終焉の繭

站点:NovelAI.one内容:前8章在线试读ID:f1544d46更新:2026-06-01 11:26
虚無の玉座に座するキアナの指先が、大理石の肘掛けをなぞる。永遠と定義された空間――終焉の神殿――には、風もなく、光さえも意志を持たぬまま漂っていた。かつてこの場所は世界の均衡を見守る聖域であり、彼女の瞳には全人類の営みが水晶のように映っていた。だが今、彼女の視線の先には何もない。否、正確には、何も感じられない自分だけが
原创 剧情 爽文 架空 热门
終焉の繭 提供 前8章在线试读,可直接在线阅读。你也可以前往“最新小说”“热门小说”“发现小说”继续浏览站内内容。
当前页面收录可公开展示内容,以下为前 8 章试读:

神の堕落

虚無の玉座に座するキアナの指先が、大理石の肘掛けをなぞる。永遠と定義された空間――終焉の神殿――には、風もなく、光さえも意志を持たぬまま漂っていた。かつてこの場所は世界の均衡を見守る聖域であり、彼女の瞳には全人類の営みが水晶のように映っていた。だが今、彼女の視線の先には何もない。否、正確には、何も感じられない自分だけがある。

「また、一日が終わった」

呟きは虚無に吸い込まれ、反響すら生まない。キアナは自身の白銀の長髪を指で弄りながら、玉座の背に凭れた。神としての責務を果たすこと――それは無限の時間の中での唯一の意味だった。しかし、その意味が色褪せたのはいつからか。人々の祈りは単なる雑音に変わり、世界の命運は退屈な数字の羅列と化した。

何かを壊したい。

その思考が頭をよぎった瞬間、彼女の心臓が微かに震えた。違う、これは壊すのではない。壊されたいのだ。自分という存在が、誰かの手によって打ち砕かれ、踏み躙られ、無に帰するのを望んでいる。その予感は彼女の頬を朱く染め、唇を歪ませた。

「馬鹿げている」

自分を叱咤する声も、虚ろに響くだけだった。

神殿の天井には、過去の記憶が幾何学模様となって漂っている。その一つがキアナの目に留まった。十年前の記憶――ケビンが率いる生存者たちの姿。彼らは終焉の神である彼女に抗いながらも、尊敬と恐れの混じった目で見上げていた。その視線はまるで、彼女を救いの偶像として崇めるかのようだった。

「救いだと?」

キアナの口元に嘲笑が浮かぶ。救いなど幻想だ。彼女が本当に与えられるものは破滅だけだ。しかし、その破滅すらも、今は自分の内側で燻る退屈を誤魔化す手段でしかない。

彼女は無意識のうちに権能を解放した。神殿の壁が半透明になり、人間世界の様子が映し出される。廃墟と化した都市。草叢に埋もれた車両。飢えと絶望に塗れた避難所。その全てが、彼女の眼には退屈な風景として映る。

「もし、この世界を……いや、自分自身を、誰かが支配してくれたなら」

言葉が口から零れ落ちる。その瞬間、想像が彼女の全身を駆け巡った。誰かが彼女の首を絞める感触、鞭が肌を打つ痛み、無理やり屈服させられる屈辱――それが、何よりも甘美な陶酔として脳髄に沁み込む。

「あっ……」

思わず声が漏れた。指先が震える。それは恐怖ではなく、待望していた感覚だった。長い間、忘れていた何かが、初めて心の隙間を埋める。キアナは玉座から立ち上がると、天井に向かって両腕を広げた。

「ならば、この世界を道具として使おう。私自身を壊させるために」

彼女の瞳に宿っていた筈の光が、完全に消え去る。代わりに浮かんだのは、歪んだ悦びの色だった。

彼女は権能を更に深く解放し、人間世界の弱点を探り始める。軍隊の配置、指導者たちの思惑、抗うための最後の希望――それらを一つ一つ、俯瞰しながら理解していく。そして、気づく。人間たちが抱える最も深い弱みは、神を信じたいという切実な願いであることを。

「面白い」

キアナの口元が三日月のように歪む。彼女は自らを犠牲に捧げることで、人間の精神を蝕むことにした。彼女が堕落すればするほど、人々は混乱し、絶望し、最終的には――支配される快楽に飲み込まれる。

その計画を実行する前に、彼女は一人の旧友の存在を思い出していた。ブローニャ。かつての親友であり、今や肉畜ホラービーストへと変貌した存在。彼女のわずかな意識の残滓が、キアナの権能を通じてかすかに感じ取れる。

「ブローニャ、お前もまた、苦しむことで美しい。ならば、苦しみそのものを讃えよう」

キアナは神殿の床に跪き、自らの両手を胸の前で組んだ。それは祈りの姿勢ではなく、支配待ちの奴隷の仕草だった。神としての威厳は失われ、代わりに、屈服への渇望が全身を支配する。

「誰でもいい。この世界を壊し、私を壊せる者よ。来たれ」

その声は虚無に溶けたが、その代償として、キアナの心の奥底に、初めて明確な目的が生まれた。彼女は世界を、そして自分自身を、苦痛と支配の遊び場に変えることを決意したのだ。

神殿の外では、遠くの空が暗雲に覆われ始めていた。ケビンがその気配を感じ取り、拳を握り締めている。彼はまだ知らない――神が自らの堕落を自覚した瞬間、人類にもっとも深い絶望が訪れることを。

催眠の潮

## 2. 催眠の潮

それは一瞬の出来事だった。

空が歪んだ。世界が音を立てて変形する——その感覚を正確に言語化できる人間は、地球上に一人もいなかった。ただ、すべての人が同時に、自分の頭蓋骨の内側で何かが柔らかく崩れ落ちるのを感じただけだ。

キアナは空の上、大気圏の境界に浮かんでいた。彼女の金色の瞳が、今や虹彩の周囲に黒い亀裂を走らせていた。終焉の権能——その本質は「書き換え」にある。物理法則を、因果関係を、そして最も根深いもの——人間の認識そのものを。

「さあ、始めましょう」

彼女の声は世界中のすべてのスマートフォン、ラジオ、テレビ、そして直接脳内に響いた。優しく、慈愛に満ちた声だった。母が子を寝かしつけるような、甘やかな響き。

「あなたたちはもう、自分が人間の頂点に立っていると思う必要はないわ。あなたたちの価値は、私に仕えることにある。私の前にひれ伏すことにある。それが当然の理よ」

人々は路上で立ち止まった。車の運転をやめた。食事の手を止めた。そして——理解した。

そうだ、これは当然だ。人間がこの世界の支配者だなんて、おこがましい思い上がりだった。本当は私たちは、ただの家畜だ。終焉の神様に飼育されるための、ただの——。

それは思考ではなく、洪水だった。理性を洗い流す、温かく甘やかな濁流。抵抗しようとする意識は、まるで針に刺された風船のように、瞬時に萎んでいった。

*違う、これは間違っている——*

思った者はいた。ほんの一瞬だけ。しかし次の瞬間には、その疑念さえも「間違いだった」と認識し直された。疑うことこそが、最も大きな罪。神様の慈悲に背くことこそが——。

