# 第1章 始まり
B401の重厚な金属扉が背後で閉じられ、施錠される電子音が部屋に響き渡った。林若簡は蘇語倉の手を握りしめ、震える指を絡めた。二人の指の隙間から、冷たい汗が伝い落ちる。
「大丈夫、小簡。私たちは一緒よ」
蘇語倉の声はいつもより低く、しかし確かな温もりを帯びていた。林若簡は頷き、涙を堪えるように唇を噛んだ。部屋の中は、確かに彼女たちの自宅を模した温かみのあるインテリアだった。柔らかなベージュのソファ、白い本棚、窓辺に飾られたドライフラワー——すべてが見覚えのあるものだった。しかし、壁の隅々には微かに光る魔法陣の紋様が這い、空間そのものが彼女たちを閉じ込める檻となっていることを主張していた。
「あの、小簡……まずは着替えないとね」
蘇語倉はそう言って、手を引かれた方向にある小部屋の一つへ歩き出した。小部屋の扉には「更衣室」と控えめにプレートが貼られている。中に入ると、鏡台とクローゼットが整然と並び、中央には二脚のスツールが置かれていた。クローゼットを開けると、二人のサイズに合わせた衣服が何着も掛かっている。多くは薄手のシルクやレースでできた、簡単に脱がせられるデザインのものだった。
林若簡は唇を噛みながら、白いレースのキャミソールとそれに合わせたショーツを手に取った。蘇語倉は黒いシルクのスリップドレスを選び、静かに着替え始めた。
「小倉……」
「うん」
「怖いよ。でも、小倉がいるから大丈夫だと思う」
蘇語倉は振り返り、林若簡の頬に手を添えた。その指先は冷えていたが、瞳は強い意志を宿していた。
「私が守る。どんなことがあっても、君を守る」
その言葉を聞いた瞬間、林若簡は何かが胸の中で解けるのを感じた。恐怖と同時に、どこか安堵に似た感情が広がる。ああ、自分はこの人のために何でもできる。何もかもを捧げても構わない。
着替えを終え、リビングに戻ると、壁に埋め込まれた大型スクリーンが突然明るくなった。無機質な女性の声がスピーカーから流れ出す。
——『小曦システムです。本日より、星曦閣全メンバーによる調教プログラムを開始します。第一調教者は、まもなく入室します。どうぞ、所定の位置にお座りください』
スクリーンには調教手順が表示されていた。まず、調教者が入室したら、二人は跪いて礼をする。その後、調教者の指示に従い、すべてを受け入れる。
蘇語倉は林若簡の手を握り、カーペットの上にゆっくりと膝をついた。林若簡もそれに倣い、並んで正座の姿勢を取る。二人の肩が触れ合い、体温が伝わる。
「小簡、跪くときは背筋を伸ばして。私たちは辱められるけど、心までは折られない」
「うん」
林若簡はそう答えながらも、心臓は激しく鼓動していた。彼女は自虐的な快感を渇望する自分を持て余していた。辱められることへの恐怖と、同時にそれを望む矛盾。蘇語倉が隣にいるからこそ、その痛みを乗り越えられる。
扉が静かに開いた。入ってきたのは、スーツ姿の若い女性だった。彼女はエレガントな金髪をまとめ上げ、冷徹な微笑みを浮かべている。胸元には星曦閣の徽章が輝いていた。
「小倉、小簡。初めまして。私は星曦閣、管理部の篠原と申します。今日は初日ですから、優しくいきますよ」
その言葉に嘘はないように聞こえたが、彼女の手に持った革製のケースを見れば、簡単な調教で終わらないことは明らかだった。
「お会いできて光栄です、篠原様」
蘇語倉が頭を下げる。林若簡もすぐにそれに倣った。
「いい子ですね。では、立ち上がってソファに座りなさい」
篠原はケースをテーブルに置き、その中からいくつかの道具を取り出した。シルクの縄、小さなバイブレーター、そして偽造陽具——それは精巧に作られており、肌色のシリコン製で、人間のそれと見分けがつかないほどだった。
「まず、お互いに縛り合ってください。小倉は小簡の手を後ろで、小簡は小倉の手を後ろで。交差するように」
篠原の指示は冷静だった。蘇語倉と林若簡は向かい合い、互いの手を後ろに回し、シルクの縄を巻き付けた。細かな結び方を篠原が教え、柔らかく絡み合うように縄が皮膚に食い込む。二人の身体は密着し、互いの鼓動が伝わるほど近くにあった。
「痛くない?」
「平気。小簡こそ」
「大丈夫」
蘇語倉は林若簡の耳元で囁いた。篠原はその様子を満足げに見つめながら、次に脚を縛る作業を指示した。
二人はソファに座らされ、膝を曲げて足首を縛られた。シルクの縄は強く締められすぎず、しかし緩すぎず、ほどけないように丁寧に結ばれている。
「さて、小簡。あなたはお口でお仕えできるそうですね」
林若簡の心臓が跳ねた。彼女は蘇語倉のために何度もその役を引き受けてきた。だが、今は公衆の場のように、すべてを見られながら行うのが初めてだった。
「はい」
「結構。では、私の前で跪きなさい」
