# 第二章
夕陽が沈む。蛮荒の地に広がる空は、燃えるように赤く染まり、やがて暗紫色へと変わっていく。その沈みゆく光芒の下、私はようやく一軒の宿を見つけた。
粗末な造りの宿屋は、土壁と茅葺き屋根でできており、入り口には獣の皮が垂れ下がっている。私はその皮をくぐり、中へと足を踏み入れた。
店内は薄暗く、油の匂いが充満している。隅には数人の黒人が酒を飲みながら談笑していた。彼らの視線が一斉に私に向けられる。
「客か?」
店主らしき男が私を見て、一瞬目を細めた。その目は明らかに私の正体を見抜いていた。そう、この女装した姿の下に隠れた男の本体を。
だが彼は、特に詮索することなく、穏やかな口調で対応した。
「部屋はある。一泊、銀貨二枚だ」
私は黙って頷き、銀貨を差し出した。店主はそれを受け取りながら、私の顔をじっと見つめる。その視線は、表面上は礼儀正しいものだったが、その奥に宿る欲望の色を私は見逃さなかった。
私の全身が粟立つ。この視線が、まるで私の着ている衣を剥ぎ取り、裸体を眺めているかのようだ。
「こちらだ」
店主に案内され、狭い階段を上る。板張りの床は軋み、部屋は狭く、簡素な寝台と机があるだけだった。
「何か必要なものがあれば、下にいる」
店主はそう言い残し、去っていった。だが、その去り際に私の身体を舐めるように見た視線が、心に重くのしかかる。
私は深く息を吐き、拳を握りしめた。爪が掌に食い込み、痛みが走る。
「屈辱だ……」
その言葉は、誰に聞かれることもなく、部屋の中で消えた。
夜が更ける。外からは荒々しい笑い声や酒宴の喧騒が聞こえてくる。蛮荒の地は、夜になるとさらに活気づくのだ。
私は部屋を出た。任務を果たすためには、情報が必要だ。『玄陰経』の在り処を突き止めるためには、この地の習わしや秘密を知らねばならない。
街に出ると、暖かな風が肌を撫でる。空には無数の星が輝き、月明かりが道を照らしていた。土の道には、所々に獣の足跡が残っている。
「お嬢さん、夜の散歩か?」
突然、背後から声がかけられた。振り返ると、一人の黒人が立っていた。大柄な体躯に、白い歯を見せて笑っている。
「この辺りは夜は危ないぜ。特に、あんたみたいな綺麗なお嬢さんはな」
私は警戒しつつも、口元に冷ややかな笑みを浮かべた。
「そうですか。では、あなたは案内してくれるのですか?」
「ははっ!面白いお嬢さんだな。いいぜ、案内してやるよ」
私は彼と共に歩き始めた。周囲には、酒場や商店が立ち並び、多くの人々が行き交っている。彼は見知った顔が多いのか、頻繁に手を振ったり挨拶を交わしていた。
「あんた、どっから来たんだ?こんな辺鄙な場所に、珍しいな」
「東のほうからです。学問のために訪れました」
「学問?へえ、変わった趣味だな。ここには何もないぜ。ただの荒れた土地だ」
私は会話を続けながら、巧みに質問を挟んでいった。
「ところで、この地域には古い書物が伝わっていると聞きました。『玄陰経』というものですが……」
彼の表情が一瞬固まった。その後、口元に笑みを浮かべる。
「ああ、あれか。確かに噂はあるな。でも、そんなもの、ただの伝説だぜ」
「伝説?」
「ああ。奥地の部族に伝わる、古い書物らしい。だが、実際に見た者はいない。見ようとした者も、みんな行方不明だ」
私は内心で注意を促した。だが、彼の話は続く。
「もし、本当に探してるんだったら、もっと奥の部族に行くといい。俺の知り合いがいる部族で、古い言い伝えに詳しい奴がいる」
「教えていただけますか?」
「ああ。でも、その前に一杯どうだ?この近くにいい酒場があるんだ」
私は断る理由もなく、彼の誘いに乗った。