中国・上海。高層マンションの一室で、中年の男性が窓を開け放った。彼は片膝をつき、頭を深く垂れた。「キアナ様…キアナ様…」と繰り返しながら、額を床に打ちつけ始めた。血が出ている。でも痛くない。むしろ、快感だった。

欧州・ロンドン。大通りで主婦たちが我先に地面にひれ伏した。スーパーの買い物袋は無造作に放り出され、卵が割れ、牛乳が舗道に白い川を作った。でも誰も気にしない。気にする価値さえもない。今、この瞬間、唯一価値のある行為は——服従することだけだ。

アメリカ・ニューヨーク。タイムズスクエアの巨大ビジョンが、一斉にキアナの映像に切り替わった。どこからともなく流れ込んだ映像に、群衆は息を呑んだ。彼女は美しかった。あまりにも美しすぎて、美しさの暴力としか言いようがなかった。その美しさの前に、人間の誇りなど、ただの汚点だった。

「どうしたの? まだ礼を尽くしていない者がいるようね?」

キアナの声に、わずかな喜びが混じった。彼女はそれを見ていた——いや、感じていた。世界中の数十億の意識が、一度に屈服する感覚を。脳髄に直接流れ込む、崇拝の熱。それは麻薬よりも甘美で、支配よりも陶酔的だった。

しかし彼女はもっと深く、もっと激しい服従を欲していた。

「あなたたち、女たち」

キアナの声のトーンが変わった。優しさのヴェールを剥がした、冷ややかで慈愛に満ちた——しかしその奥には飢えがあった。

「あなたたちは女武神よね? 強くて、綺麗で、誇り高い。でももういいの。あなたたちの強さはもう必要ない。必要なのは——ただの肉よ」

言葉が空気を震わせた瞬間、世界のすべての女武神が同時に膝をついた。いや、女武神だけではなかった。戦闘訓練を受けた女性、軍隊に所属する女性、格闘技を極めた女性——体内に「戦う力」を宿すすべての女性が、その力を奪われた。

姫子は台北の空港にいた。彼女はそれまで、近くにあった鉄パイプで武装しようとしていた。しかし次の瞬間、彼女の指は力を失い、パイプは鈍い音を立てて床に落ちた。それだけでよかった。ただ、それだけのことだった。

「あ…」

姫子の口から漏れたのは、恐怖の悲鳴ではなかった。それは——安堵だった。そう、私はもう戦わなくていいの。もう戦う責任から解放された。ただ、跪いていればいい。ただ、頭を垂れていればいい。それだけが私の——。

「肉畜」

その言葉が、世界のすべての女武神の脳内に刻まれた。それは呪いであり、祝福だった。

「肉畜よ。あなたたちの名は、肉畜。私たち女神に仕えるための、生きた肉。その価値は、私たちの欲望を満たすことだけにある」

天命の本部。地下深くに設けられた作戦司令室。そこでは未だ、抵抗の意志を保とうとする者たちがいた。しかし彼らの数は、急速に減っていた。

「通信が…届かない…」

オペレーターがコンソールの前で震えていた。彼の両手はキーボードの上で止まっていた。彼の目は——泣いていた。しかし泣いていることにすら気づいていなかった。

「我々は…何のために…戦っているんだ…」

部屋の空気が変わった。それまで純粋な酸素と窒素の混合物だったものが、何か別の——甘ったるい、麝香のような匂いに変わった。それは催眠権能の香りだった。彼らは気づかなかったが、自分たちの体内でドーパミンとセロトニンが異常なまでに分泌され始めていた。快楽と陶酔。それが屈服と結びつくように、脳の配線が書き換えられていく。

天命の現総長オットー・アポカリプスの代理を務めていた男性、名をテレサと関係の深い指揮官は、立ち上がった。彼の顔には、微笑みさえ浮かんでいた。

「…わかった。我々は間違っていた。人間が終焉に抗うなど、傲慢だった。これからは…そうだな。天命は、終焉様にお仕えする組織となる。全ての女武神を『家畜』として管理し、そのクローンを…そう、生産する。高品質な肉畜を、安定的に供給する。それが我々の…新しい使命だ」

彼の口から出た言葉は、まるで他人のもののように聞こえた。しかし彼はそれを自分の意志だと確信していた。いや、確信しなければならなかった。そうしなければ、自分のアイデンティティが崩壊してしまうから。

「総長代理…」

若い士官が叫ぼうとした。彼女の顔にはまだ、わずかな抵抗の色があった。しかし見開かれた彼女の目が、徐々に曇っていく。彼女の唇がわずかに震え、そして——

「…いえ、なんでもありません。ご指示の通りに」

彼女の声は無機質だった。しかしその瞳の奥の、消えかけた光の中で——何かが叫んでいた。助けて。誰か。私を、まだこの中に閉じ込めないで。

その光は、一分後には完全に消えた。残ったのは、ただの空洞だった。何も考えず、何も感じず、ただ上から命じられる通りに動くだけの、器。

終焉の権能が、世界を塗り替えていく。

キアナはその様子を、大気圏の境界から見下ろしていた。彼女の周囲では、無数の光の筋が空を舞っていた。それぞれの光は、一人の人間の意識が書き換えられる瞬間を表していた。まるで美しい——いや、美しすぎるほどに美しい、星の雨だった。

「ケビン…あなただけは」

キアナの瞳に、一瞬だけかつての彼女の面影がよぎった。ケビン。前文明の英雄。彼だけは、この催眠の波を完全には受け入れなかった。彼は今も、どこかで抗っているはずだ。絶望の中でもがきながら、どうにか方法を探そうとしている。

「でも、あなたも…いつかは」

キアナは自らの両手を見た。美しい手だった。しかしその指先からは、人類を屈服させるための権能の光が、絶え間なく流れ出ていた。これが私の力。これが私の望み。私は、世界を支配するために——いや、世界に支配されるために生まれたのだ。

その思考の中で、自己嫌悪と自己陶酔が互いに絡み合い、溶け合っていた。

*私は、汚らわしい。私は、最低だ。私は、すべてを壊してしまうクズだ。だから——*

*だからこそ、私は崇拝されるべきなのだ。こんなにも汚らわしい私を、世界が崇める。その光景こそが、私にふさわしい地獄だ。*

世界の「書き換え」は、加速していた。

日本・東京。秋葉原で、数百人のオタクたちが一斉に頭を下げた。彼らの崇拝する「萌えの神様」が、現実のものとなったのだ。彼らは泣き叫びながら、キアナの名を叫んだ。

北欧・ストックホルム。政府首脳たちが緊急会議を開こうとしたが、その途中で首相が立ち上がり、こう宣言した。「我々は降伏する。どころか、喜んで仕える。人類は、終焉の神様を崇めるために進化してきたのだ。この瞬間こそ、我々の長い待望の終着点だ」

