# チャプター1
康城大学のキャンパスは、秋の陽射しを浴びて輝いていた。厳喆珂は図書館の窓際にある席で、金融工学の教科書を広げていたが、視線はスマートフォンの画面に釘付けになっていた。
画面には、楼成からのメッセージが表示されている。
「今日の試合、勝ったぞ!相手は職業6品だったけど、なんとか倒せた。お前の応援のおかげだ」
喆珂の唇がほころぶ。彼女の指が素早く画面を滑る。
「おめでとう!でも無理しないでね。怪我はなかった?ちゃんと食事は取ってる?」
送信してから、彼女は窓の外を見た。キャンパスには様々な国籍の学生たちが行き交っている。ここに来てから一ヶ月が経とうとしていた。
結婚してすぐの留学。周囲からは「新婚なのに」と驚かれたものだ。しかし、楼成は理解してくれた。彼女の金融への情熱を、そして彼女自身のキャリアを大切にしたいという思いを。
「自分の道を歩め。俺はいつでもお前の味方だ」
彼の言葉が今も心に響いている。
喆珂は再びスマートフォンを見ると、楼成から新しいメッセージが届いていた。
「怪我はない。食事もしっかり取ってる。お前こそ、ちゃんと食べてるか?海外の食事は合わないかもしれないけど、無理だけはするなよ」
喆珂は微笑みながら返信を打つ。
「心配性ね。私は職業9品武者よ。自分の管理くらいできるわ。それより、次の試合の相手は誰なの?」
彼女の指が止まる。ふと、周囲の視線を感じた。顔を上げると、数人の男子学生が彼女を見ていた。そのうちの一人、マークという名の同級生と目が合う。
マークはすぐに視線をそらしたが、その頬には赤みがさしていた。
喆珂は軽く眉をひそめた。彼女はこの一ヶ月で、自分に対するマークの態度に気づいていた。講義の後によく話しかけてくるし、昼食の時間になると必ず席を確保してくれようとする。最初は親切な同級生だと思っていたが、最近ではその視線にどこか違和感を覚え始めていた。
しかし、彼女は既婚者だ。そういうことはきちんと伝えなければ。
喆珂は立ち上がり、マークの席に歩いていった。
「マーク、ちょっといい?」
マークが驚いたように顔を上げる。その目には期待の色が浮かんでいた。
「うん、もちろん。どうしたんだい?」
「話があるの。よかったら、少し時間をもらえる?」
マークの顔が明るくなる。彼は喆珂の隣を歩きながら、キャンパスのカフェテリアへ向かった。
カフェテリアの隅の席で、喆珂はコーヒーを一口すすると、真剣な表情でマークを見つめた。
「マーク、あなたはとても親切にしてくれる。感謝しているわ。でも、知っての通り私は結婚しているの。だから、あなたの気持ちには応えられない」
マークの表情が一瞬で固まった。
「気持ちって……どういう意味だい?」
「誤解してほしくないの。あなたは優秀な学生だし、友人としてならこれからも仲良くしたい。ただ、それ以上は望まないでほしい」
マークはしばらく沈黙した。その目に、一瞬暗い光が走ったように見えたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「わかったよ。君の言う通りだ。僕は少し熱くなりすぎていた。これからは友人として、普通に接するよ」
喆珂は安堵の息をついた。
「ありがとう。理解してくれて嬉しいわ」
しかし、その日の夜、マークは自室でスマートフォンの画面を睨みつけていた。そこには、先日こっそり撮影した喆珂の写真が表示されている。図書館で真剣に本を読む横顔。笑顔で友達と話す姿。そのすべてが、彼の心をかき乱していた。
「結婚している……か」
マークの唇が歪む。彼の指が写真を拡大し、喆珂の顔をなぞる。
「そんなの、関係ない」
彼の目に、狂気の光が宿った。
一方、喆珂は寮の自室で、楼成とビデオ通話をしていた。
「今日は何を食べたんだ?」
楼成の笑顔が画面に映っている。
「サラダとグリルチキンよ。ここはヘルシーな食事が多いの」
「ちゃんと食べてるか?痩せてないか?」
「大丈夫よ。それより、あなたこそ試合で無理してない?」
楼成は苦笑いしながら頭をかいた。
「ばれたか。実は今日の試合で軽く打撲をしたんだ。でも医者に見せたら問題ないって言われた」
喆珂の表情が曇る。
「楼成、約束して。無理だけはしないって」
「わかってる。お前のためにも、ちゃんと生きて帰ってくるよ」
二人の会話は夜遅くまで続いた。喆珂は通話を切った後も、しばらく天井を見つめていた。離れていても、楼成の存在が彼女の支えになっている。彼女は武者として生きることを決意したときから、自分の道を歩むと決めていた。留学もその一環だ。
しかし、彼女の平穏な日々は、すぐに崩れ去ることになる。
一週間後、クラスの一人が週末にパーティーを開くと言い出した。
「せっかく留学生が集まっているんだから、みんなで親睦を深めようよ!」
