# 章 1
朝のキャンパスはいつもと同じ静けさに包まれている。四月の陽光が窓から差し込み、廊下に長い影を落としていた。私は歩きながら、スーツの下に身につけているものの存在を意識せずにはいられなかった。
黒のレースブラ。肌に密着するその感触は、もう何年も前から私の日常の一部になっている。初めて身につけた日の震えと興奮を、今でも鮮明に覚えている。母のタンスからこっそりと拝借したその下着は、私の体型にぴったりとフィットし、鏡の中の自分があまりにも自然で、一瞬、自分が誰だかわからなくなったあの感覚。
だが今日、私はいつも以上に緊張していた。昨夜、新しい玩具を試したからだ。シリコン製の肛塞。先端がわずかに膨らんだその形状は、挿入された瞬間、予想以上の圧迫感と充実感をもたらした。今もそれは私の体内に収まっている。歩くたびに、微かな異物感が尾骨から背筋へと伝わっていく。
私は人前では決して見せない顔を持っている。二十五歳、大学の最年少辅导员。学生たちからは親しみを込めて「林先生」と呼ばれ、同僚からはその美貌と能力を評価されている。しかし、その評価の裏で、私は常に偽りの自分を演じている。
生徒たちが教室に集まり始めていた。今日の一限は国際経済論。百人余りの学生が席につき、それぞれの会話に興じている。私は教壇に立ち、資料を広げながら、無意識のうちに腰の位置を調整した。肛塞が体内でわずかに動く。息を呑むような刺激が走る。
「おはようございます、林先生」
声をかけられて、私ははっとした。顔を上げると、前に立っているのは数人の女子学生だった。彼女たちはにこやかに笑いかけている。私は必死に平静を装い、笑顔を返した。
「おはよう。今日は遅刻しないでね」
私の声は少し震えていただろうか。自分ではわからなかった。ただ、体内の異物が徐々に温みを帯び、私の体温に馴染んでいくのを感じていた。
講義が始まった。私は板書をしながら、経済理論の説明を続けた。後ろの席では、何人かの学生が私語をしている。前に座る学生たちは真剣にノートを取っている。すべてがいつも通りの光景だった。
しかし、私はいつも通りではなかった。
スーツの下、私の全身は汗ばんでいた。特に太ももは、ナイロンストッキングの滑らかな感触に包まれている。その上からさらにガーターストッキングを履いている。腿の付け根に巻かれたゴムの締め付けが、動くたびに肌を刺激する。
私は教壇の端に手をつき、体勢を変えようとした。その瞬間――
「あっ……」
かすかな声が漏れた。肛塞が予想外の角度で内壁を押したのだ。強い刺激が背筋を駆け上り、私は無意識のうちに腰を引いた。スーツのズボンがきつく締まり、臀部のラインが強調されてしまう。
幸い、学生たちは気づいていないようだった。私は平静を装い、講義を続けた。しかし、体中の神経が一点に集中していた。肛塞の存在。それが私の中で主張し続けている。
講義中、私は何度か姿勢を変える必要があった。長時間同じ姿勢でいると、肛塞が徐々にずれていき、不快感が増すのだ。しかし、動くたびに内壁を刺激され、甘い痺れが全身に広がっていく。
私は生徒たちの視線を感じていた。特に後方の席から。何かを探るような、観察するような視線。しかし、それに気づかないふりをして、私は講義を続けた。
二限が始まる前に、私はトイレに行くことにした。肛塞の位置を調整する必要があったのだ。人気のない男子トイレに入り、一番奥の個室に滑り込む。
鍵をかけると、私は深く息を吐いた。ズボンのベルトを外し、スラックスを下ろす。鏡に映る自分の姿。スーツの下に着た黒のレースブラ。その下の豊かな胸は、パッドを入れているわけではない。私の体は、元々女性のように柔らかく、曲線的なのだ。
ストッキングの上に重ねたガーターのバンド。それが太ももに食い込んでいる。私はズボンをさらに下ろし、肛塞の位置を確認しようとした――
その時、ポケットから何かが落ちる音がした。
見下ろすと、小さなリモコンが便器の上に落ちていた。肛塞のコントローラーだ。私は急いでそれを拾い上げ、ポケットにしまい直した。しかし、その瞬間、指が震えた。
もし誰かに見られていたら。もし拾われていたら。
そんな考えが頭をよぎるが、私はそれを振り払った。大丈夫。誰もいない。私はそう自分に言い聞かせ、パンツを引き上げ、再び講義に向かった。
午後の講義が始まる前、私は講師控え室で教科書を整理していた。窓の外では学生たちが楽しそうに会話している。その中に、一人の男子学生の姿が目に入った。
彼は一限の講義にも出席していた学生だ。名前は……確か、陳剛(ちん ごう)と言ったか。体格のいい、いかにも体育会系といった感じの学生だ。しかし、その目つきはどこか鋭く、観察力に優れている印象を持っていた。
彼が何かを見ている。そう感じた瞬間、私は視線をそらした。何も気づいていないふりをして、書類をまとめ始めた。