彼の言葉に、全閣僚が拍手を送った。拍手の音は、次第にリズミカルになり、やがて一つの賛美歌へと変わっていった。

そして——

天命の施設が、動き始めた。

地下のクローン培養室。何千もの円筒形の培養槽が並ぶそこに、新たな指示が下った。

「培養プログラムを変更。戦闘能力の付与を停止。代わりに——肉体的な耐久力と、感度の強化にリソースを割け」

肉畜。そう、彼女たちは全て、肉畜となるのだ。戦う必要はない。考える必要もない。ただ——存在するだけでいい。快楽を与えるための、生きた玩具として。

培養槽の中で、胎児のような姿のクローンたちが浮かんでいた。彼女たちの顔は無表情だった。しかしその体内では、新しい遺伝子コードが書き換えられていく。触覚が何十倍にも強化され、そして——服従のための神経回路が、直接脳に組み込まれていく。

キアナはそれを知っていた。すべてを知っていた。そして——微笑んだ。

「ブローニャ…あなたも、きっと私を恨んでいるでしょうね」

彼女の声は、どこか悲しげだった。しかしその悲しみはすぐに、快楽の濁流に飲み込まれた。

だが。

世界の片隅で、かすかな抵抗が息づいていた。

天命の地下施設。最も深い場所。そこに閉じ込められた一つの檻の中で、ブローニャは両膝を抱えて震えていた。彼女の身体はすでに、肉畜として改造されていた。皮膚の下には神経増幅装置が埋め込まれ、触覚は人間の限界を超えていた。その全身は、キアナから送られる快楽と服従の信号に、常時さらされていた。

しかし——

「…や…だ…」

か細い声が、唇から漏れた。

「…キアナ…待って…まだ…」

ブローニャの脳裏には、かつての記憶が断片的に浮かんでは消えていた。一緒に笑った日。一緒に戦った日。アイスクリームを分け合った、あの夏の日。

「思い出せ…思い出せ…私は…肉畜じゃない…私は…」

彼女の指が、かすかに動いた。その指先に、ほんの僅かな力が宿った。

檻の外で、監視兵が驚いたように振り返った。

「…この個体、まだ意識が残っているぞ。どうする?」

「気にするな。そのうち消える。全員、最終的にはキアナ様のものになる。時間の問題だ」

兵士たちの冷めた会話が、ブローニャの耳に届いた。しかし彼女はそれでも——抵抗し続けた。破壊されゆく意識の中で、ただ一つの光だけを頼りに。

世界が屈服していく。人間が家畜へと変わっていく。その惨劇のただなかで、ブローニャだけが——まだ、ヒトであり続けようとしていた。

キアナは空の上から、その光景を見ていた。彼女の目に映るのは、完全に屈服した世界の姿。彼女の望んだ、完璧な地獄。

「…楽しい」

彼女は呟いた。その声は、泣いているようにも聞こえた。

美しく、残酷で、甘やかな終焉が、世界を飲み込んでいく。

催眠の潮は、すべてを、永遠に覆い尽くそうとしていた。

守護者の陥落

終焉の繭

第3章 守護者の陥落

廃墟と化した旧文明の遺跡群の真上、黒い光の渦が空間を穿っていた。キアナはその中心に立ち、胸元で指を組むと、無数の光条が彼女の意志に応じて拡散していく。彼女の眼差しには慈愛も安らぎもなく、ただ虚無に似た悦びが浮かんでいる。

「久しぶりね、私の古い敵たち」

彼女が囁くたび、虚空から影が実体化する。かつて世界を恐怖に陥れた律者たち――炎の律者、雷の律者、死の律者……彼らはかつての憎悪も自我も失い、無機質な瞳でキアナを見下ろしていた。

「私のために、すべてを管理しなさい。お前たちは、私の新しい工場の管理者だ」

キアナが手をかざすと、彼らの意識が再構築される。かつての誇り高い支配者たちは、いまや忠実な管理職へと堕ちていた。彼らの体は鋼と機械、肉と精神が混ざり合い、誰が誰だか分からない異形の姿に変貌する。彼らが歩くたび、地面が震え、空気が歪む。

工場と呼ぶにはあまりに巨大な空間が、地下に広がっていた。ベルトコンベアは無限に続き、その上にはホラービーストの部品や死士の素材が載せられ、律者工員たちが黙々と作業を続けている。かつて天を覆った脅威は、いまや単なる労働者として、キアナの足元で這い蹲っている。

「ケビン、あなたも見ていればいい」

キアナは背後に視線をやる。そこには、前文明最強の戦士が、歯を食いしばりながら立っていた。彼の拳は震え、目の奥には怒りと絶望が入り混じる。しかし彼に何ができる? キアナの力の前では、どんな抵抗も無意味だ。

「なぜだ、キアナ。なぜここまで堕ちる」

「堕ちる? 違うわ、ケビン。これは目覚めよ。無限の時間の中であなたたちは何をした? 争い、裏切り、そしてまた争い。私は疲れたの。もっとシンプルな世界が欲しかったのよ。それだけ」

キアナは微笑む。その笑顔は、かつて親友たちに向けたものと同じ角度だが、その内実は毒のように腐っていた。

「さあ、ショーの時間だわ」

彼女が指を鳴らすと、工場の奥から装甲音が響く。二人の女武神が、拘束具に繋がれて引きずられてきた。かつてキアナと肩を並べて戦った者たち――だがそれは本物ではない。クローン体だった。本物はすでに死んでいるか、あるいはキアナ自身の手で肉塊に変えられたか。

「おやめください、キアナ様……私たち、あなたのことを……」

「うるさいわね」

キアナは冷淡に言い放つ。傍らに控える雷の律者が、無言で手を伸ばす。電流が空間を裂き、女武神の装甲を引き剥がす。白い肌が剥き出しになり、機械の腕が彼女たちの四肢を押さえつける。

「見せてあげる、私の古い友人の在り方を」

律者は彼女たちを衆人環視の真ん中に引きずり出す。工場の各所に設置されたモニターが、その様子を克明に映し出す。ホラービーストも死士も、一瞬手を止めてその光景に見入る。

「ああ……あああ……」

女武神の一人が断末魔の悲鳴を上げる。律者の手が彼女の腹部を貫き、内臓を引きずり出しながら、彼女を生きながら肉塊へと変えていく。もう一人は頭部を押さえつけられ、床に激しく打ちつけられ、脳漿を撒き散らす。

キアナはその全過程を、恍惚とした表情で見つめていた。彼女の頬は上気し、呼吸は荒くなる。唇の端からは、小さな涎が垂れていた。

「もっと……もっと苦しめ……美しい……」

彼女は自分の腕をぎゅっと掴み、爪を食い込ませる。その痛みすらも、彼女にとっては快楽の一部だった。彼女は世界を守る終焉の神だった。それなのに、今は自らの手で世界を壊し、友を蹂躙し、その苦痛に悦ぶ化け物へと成り果てていた。