提案者はアメリカ人のジェームズだった。彼はクラスのまとめ役で、よくこうしたイベントを企画していた。
喆珂は最初、迷った。武道の練習もしなければならないし、課題も溜まっている。しかし、クラスメイトたちが口々に「来いよ」と誘うので、結局参加することにした。
「わかったわ。でも、早めに失礼するかもしれないわよ」
「大丈夫だって!楽しもうぜ!」
こうして、週末の夜、喆珂はパーティー会場となったジェームズのアパートに向かった。
会場はすでに学生たちで賑わっていた。音楽が流れ、飲み物や軽食が並べられている。喆珂は部屋に入ると、数人のクラスメイトに挨拶をしながら、飲み物を手に取った。
「やあ、来てくれたんだね」
振り返ると、マークが立っていた。彼は自然な笑顔を浮かべている。
「ええ、せっかく誘われたからね」
「いいパーティーだよ。楽しもう」
マークはそう言うと、自分のグラスを掲げた。喆珂もそれに応じて、グラスを合わせた。
数時間が経過した。喆珂はクラスメイトたちと会話を楽しみながら、時計を気にしていた。そろそろ帰ろうかと思い始めた頃、ふと異変を感じた。
――なんだろう、この眠気は。
喆珂は頭を振った。武者として培った感覚が、何かおかしいと警鐘を鳴らしている。彼女は自分のグラスを見つめた。確かにもらった飲み物は、何度か飲み替えている。だが、そのどれかに何かが混入されていたのだろうか。
職業9品武者として、彼女は通常の人間より薬への耐性が高い。しかし、今回の薬は強力なものだった。徐々に意識がぼんやりとしてくる。
「大丈夫か?」
誰かが声をかけてきた。マークだ。
「ええ……ちょっと疲れたみたい。帰ろうかしら」
「一人で帰るのは危ないよ。送っていくよ」
「大丈夫。自分で帰れるから」
喆珂はそう言って立ち上がったが、足元がふらついた。マークが素早く彼女の腕を支える。
「やっぱり送るよ。遠慮しないでくれ」
喆珂は断ろうとしたが、意識はもうろうとし始めていた。このまま一人で帰るのは確かに危険かもしれない。しかし、マークに送ってもらうのも気が進まない。
「じゃあ……タクシーを呼んでくれる?それだけで大丈夫だから」
「わかった。外で呼ぼう」
マークは喆珂の腕を支えながら、アパートの外に出た。夜風が顔に当たると、少しだけ意識がはっきりした。喆珂はマークの手をそっと振りほどこうとした。
「ありがとう。ここで大丈夫だから」
「まだふらついているじゃないか。ちゃんとタクシーに乗るまで見送るよ」
マークの手が、再び彼女の腕を掴む。その力は、必要以上に強かった。
――やっぱり、おかしい。
喆珂の武者としての本能が、危険を察知した。彼女はできるだけ平静を装いながら、人通りの多い大通りに向かおうとした。
「人混みを避けて帰ろう。裏道のほうが近道だ」
マークが言った。彼の手が、喆珂の腕を引っ張る。
「いや……大通りでいいわ」
喆珂は抵抗しようとしたが、薬の効果で体が思うように動かない。彼女は歯を食いしばり、必死に意識を保とうとした。
しかし、その努力も虚しく、体から力が抜けていく。
「だめ……楼成……」
彼女の唇が、夫の名を紡ぐ。
マークはその声を聞くと、一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに冷酷な笑みを浮かべた。
「楼成?ああ、夫のことか。でも今は僕のものだ」
彼は喆珂の体を支えながら、人気のない路地へと足を進めた。周囲には誰もいない。街灯もまばらで、暗闇が二人を包み込む。
「ここで少し休もう」
マークはそう言うと、喆珂の体を壁に寄りかからせた。彼女の目は半分閉じかけている。意識はほとんどないようだった。
「美しいな……本当に美しい」
マークは喆珂の顔を両手で包み、その頬を撫でた。彼女の肌は白玉のように滑らかで、吐息はかすかに漏れるだけだ。
「最初から、君は僕のものになるべきだったんだ」
彼は自分のコートを脱ぐと、喆珂の頭を覆った。外からは誰だかわからないようにするためだ。そして、彼女の体を抱え上げ、小さなホテルへと向かった。
ホテルのフロントでは、マークが簡単にチェックインを済ませた。酔った彼女を連れてきたと言えば、何も疑われることはない。
部屋に入ると、マークは喆珂をベッドに横たえた。彼女の体は完全に弛緩し、深い眠りに落ちている。
「ついに……ついに僕のものになるんだ」
マークの手が震えていた。彼はカメラを取り出すと、部屋の隅に設置した。全てを記録するために。
彼は喆珂の服に手をかけた。その指は、彼女の肌に触れるたびに震えていた。
「こんなに美しい体……ずっと欲しかったんだ」
彼の手は、彼女のブラウスのボタンを一つずつ外していく。白い肌が露わになる。そこには、彼女が武者として鍛え上げた、しなやかで美しい肉体があった。
「楼成は、こんな素晴らしいものを独り占めしているのか」