酒場に入ると、煙草の煙と酒の匂いが混ざり合った空気が広がっている。私は彼と共に席に着き、酒を飲みながら話を続けた。
蛮荒黒域の風習、禁忌、部族間の力関係。そして「玄陰経」が最後に現れたとされる場所の情報を、私は少しずつ引き出していった。
彼は酔いが回るにつれて、話が大げさになっていったが、それでも得られた情報は貴重だった。
「感謝します。明日には出発します」
「気をつけろよ。あの辺りは、特に夜は危ない。女一人じゃ、何が起こるかわからん」
彼の言葉に、私は冷ややかな笑みを浮かべた。その目は、私を欲望の対象として見ている。だが、私はそれを無視した。
「ありがとうございます。では、失礼します」
私は店を出た。外の空気が心地よい。冷たい風が、酒で熱った頬を冷ます。
数日後、私は蛮荒の奥地にある一つの部族に辿り着いた。この地は、黒人たちが集い、独自の文化を築いている場所だ。
簡素な小屋を借り、荷物を下ろす。私は周囲を観察するため、すぐに外へ出た。
部族の中は、活気に満ちている。子供たちが走り回り、女たちは洗濯や料理をしている。男たちは武器を手に、狩りの話や酒の話に花を咲かせている。
「おい、見ろよ。あの女、すげえ綺麗じゃねえか?」
「ああ、肌が白くて、滑らかそうだ。中原の女は、やっぱり違うな」
その囁き声が、耳に入る。私は無視を決め込み、歩き続けた。
「お嬢さん!」
突然、声をかけられた。振り返ると、二人の黒人が立っている。一人は体格がよく、筋肉質で、顔には傷跡がある。もう一人は、さらに大柄で、鋭い目つきをしている。
「ようこそ、我らの部族へ。今日、俺たちは篝火の祭りをやるんだ。よかったら参加しないか?」
私は警戒した。が、この機会を逃す手はない。情報を得るためには、部族の内部に入る必要がある。
「喜んで」
私は頷いた。二人は顔を見合わせ、笑みを浮かべる。
「いい返事だ!夜になったら、広場に来い。俺たちが待ってるぜ」
そう言って、彼らは去っていった。私は彼らの背中を見送りながら、内心で警戒心を高めた。
夕方、私は約束通り広場へ向かった。広場の中央には巨大な篝火が焚かれ、周囲には多くの部族民が集まっている。酒や肉が振る舞われ、音楽に合わせて踊る者たちの姿もある。
「お嬢さん、こっちだ!」
先ほどの二人の黒人が手を振っている。私は近づいた。
「座れよ。ここがあんたの席だ」
彼らは私を、男たちの間に座らせた。私は少し躊躇したが、仕方なく従った。部族の習わしでは、女は男と同席するのが決まりらしい。
私は泥の上に腰を下ろした。周囲の男たちが、私を品定めするように見つめている。その視線が、肌を刺すように痛い。
「まずは酒だ。乾杯しよう!」
傷跡のある黒人、ドレイクが酒杯を差し出す。私はそれを受け取り、口をつけた。
「あ、これ……」
酒は甘く、果実のような香りがする。中原の酒とは違い、飲みやすい。
「美味いだろう?これは部族の特製だ。女に人気があるんだぜ」
私は何度か口に含んだ。確かに美味い。アルコールも強くなく、心地よい酔いが訪れる。
「さあ、もっと飲め!」
ドレクが何度も酒を注ぐ。私は断れず、何杯も飲んでしまった。
「で、あんたは何の用でここに来たんだ?」
ドレイクが尋ねる。
「私は……古い書物を探しているんです。『玄陰経』という名前ですが、知っていますか?」
「玄陰経?ああ、あの伝説の書か。知ってるぜ。でも、そんなもの、本当にあるのかどうかもわからん」
「噂では、この辺りの部族に伝わっていると聞きました」
「確かに、うちの部族の古老が昔話で言ってたな。でも、詳しいことは俺も知らん。知りたければ、うちの族長に聞くといい」
