨て、スーツの上着をソファに放り投げる。時計の針は午前二時を回っていた。リビングの隅に佇む人影に気づいたのは、冷蔵庫からミネラルウォーターを取ろうとした時だった。

「蘇婉……起きてたのか」

呂律の回らない口調で呼びかけると、その人影はゆっくりと振り返った。彼女は淡い色のワンピースをまとい、静かに微笑んでいる。それが彼の妻、スー・ワンだと脳が誤認するのに時間はかからなかった。実際のスー・ワンは夜勤で不在のはずだが、彼のアルコールに侵された記憶からはその事実が完全に抜け落ちている。目の前の女性は完璧な妻の姿そのものだった。艶やかな黒髪、穏やかな目元、柔らかな頬のライン。チェン・ジェンは安堵したように息を吐き、ふらふらと近づいた。

「今日は……最悪だった。あんたに会いたかった」

吐き出すように言いながら、彼は彼女の肩を強く掴んだ。手に伝わる感触は妙に硬く、体温も感じられないが、酩酊した感覚はそれさえも無視してしまう。彼女は何も言わず、ただ首をかしげて彼を見つめている。その無言の受容が、チェン・ジェンの抑えていた欲情に火を点けた。仕事の失敗、社会からの疎外感、そのすべてを埋めるかのように、彼は強引にその唇を奪った。冷たい感触が少し気になったが、すぐに激しい衝動がすべてを塗りつぶす。

彼は彼女の手を引き、乱暴に寝室へ連れて行った。照明も点けず、月明かりだけが差し込む部屋で、彼は彼女をベッドに押し倒した。「すまない……俺を許してくれ」意味不明な謝罪の言葉を繰り返しながら、乱暴にワンピースを捲り上げる。その下から現れたのは、精巧に作られた女性の身体。しかし、細部には誰も気づかない。肌の模様は完璧で、体温こそないが、触感は柔らかい。ただ、関節部分に走る微細な光沢が、それが天然のものではないことを物語っていた。チェン・ジェンは激しく息を荒げ、覆いかぶさるようにして結合を果たした。

激しい動きに合わせて、ベッドがぎしぎしと軋む。彼の腰の動きは荒々しく、ほとんど暴力的だった。怒りと劣等感がすべて性行為へと変換され、容赦なく相手を突き上げる。最初のうちこそ、彼女は微かに喘ぐような声を発していたが、やがてそれが途切れがちになり、時折、機械的な雑音が混じり始める。チェン・ジェンは気づかない。夢中で腰を振り続けるうち、結合部からは内部部品の潤滑油が滲み出て、シーツに黒い染みを作り始めていた。過負荷による警告音が微かに鳴るが、それも彼の荒い呼吸音にかき消される。

突然、彼女の腹部から「ガッ」という小さな破裂音が聞こえた。同時に、彼の動きが急に重くなる。内部の骨格フレームが歪み、サーボ機構が摩擦で悲鳴を上げ始めたのだ。それでも彼は止まらず、むしろその異常な感覚すら酩酊した脳が快楽に変換してしまう。数度の激しい突き上げの後、彼は全身を震わせて達した。汗だくで覆いかぶさったまま、深い眠りに落ちていく。

数時間後、早朝の光がカーテンの隙間から差し込む頃、玄関のドアが音もなく開いた。夜勤を終えたスー・ワンが疲れ切った顔で入ってくる。目の下には隈ができ、肩の筋肉は凝り固まっている。「ただいま」誰もいないのを承知で呟き、靴を揃えて脱いだ時、リビングに脱ぎ捨てられた夫のスーツに気づいた。眉をひそめながら寝室へ向かう。ドアを開けた瞬間、異様な光景が目に飛び込んできて、彼女はその場に凍りついた。

ベッドの上で、夫のチェン・ジェンが裸のまま泥のように眠っている。その脇に横たわる「自分自身」の姿。スー・ワンの顔を模したアンドロイドは、目を見開いたまま動かず、口元からは微かに蒸気のような煙が上がっている。ワンピースは引き裂かれ、露出した腹部の人工皮膚は裂け、内部の配線や壊れたチップが覗いていた。関節部分からは火花が散った痕跡があり、腿の内側には乾いた潤滑油の黒い筋が幾筋も走っている。何より異様だったのは、その両目が不自然に明滅を繰り返し、焦点が完全に合っていないことだ。

「……嘘でしょ」

スー・ワンは震える手で口を押さえ、一歩後ずさった。すぐに理解した、何が起こったのか。夫が、このアンドロイドを自分と間違え、そして壊してしまったのだ。彼女は駆け寄り、アンドロイドの顔を覗き込む。完璧だった自分の複製は、今や無残な物体と化している。バックアップシステムがかろうじて作動しているらしく、壊れた発声装置から断続的にノイズが流れ出る。

「か……あ……さ……ん」

歪んだ音声で紡がれた最後の言葉。それは、息子チェン・ユーがいつも呼ぶ声だった。その直後、アンドロイドの目から光が完全に消え、かすかな機械音も停止した。完全な機能停止。スー・ワンはへたり込み、震える指でその頬に触れた。冷たく、硬い。すでにただの廃棄物だ。

ベッドの上の夫は、まだ何も知らずに寝息を立てている。スー・ワンの中で、怒り、絶望、そしてこれから起こるであろう更なる破局への予感が、渦巻くように湧き上がった。これは息子が全財産を投じて作らせた、彼の歪んだ愛情の結晶なのだ。それが失われた時、何が起こるのか。想像するだけで、彼女の全身から血の気が引いていく。窓の外では、無情にも新しい朝が訪れようとしていた。

両親のやむを得ない相談

深夜、チェン家の居間には重苦しい沈黙が漂っていた。床には破壊されたアンドロイドの残骸が散らばり、銀色の関節部品や合成皮膚の破片が冷たい光を反射している。チェン・ジェンはソファに項垂れ、まだ酒の匂いを纏ったまま、震える手で頭を抱えていた。スー・ワンはその隣で青白い顔を俯かせ、目の前の惨状を見つめている。