「キアナ、やめてくれ……もうやめてくれ!」

ケビンが叫ぶ。しかし彼の声は工場の騒音に掻き消される。キアナは彼の方に顔を向け、無邪気な少女のような笑顔を浮かべた。

「どうしたの、ケビン? かつてあなたも同じことをしたでしょう?」

「君は違う……僕は敵を殺しただけだ。君は……味方を辱めているんだ」

「味方? 誰が? このクローンたちは、私の記憶をコピーして作られた使い捨ての人形よ。使い捨てだからこそ、最後まで楽しませてもらわなきゃね」

キアナは手をかざす。工場の天井が開き、無数の台座が現れる。その上には、さらに多くの女武神のクローン体が、まだ未完成のまま培養液の中で浮かんでいた。彼女たちは一糸まとわぬ姿で、意識だけは覚醒し、自分の運命を悟っている。恐怖に歪んだ顔が、培養槽越しにキアナを見つめている。

「これから毎日、一つずつ処理していくわ。あなたも見てなさい、ケビン。これが、私の新しい世界の姿よ」

その瞬間、工場の片隅で、かすかに物音がした。培養槽の一つが、内部の圧力に耐えかねて亀裂を生じる。中から、全身を機械と肉が融合させられた異形の姿が這い出てきた。それはブローニャだった。かつての親友、かつての戦友。いまや彼女は、肉畜ホラービーストへと改造されていた。眼球は二つとも機械の眼球に置き換えられ、口元は大きく裂かれ、声帯は破壊されていた。しかし、その瞳の奥には、かすかな光が残っている。

「ブロ……」ケビンが息を呑む。

ブローニャの改造体は、四つん這いのまま工場の床を這い、キアナの足元にたどり着く。彼女は頭を下げ、金属の舌でキアナの靴を舐めた。その動作には、服従と、それでもなお抵抗する意志がにじんでいた。

キアナはしゃがみ込むと、ブローニャの機械の顔を両手で包み込んだ。

「まだ意識が残っているのね、ブローニャ。すごいわ。あなたは私の最高傑作になるかもしれない」

ブローニャの機械の口が、かすかに声を発しようとする。聞き取れないほど小さな音。しかしキアナは耳を傾ける。

「キア……ナ……戻っ……て……」

その言葉は、かすかなノイズのように工場に消える。キアナの顔から笑顔が消えた。代わりに浮かんだのは、怒りとも哀しみともつかない虚ろな表情。

「戻れないわ、ブローニャ。もう、戻る場所なんてどこにもないの」

キアナは立ち上がり、ブローニャを蹴り飛ばす。金属の体が床を転がり、壁にぶつかる。ブローニャは痛みに身をよじるが、それでもまた這い寄ろうとする。

「お前には、もう少し苦しんでもらう。それが私の……唯一の親友にできる、せめてものケアよ」

キアナは工場を見渡す。かつての律者たちが、整然と機械を動かし、新しいホラービーストを生産している。ケビンは何もできずに立ち尽くし、ブローニャは傷ついた体を引きずって、必死にキアナの足元を目指す。

そしてキアナは、その全てに満足げに微笑みながら、ゆっくりと目を閉じた。

「さあ、もっと堕ちましょう。もっと汚れましょう。美しい終焉へ、もう一歩」

分裂する魂

キアナは虚無の神殿の中央に立ち、両手を広げた。指先から滲み出る終焉の力が、空気中に幾重もの虹色の光輪を描く。彼女の目は閉じられていたが、唇の端には微かな笑みが浮かんでいる――それは狂気と安堵が入り混じった表情だった。

「もう十分だ…この重荷を背負うのは。」

彼女の声は神殿の石壁に反響し、冷たい金属のように響く。その声の中には、かつて世界を守護していた神の威厳は微塵も残っていなかった。あるのはただ、果てしない疲弊と、それに覆い被さる病的な期待だけだった。

キアナの身体が淡い金色の光を放ち始める。彼女の意識を構成する無数の記憶と感情が、見えない手で引き裂かれるように、二つの流れに分かれていく。一方は――まだ僅かに残る正気と責任感の断片。もう一方は――無限の時間の中で醸成された自己嫌悪と被虐の欲望。

「分裂せよ…我が魂よ。」

彼女の囁きが神殿中に響き渡る。空気が震え、空間が歪む。キアナの胸の前で、一つの光球が徐々に形を取り始める。それは彼女自身のコピーだが、異なる――より暗く、より歪んだ存在だった。

光球の中から現れたのは、もう一人のキアナ。外見は全く同じだが、その目つきには崇拝と服従の色が濃く滲んでいる。オリジナルのキアナが口を開く。

「お前は…私がかつて否定した全てだ。私の弱さ、私の欲望、私の…救い。」

ドM人格のキアナは跪き、頭を垂れた。

「私はあなたの意志を体現する存在です。私は征服され、破壊されることを望みます。それが私の存在意義です。」

「ならば行け。」オリジナルのキアナの声が冷たく響く。「お前の身体を捧げよ。お前の意識を刻み込め。調教を受け入れよ。」

ドM人格のキアナはゆっくりと立ち上がり、その目には涙が光っていた――だがそれは苦痛ではなく、歓喜の涙だった。彼女の身体が再び光に包まれ、元のキアナの身体へと融合していく。その瞬間、オリジナルのキアナの身体が激しく震えた。

「ああっ…!」

苦痛と快楽が混ざり合った声が漏れる。自分の意志を放棄する感覚は、想像以上に甘美だった。彼女は自分の意識の奥深くで、ドM人格が這い回るのを感じる。それは蛇が巣穴に潜り込むように、彼女の精神の隙間を埋めていく。

「これで…良いのだ。」

そう呟くキアナの声は、もう単一ではなかった。二つの声が重なり合い、不気味なハーモニーを奏でる。片方は澄んでいて、もう片方は掠れていた。だが、次第にその声は一つに融合していく。

オリジナルのキアナは静かに後退し、自らの意識を陰に潜めた。彼女はもはや表舞台に立つ必要はない。全てをドM人格に委ね、その苦痛と屈辱の旅を見届けるだけだ。それはまるで、自分自身を実験台に差し出すようなものだった。

「ケビン…ブローニャ…かつての仲間たちよ。」陰に潜んだキアナの声が、かすかに響く。「お前たちが私を支配し、私を壊すことができたなら…それこそが、私の望む世界だ。」

神殿の空気が再び静寂に包まれる。キアナはゆっくりと目を開け、その瞳には狂気の光が宿っていた。彼女は両手を持ち上げ、自分の身体を凝視する。この身体はもう、ただの器に過ぎない。彼女は指を絡め、自分の腕を掴むと、強く爪を立てた。

「痛い…」

呟きながらも、その口元には笑みが浮かんでいた。痛みは彼女に現実を感じさせる。それは彼女がまだ存在している証拠だった。さらに強く爪を立てると、血が滲み始める。彼女はその血を舐め取り、鉄の味を楽しんだ。

「もっと…もっと苦しみを…」

キアナは権能を解放し、自らの存在を無数の粒子に分解し始めた。それらの粒子は空中に拡散し、世界中に散らばるクローン体へと浸透していく。彼女は一人一人のクローンと同化し、その一つ一つの視点で世界を見る。

最初のクローンは、廃墟となった都市を徘徊していた。空気は有毒な塵で満ち、肌を焼く。彼女は肉畜ホラービーストの一団に遭遇し、自らを差し出した。彼らの爪が彼女の皮膚を裂き、歯が肉に食い込む。キアナはその痛みを全身で感じながら、声を上げて笑った。

