# 第一章
秋の終わり、コンスタント・シティには冷たい風が吹き始めていた。キャンパスの並木道では、赤や黄色に染まった葉が風に舞い、地面を彩っている。そんな季節の訪れを感じさせるある日の午後、厳喆珂はキャンパス内のカフェテリアで一人、ラップトップを開いていた。
画面の向こう側には、彼女の夫である楼成の笑顔があった。武道の試合でますます名を上げている彼は、最近も全国大会で素晴らしい成績を収めたばかりだ。
「珂珂、そっちは寒くなってきたろ?ちゃんと暖かくしてるか?」
楼成の声がイヤホンから聞こえてくる。彼の声を聞くだけで、心が落ち着くのを感じる。結婚してからというもの、二人の絆はより一層強くなっていた。
「うん、大丈夫だよ。楼成、あなたこそ、試合で無理してない?」
「俺はプロの武道家だぞ。それに、お前のためにも強くなりたいんだ。海外で頑張ってる珂珂に負けてられないからな」
その言葉に、厳喆珂はほほえみを浮かべた。結婚式を終え、すぐに留学の準備を始めた日々を思い出す。楼成との新婚生活はわずか一ヶ月足らずだったが、その短い間に彼女は彼のすべてを全身で感じ取った。初めての夜、彼のたくましい腕に抱かれ、彼女は女としての悦びを知った。あの瞬間、彼女の中で何かが永久に変わったのだ。
「楼成、次に会う時までに、私はもっと成長しているよ。金融の知識をしっかり身につけて、帰国したらあなたの役に立ちたい」
「俺もだ。珂珂、愛してる」
「私も…愛してる」
ビデオ通話を終え、厳喆珂はラップトップを閉じた。キャンパスを歩きながら、彼女はふと周囲を見渡した。コンスタント大学は全米でも有数の名門校だ。キャンパス内の建築物は古風でありながらも、最先端の設備を備えている。そんな環境の中で、彼女は武者としての鍛錬も怠ってはいなかった。
毎朝五時に起床し、キャンパスの隅にある静かな林の中で、武道の稽古を行う。職業九品という位は、武道の世界ではまだまだ入り口に過ぎない。楼成は既に五品の非人級武者だ。彼に追いつくためには、日々の努力が欠かせない。
入学から一ヶ月が経ったある金曜日の夕方、クラスメートのサラが声をかけてきた。
「ねえ、珂珂。今夜、新入生歓迎パーティーがあるんだけど、来ない?」
サラは金髪のショートヘアが似合う、明るく社交的なアメリカ人女性だ。彼女の誘いはいつも楽しそうなものばかりで、厳喆珂も何度か彼女の誘いを受けたことがあった。
「今夜?そうだな…特に予定はないけど」
「決まりね!場所はキャンパスの南にある『ブルーオーシャン』っていうバーよ。八時から始まるから。みんなで楽しみましょう!」
サラの熱意に押され、厳喆珂は参加を決めた。彼女は普段あまり派手な場所には行かない方だが、留学生活も始まったばかり。同級生との交流も大切だと思ったのだ。
午後七時半、厖喆珂は寮の部屋で支度を整えていた。鏡の前で、彼女は軽く化粧を施す。普段のすっぴんも美しいが、今夜は少しだけドレスアップしようと思った。薄いピンクの口紅と、アイシャドウをほんの少し。髪は後ろでゆるくまとめ、白いブラウスに黒のスカートというシンプルな装いだ。
「よし、行こう」
彼女はバッグを持ち、部屋を出た。キャンパスを抜け、南へ十分ほど歩いたところにそのバーはあった。外観は落ち着いた雰囲気で、店内からはジャズの流れる音が聞こえてくる。
ドアを開けると、既に多くの学生が集まっていた。サラが手を振っている。
「珂珂!こっちよ!」
サラの隣には、見知った顔がいくつかあった。同じクラスの中国人留学生のリーチェン、そして…マークというアメリカ人男子学生もいる。
マークはいつもニコニコと笑顔を絶やさない好青年だ。しかし、厳喆珂は彼の視線に時折不気味なものを感じることがあった。特に、彼が自分を見る時の目つきが、どこか深く沈んでいるように思えるのだ。
「こんばんは、みなさん」
「珂珂さん、こっちに座ってくださいよ」
マークが隣の席を勧める。厖喆珂は少し迷ったが、断るのも失礼かと思い、その席に座った。
パーティーは和やかな雰囲気で進んでいった。飲み物は各自でバーカウンターから取ってくるスタイルだ。厖喆珂はオレンジジュースを選んだ。酒はあまり強くないし、武道の鍛錬にも差し支えるからだ。
「珂珂さん、武道をやってるんですって?すごいですね」
マークが話しかけてくる。彼の日本語は少し訛りがあるが、流暢だ。
「はい、少しだけ。武道が好きで、子どもの頃から続けています」
「かっこいいですね。僕も武道に興味があるんです。今度、よかったら教えてくれませんか?」
「そうですね…時間があれば」
会話は他愛ないものだった。しかし、マークの視線は常に厳喆珂の体をなぞるように動いていた。彼女はその視線に気づいていたが、あえて気にしないようにした。
パーティーが始まって一時間ほど経った頃、厖喆珂は軽いめまいを感じ始めた。最初は気のせいかと思ったが、次第にそれが確かな異変へと変わっていく。
(おかしい…。オレンジジュースしか飲んでいないのに)
彼女の職業九品の武者としての感覚が警鐘を鳴らしていた。この感覚は、武道の修行で鍛えられた第六感に近い。何かがおかしい。
さらに数分が経過し、彼女の意識は徐々にぼんやりとしてきた。体の力が抜けていくような感覚。手足が鉛のように重くなっていく。
(これは…薬を盛られた?)