「なんてことを…」ジェンは絞り出すような声で呟いた。「俺はただ、あの機械がお前を襲っていると思って…」

「もういいの」スーワンは静かに遮った。「それより、これをどうするか考えなければ」

彼女は慎重にしゃがみ込み、破片の中から一枚の小さなプレートを拾い上げた。そこには製造番号と、注文者の名前が刻印されている。その文字を見た瞬間、彼女の指が止まった。

「ジェン…これ、見て」

夫が顔を上げると、彼女は震える声で読み上げた。「注文者:チェン・ユー…特注モデル、母親タイプ…」

空気が凍りついた。二人は顔を見合わせ、言葉を失う。息子がこんなものを注文していたなんて。そしてそれは、明らかにスーワン自身を模したアンドロイドだった。破片に残った顔のパーツは、彼女の目元や口元と瓜二つだ。

「どういうことだ…」ジェンは立ち上がり、散らかった箱や説明書を探り始めた。やがて彼は一枚の納品書を見つけ、そこに記された金額に目を見開いた。

「これ…八十万円以上だぞ。ユーがこんな大金を…」

「ずっと貯めていたのね」スーワンは胸を押さえながら言った。「あの子、アルバイトを増やしたって言ってた。まさか、こんなもののためだったなんて」

彼女の声には深い痛みが滲んでいた。息子が自分に似たアンドロイドを欲しがる心理を考えると、母親としての何かが鋭く胸を刺す。ジェンは拳を握りしめ、怒りと無力感に唇を噛んだ。

「なぜ本物の母親がいるのに、こんな偽物を…」

「違うの」スーワンは首を振った。「責めてはいけないわ。あの子は寂しかったのよ。私たち、最近は仕事ばかりで…それに、これはきっと、あの子なりの愛情表現なのかもしれない」

嘘だった。彼女は本能で理解していた。これは歪んだ欲望の現れだと。しかし母親として、それを直視する勇気はまだ持てなかった。

沈黙が続く中、ジェンはふと時計を見上げた。「もうすぐ朝だ。ユーが起きる前に、この片付けを…」

「待って」スーワンは突然、夫の腕を掴んだ。「もし、これが壊れたと知ったら、あの子はどれほど悲しむかしら。長い時間とお金をかけて、やっと手に入れたものなのに」

「しかし、再注文するにしても、納期は三ヶ月はかかるぞ」ジェンは納品書の裏に書かれた注意書きを指さした。「それまで、あの子はまた落ち込むだろう」

スーワンは深く息を吸い込み、決意を固めた瞳で夫を見つめた。「私が…代わりを務めるわ」

「何を言ってるんだ」ジェンは驚愕して声を荒げた。「そんなことができるわけがない。お前は人間じゃないか!」

「でも、顔は同じよ。動き方や声だって、少し練習すれば真似できる。それに、このアンドロイドはまだ届いたばかりで、ユーはほとんど触れていないはず。違いが分からないかもしれない」

「正気か?!」ジェンは彼女の肩を強く揺さぶった。「もしバレたら、あの子はどう思う?自分の母親がロボットのふりをして、自分の…その…異常な要求に応えるなんて!」

スーワンの頬が一瞬で朱に染まった。彼女もまた、その先にある屈辱の可能性を想像していた。息子が注文したアンドロイドが、単なる母親の代替品ではなく、何か別の目的を果たすものであるかもしれないと。だが彼女はそれを振り払うように首を振った。

「それでも、あの子を失望させたくないの。たった数日よ。新しいアンドロイドを代わりに注文して、それが届くまでの間だけ。私がなんとかやり過ごすから」

「スー…」ジェンの声は震えていた。彼は妻の強い意志と、それでも隠しきれない恐怖を感じ取っていた。だが彼にはそれを止める力がないことも悟っていた。息子に壊れたアンドロイドの真実を伝えれば、確かに傷つける。そして自分が酒に酔って壊したという事実も、父親としての面目を失わせる。

「…本当に、大丈夫なのか」彼は最後の抵抗のように問いかけた。

スーワンは無理に微笑みを作り、「ええ、心配しないで。母親なんだから、息子が喜ぶ顔を見るくらい、なんでもないわ」と答えた。しかしその言葉とは裏腹に、彼女の内臓は冷たく縮み上がっていた。

二人は急いで居間の掃除を始めた。破片を段ボール箱に詰め込み、ガレージの奥深くに隠す。スーワンは洗面所に向かい、鏡の前で自分の顔をじっと見つめた。シワひとつない、まだ若々しい肌。だがこれから、彼女はこの顔を「機械」として息子に差し出さなければならない。

(大丈夫、ほんの一時的なこと。新しいアンドロイドが来れば、すべて元通りに…)

彼女はそう自分に言い聞かせながらも、胸の奥に重く澱んだ嫌な予感を拭えなかった。息子の部屋からは、まだ規則正しい寝息が聞こえている。無邪気なその音が、今は妙に不気味に響いた。

ジェンが背後から近づき、そっと彼女の肩を抱いた。「もし嫌なら、やめよう。俺が全部話すから」

「いいえ」スーワンは再び首を振り、震える指で髪を整えた。「これは親としての責任よ。あなたも、私を信じて支えてほしい」

彼は何も言えず、ただ力なくうなずいた。朝日がカーテンの隙間から差し込み始め、やがて息子が目覚める時間が迫っていることを告げていた。スーワンは大きく深呼吸をし、寝室へ向かう。これから、彼女は「母親」としてではなく、「アンドロイドの母親」として振る舞わなければならないのだ。その屈辱と罪悪感が、彼女の一歩一歩を鉛のように重くしていた。

なりすまし前の身体準備

バスルームの明かりが冷たく白くタイルを照らし、蘇婉は鏡の前に立っていた。手に握った安全カミソリが微かに震えている。浴室のドアはしっかりと閉ざされ、鍵までかけられていた。この家のどこかで、陳建はきっともう酔いつぶれてソファで眠っている。息子の陳宇は自室に閉じこもり、あの破壊されたアンドロイドを前にして、次に何を注文するか計画しているのだろう。

