# 第一章:出張の提案
午後三時、高層ビルの二十階にある陳宇のオフィスは、薄暗い照明が落ち着いた雰囲気を醸し出していた。窓の外には広がる都市の景色が見えるが、陳宇の目はそれを見てはいなかった。彼の視線は机の上の書類に集中していたが、その実、思考は全く別の場所にあった。
「趙磊、入れ」
ドアをノックする音に応じて、陳宇は短く声をかけた。オフィスの主任である趙磊が、にこやかな笑みを浮かべて入ってきた。彼の動きにはいつも通り、お世辞のような素早さがあった。
「社長、何か御用でしょうか?」
趙磊は腰を低くして陳宇の前に立った。陳宇は書類から顔を上げ、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「ちょっと考えがあってな。来月、新しいクライアントとの契約があるだろう。それに合わせて、海辺のリゾートで出張セミナーを開こうと思うんだ」
陳宇の言葉には、一見すると仕事の話しの装いがあったが、趙磊にはその裏にある意図がすぐに読めた。彼は目を細めて陳宇に近づいた。
「それはいいアイデアです。メンバーはどのように?」
「林晓と王姐を選んだ。あの二人なら、セミナーの雰囲気作りに役立つだろう」
陳宇はそう言うと、机の上のペンを弄りながら、趙磊の反応を待った。趙磊はすぐに理解し、頷いた。
「なるほど。海辺のリゾートなら、夜のイベントも充実しますからね。ご配慮ありがとうございます」
「余計な事は言わなくていい。ただ、彼女たちにその旨を伝える際には、うまくほのめかせ。出張の特典もあるってな」
陳宇の目には、冷たい光が宿っていた。彼はまるで獲物を狙う狩人のように、自分の計画が進むのを楽しんでいた。趙磊はその意図を完璧に理解し、口元にいやらしい笑みを浮かべた。
「お任せください。私がきちんと伝えます」
趙磊はオフィスを出ると、すぐに林晓のデスクへと向かった。林晓は若くて可愛らしい女性で、今日も薄いピンクのブラウスを着ていた。彼女の隣には、少し年上の王姐が座っていた。王姐はセクシーな体格を持ち、いつもより派手なメイクをしていた。
「林さん、ちょっといいかな?」
趙磊が声をかけると、林晓は顔を上げた。彼女の目には少し緊張の色が浮かんでいた。
「はい、趙主任。何でしょうか?」
「来月、海辺のリゾートで出張セミナーがあるんだ。社長が君と王姐を指名している」
趙磊はそう言うと、意味深な笑みを浮かべた。林晓は一瞬固まったが、すぐに笑顔を作った。
「え?私もですか?」
「ああ。特別な出張になるからな。追加の特典もあるってことだよ」
趙磊の言葉には、何か別の意味が込められているように聞こえた。林晓はその言葉に内心で戸惑いを感じたが、上司の前で断る勇気はなかった。
「わかりました。準備します」
一方、王姐はすでに趙磊の意図を察していた。彼女は口元にセクシーな笑みを浮かべながら、趙磊に近づいた。
「趙主任、それは楽しみですね。私も林さんも、しっかり準備しますよ」
王姐のその言葉には、明らかに同意以上の意味が込められていた。趙磊はそれを確認すると、満足げに頷いた。
「では、詳細は後でメールで送る。よろしく頼む」
趙磊が去った後、林晓は王姐に小声で話しかけた。
「王姐、あの出張って…何か特別なことあるんですか?」
王姐は林晓の肩を軽く叩きながら、何気ない風を装って答えた。
「そんなことないわよ。ただの出張よ。でも、社長が直々に指名したんだから、きっと良い経験になるわよ」
林晓はまだ不安そうだったが、王姐の言葉に少し安心したふりをした。彼女はスマホを取り出して、彼氏にメッセージを送ろうか迷った。しかし、王姐がすぐにそれを止めた。
「林さん、彼氏にはまだ言わない方がいいわよ。余計な心配をかけるだけだから。それに、これは仕事なんだし」
王姐の言葉には、どこか説得するような強さがあった。林晓はその言葉に納得したふりをして、スマホを机の上に置いた。だが、彼女の心の中にはまだ迷いが残っていた。
「そうですね…そうします」
王姐は自分のデスクに戻ると、陳宇のオフィスの方を見て、ほくそ笑んだ。彼女は陳宇の色欲をよく知っていたし、それが自分にとってどれほど有利なことかも理解していた。
「いいじゃないか。海辺のリゾートで、少し刺激的な時間を過ごすのも」
王姐の目には、危険な光が宿っていた。彼女は自分の結婚生活に飽きていた。だからこそ、この出張は彼女にとって絶好の機会だった。
その夜、林晓は家に帰ると、彼氏の李強がリビングでテレビを見ていた。彼女は何気ないふりをして隣に座ったが、心の中では迷いが渦巻いていた。
「今日はどうだった?仕事は順調か?」
李強が何気なく尋ねた。林晓は一瞬言葉に詰まったが、すぐに笑顔を作った。
「うん、まあまあ。来月、出張があるかもしれないの」
「出張?どこに?」
「海辺のリゾートだって。社長直々の指名なんだ」
李強は一瞬眉をひそめたが、特に気にしないふりをした。
「そうか。気をつけて行ってこいよ」
林晓はその言葉に内心でほっとしたが、同時に罪悪感も感じていた。彼女は李強に本当のことを言うべきかどうか迷ったが、結局何も言わなかった。
数日後、オフィスで王姐が林晓のデスクに近づいてきた。
「林さん、あの出張のことだけど、もし彼氏に言えないなら、私が代わりに説明してあげようか?」
林晓は驚いて顔を上げた。王姐の言葉には、どこか強引な優しさがあった。
「いえ、大丈夫です。自分で言います」
王姐はそれを聞くと、満足げに頷いた。
「そう?じゃあ、いいわ。でも覚えておいて。この出張はチャンスなのよ。仕事の人脈を作るにもいいし、自分をアピールするにも絶好の機会よ」
王姐の言葉には、何か別の意味が込められているように聞こえた。林晓はその言葉の裏に隠された意図を完全には理解できなかったが、心のどこかで警告を感じていた。
「わかりました。ありがとうございます」
その日の終わり、陳宇のオフィスでは、彼と趙磊が再び密談をしていた。
「うまくいっているようだな」
陳宇は満足げに言った。趙磊はそれに応えて、にこやかな笑みを浮かべた。
「はい、林さんは少し迷っているようですが、王姐がうまく説得してくれるでしょう」
「よし。あとは細かい手配を頼む。出張の日程は来月の十日から三日間だ。あのリゾートホテルを押さえておけ」
陳宇はそう言うと、机の上の書類を整理し始めた。彼の目には、これから起こることが待ちきれないような興奮の色が浮かんでいた。
趙磊は一礼してオフィスを出た。彼の心の中では、すでに計画の全貌が出来上がっていた。林晓をどう説得するか、王姐をどう利用するか、すべてが頭の中で組み立てられていた。
「さあ、潮の流れが変わろうとしている」
趙磊はそう呟くと、自分のデスクに戻っていった。オフィスの空気は、何か始まろうとしている予感に満ちていた。林晓はその予感に気づかず、ただスマホの画面を見つめていた。王姐は鏡の前で口紅を直し、満足げな笑みを浮かべていた。
海辺のリゾートは遠くない。そして、その場所で何が起こるのか、誰もがまだ知らなかった。