厖喆珂は必死に冷静さを保とうとした。彼女の体内には、武道の修行によって培われた高度な抵抗力が備わっている。だが、それでも完全に打ち勝てるほどのものではないようだった。
「すみません、ちょっと気分が…」
厖喆珂は立ち上がった。周りの学生たちは盛り上がっており、彼女の異変に気づく者はほとんどいなかった。ただ、マークだけが彼女の一挙一動を追うように見つめていた。
彼女はバーを出て、外の空気を吸おうとした。冷たい夜風が彼女の頬を打つ。しかし、めまいは収まらず、むしろ悪化しているようだった。
(誰かに見られてはいけない…この状態は危険だ)
武者としての本能が彼女にそう告げていた。人目に付かない場所に行かねば。彼女はキャンパスの方へと歩き出したが、バランスを崩してよろめく。道行く人が振り返る。
「大丈夫ですか?」
見知らぬ男性が声をかけてきた。厖喆珂は無理に笑顔を作る。
「大丈夫です…ちょっと飲み過ぎたみたいで」
彼女はそう言って、なんとか歩き続けた。しかし、意識はもうろうとし始め、目の前がかすんでいく。
(誰かに連絡しなければ…でも、連絡先が…)
彼女はバッグの中のスマートフォンを探ろうとしたが、指がうまく動かない。楼成に電話したい。でも、時差がある今の時間は、彼は朝の稽古中だ。それに、彼に心配をかけたくない。
そう考えているうちに、彼女は気づかないうちに人気のない通りへと足を向けていた。建物と建物の間の狭い路地。街灯の明かりも届かない暗闇の中を、彼女はふらふらと進んでいく。
(もう…だめだ…)
壁に手をつき、なんとか立っていようとするが、膝の力が抜けていく。職業九品の武者としての身体能力も、この強力な薬の前には無力だった。
そして、彼女の膝が地面に着こうとした瞬間、誰かの腕が彼女の体を支えた。
「珂珂さん?大丈夫ですか?」
その声に、厖喆珂はかすかに意識を保ちながら顔を上げた。そこには笑顔のマークが立っていた。
「マーク…さん…?私は…」
「具合が悪そうですね。送っていきましょう」
彼の声は優しかった。しかし、その目は獲物を見つけた捕食者のようにぎらついていた。
「いや…大丈夫…一人で…」
「そんな状態で一人にするわけにはいきませんよ。よかったら、近くのホテルで少し休みませんか?」
「ホテル…?いいえ…寮に…」
「でも、寮までは遠いですよ。それに、こんな状態で歩くのは危険です」
マークはそう言いながら、自分の上着を脱いで、厖喆珂の頭を覆うようにかぶせた。
「何かの匂いが強いですね。風邪かもしれません。あったかくしてあげないと」
その言葉とは裏腹に、彼の行動には迷いがなかった。彼は厖喆珂の体を優しく抱き上げた。彼女の意識は朦朧として、何が起きているのかもはや理解できていなかった。
路地を出て、数分歩くと、小さな宿泊施設が見えてきた。「スリーピー・イン」という看板がかすかに光っている。マークはそのドアを押し開けた。
フロントには中年の女性が座っていた。
「ルームをお願いします」
「一泊ですか?」
「ええ、一泊で」
彼はカウンターに現金を置いた。フロントの女性は、彼の腕の中で意識を失っている女性を見て、一瞬躊躇したような表情を見せたが、何も言わずに鍵を差し出した。
部屋は二階の角部屋だった。狭いシングルルームで、ベッドと小さな机、テレビがあるだけの簡素な造りだ。カーテンは分厚く、外の光が差し込むことはない。
マークは厖喆珂をベッドに横たえた。彼女の意識は完全に失われている。規則正しい呼吸をしているが、体は完全に脱力していた。
彼は部屋の鍵を確認し、カーテンをしっかりと閉めた。そして、バッグから一台のビデオカメラを取り出した。小型で高性能なカメラだ。彼はそれを机の上にセットし、ベッド全体が映るように調整した。
「ようやく…この日が来たな」
マークの声が、静かな部屋に響く。彼の顔には、今まで隠してきた欲望がむき出しになっていた。
最初に彼女のブラウスのボタンを外した。白いブラウスの下には、淡いピンクのブラジャーが隠れている。彼女の肌は陶器のように滑らかで、白く、そして温かい。
「本当に綺麗だ…」
彼はゆっくりと彼女の衣服を脱がせていった。スカート、ストッキング、そして下着まで。すべてが丁寧に脱がされ、床に落とされる。