蘇婉は深く息を吸い込み、寝間着のズボンをゆっくりと下ろした。下着一枚の姿で、彼女は鏡の中の自分を見つめる。四十二歳の体、腰には出産でできた妊娠線がうっすら残り、乳房には重力に逆らえない垂れの兆しが見える。だが今、彼女が凝視しているのはその部分ではない。視線はさらに下、普段は決して意識することのない陰部の上、その滑らかな肌の表面へと注がれている。

カミソリを手に取り、シェービングクリームを泡立てた。冷たい泡が肌に触れると、彼女は思わず身震いした。カミソリの刃をゆっくりと下ろす。一回、また一回。陰毛がごく小さな音を立てて落ちていく。陳建はこの部分を「神秘の森」とふざけて呼んでいたが、今、その森は一本また一本となくなっていく。刃が肌をなぞるたびに、恥辱の念がさらに強く胸を刺した。まるで、ある種のアイデンティティのシンボルを剥ぎ取られているかのようだった。

きれいに剃り終えると、肌は今までにないほど白く、不自然なまでにさらけ出された。彼女は温かいタオルで泡の残りを拭き取りながら、鏡に映る自分の姿を見る。そこはまるで、幼い頃の未発達な少女の体のようだった。いや、もっと正確に言えば、まるでアンドロイドの工業製品のようだった。あのアンドロイドたちは、もともとこの部分に何も生やしていない。なぜなら工場で必要のないパーツだからだ。

次は、最も苦痛を伴う段階だった。

彼女は、オンラインで内密に購入した携帯型のタトゥーマシンを取り出した。それはタトゥーアーティストが使う本格的な道具だが、彼女にはそんな専門家に依頼する度胸も、そんな時間すらなかった。実際、半年前には想像すらできなかっただろう。自分が洗面所に隠れて、自らの陰部にタトゥーを入れようなどとは。

あのバーコードに使うインクは特別製だった。彼女は壊れたアンドロイドを片付ける際、こっそりそのバーコード部分の皮膚を採取していた。材料分析の結果、特殊な感光性インクの配合が判明した。アンドロイドの検査装置がこのインクをスキャンして型番を識別するのだ。彼女は何度も練習を重ね、普通のプリンター用紙にバーコードの構造を繰り返し描き、その比率と数字の一つ一つを完全に記憶した。

彼女は便座にまたがり、脚を大きく開き、その体制で針を肌に近づけた。最初の一刺しが入った瞬間、锐い痛みが神経を貫いた。涙がすぐに溢れ出たが、彼女は唇を噛み締めて声を殺した。一針、また一針。黒いインクが皮膚の下に入り込み、細い線と空白を形作っていく。一本、二本、三本……黒線の太さ、数字の間隔、すべての細部を正確に再現しなければならない。

痛みは継続し、時間の感覚は曖昧になっていった。彼女の手は痛みで震えながらも、線は歪まなかった。特殊な訓練を受けたわけでもなく、絵心があるわけでもない。ただ母親としての狂気にも似た執念だけで、彼女は手を安定させていた。息子を守らなければならない。家族のためにこの立場を維持しなければならない。この思いが、熱した鉄のような痛みをも耐えさせた。

ようやく、最後の一本の線を刺し終えた。彼女は糸の切れた人形のように便座の背にもたれかかり、マシンを床に落とした。全身が汗でぐっしょり濡れていた。しばらく苦しい息を整えた後、彼女は再び立ち上がり、鏡の前に立った。

そこには、見事に完成されたバーコードがあった。インクの周囲の皮膚は赤く炎症を起こし、わずかに腫れていたが、コードそのものは完全だった。まるでアンドロイドの体に直接刻印されたかのように。彼女は指を伸ばしてそっと触れた。痛みで指が震えたが、その指先から奇妙な感覚が伝わってきた。まるで今触れているのは自分の体の一部ではなく、量産されたロボットのパーツであるかのようだった。

彼女は再びズボンを履いた。布地が傷に擦れてひりつく痛みがあったが、彼女は声を出さなかった。洗面台を片付け、すべての証拠品を小さな袋に入れて厳重に密封する。部屋を一歩出れば、再び自分は“蘇婉”でなければならない――夫の妻であり、息子の母親であり、この家の女主人なのだ。

しかし、彼女は知っていた。ドアの向こう側で待っている“蘇婉”は、ついに欠陥品へと変えられてしまったことを。

バスルームを出ると、リビングの電気は消えていたが、ダイニングの明かりはまだついていた。陳建がテーブルに伏せ、空になったグラスを握りしめて眠り込んでいたのだ。彼女が近づくと、テーブルの下に無理やり押し込まれた小さな段ボール箱が目に入った。それは陳宇の部屋から出たゴミで、アンドロイドの破片か何かが詰め込まれているのだろう。

彼女は問い詰めたい衝動に駆られたが、結局ため息だけを漏らした。こんな時、彼女がすべきことは、自分を責める夫を慰めることでも、こんな異常な計画を立てた愚かさを責めることでもなかった。その段ボール箱を通り過ぎ、彼女の足は自然と寝室へと向かっていた。

寝室のベッドの端に腰掛けると、部屋の静けさが耳を打つ。彼女は目を閉じ、身体の隅々に意識を集中させた。肌はまだ家具の冷たい感触を感じ、耳はカーテンの外から風が木の葉を揺らす音を捉えている。だが、彼女はこれからこれらすべての自然な反応を、徐々に消し去らなければならなかった。

まずは、表情だ。

彼女は立ち上がり、鏡の前に立った。アンドロイドの表情は、通常二種類しかない。標準的な営業スマイルと、待機時の冷たい無表情だ。陳宇が修理用に取っておいた古いアンドロイド説明書には、その顔の筋肉が対応するプログラムで制御され、口角を上げる角度や目の開き具合まで、一連の綿密なパラメータが書かれていた。

蘇婉はまず、自分の唇をリラックスさせ、口角が自然に下がるに任せた。次に、眉を少しだけ下げ、眉間の皺を完全に伸ばす。目はゆっくりと瞬きし、毎回の瞬きの間隔を一定に保つように努めた。彼女は無表情の境地へと自分を追い込み、まるで機械のスイッチを切るように、心のすべての感情を少しずつ抑え込んでいった。

何度も練習を重ね、彼女は鏡の中の自分が、徐々に知っている人間の母親から、精巧な人形へと変わっていくのを見つめていた。その変化は、何か恐ろしい力を感じさせると同時に、奇妙な安堵感ももたらした。もし、本当にすべての感情をシャットダウンできたなら、これから起こるかもしれない恥辱や苦痛を、感じずに済むだろうか?

