# 第一章 年末間近
リビングルームの空気は、重く湿っていた。暖房の効きすぎた部屋には、甘ったるい芳香と、それとは別の、かすかな獣のような匂いが混ざっている。カーテンは厚く閉められ、外の冬の陽光を遮断していた。時計の秒針だけが、規則正しく時を刻んでいる。
陸辰はソファの中央に深く腰掛け、両腕を肘掛けに広げていた。その体躯は厚く、鍛え上げられた筋肉が黒いニットの下に盛り上がっている。彼の目は細められ、口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。その笑みは決して温かいものではなく、獲物を値踏みする捕食者のそれだった。
「さて、今年の大餐だが」
陸辰の低い声が静けさを破った。彼はゆっくりと三人の家族を見渡す。母の林秀蘭は彼の向かいに座り、脚を組んでいた。着物のすそから覗く太ももは艶めかしく、豊満な体つきを強調するように、体を少し横に傾けている。その目は潤み、赤い唇が微かに開かれていた。
「今年も、豪勢にやろうじゃないか」
陸瑶は窓辺に立ち、腕を組んでいた。彼女の細長い指が、自分の肘を撫でている。冷艶な美貌には、何の表情も浮かんでいない。だが、その瞳の奥で、かすかに光るものがあった。彼女は弟の言葉に、わずかに顎を上げただけだった。
陸雪はソファの端に座り、膝を抱えるようにしていた。彼女の大きな目は、兄と母の間を忙しなく往復している。清純な顔立ちとは裏腹に、その視線には陰鬱な熱が宿っていた。彼女の指先は、自分のスカートの端をひそかに揉みしだいている。
「母さん、どう思う?」
陸辰が問いかけた。その声は優しげだったが、底には冷たい命令が潜んでいた。
林秀蘭はゆっくりと立ち上がった。着物の襟元が少し緩み、鎖骨の線が露わになる。彼女は息子の前に歩み寄り、まるで供物のように両腕を広げてみせた。
「今年はね、辰くん」
彼女の声は掠れ、艶を帯びていた。
「母さん、ずいぶん肥えたのよ」
その言葉に、陸辰の目が細まった。彼はゆっくりとソファから立ち上がり、母の前に立つ。二つの影が重なり合い、彼女の体が彼の影に飲み込まれた。
「そうか」
陸辰の手が伸び、母の腰に触れた。太い指が、着物の上から柔らかな肉を掴むように押す。林秀蘭は身を震わせ、甘い吐息をもらした。
「いいね、母さん。今年の主菜は、君で決まりだ」
陸瑶が窓辺から歩み寄った。ハイヒールの音が、静かな部屋に響く。彼女は弟の隣に立ち、母の体を眺めた。
「今年は、準備も入念にしないとね」
その言葉には、奇妙な興奮が混じっていた。
陸雪も立ち上がった。彼女の顔は紅潮し、唇を噛みしめている。目には恐怖ではなく、羨望と渇望の色が浮かんでいた。
「私も…私も手伝える?」
声が震えていた。それは緊張からか、期待からか。
陸辰は妹を見下ろし、口元を歪めた。その笑みは、彼女の内側をすべて見透かしているかのようだった。
「ああ、みんなでやるんだ。家族総出でな」
林秀蘭はゆっくりと息子の胸に手を置いた。彼女の指先が、彼の胸筋を撫でるように這う。
「辰くんに、すべてを捧げるわ」
その言葉には、甘美な陶酔が満ちていた。
四人の影が、薄暗いリビングで一つに重なる。壁に掛けられた時計が、午後五時を告げた。外では、冬の夕暮れが早くも訪れ、街灯がぼんやりと点灯し始めている。
陸辰がゆっくりと腕を上げ、三人を抱き寄せるようにした。その腕には、確かな力が込められていた。逃げ場はない。逃げようとも思わない。
「今年も、最高の晩餐にしよう」
彼の声は優しく、そして悍ましかった。三人の返事は、一つに重なった。
「ええ」
その瞬間、リビングルームには、甘美な死の匂いが満ちた。