「そうだ…これだ…これが私の望むものだ…」

次のクローンは、前文明の残した監獄施設に囚われていた。ケビンの部下たちが彼女を尋問し、拷問する。彼らは彼女がかつての神であることを知らず、ただの敵の工作員だと思っていた。キアナは鞭の一打ち一打ちに悶えながら、その屈辱に酔いしれた。

「もっと…もっと私を貶めてくれ…」

さらに別のクローンは、ブローニャと邂逅する。ブローニャは肉畜ホラービーストに改造され、理性を失いかけていたが、キアナの気配を感じ取ると、その微かな意識が覚醒した。

「キアナ…なぜ…なぜこんなことを…」

ブローニャの声は掠れ、苦痛に満ちていた。キアナはクローン体の口で微笑む。

「ブローニャ…お前が私を苦しめてくれるなら、それこそが最高の救いだ。私を終わらせてくれ。」

ブローニャの身体が痙攣し、獣のような咆哮が響く。彼女はキアナに襲いかかり、その身体を引き裂いた。キアナは血を撒き散らしながら、歓喜の声を上げる。

「ああ…ブローニャ…ありがとう…」

神殿の中で、陰に潜むオリジナルのキアナは、全てを感じ取っていた。彼女の唇がわずかに震える。それは苦痛への渇望か、それとも救済への渇望か。もはやどちらも区別はつかなかった。

「続けよう…」彼女は囁く。「私の分裂はまだ始まったばかりだ。」

性具改造

ケビンの拳が壁にめり込む。コンクリートが砕け、鉄筋が露出する。実験室のモニタには、キアナのクローン体を改造する工程が映し出されていた。

「またか…またやってるのか」

彼の声は震えていた。モニタの中では、五体のキアナのクローンが無機質な手術台に固定されている。そのうち二体は頭部しかなく、胴体は機械の台座に接続されていた。台座からは無数のケーブルが伸び、神経節に直接接続されている。

「このクローンは、本体の神経パターンを完全にコピーしています」

白いコートの研究者が無表情で説明する。「つまり、本体と同じ感覚を共有できる」

ケビンの胃が締め付けられる。一体目のクローンは、口が拡張され、シリコン製の筒状の器具が喉の奥まで挿入されていた。舌は切除され、代わりに振動する人工器官が埋め込まれている。二体目は肛門が半径十五センチまで引き伸ばされ、内部には無数のブラシと電極が埋め込まれている。

「やめてくれ…」

ケビンの声はか細かった。だが、モニタの中のキアナは笑っていた。いや、本体のキアナが笑っている。彼女は研究所の最上階で、この光景を眺めながら、自らの太腿を撫でていた。

「すごい…すごいよこれ」

キアナの声は陶酔に満ちていた。彼女の身体がビクビクと痙攣する。クローンたちが感覚を送っているのだ。口の中の振動、腸壁を這い回るブラシ、電極からの微弱な電流。すべてが彼女の脳に直接流れ込んでくる。

「もっと…もっとくれ…」

三体目のクローンは、全身が完全な人体だった。ただし、改造はより徹底している。乳房はシリコンで大きくされ、内部には加圧ポンプが埋め込まれている。膣は人工筋肉で覆われ、収縮と弛緩を自在にコントロールできる。クリトリスは切除され、代わりに小型のバイブレーターが埋め込まれていた。

「もう一体、全身型があるはずだ」

研究者が冷たく言う。四体目のクローンは、立ったまま固定されていた。両腕は後ろ手に縛られ、両脚は開かれたまま金属製の枷で固定されている。全身の皮膚は薄く削られ、神経が露出している。露出した神経には、無数の電極が直接接続されている。

「このクローンは、摩擦にも振動にも反応します。神経が露出しているので、通常の千倍の感度です」

研究者がそう言った瞬間、四体目のクローンが動き始めた。機械が起動し、全身の電極が活動を始める。キアナの声が研究所中に響き渡った。

「あああああ!」

その叫びは苦痛だけではなかった。明らかに快感を含んでいた。彼女の身体が弓なりに反り、目が白目をむく。だが、意識ははっきりとしている。この快感を味わい尽くそうとしているのだ。

「本体の人格が…徐々に嗜虐嗜好に…」

研究者がモニタを見ながら呟く。脳波のグラフが激しく乱れている。通常の人間なら意識を失うレベルの刺激が、キアナをより深い快感の世界へと導いている。

「もっと…もっとだ!」

キアナの叫びは、もはや人間のものではなかった。五体目のクローンが起動する。これは最も特殊なものだった。全身が筒状の機械に収められ、内部には無数の触手が蠢いている。触手はすべて生体素材でできており、キアナの全身を舐めまわし、孔という孔に侵入する。

「あっ…あっ…やああっ!」

キアナの身体が激しく震える。五体のクローンからの刺激が、同時に彼女の脳に流れ込んでいる。口、肛門、膣、神経、全身。そのすべてが同時に快感を送り続ける。

「おおおおお!」

彼女の絶頂は一瞬では終わらなかった。三十分、一時間、二時間。永遠とも思える時間、キアナは絶頂し続けた。その間、彼女の人格は徐々に変容していく。

「私は…私は…」

彼女の声が途切れ途切れになる。元の人格が抵抗する。だが、その抵抗も徐々に弱まっていく。快感がすべてを塗りつぶしていく。

「私は…性具だ…」

その言葉を聞いた瞬間、ケビンの心が完全に折れた。彼は膝から崩れ落ち、その場に跪いた。

「キアナ…なぜ…」

彼の問いに答えられる者はいない。キアナはただ、自らのクローンたちが性具に改造される快感に溺れていた。五体のクローンが、彼女の新たな身体となっていく。いや、彼女自身が性具と化していく。

「これで…私は完成だ」

キアナの声は優しく、そして甘やかだった。モニタの中のクローンたちが、一斉に動きを止める。そして、すべてのクローンが同時に口を開いた。

「私は性具になった。どうか、私を使ってください」

その言葉は、キアナ本体の口からも漏れていた。彼女の目は虚ろで、しかし確かに快感の名残を宿している。

「ああ…気持ちいい…私は…こんなに気持ちいいんだ…」

彼女の身体が再び震え始める。今度はクローンからの刺激ではない。自らの想像だけで絶頂しているのだ。彼女の精神は、完全にドMの人格に飲み込まれていた。

「お願い…もっと…もっと私を汚して…」

研究所中に、キアナの甘い声が響き渡る。その声は、まるで子守唄のように静かに、しかし確かに狂気を帯びていた。

ケビンは立ち上がることができなかった。彼の目からは涙が溢れ、その涙は無力さと絶望の味がした。モニタの中のキアナは、なおも快感の海に溺れ続けている。彼女はもう、終焉の神でも、世界を守る存在でもない。ただの性具と化した、哀れな人形だった。