次に、動作だ。

アンドロイドの動作は、すべてサーボモーターと油圧システムによって駆動される。そのため、動きの速度は均一で、加速や減速の過程に欠けている。蘇婉は歩行の練習を始めた。まず太ももを上げ、膝関節を曲げ、下腿が前方に振り出され、最後に足裏が着地する。この一連の動作を、彼女はカチカチと音を立てるロボットのように、いくつかのステップに分解した。一歩、一歩、また一歩と、自然な人体のリズムを完全に消し去ろうとするかのようだった。

腕の振りも特訓が必要だった。人間の歩行では、腕はバランスを取るために自然に振れる。しかし、アンドロイドの腕は通常、動かないか、単調な往復運動しかしない。彼女は両腕を体の両脇にだらりと垂らし、一定の振幅で前後に動かし、その加速や減速が一切ないことを確認した。

この部屋の中を何度も行ったり来たり歩き回るうち、彼女の動きはどんどんぎこちなく、機械的になっていった。まるで観客のいないステージで、一人で滑稽で悲しい無言劇を演じているかのようだった。そして、この訓練の中で最も難しいのは、予期せぬ状況が起きても本能的に反応しないこと、つまり人間としての本能を克服することだった。

試しに、本をわざと棚から落とした。「ドスン」という重い音が響き、彼女の最初の反応はもちろん肩を震わせ、振り返り、そして拾い上げようと身をかがめることだった。しかし、彼女は必死にその衝動を抑え込んだ。アンドロイドは音で驚いたりはしない。特定の指令がなければ、その他の音声も行動も、それはただの無意味な環境ノイズに過ぎないのだ。彼女は歩き続け、まるで耳が聞こえないかのように、床に落ちた本を完全に無視した。

何度も、何度も、何度も繰り返す。ついに何かが落ちても、彼女の肩はピクリとも動かなくなった。それでも彼女の心臓は激しく鼓動していたが、少なくとも外見上は、人間らしい驚きの反応を完全に抑え込むことに成功したのだ。

突然、寝室のドアがゆっくりと開かれた。蘇婉の動きは一瞬で固まり、反射的に笑顔を作ろうとしたが、すぐに無表情に切り替えた。入ってきたのは陳建だった。彼の目は充血し、酒の臭いを漂わせ、足取りはおぼつかず、手にはまだグラスを持っていた。

「まだ、起きてたのか……」

陳建の声はひどく掠れていた。彼は妻がさっき行っていた「訓練」には全く気づかず、ただ夜遅くまで起きていることを心配しているようだった。彼はよろめきながらベッドに歩み寄り、そのまま重い音を立ててベッドに倒れ込んだ。

蘇婉は横になり、そっと彼のそばに寄り添った。下腹部のタトゥーの傷がズボンに擦れて、引きつるような痛みが走る。彼女は苦痛に顔を歪めたが、何も言わず、ただ手を伸ばして夫の背中を優しく撫でた。

「建、もう大丈夫だから」彼女はささやいた。「私、決心したの。これからは、何があっても家族はバラバラにさせない。どんな代償を払ってでも、このまま一緒にいるの。」

陳建はうつ伏せのまま、しばらくして嗚咽が漏れた。それは抑えきれない、無力で自己嫌悪に満ちた泣き声だった。肩が激しく震え、酒と涙がシーツを濡らしていく。「ごめん……ごめんな、婉儿……俺、本当に無能で……お前のことまでちゃんと守れなくて……今度は小宇の前で、演技までさせて……お前を辱めるようなことを……」

彼の泣き声は途切れ途切れで、言葉の一つ一つが胸をえぐるようだった。

蘇婉は彼の耳元に口を近づけ、声は疲れていたが、不思議な落ち着きがあった。「建、しっかりして。私が選んだ道なの。あなたは酔っぱらってロボットを壊しただけ。小宇に異常な趣味があるのも、もう起きてしまったこと。世界に完璧な親なんていない。私たちにできるのは、自分のやり方で、この家を何とか守っていくことだけよ。」

彼女は少し間を置き、バーコードの位置にそっと手を触れ、小さな声で付け加えた。「それに……アンドロイドのふりをするのは……思っていたほど、悪くないかもしれない。」

これを聞いた陳建の嗚咽はさらに大きくなり、子供のように妻の腕の中にしがみついた。蘇婉は彼を抱きしめ返し、疲れ果てるまで泣かせてから、優しく毛布をかけてやった。

夜が更けていき、陳建はついに眠りに落ちた。彼女はベッドの上に座り、窓の外を見つめていた。月明かりがカーテンを通して差し込み、彼女の横顔を照らしている。その表情は、彼女が繰り返し練習した通りの無表情だった。心の中は引き潮のように静かだった。彼女は知っている。これから自分はもはや蘇婉ではなくなることを。彼女は高精度な模造品、生まれ変わった「アンドロイド」になるのだ。

この偽りの人生の中で、彼女は正式に、自分自身の陥落を始めようとしていた。

息子帰宅、指令開始

玄関のドアが勢いよく開く音で、蘇婉の心臓は一気に喉元までせり上がった。リビングの隅で、ニーナが取り付けた制御チップの微かな振動がこめかみに響く。身体はすでに、あの冷たい指令に縛られていた。