全裸になった厖喆珂の体は、武者として鍛えられた引き締まった筋肉と、女としての柔らかな曲線が絶妙に調和していた。彼女の胸は形が整っており、健康的な美しさを放っている。
マークは自分の服も脱ぎ始めた。彼の体は普通の男よりは鍛えられているが、楼成のような武道家には到底及ばない。しかし、今はそれが重要ではない。彼は今、この美しい女性を自分のものにできるのだ。
彼はベッドに上り、厖喆珂の体の上に覆いかぶさった。彼女の目は閉じられ、口元はわずかに開いている。その唇に彼は自分の唇を重ねた。彼女は何の反応も示さない。ただ、無防備にそこにあるだけだ。
「ふふ…いくぞ」
彼の手が彼女の胸を撫で始める。指先で敏感な部分を刺激しながら、もう一方の手で彼女の腰を抱く。彼女の肌は柔らかく、汗の匂いがかすかに混じった花のような香りがした。
「結婚してるって言ってたけど…そんなことは関係ない。今、お前は俺のものだ」
彼は彼女の脚を広げ、自身の勃起した性器を彼女の股間へと導いた。入り口で一瞬止まり、そして一気に突き入れた。
彼女の体は内側から引き裂かれるような衝撃を受け、無意識のうちに体が弓なりになった。それでも彼女は目を覚まさない。マークはそのまま腰を振り始めた。
「はあ…はあ…中が熱い…」
彼の動きが速くなる。彼女の体は彼の動きに合わせて揺れ、ベッドのスプリングが軋む音が部屋に響く。
約十分後、彼は彼女の中で果てた。精液が彼女の体内に流れ込む。彼は一度に満足せず、体位を変えて再び彼女の中に入り直した。今度は彼女をうつ伏せにし、後ろから貫く。
「お前の夫は…知らないんだろうな…こんなに綺麗な妻が…他の男に抱かれていることを…」
彼は笑いながら腰を動かし続けた。三度目には、彼女を仰向けにし、両脚を抱え上げて深く穿った。その間、ビデオカメラは一切の動きを逃さず記録し続けていた。
すべてが終わったのは、夜中の二時を回った頃だった。マークは満足げに彼女の体を一撫でした後、ベッドから降りた。カメラの電源を切り、記録された映像を確認する。完璧な画質で、彼女の顔も、体も、すべてが鮮明に映っていた。
「これで…お前は永遠に俺のものだ」
彼は衣服を整え、部屋を後にした。後片付けもせず、ただ厖喆珂を裸のままベッドに残して。
数時間後、窓の外が明るくなり始めた頃、厖喆珂の意識が徐々に戻ってきた。最初に感じたのは、全身を襲うだるさと、下半身の痛みだった。
「…ここは…?」
彼女の目の前に広がるのは、見知らぬ天井。体を起こそうとして、自分が裸であることに気づく。胸元には無数の赤い痕がついていた。
「何…これ…?」
彼女の記憶は断片的だった。パーティーでおかしくなって…路地で倒れて…そして…
(あの男が…)
彼女の体に残された感覚が、何が起こったかを如実に物語っていた。密室で、無防備な状態で、誰かに…。
涙が溢れ出した。彼女はシーツを体に巻きつけ、自分の膝を抱えた。武者として鍛えられた体は、しかし今はただ震えるだけだった。
「楼成…ごめんなさい…」
彼女の嗚咽が、朝の静かな部屋に響き渡った。
そこからどうやって寮に戻ったのか、彼女はほとんど覚えていなかった。ただ、自分を責める気持ちと、何よりも楼成に対して申し訳ないという思いが、彼女の心を占めていた。
その日の午後、彼女のスマートフォンに一通のメッセージが届いた。
「おはよう、珂珂。昨夜は楽しかったよ。これからもよろしく。マークより」
そのメッセージには、一枚の写真が添付されていた。それは、昨夜の光景を撮影したものだった。彼女が裸でベッドに横たわり、意識を失っている写真。
厖喆珂の手が震えた。彼女はすぐにそのメッセージを削除しようとしたが、その前に次のメッセージが届いた。
「写真は他にもたくさんあるよ。もし誰かに話したら、全部ネットにアップするからね。それに、君の夫にも見せてあげるよ。どう思うかな?世界一有名な夫婦のスキャンダルって」
彼女はそのメッセージを読み終え、スマートフォンを床に落とした。涙が再び溢れ出し、彼女はその場に崩れ落ちた。
あの日の出会いから、すべてが間違っていたのだ。もしパーティーに行かなければ、もしマークという男に気をつけていれば…。
しかし、時は戻らない。彼女の人生は、あの一夜で永遠に変わってしまったのだ。
そして、彼女はまだ知らなかった。このメッセージが、彼女を奈落の底へと突き落とす最初の一歩に過ぎないことを。