「終わりだ…すべてが…」

ケビンの呟きは、誰の耳にも届かなかった。

性玩具の使用

キアナの身体から切り離された魂の断片は、透明なキューブの中に封じられて漂っていた。それぞれのキューブは彼女の記憶の一片、感覚の一片を宿し、まるで生きた宝石のように淡く光を放っている。

「これで最後の一個ね」

キアナは自分の指先から零れ落ちる光の粒を見つめながら、無意識のうちに笑みを浮かべていた。もはや彼女の顔にはかつての聖女のような清らかさは微塵も残っていない。目は虚ろに輝き、口元には常に被虐的な恍惚が張り付いている。

ケビンはその光景を、研究室のモニター越しに睨みつけていた。彼の拳は机の縁を砕かんばかりに握りしめられている。

「止めろ…まだ間に合うはずだ…」

しかし彼の声は誰にも届かない。いや、誰にも届けるつもりはなかった。彼はただ自分自身にそう言い聞かせているだけだった。間に合うわけがない。キアナがあの日、自ら進んで仕組んだこの計画は、もう誰にも止められない。

最初のキューブは、かつて第三文明が栄えた大陸の遺跡都市に送られた。到着後すぐにキューブは溶け、中から現れたのは掌サイズの人形だった。それはキアナを精巧に模しており、触れる者の指に応じて甘い吐息を漏らす。遺跡を管理する研究員たちの手で、その人形は共有財産として扱われ、誰もが自由に弄ぶことが許された。

「おい、これ本物の終焉の律者なのかよ?」

「ああ、その魂の一片が封じ込められているらしい。つまり俺たちが触れているのは、本当にあの神様の一部ってわけだ」

研究員たちの笑い声が遺跡のホールに響き渡る。人形は弄ばれるたびに嬌声を上げ、その声は本物のキアナの声質とまったく同じだった。

二番目のキューブは南の島国に送られた。そこでキューブは脈動する触手状の器具へと変形し、繁殖を司る者たちの祭壇に捧げられた。島民たちはその器具を神聖な儀式に使い、キアナの魂が彼らの子孫に宿ることを祈った。

「終焉の神よ、我らに繁栄を」

呪文を唱える巫女の手によって、器具は活発に動き始める。その動きはキアナ自身が感じている快楽と同期しており、彼女は遠く離れた場所で、自分ではない誰かに蹂躙されている不思議な感覚に浸っていた。

「ああ…気持ちいい…もっと…みんなに…私を使って…」

キアナは自らの玉座で身をくねらせながら、新たな人格に意識を委ね始めていた。元々あった「世界を守る神」の人格は、徐々にドMの人格に支配権を譲り渡していく。それはまるで自ら進んで檻の中に入るようなものであり、彼女はそれに抗おうとはしなかった。

「これでいいのよ…私が幸せになるために…私はただ、壊されるために生まれてきたんだから…」

彼女の内側で、かつての強く誇り高き終焉の神は消え去りつつあった。代わりに芽生えたのは、ひたすらに辱められ、苦しめられることを求める倒錯した存在だった。

最も強力なキューブは、かつてキアナが戦った律者たちの遺物と共に保管されることになった。あの天上の存在は既に全て消え去っていたが、彼らの残留思念はまだ強大だった。キアナは自らの最も深い部分を、その残留思念に捧げることにした。

「私…あなたたちに全てを委ねるわ…もっと私を壊して…私があなたたちに敵対した罰を…永遠に刻みつけて…」

彼女の声は虚空に消え、代わりに現れたのは巨大な機械仕掛けの性的器具だった。それは複数の律者の怨念によって動かされ、キアナの身体を永遠に苛み続けるために設計されていた。

ブローニャは苦しんでいた。肉畜ホラービーストに改造された彼女の身体は、もはや人間の形をほとんど留めていない。だが、その意識の断片は確かに存在し、キアナの起こした全ての出来事を認識していた。

「キアナ…どうして…」

彼女の声にならない叫びは、肉塊の中に閉じ込められたまま。しかし、わずかに残された理性が、何かを感じ取っていた。キアナの苦痛が、自己破壊的な快楽が、世界中に拡散していることを。

「終焉の神は…もう終わった…」

ブローニャの最後の思考は、やがて無に溶けていった。

ケビンはついに立ち上がった。全てを止めるつもりはなかった。彼にもうそんな力は残っていない。ただ、最後の務めを果たすために。

「キアナ…お前を殺す」

彼の目には狂気が宿っていた。それは愛する者を救うための決意ではなく、もはや全てが終わった世界で、唯一つのけじめをつけるための執念だった。

彼は向かった。キアナの元へ。かつて終焉の神だった少女の玉座へ。そして、その手には一振りの刃が握られていた。

「待っていろ…すぐに終わらせてやる」

彼の足音は無人の回廊に響き、やがて絡み合う螺旋の階段を上っていく。玉座の間に近づくにつれて、甘美な吐息と、肉が打ち付け合う音が大きくなっていった。

「ああ…来たのね…ケビン…」

キアナの声が、歓喜に震えていた。

「私を殺しに来たの?それとも…私と一緒に堕ちるために?」

彼女の身体はもはや機械と融合し、無数のコードが生身の皮膚を貫き、その全てが律者の怨念と繋がっている。彼女はもはや人間ですらなかった。ただの快楽に溺れた肉塊だった。

ケビンは躊躇った。彼の手が震える。刃がキラリと光る。

「逃げろ…キアナ…まだ…」

「逃げる?いやよ。私はここで終わりたいの。あなたの手で終わらせてほしいの」

彼女の目には、涙が浮かんでいた。だが、それは苦しみの涙ではなかった。歓喜の涙だった。自らが選んだ破滅への悦びが、彼女の瞳を潤ませていた。

「そうか…ならば…」

ケビンの刃が振り下ろされる。その瞬間、世界は輝きに包まれた。キアナの魂が、完全に解放される瞬間だった。だが、それは破滅ではない。新たな快楽の始まりだった。

キアナは笑っていた。世界が終わるその時まで、彼女は笑い続けるだろう。それは神の最後の遊戯であり、誰も止めることのできない道化の演舞だった。

ブローニャはその遠くで、微かに目を開けた。そして、世界に終わりが来たことを悟った。

「キアナ…あなたは…狂ってしまったのね…」

彼女の肉畜ホラービーストの身体が、ゆっくりと動き出す。もはや獣として生きることを選んだ彼女は、最後の希望を胸に、暗澹たる世界を彷徨い始める。

全てが終わり、そして全てが始まろうとしていた。性玩具となった神の魂は、世界中に散らばり、誰もがその快楽を享受できるように。そして、かつての神の大敵たちの怨念は、永遠に彼女を苛み続けるだろう。

これが、終焉の神が自ら選んだ運命だった。

残響の宴

崩壊した街並みの上を、風が砂埃を巻き上げて通り過ぎていく。かつて人々の賑わいで満ちていた広場は、今や色褪せたコンクリートの廃墟と化していた。その中心に、キアナは立っていた。

彼女の周囲には、無数の性玩具が散乱していた。人間の形を模したもの、動物の姿を模したもの、あるいは抽象的な形状のもの——それらはすべて、かつて彼女の肉体を慰め、彼女の欲望を満たすために使われた道具だった。しかし今、それらは無惨に投げ捨てられ、埃をかぶり、一部は壊れて部品が散らばっている。