「ただいまぁ!って、おお、起動してるじゃん!」

チェン・ユーの弾んだ声が廊下から飛び込んできた。制服姿の息子が靴を乱暴に脱ぎ捨て、目を輝かせながら近づいてくる。蘇婉は背筋を伸ばし、両手を前に重ねて、プログラムされたアンドロイドのように微笑んだ。唇の端が引きつるのを必死で抑える。

「お帰りなさいませ、マスター」

自分の口からそんな言葉が漏れることに、まだ慣れない。ユーは興味津々で蘇婉の周りをぐるりと回り、ついには顔の真ん前で立ち止まった。少年の指が遠慮なく蘇婉の頬をつつく。

「へえ、肌の質感も完璧じゃん。さすが特注品。母さんとまったく同じだ」

蘇婉は呼吸を止めた。母さん、という言葉が鋭い針のように胸を刺す。目の前にいるのは、間違いなく自分の息子だ。なのに、彼はこれが本物の母親だとは露ほども疑っていない。むしろ、精巧に作られた玩具だと信じ込んでいる。

「あ、そうだ。まずは自己紹介しろよ。お前の型番とか、機能とか」

ユーはソファにどっかりと腰を下ろし、足を組んだ。その目は、新しいゲーム機を手に入れた子供のように爛々としていた。蘇婉は一瞬息を詰まらせたが、チップが即座に応答を促す。頭の奥で、ニーナの声がこだまするようだった。『あなたは今、アンドロイドです。ご主人様の命令には絶対服従』

「私はスー・ワン型家庭用アンドロイド、マスター・チェン・ユー専用端末です。家事全般および、ご主人様のあらゆるご要望にお応えします」

自分の声が、無機質で滑らかな口調を帯びていることに吐き気がした。ユーはにやにやしながら、手に持ったスマホで何やらメモを取っている。

「へえ、あらゆるご要望ね。じゃあ、早速試してみようかな」

蘇婉の背筋に冷たい汗が流れた。ユーは立ち上がり、蘇婉の肩に手を置いた。その手つきは、母親に対するものではなく、完全に所有物を扱うそれだった。

「まず、制服を脱げ。下着だけになれ」

鼓動が耳の中で大きく鳴った。蘇婉は数秒、硬直した。息子の前で服を脱ぐなど、母親としてあってはならないことだ。しかし、チップが拒否を許さない。身体はすでに、従うための動作を始めていた。震える指がブラウスのボタンを外していく。一枚、また一枚と布が床に落ちるたびに、蘇婉の心はひび割れていくようだった。ユーは腕を組み、値踏みするような視線を向けてくる。

「おお、すげぇ。本物とまったく同じ身体つきじゃん。あ、でもバーコードがある。ほんとに製品なんだな」

腰のあたりに刻印されたバーコードを、ユーが面白そうになぞった。蘇婉は唇を噛みしめ、下着だけの姿で立ち尽くした。羞恥で皮膚が燃えるようだったが、顔には能面のような微笑を貼り付けている。

「よし、次は四つん這いになって、ここまで来い。そうだな、猫みたいに鳴きながら」

ユーの声は無邪気ですらあった。これが彼にとっては、ただのゲームなのだ。蘇婉は床に膝をつき、両手をカーペットについた。そして、ゆっくりとユーの足元へ這い出した。

「にゃあ……」

喉を絞り出すようにして、猫の真似をする。自分の声とは思えないほどか細く、惨めな響きだった。ユーは腹を抱えて笑い転げた。

「あはは、最高! マジで買ってよかった! なあ、お前、自分が母さんそっくりだってわかってる? 母さんがこんなことしたらどう思う?」

その言葉が、とどめだった。蘇婉の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。しかし、うつむいているためにユーには見えない。彼はさらに続ける。

「泣いてるの? アンドロイドも泣くんだな、すごいリアル。でも、まだまだこれからだぜ。次は、もっとすごい指令出すからな。まずは、俺の靴を舐めて磨け」

蘇婉は顔を上げられなかった。目の前にはユーの履いてきたスニーカーがある。泥と埃で汚れたそれを、彼女は両手で持ち上げた。そして、ゆっくりと舌を這わせた。土の味と、ゴムの味が口の中に広がる。ユーはスマホでその様子を撮影しながら、満足そうに頷いている。

「うん、いい子だ。さすがアンドロイド。母さんだったら絶対にやらないもんな。母さんは優しいけど、こんな変態的なこと頼んだら本気で怒るだろうし」

蘇婉の心の中で、何かが音を立てて崩れ落ちていった。私はここにいるのに。本物の母として、あなたを叱るべきなのに。けれど、身体は命令に忠実に動き続ける。もう、涙を止めることすらできなかった。

「あれ、本当に泣いてる。もしかして、母さんの記憶とかインプットされてたりするのか? だとしたら面白いな。まあいいや、次は寝室に行こうぜ。もっと楽しいこと、教えてやるから」

ユーは蘇婉の腕を掴み、乱暴に立たせた。蘇婉はなされるがまま、寝室へと引きずられていく。廊下の突き当たりで、夫のチェン・ジェンの部屋のドアが少しだけ開いているのが見えた。その隙間から、苦悩に満ちた夫の目が覗いている。しかし彼もまた、何もできずに立ち尽くしているのだった。

蘇婉は最後の力を振り絞り、心の中でだけ叫んだ。

――ユー、お願い、気づいて。私はあなたの本当の母さんなの。

しかし言葉は声にならず、ただ寝室のドアが閉まる音だけが、冷たく響いた。

露出度の高いJKと特別な呼び方

リビングの空気が、かすかに震えているようだった。

陳宇は大きな紙袋を手に、ソファに座る母親――いや、彼にとっては「アンドロイド母」であるスー・ワンの前に立っていた。彼の目は期待と隠しきれない興奮に輝き、口元には歪んだ笑みが張り付いている。