マークの目に、嫉妬と狂気の色が浮かぶ。彼は喆珂の下着も取り去ると、その裸体をカメラに収めた。
「そうだ、この美しい姿を残さなければ」
カメラが回っていることを確認してから、マークは自分の服を脱ぎ始めた。彼の心臓は激しく打ち、呼吸は荒くなっている。
「すまないな、喆珂。でも、君が悪いんだ。僕の気持ちに気づきながら、結婚しているなんて言うから」
彼は喆珂の体の上に覆いかぶさった。彼女の安らかな寝顔が、歪んだ彼の欲望をさらに募らせる。
最初は無理やり口を開けさせた。そして、彼の欲望をその中に押し込む。
「これで君は、僕のものだ」
彼の腰が動き始める。無意識のうちに、喆珂の喉が嗚咽を漏らした。しかし、それに構うことなく、マークは行為を続けた。
次に、彼は彼女の股の間に手を伸ばした。そこはまだ濡れていない。彼は自分の唾液を指に塗り、無理やり侵入を試みた。
「痛いだろう?でも、慣れさせないとな」
彼の指が彼女の中をかき回す。そして、準備が整う前に、彼自身の欲望を押し込んだ。
「はぁ……すごい……噛みつくように締め付けてくる」
彼は激しく腰を動かし始めた。ベッドが軋む音と、彼の荒い息遣いだけが部屋に響く。
「そうだ……もっと感じろ……僕だけの牝になれ」
彼は何度も何度も彼女の体を貫いた。最初の情勢が終わると、すぐに次の体位に移る。彼女の体をひっくり返し、後ろからも犯した。
「ここも使うんだよ」
彼は彼女の肛門に自身の欲望をあてがった。そして、無理やり押し込む。
「あっ……!」
無意識のうちに、喆珂の口から悲鳴が漏れた。しかし、それもすぐにマークの手で塞がれた。
「静かにしろ。誰かに聞かれたら困るだろう」
彼はさらに激しく腰を動かした。彼女の体は彼の動きに合わせて揺れ、シーツは乱れに乱れた。
すべてを記録した後、マークは満足そうに笑った。彼はカメラのデータを確認し、ニヤリと笑う。
「これで君は、永遠に僕のものだ」
翌朝、喆珂は激しい頭痛と共に目を覚ました。体の節々が痛み、下腹部に異様な違和感がある。
彼女がベッドの上で体を起こすと、そこには見知らぬ部屋が広がっていた。
「ここは……どこ?」
彼女の記憶は、パーティーで具合が悪くなったところで途切れている。どうやってここに来たのか、何が起こったのか、全く思い出せない。
その時、部屋のドアが開いた。
「おはよう。よく眠れたか?」
そこに立っていたのは、マークだった。彼はにこやかな笑顔を浮かべているが、その目は冷たく光っていた。
「マーク……あなた、何を……」
「覚えていないのか?君はパーティーで酔ってしまってね。僕が介抱してあげたんだよ」
「そんな……私はお酒なんて……」
言いかけて、喆珂は自分の体を見た。服は乱れ、肌には無数の跡が残っている。その瞬間、すべてを理解した。
「あなた……まさか……」
「そうだよ、君は僕のものになったんだ」
マークはスマートフォンを取り出し、画面を喆珂に向けた。そこには、昨夜の光景が映し出されている。意識を失った彼女が、マークに犯されている映像だった。
「この映像をインターネットに流されたくなければ、言うことを聞け」
喆珂の顔が青ざめた。彼女の拳が震える。
「そんな……卑怯よ……」
「卑怯?何を言うんだ。愛する人を手に入れるためには、手段を選んではいられないんだ」
マークは喆珂の顎を掴み、無理やり自分の目を見させた。
「これからは、僕の言うことを聞け。そうすれば、この映像は誰にも見せないし、君の夫にも知られないようにしてやる」
「ふざけないで……私は楼成を愛してる……」
「愛している?ならば、この映像が彼の元に届いたらどうなると思う?」
マークの言葉に、喆珂の心臓が凍りついた。楼成は純粋な人間だ。彼がこの映像を見れば、彼女が不貞を働いたと誤解するかもしれない。いや、どんな理由があれ、彼はこの現実を受け入れられないだろう。
「……わかったわ」
喆珂は声を絞り出した。その目からは涙が溢れていた。
「賢い選択だ」
マークは満足そうに笑うと、喆珂の頭を撫でた。
「今夜も来い。場所は後で知らせる」
そう言い残して、マークは部屋を出ていった。喆珂は一人残され、ベッドの上で膝を抱えた。
「楼成……ごめんなさい……」
彼女の嗚咽が、冷たい部屋の中に響き渡った。
この日から、喆珂の留学生活は一変した。表面上は普通の学生として過ごしながら、夜になるとマークに呼び出され、彼の欲望のままに体を弄ばれる日々が始まったのだ。
彼女は自らの弱さを呪いながらも、楼成を守るため、そして自分の将来を守るために、その屈辱に耐え続けることを選んだ。
――必ず、いつか……。
彼女の心の中には、復讐の炎が静かに燃え続けていた。しかし、その日が来るまで、彼女はこの男の支配に従うしかなかった。
留学生活の始まりは、こうして暗い影に包まれたのである。