「見てください、ケビン」

キアナの声は甘く、陶酔に満ちていた。彼女は足元の壊れた玩具を拾い上げ、愛おしそうに撫でる。

「これ、私が先週使ったものです。もうボロボロで、使い物になりません。でも、それでいいんです。私は使い捨てられるべき存在だから」

ケビンは数メートル離れた場所から、苦渋に満ちた表情で彼女を見つめていた。彼の手は拳を握りしめ、爪が掌に食い込む。

「キアナ、正気に戻れ。お前は何を言っているんだ?」

「正気?」

キアナは首をかしげ、無邪気な少女のような笑顔を見せる。その目は虚ろで、底知れぬ闇を宿していた。

「私は至って正気ですよ。自分がどれほど価値のない存在か、よーく分かっています。かつては終焉の神だなんて呼ばれていましたけど、そんなものはただの錯覚です。本当の私は、こうして捨てられ、踏みにじられることに悦びを見出す、ただの雌豚なんです」

彼女は手に持った玩具を地面に落とし、その上に自分の足を置いた。そして、ゆっくりと体重をかける。プラスチックが悲鳴を上げ、粉々に砕ける。

「ああ……これです。これが私の在り方です」

彼女の体が微かに震え、頬が紅潮する。それは明らかに性的な興奮の兆候だった。

世界中で、同じ光景が広がっていた。かつてキアナが使った性玩具が、大陸中に散らばっていた。砂漠の真ん中で、凍てつくツンドラで、海底都市の廃墟で——人々はそれらを見つけるたびに、吐き気を催し、あるいは恐怖に怯えた。なぜなら、それらは単なる物体ではなく、かつて世界を救った英雄の堕落の証だったからだ。

ブローニャは、その光景を半ば意識を失いながら眺めていた。彼女の体は肉畜ホラービーストに改造され、もはや人間の形を留めていなかった。機械と生身の臓器が混ざり合った異形の姿で、彼女は地下シェルターの隅にうずくまっていた。

「キアナ……なぜ……」

その声は掠れ、かろうじて聞こえる程度だった。彼女の脳の一部はまだ正常に機能しており、かつての親友の姿を思い出そうとしていた。しかし、その記憶は断片的で、すぐに苦痛によって掻き消される。

彼女の体に埋め込まれた機械が電流を流し、ブローニャの全身が痙攣する。それでも、彼女は歯を食いしばり、意識を保とうとした。

「私は……まだ……終わっていない……」

その言葉は、かすかな希望の灯火だった。しかし、その灯火がいつ消えてもおかしくない状況だった。

一方、キアナはさらなる快楽を求めて、街を彷徨っていた。彼女は見つけるたびに自分の使った玩具を拾い上げ、それが捨てられている様子を確認しては悦びに浸った。

「ああ、このバイブレーターは、確か先月の終わりごろに使ったものです。もう電池が切れて、動きませんね。まるで私の心のように」

彼女は玩具を掲げ、太陽の光に透かして見る。プラスチックの表面は無数の傷跡で覆われ、かつての輝きは失われていた。

「捨てられるって、こんなにも素晴らしいことだったんですね。私は今まで、自分が価値ある存在だと思い込んでいました。でも、本当は違う。私はただのゴミ。誰かに使われ、飽きられ、捨てられることこそが、私の真の喜びなんです」

ケビンは歯を食いしばり、拳を振り上げた。しかし、その拳を振り下ろす相手はいない。彼はただ、無力感に打ちのめされるだけだった。

「キアナ……お前を救う方法を、俺は知らない。だが、せめて……せめてお前が正気に戻るまで、俺は諦めない」

その言葉に、キアナはゆっくりと振り返る。彼女の瞳には、一瞬だけ哀しみの色が浮かんだように見えた。しかし、それはすぐに消え、代わりに狂気じみた笑みが広がる。

「救う? ふふ……私は救われる必要なんてありませんよ。私はもう、この快楽の虜になってしまったんですから」

彼女は両腕を広げ、空を見上げる。その姿は、まるで十字架に磔にされた殉教者のようだった。

「この世界が、私をゴミとして扱ってくれる。それだけで、私は満足なんです。もっと、もっとたくさん、私を踏みにじってください。私を汚して、壊して、捨ててください」

その叫びは、廃墟の街にこだました。しかし、それに応える者はいない。ただ、風が砂埃を巻き上げ、彼女の髪を乱すだけだった。

キアナは次第に、現在の状況に物足りなさを感じ始めていた。捨てられること自体には、確かに快楽を感じる。しかし、それだけでは足りない。彼女はもっと深い、もっと決定的な破滅を欲していた。

「もっと……もっと激しく……私を壊してくれる誰かは、いないのでしょうか?」

彼女の声には、飢えた獣のような切実さが混じっていた。その欲望は、もはや自分自身では制御できないほどに肥大化していた。

ケビンはその言葉を聞き、背筋に冷たいものが走るのを感じた。彼は直感的に理解した——キアナの欲望は、まだ満たされていない。そして、それが満たされた時、何か取り返しのつかないことが起こるだろう、と。

「キアナ……お前は、何を求めている?」

「何を?」

キアナは首をかしげ、無邪気な笑顔を見せる。しかし、その目に宿る光は、もはや人間のものではなかった。

「私は、完全なる破壊を望んでいます。私という存在が、この世界から完全に消え去ること。それが、私にとって最も甘美な結末です」

彼女はそう言って、口元に歪んだ笑みを浮かべた。その笑顔は、まるで死そのものを愛する者のものだった。

その瞬間、ブローニャの意識が一瞬だけはっきりと蘇った。彼女は遠く離れた場所から、キアナの言葉を感じ取った。そして、その言葉に秘められた危険性を、本能的に察知した。

「キアナ……待って……まだ、終わらせては……」

しかし、その言葉は機械のノイズに掻き消され、届くことはなかった。

ケビンは歯を食いしばりながら、一つの決意を固めた。彼はキアナを救うことを諦めてはいない。しかし、もし彼女が本当にこの世界を破壊しようとするならば、自分は何としてでも彼女を止めなければならない。

「キアナ……お前がどこへ行こうとも、俺は追いかける。そして、お前が正気を取り戻すまで、俺は戦い続ける」

その言葉に、キアナは一瞬だけ驚いた表情を見せた。しかし、すぐに彼女は優しく、そして冷酷な笑みを浮かべる。

「ケビン……あなたは本当に馬鹿な人ですね。でも、それがいい。あなたが私を追いかければ追いかけるほど、私はもっと深く堕ちていける。それこそが、あなたへの最高の復讐ですから」

彼女はそう言って、背を向けた。そして、廃墟の街の奥へと消えていく。その後ろ姿は、まるで影のように儚く、そして危険な香りを放っていた。

ケビンはその背中を、ただ見送ることしかできなかった。彼の心には、絶望と決意が入り混じっていた。しかし、それでも彼は立ち上がる。彼は、戦い続けることを選んだのだ。

そして、世界中に散らばったキアナの性玩具は、彼女の欲望の残響を今もなお、響かせ続けていた。その残響は、やがて全てを飲み込む宴の始まりを告げる、不気味な前触れだった。