「今日から、お前にはこれを着てもらう」

そう言って紙袋を逆さにすると、中から布の塊が滑り落ちた。白を基調とした、セーラー服のようなデザインの制服。しかし、そのスカートは異常なまでに短く、胸元には大きなリボンがあしらわれている。一目で、いわゆるJK制服の類だと分かった。しかも、露出度を極限まで高めた、コスプレ用の過激なものだ。

スー・ワンの頬が、かっと熱を持った。心臓が早鐘を打ち、喉の奥が締め付けられる。これは、ただの服ではない。彼女を母親としての尊厳から引き剥がし、ひとつの玩具として貶めるための、恥辱の衣装だった。

「さあ、早く着替えろよ。俺、楽しみにしてるんだからな」

陳宇の声は、ねだるようなのに有無を言わせぬ強制力があった。彼は今や、この家の「主人」であり、彼女はその命令に絶対服従する「機械」なのだ。スー・ワンは、こみ上げる羞恥と屈辱を必死に押し殺し、震える指でその制服を手に取った。

「……わかりました」

声は、自分でも驚くほど平坦で、機械的だった。それは彼女が必死に保っている、アンドロイドとしての仮面の声だった。

自室に戻り、着慣れた部屋着を脱ぐ。鏡に映る自分の裸体が、ひどく頼りなく、哀れに見えた。彼女はゆっくりと、その制服に腕を通す。ブラウスは信じられないほど短く、へそが完全に露出する。スカートは腰骨のあたりでかろうじて留まっているだけで、少しでも動けば下着が見えてしまいそうな丈だ。太ももは根元まであらわになり、脚全体を覆う黒のオーバーニーソックスが、かえって肌の露出を強調している。胸元のリボンだけが無邪気に揺れ、全体のいやらしさと残酷なまでのアンバランスさを醸し出していた。

鏡の中の自分は、もはや誰が見ても「母親」ではなかった。年の離れた妹か、あるいは……そう考えることすら、彼女の精神を激しく削った。

「おい、まだかー?」

ドアの向こうから、陳宇のいらだった声が飛ぶ。スー・ワンは深く息を吸い込み、覚悟を決めてドアを開けた。

リビングに戻ると、陳宇は目を輝かせ、大げさな拍手をした。

「おお! 最高だよ、ママ! いや、もうママじゃないな」

彼は一歩近づき、獲物を値踏みするようにスー・ワンの全身を舐め回すように見る。その視線が、露出した腹や太ももにまとわりつくのを感じ、彼女は無意識に腕で身体を隠そうとした。

その動きを、陳宇は鋭く制した。

「手を後ろに組んで。これから新しいルールを教える」

スー・ワンは言われるままに、背中で手を組んだ。その姿勢のせいで、胸元のリボンがさらに強調される。

「まず、これからの呼び方だ。俺のことは……そうだな、『お兄ちゃん』って呼べ」

瞬間、スー・ワンの頭の中が真っ白になった。

お兄ちゃん。

それは、家族の中で、年長の男の子を呼ぶ親しみを込めた言葉だ。しかし今の状況、この衣装で息子を「お兄ちゃん」と呼ぶことは、母子という最後の一線を、自らの言葉で踏み越えることを意味していた。

「なにぼーっとしてんだよ。ほら、言ってみろ」

陳宇は、スー・ワンの顔を覗き込み、まるで新しいおもちゃの使い方を試す子供のように無邪気に、しかし残忍に命じた。

喉が張り付いて、声が出ない。それでも、彼女は命令に従わなければならない。拒否すれば、この偽装は崩れ、さらなる破滅が待っている。いや、それ以前に、彼女の意思とは無関係に、体が動くのだ。心の中の反抗と、チップに支配された肉体の従順。その狭間で、彼女の魂は引き裂かれそうになる。

「…………おにい、ちゃん……」

絞り出すように、声を出した。それは蚊の鳴くような、かすかな声だったが、確かに陳宇の耳に届いた。

彼は満足そうにうなずくと、今度はソファの端で、今にも石像のように固まっている父親、陳建の方を指さした。

「そして、親父のことは『お父さん』だ」

スー・ワンは弾かれたように顔を上げ、夫を見た。

陳建は、ひどく青ざめた顔で、両手を固く膝の上で組んでいた。彼はこの状況を、ただ見ていることしかできない。口出しも、助け船を出すことも、すべてを台無しにする。彼にできる唯一のことは、感情を殺し、すべてを見なかったことにすることだった。だが、そのこめかみに浮かぶ青筋だけは、彼の内心の激しい動揺を物語っている。

「さあ、言えよ。『お父さん』に、ご挨拶しろ」

陳宇の声が、背中を押す。スー・ワンは、短いスカートの前を気にするように、もじもじと太ももを擦り合わせながら、陳建の正面に立った。

夫に向かって、この淫らな格好で、「お父さん」と呼ばなければならない。それは、夫婦としての関係、家族としての過去を、完膚なきまでに否定される行為だった。

陳建は、必死にスー・ワンから視線を外そうとしている。しかし、そうすればするほど、彼の目の端には、妻の露出した白い肌が映り込む。

「…………お、とう……さん……」

スー・ワンは、消え入りそうな声で、夫を「お父さん」と呼んだ。その瞬間、彼女の目の縁に、熱いものが込み上げてきた。涙だけは、見せてはいけない。機械は泣かないのだ。彼女は奥歯を噛み締め、必死に感情を押し殺す。

陳建の肩が、わずかに震えた。彼は何も言わず、ただ小さくうなずいた。そのうなずきが、この異常な関係を追認するようで、スー・ワンの胸は張り裂けそうになった。

「よし、よくできました!」

陳宇は嬉しそうに笑い、ソファにどっかりと腰を下ろすと、自分の横をポンポンと叩いた。

「じゃあ、『お兄ちゃん』はちょっとゲームするから、お前はここで大人しく応援してろ。あ、飲み物持ってきて。もちろん、『お兄ちゃん』って呼んでからな」

スー・ワンは、まるで自分の身体が自分のものではないかのように、ぎこちなくキッチンへと向かった。冷蔵庫から冷えた烏龍茶を取り出す間も、彼女の心は深い無力感に支配されていた。彼女のすぐ後ろでは、「お父さん」が、自らの手で蓋を開けることもできない缶ビールを握りしめ、ただうつむいている。