「族長に?」
「ああ。でも、族長は気難しいからな。簡単には教えてくれないだろう」
私はその情報を頭に刻み込んだ。そして、また酒を口に含んだ。
「あんた、本当に美人だな。中原の女は、こんなに綺麗なのか?」
突然、ドレイクが私の顔に手を伸ばしてきた。私は反射的に身を引いた。
「やめてください」
「ははっ!恥ずかしがってるのか?大丈夫だ、俺たちは礼儀を知ってる」
だが、その言葉とは裏腹に、彼の目は欲望に燃えている。
私は体に異変を感じ始めていた。体が熱く、心臓が早鐘を打っている。酒に酔っただけではない。何かがおかしい。
「どうした?顔が赤いぞ」
ドレイクが私の頬を撫でる。その指が熱く感じられる。
「だ、大丈夫です」
私は首を振り、自分の心を落ち着けようとした。だが、体は言うことを聞かない。
「もっと飲めよ」
酒杯が差し出される。私はそれを受け取り、また飲んでしまった。喉を焼けるような感触が、全身に広がる。
私は、朦朧とする意識の中で、身を守ろうと必死だった。だが、頭はぼんやりとして、思考がまとまらない。
「どうした、酔ったのか?」
ドレイクが私の肩に手を回す。私は体を強張らせたが、逃げられない。
「大丈夫だ、俺が支えてやる」
耳元でささやく声が、甘く響く。私はその声に抗うことができない。
「あ……」
口から漏れる吐息が、熱い。
「いい声だ」
ドレイクの手が、私の腰に回る。私はそれを振り払おうとしたが、力が入らない。
「おい、ドレイク。あんまりいじめんなよ」
もう一人の男、ライリーが笑いながら言う。
「いじめてなんかねえよ。楽しんでるんだ」
ドレイクは私の体を引き寄せ、自分の膝の上に座らせた。私は身動きが取れず、ただされるがままになっていた。
「や、やめてください……」
かすれた声で言うが、彼は全く意に介さない。
「やめろって?せっかく楽しくやってるのに」
彼の手が、私の衣の下に入り込む。生暖かい手のひらが、素肌に触れる。
「あっ!」
私は思わず声を上げた。その声が、余計に彼を興奮させる。
「いい反応だ」
彼の指が、胸の先端に触れる。そこは、敏感に反応して、固く尖っていた。
「やめろ……!」
私は必死に声を絞り出す。だが、その声は弱々しく、彼には届かない。
「何言ってるんだ。お前の体は、正直だぞ」
彼の指が、乳首を摘まむ。快感が背筋を走り、私は体を震わせた。
「ああ……!」
「ほら、感じてるじゃねえか」
ドレイクは笑いながら、さらに指を動かす。私はその感覚に耐えながら、周囲を見渡した。
すると、同じように女たちが男に抱かれている。皆、私と同じようにだらしなく、恍惚とした表情を浮かべている。
「彼女たちは、皆俺たちの女だ」
ドレイクがささやく。
「最初は抵抗していたが、今じゃすっかりなじんでる」
私はその光景に、何か違和感を覚えた。彼女たちは、元々男だったのではないか?中原から来た修行者たちが、この地で雌にされたという噂があった。
「俺たちは、皆ここで変わったんだ」
ライリーが言う。
「お前も、すぐに慣れるさ」
私は恐怖に震えた。このままでは、自分もあの女たちと同じようになってしまう。
「やめろ……離せ!」
私は必死に抵抗しようとした。だが、体は言うことを聞かない。熱で溶けたかのように、力が入らない。
「無駄な抵抗はやめろ」
ドレイクが、私の耳を舐める。その感触が、全身を痺れさせる。
「あ……!」
私は声を漏らしながら、頭を振った。だが、彼は逃がさない。
「今夜は、たっぷりと楽しませてもらうぞ」
その言葉が、耳に響く。私は、深い闇に飲み込まれていくような感覚に襲われた。