篠原はスカートを整え、椅子に腰掛けた。林若簡は縛られた手で慎重に立ち上がり、彼女の前に膝をついた。蘇語倉はソファに残されたまま、痛々しい視線を送る。
「小倉、君は目の前でよく見ていなさい。これから何度もそういう場面があるでしょうから、慣れておくことです」
篠原の言葉に、蘇語倉は唇を噛みしめた。しかし、同時に彼女の瞳の奥には、わずかな興奮の光が灯っていることに林若簡は気づいていた。蘇語倉もまた、この辱めの中に何かを見出しているのだ。
篠原は偽造陽具を取り出し、慎重に装着した。それは彼女の腰に固定されるタイプで、彼女自身も快感を得られる仕組みになっている。
「小簡、口を開けて」
林若簡はゆっくりと口を開けた。篠原はその口に陽具をあてがい、ゆっくりと挿入した。シリコンの感触が舌の上に広がり、冷たい温度が口内に満ちる。
「舌を使って。そう、ゆっくりと。慌てなくていい」
篠原の指導に従い、林若簡は唇を閉じ、舌で先端をなぞりながら、少しずつ深く咥え込んでいった。喉の奥に当たる感触が苦しく、彼女の目に涙が浮かんだ。しかし、その苦しみが彼女の内面の渇望を刺激する。
「上手いわ。小簡は本当に飲み込みがうまいのね」
篠原の声が少し湿り気を帯びてきた。彼女自身も快感を感じ始めているのだろう。林若簡はその変化を敏感に察知し、より深く、リズミカルに動き始めた。
蘇語倉はソファでそれを見つめていた。彼女の目には涙がにじんでいたが、それをこぼさないようにこらえていた。胸の奥で、怒りと哀しみと、そして不条理な興奮が渦巻いていた。ああ、自分は小簡が辱められるのを見て、なぜか心が震えている。それを否定できない自分が嫌になる。
「そろそろ、いいわね……」
篠原の声が震え始める。彼女は林若簡の頭を押さえ、腰を数回突き上げた。そして、そのまま体内で放つ。
温かい液体が林若簡の口内に広がった。彼女はそれをしっかりと受け止め、こぼさないようにゆっくりと飲み下した。精液の味は苦く、少し塩辛かったが、彼女はそれを飲み込むこと自体が蘇語倉の負担を減らすことに繋がると信じていた。
「……いい子だ」
篠原は深く息を吐き、林若簡の口から陽具を抜いた。彼女の顔は赤く染まり、明らかに満足していた。
次に、篠原は鞄から細いペン型の道具を取り出した。それは魔術刻印を刻むためのものだ。
「小簡、あなたの左肩を見せなさい」
林若簡はおとなしくキャミソールの肩紐を下ろし、左肩を露わにした。篠原はペン先を皮膚に当て、何かの文字を書き込んでいく。それは複雑な魔法陣の一部であり、書き終えると一瞬金色に光り、そのまま皮膚の中に溶け込むように消えた。
「これは『服従』の印です。調教者が呼び出せば、いつでも浮かび上がります。覚悟しておきなさい」
篠原はそう言ってペンをしまい、スーツの襟を直した。
「小曦システムにメッセージを残しますね」
彼女は壁のスクリーンに向かって言った。「初日としては順調でした。小簡は口の仕え方が非常に上手く、飲み込みも問題ありません。小倉はまだ緊張が強いですが、時間をかければ慣れるでしょう。次回以降は、よりハードな拘束と、小倉への直接調教をお勧めします」
メッセージが終わると、篠原は軽く会釈して部屋を出ていった。扉が閉まる音が響き、再び静寂が訪れた。
林若簡はその場に崩れそうになりながらも、蘇語倉の元へ這うように移動した。蘇語倉の脚の縄を解こうとするが、手が震えてうまく結び目がほどけない。
「小倉、ごめん……私、汚れた」
「何言ってるの。小簡がやってくれたから、私は踏ん張れたんだ」
蘇語倉は上手に縄を解き、林若簡の両腕を解放した。そして彼女を抱きしめ、その頭を撫でた。
「大丈夫。初めてはこれで終わり。次からも、一緒に乗り越えていこう」
林若簡は蘇語倉の胸に顔を埋めて泣いた。恐怖と、屈辱と、しかしそれ以上に蘇語倉の温もりが彼女を支えていた。
その後、二人はシャワー室で身体を洗い合い、清め合った。壁の鏡には、肩に刻まれた魔術刻印がかすかに浮かび上がっているのを林若簡は見た。それはまるで彼女の存在自体がもう自由ではないことを示しているようだった。
着替えを済ませ、リビングのソファに二人で座る。窓はないが、天井の照明が夕暮れの色に変わり、一日が終わろうとしていた。
「最初の調教者でこれなら、これからどうなるんだろう……」
林若簡が呟く。
「想像したくないね。でも、私たちの絆は何にも壊せない。それだけは信じていよう」
蘇語倉はそう言って、林若簡の手を握った。その手の温もりが、すべての恐怖を一時的にせよ忘れさせてくれた。
B401の時空は閉じている。外の世界は変わらず流れているが、彼女たちにとってはここだけがすべてだ。二人はただ寄り添い、次の調教者が来るまでの時間を大切に過ごした。
——小曦システムの記録には、この日の出来事がすべて詳細に保存されていた。そして、翌朝を待たずして、第二の調教者が準備を進めていた。