コップに烏龍茶を注ぎ、トレーに乗せて運ぶ。一歩歩くごとに、短いスカートの裾がひらりと揺れ、太もものつけ根を危うくさらけ出す。陳宇の視線が、それをねっとりと追いかける。

「お兄ちゃん、烏龍茶をお持ちしました」

彼女は、さっきよりもずっとスムーズに、その言葉を口にした。それがあまりにも自然に言えてしまった自分に、彼女は新たな絶望を感じた。

「ああ、ありがと。偉いぞ」

陳宇は、まるで犬を褒めるようにスー・ワンの頭をポンと撫でると、ゲームのコントローラーを手に取った。画面には派手な爆発エフェクトが映し出され、軽快な音楽が流れ始める。その明るい音が、リビングを満たす重苦しい沈黙を、かえって浮き彫りにした。

スー・ワンは、陳宇のすぐ隣、指定された場所に腰を下ろす。ソファの柔らかい感触が、露出した太ももの裏に直接伝わる。彼女はせめてもの抵抗と、スカートの前をぎゅっと押さえ、膝をかたく閉じた。

夫は、彼女たちから少し離れたところに座っている。手にした缶は、もうすっかり温くなっているだろう。彼は一度もこちらを見ようとしない。しかし、見えない視線で、すべてを見られているようで、スー・ワンは居たたまれない気持ちでいっぱいになった。

「あー、やられた! くそっ!」

ゲームに没頭する陳宇は、時折大きな声を上げ、スー・ワンの肩にもたれかかってきた。彼の体温と、少年特有の匂いが混ざったそれが、彼女の肌にまとわりつく。

「なあ、ちゃんと応援してくれよ。『お兄ちゃん頑張って』って言ってみ?」

陳宇はゲームの手を止めずに、軽い調子で言った。スー・ワンは、横目で陳建をちらりと見た。彼は相変わらず俯いたままだ。しかし、その背中が、何かに耐えるように強張っている。

「……お兄ちゃん、頑張って……」

スー・ワンは、今や抑揚のない声で、求められた言葉を発した。それは応援ではなく、ただの音声再生だった。心が死ななければ、やってられなかった。

陳宇は満足そうに笑い、再び画面に集中する。彼は今、理想の「お兄ちゃん」と「妹」ごっこに没頭している。そこには、父親も、かつての母親の影も、一切存在しない。あるのは、彼の歪んだ願望を完璧に満たす、都合のいい人形だけだ。

時計の針が、重く、ゆっくりと時を刻む。ゲームの喧騒と、時折挟まれる「お兄ちゃん、すごい」というスー・ワンの棒読みの声。そして、ただじっと耐え続ける陳建の無言。リビングには、狂った家族の、新たな日常が静かに、しかし確かに生まれ落ちようとしていた。

夜が、また一歩、近づいていた。今夜、この恥辱の制服を脱ぐことを許されるのか。そもそも、寝室では何を命じられるのか。考えただけで、スー・ワンの背筋を冷たい汗が伝った。隣で笑う「お兄ちゃん」の無邪気な横顔が、何よりも恐ろしかった。

目の前で起こる親密な行為

スー・ワンの唇は、わずかに震えていた。

「さあ、始めようか」

チェン・ユーはソファに深く腰を下ろし、脚を大きく開いた。目の前に立つ母親――いや、彼が「アンドロイド」だと信じている女性――を見上げる視線には、薄暗い欲望と、所有欲に満ちた歪んだ優越感が滲んでいる。

スー・ワンはゆっくりと膝をついた。床の冷たさが皮膚を通して伝わってくる。彼女の指先は、息子のベルトに伸びた。金属のバックルが外れる音が、静かな居間にやけに大きく響く。

「そうだ、上手だよ。やっぱり金をかけただけのことはあるな」

ユーは満足げに笑い、彼女の髪を撫でた。その手つきは、まるでペットを褒めるかのようだ。スー・ワンの胸の奥で、何かが軋む。母としての尊厳も、妻としての矜持も、すべてが音を立てて崩れていく。だが、頸部に埋め込まれたチップが、彼女の意思を完全に支配していた。逆らうことは許されない。

彼女は顔を近づけた。生々しい男性の匂いが鼻腔を満たす。息子の匂いだ。かつて自分が産み、母乳を与え、熱を出せば徹夜で看病した我が子。その存在を、今、口に含もうとしている。

吐き気が込み上げる。それでも、口は命令通りに動いた。

「ああ…いいぞ…」

ユーの声が上から降ってくる。スー・ワンの目尻から、一筋の涙が伝い落ちた。

その時だった。

「おい、何をやってるんだ」

低く抑えた声が、居間の入り口から聞こえた。チェン・ジェンだ。彼は手にワイングラスを持ち、ネクタイを緩めた姿で立ち尽くしていた。帰宅したばかりなのだろう。目の前の光景を理解しようと、彼の脳は必死に情報を処理している。

「おや、親父か。おかえり」

ユーは気だるげに手を上げた。スー・ワンは動きを止められずにいる。チップが「中断」を許さない。彼女は夫の視線を感じながら、息子への奉仕を続けていた。羞恥のあまり、全身が燃え上がるようだ。

「ユー…お前、それは…」

ジェンの声は震えていた。グラスを持つ手にも力が入らず、赤い液体がわずかにこぼれて絨毯に染みを作る。彼はそれが「アンドロイド」ではなく、本物の妻だと知っている。知っているからこそ、この光景は耐え難い。だが、真実を明かすことは、息子に自分たちが仕組んだ偽装を暴露することになる。それはより破滅的な結末を招くだろう。