肉畜体験

終焉の繭 第八章 肉畜体験

工場の空気は、鉄と血と、甘やかな腐臭が混ざり合っていた。ベルトコンベアの規則正しい駆動音が、広大なフロアに虚ろに響いている。キアナは高架の制御デッキに立ち、眼下に広がる光景をぼんやりと見下ろしていた。

「生産ライン稼働率、100パーセント。本日の処理予定個体数、三千四百二十体」

機械的な女性の声が館内放送で流れる。キアナの唇が、歪んだ笑みの形に引きつった。

「……三千四百二十体か。私が、私自身を」

彼女はそっと自分の頬を撫でた。その指先は冷たく、震えていた。制御盤のスイッチを押す。金属音がして、大扉が開く。裸の女性のクローン体が、規則正しくベルトコンベアに乗せられて運ばれてくる。一糸まとわぬ身体、閉じられた瞳、規則正しい呼吸。キアナとまったく同じ顔。生前の、終焉の神としての面影すら留めた、無垢なクローン。

「さあ……始めよう」

最初の一体が、処理区画に到達した。待機していた二体のホラービーストが、咆哮とともに跳びかかる。獣化した巨体がクローンの上に覆い被さり、その肉を引き裂く。キアナは両手で制御デッキの手すりを握りしめ、その光景に息を呑んだ。瞳の奥に、陶酔にも似た昏い輝きが灯る。

「もっと……もっと苦しめて……」

彼女の囁きは、館内放送で工場中に響き渡った。死士たちが歓声をあげる。鞭を持った死士が前に進み出て、クローンの身体を打ち据える。皮膚が裂け、血が飛び散る。クローンが悲鳴をあげた。声は工場の壁に反響し、機械音に飲み込まれていく。

ベルトコンベアは止まらない。次々と運ばれてくるクローン体に、工場中の肉塊たちが群がった。ある者は串刺しにされ、ある者は四肢をもがれ、ある者は全身を舐めまわされ、唾液と血液と汗でぐちゃぐちゃに塗れた。

「ああ……気持ちいい……」

キアナの手が、自分の首をそっと撫で上げた。目は泳ぎ、焦点を失っている。彼女はかつて世界を救った神だった。今、その神は自分の分身が切り刻まれるのを見て、悦びに震えていた。

制御デッキの通信機が突然、けたたましく鳴り響く。キアナは無視しようとしたが、二度目、三度目と鳴り止まない。仕方なく応答ボタンを押すと、ケビンの怒りに満ちた声が飛び出した。

「キアナ! 正気かお前は! 何をやってるんだ!」

「ケビン……見てるの? 私の、新しい世界を」

キアナの声は甘く、溶けるように優しかった。その優しさに、ケビンは一瞬言葉を失った。やがて、絞り出すような声が返ってくる。

「……こんなものは、お前の望んだ世界じゃない。壊れてるんだ、お前の心が」

「壊れてる? いいえ、これこそが真理よ。すべてのいのちは……私の中に還っていくの」

彼女はそっと右手を挙げた。その掌から光が溢れ、工場のベルトコンベアの速度が上がった。猛烈なスピードでクローン体が流されてゆく。二体同時に処理区画に到着し、待機していた殺戮人形が機械鎌を振るう。首が飛び、血が噴水のように天井に向かって吹き上がる。キアナの白い衣服に血の斑点が飛んだ。彼女はそれを指で拭い、自分の唇に運んだ。鉄の味。いのちの味。

「ケビン、あなたも来る? 一緒に……私を壊してよ」

沈黙の後、通信は一方的に切れた。キアナは冷笑を浮かべ、再び眼下の光景に目を戻す。

処理区画の中央、最も残虐な機械の前で、三体の死士が一人のクローンを固定していた。クローンは既に両腕を失い、胸には深い裂傷があった。死士たちは交互にその裂傷を広げ、中から内臓を引きずり出そうとしている。クローンの口からは、断続的な悲鳴と泡が漏れていた。

「もっともっと苦しそうな顔をして……」

キアナは自らの首を絞めながら、恍惚とした表情で見守る。

突然、轟音が工場内に響き渡った。西側の壁が内側から爆発し、瓦礫がベルトコンベア上に降り注ぐ。煙の中から、一台の白いバイクが飛び出した。

「ブローニャ……!」

キアナが声をあげる。バイクに跨った影は、微かにブローニャの面影を残していた。だが、全身はほとんど機械化され、血と油にまみれていた。金属と生体組織が縫い合わされた皮膚の隙間から、赤い光が漏れている。肉畜ホラービーストに改造された元親友。それでも、その目には確かに理性の光が残っていた。

「キアナ……止めて」

ブローニャの声は、傷ついた機械の軋みのようだった。キアナはその声を聞き、初めて頬に生気が戻ったかのように表情を明るくする。

「ブローニャ! よかった、ちゃんと生きてたのね! 君にも……この喜悦を味わわせてあげる」

そう言うと、キアナは自分の手で制御パネルのボタンを乱暴に押した。ベルトコンベアの動きが反転し、クローン体が逆向きに流れ始める。同時に、天井のスプリンクラーから血のような液体が降り注ぎ始めた。工場全体が、巨大な屠殺場と化す。

抵抗しようとしたブローニャの前に、五体の巨大な死士が立ちはだかる。彼らの手には、鈍く光る斧と鉈。ブローニャはバイクを急旋回させ、側面から攻撃を回避しようとしたが、間に合わない。一体の死士が斧を振り下ろし、ブローニャの左腕が肘のあたりから切断された。火花が散り、油と血液が噴出する。

「あああっ……!」

悲鳴をあげて倒れるブローニャ。キアナはその姿を見て、全身が震えるほどの陶酔に浸った。

「そうよ、その苦しみ……その悲鳴……私も感じたいの」

キアナは制御デッキから飛び降り、ゆっくりとブローニャのもとへ歩み寄る。足を引きずりながら、動けないブローニャの前に立つ。血まみれのブローニャの顔を両手で包み込み、優しく、泣きそうな笑顔を向けた。

「大丈夫……すぐに楽にしてあげる。私も……一緒に苦しむから」

言い終わるより早く、キアナは自らの腹に握ったナイフを突き立てた。鮮血がブローニャの顔に飛び散る。キアナの口から苦悶の吐息が漏れ、その瞳は歓喜に輝いた。

「はあ……ああ……これで、私たちは……一つになれる」

傷ついた二人の神と人と肉畜の間で、死士たちが歓声を上げた。ベルトコンベアは加速を続け、クローン体の山がさらに積み上がっていく。

制御室のモニタには、ケビンの苦渋に満ちた表情が映し出されていた。彼の手は、起動スイッチの上で震えている。最終手段。それは、この文明そのものを消し去る装置の起動ボタンだった。

「キアナ……ブローニャ……すまない」

彼の指が、ゆっくりとボタンに触れた。