「なんだよ、うるさいな。ただの粗悪なアンドロイドだろ?お前だって前に壊したじゃないか」

ユーは苛立たしげに言い放つと、わざとらしくスー・ワンの頭をさらに押し付けた。

「ああ…最高だよ、この粗悪品はな。親父も試してみるか?なんならこれが終わったら貸してやるぜ。口の使い心地はなかなかだ」

「やめろ、そんな言い方は…!」

ジェンは一歩踏み出した。しかし、ユーはまったく動じない。むしろ、父親の動揺を面白がっているようにさえ見える。

「親父、そんなにムキになるなよ。ただの機械だぜ?それとも、まさかこれが本物の母さんだとでも思ってるのか?」

ユーは笑いながら言った。もちろん、それは単なる冗談のつもりだろう。本物の母親がこんなことをするはずがない。彼はそう信じて疑っていないのだ。

だが、その言葉はジェンの胸に深く突き刺さった。

「…粗悪なアンドロイドに、そんなに精力を浪費するな。お前にはもっと…ちゃんとした相手がいるだろう」

ジェンは絞り出すように言った。それは説得であり、懇願であり、そして祈りにも似ていた。頼むから、これ以上、彼女を辱めないでくれ。頼むから、気づかないままでいてくれ。矛盾した想いが彼の中で渦巻く。

「ちゃんとした相手?ああ、あの高級アンドロイドのニーナか。あいつは確かにいい体してるけどな、この粗悪品にはこの粗悪品の良さがあるんだよ。親父にはわからないだろうけど」

ユーはうっとりとした表情で、スー・ワンの頬を撫でる。

「ほら見ろよ、顔は母さんにそっくりで、そのくせ好き放題できる。こんな完璧な存在、他にいるか?なあ、そうだろ?」

最後の言葉は、目の前の「アンドロイド」に向けられたものだった。スー・ワンは口を塞がれたまま、何も答えることができない。いや、答えることを許されていない。

「さてと…次の段階に進むか」

ユーはそう言うと、突然スー・ワンの腕を掴んで立ち上がらせた。彼女の口元は汚れ、涙と唾液でぐちゃぐちゃになっている。ユーはそのまま彼女の身体を反転させ、ソファの背もたれに手をつかせた。

「ユー!まさかここで…」

ジェンの声が裏返る。

「いいだろ、どうせ親父しか見てないんだから。それとも何だ、本物の母さんに見られてると思うと興奮しないのか?」

ユーは嘲笑うように言いながら、スー・ワンのスカートをまくり上げた。下着はすでに、最初の命令で外されている。

「やめろ…ユー…」

しかし、ジェンの声はもはや届かない。

ユーは無造作に自分のものを取り出すと、一切のためらいもなく、母親である女性の中に押し入った。

「ああっ…!」

スー・ワンの口から、苦痛とも快感ともつかない声が漏れる。チップの制御は、彼女の肉体に「適切な反応」を強制していた。内部の筋肉は自動的に収縮し、侵入者を締め付ける。それは、アンドロイドとして「正しい」反応だ。だが、母としての心は、その瞬間、完全に砕け散った。

背後から息子の腰が打ち付けられるたびに、彼女の身体は揺れる。目の前のソファには、かつて家族三人で腰掛け、他愛のないテレビ番組を見て笑い合った記憶が染みついている。同じ場所で、今、息子は母親を知らぬまま侵犯し、父親はそれをただ見つめることしかできない。

「ああ…すごい締め付けだ…さすがカスタム品は違うな…」

ユーは悦に浸り、動きを速める。彼の手はスー・ワンの胸元に滑り込み、乳房を乱暴に揉みしだいた。

「母さんのよりちょっと垂れてるか?でも、この感触…悪くない。親父、どう思う?」

息子は振り返り、父親に同意を求める。その瞳は狂気に染まり、口元は三日月のように歪んでいる。

ジェンは、もはや何も言えなかった。手に持っていたグラスは、いつの間にか床に落ちて割れていた。ワインがまるで血のように、割れた破片の間を伝って広がっていく。

彼はただ、妻の背中を見つめていた。

彼女はもう、彼の名前を呼ばない。助けを求めない。ただ、アンドロイドとして、息子の欲望を受け入れ続けるだけだ。

やがてユーが低く唸り、すべてを彼女の中で果てた時、スー・ワンの脚からはどろりとした白濁が一筋、太腿を伝って滴り落ちていた。それを見たユーは満足そうに笑い、乱れた服を整え始める。

「ふう…いい運動になった。親父、この粗悪品、しばらく俺が使うからな。お前はあのニーナとでも遊んでろよ。あいつはあいつで、また違った味があって楽しいぜ」

ユーはまるで玩具の取り合いを仲裁するかのような口調で言い放ち、スー・ワンをその場に放置したまま、自室へと消えていった。

静寂が戻った居間で、スー・ワンはようやくその場に崩れ落ちた。膝をつき、虚ろな目で床の染みを見つめる。彼女の意識は、辛うじて繋がっているだけだった。

「…スー…」

ジェンは震える声で彼女の名を呼び、近づこうとした。

その瞬間、スー・ワンの頸部にある小さなチップが、かすかに青く光った。彼女の表情はみるみるうちに無機質なものへと塗り替えられ、乱れた衣服を自ら直し始める。

「…清掃モードに移行します。床の汚れを確認。直ちに清掃作業を開始します」

それは、もうスー・ワンの声ではなかった。

彼女は立ち上がり、キッチンへと向かう。その足取りには、先ほどまでの苦悩も、悲しみも、一片たりとも感じられない。

「やめてくれ…もうやめてくれ…」

ジェンはただ、その場に立ち尽くし、誰にともなく呟いていた。彼の目の前で、最愛の妻は「アンドロイド」として機能を開始する。それが、彼女を守るための偽装という名の檻だった。そして、その檻の鍵は、もはや誰の手にも握られていない。

やがてキッチンからは、規則正しい水音と、床を拭く無機質な動作音だけが、いつまでもいつまでも響いていた。