三限の講義が始まった。今度は専門科目のゼミだ。少人数制で、十五人の学生が円形に座っている。私は中心に立ちながら、それぞれの学生の発表を聞いていた。
しかし、集中できなかった。
午前中の講義から、何かがおかしい。私は常に誰かに見られているような感覚に襲われていた。特に後方の席。そこに座る陳剛の視線が、やけに重い。
彼はいつもより熱心にノートを取っているように見えた。しかし、その目の動きは、私の体を追っているように感じられた。私が黒板に向かうたび、腰をひねるたび、彼の視線が私の身体のラインをなぞっているような気がした。
錯覚だ。そう思いたかった。
しかし、講義の終盤、私は決定的なミスを犯した。
黒板の高い位置に文字を書こうと、私は背伸びをした。その瞬間、スーツのジャケットがわずかに持ち上がり、シャツの裾がズボンから抜けてしまったのだ。
そして、一瞬だけ。
腰のあたりに、黒いレースの縁が見えた。
私は急いで裾を押さえたが、遅かった。あの瞬間、何人の学生がそれを見たのか。いや、見たのは一人だけかもしれない。しかし、その一人が問題だった。
陳剛。
彼の目が、その一瞬を捉えたのを確信した。
彼の表情は変わらなかった。ただ、わずかに口元が引き締まったように見えた。そして、すぐにノートに視線を落とした。
私は心臓が止まるかと思った。全身が熱くなり、耳の先まで赤くなっているのが自分でもわかった。何とか平静を装って講義を続けたが、頭の中は真っ白だった。
もう終わった。そう思った。
講義が終わると、私は逃げるように教室を出た。しかし、廊下の角で、後ろから声をかけられた。
「林先生」
振り返ると、陳剛が立っていた。彼の手には、何か小さなものが握られているように見えた。
「はい、何か?」
私はできるだけ冷静な声を出そうとしたが、声が震えていた。
「いえ……先生、体調が悪そうに見えたので。大丈夫ですか?」
彼の目が私の顔をじっと見つめている。その瞳の奥で、何かが光っているように感じられた。
「大丈夫です。ちょっと疲れただけですから」
そう言って、私は背を向けた。彼がまだ何かを言いかけたようだったが、私は聞こえないふりをして歩き続けた。
しかし、足が震えていた。
肛塞の存在を忘れていたわけではない。しかし、今はそれ以上に、あの学生の目が怖かった。彼は何を見たのか。何を知っているのか。
トイレに駆け込み、個室に閉じこもる。私は荒い息を整えながら、ズボンのポケットをまさぐった。
リモコンがない。
私は必死にポケットを探った。ジャケットの内ポケット。バッグの中。どこにもない。
あのトイレ。そうだ、午前中にトイレに行った時、落としたのかもしれない。私は急いで男子トイレに向かった。しかし、そこには誰もいなかった。個室をすべて確認したが、リモコンは見つからなかった。
だれかに拾われた。
そう確信した瞬間、全身が恐怖で硬直した。
しかし、その恐怖はすぐに別の感情に取って代わられた。
もし、あのリモコンを誰かが持っているのなら。その誰かが、今、この瞬間にもスイッチを押す可能性があるのだ。
私は講義室に戻る途中、突然、体内の肛塞が微かに振動した。
「っ……!」
息を呑んだ。足が止まる。立ち竦んだ私の体は、内側からじわじわと広がる熱に包まれていった。
誰かがリモコンを操作している。あの肛塞のリモコンを。
振り返ると、誰もいない。廊下は静まり返っている。しかし、確かに振動はあった。それは一瞬で消えたが、私の体内に甘い痺れを残していた。
私は混乱しながらも、足を前に進めた。しかし、二歩進むごとに、再び振動が襲う。
「あ……っ!」
声を押し殺すのがやっとだった。肛塞が内壁を刺激し、私は無意識のうちに太ももをこすり合わせていた。腰が砕けそうになる。
講義室に戻ると、すでに学生たちが席についていた。私は教壇に立ちながら、必死に集中しようとした。しかし、肛塞の振動は断続的に続き、私の体は快感に打ち震えていた。
授業中、私は何度も姿勢を変えなければならなかった。肛塞の振動が強まるたびに、私は机に手をつき、息を整えるのに必死だった。学生たちは私の異変に気づいただろうか。特に陳剛は、私の様子をじっと観察しているように見えた。
「林先生、大丈夫ですか?」
前列の女子学生が声をかけてきた。
「ええ、大丈夫です。ちょっと……貧血気味で」
私は作り笑いを浮かべた。しかし、その笑顔はひきつっていたに違いない。
講義が終わる頃には、私はほとんど立っているのがやっとだった。肛塞の振動は止まっていたが、その刺激の余韻が体中に残っていた。ズボンの中は湿り気を帯び、スーツの下は汗でびっしょりだった。
教室を出るとき、私は最後尾の席に目をやった。陳剛はまだ座ったまま、何かをノートに書き込んでいた。彼の視線が一瞬、私に向けられた。そして、彼の口元が、かすかに歪んだ。
笑っていた。
確信した。彼がリモコンを持っている。
しかし、どうすればいい? 問い詰めるのか?「あのリモコンを返してください」と? そんなことをすれば、私の秘密が暴露される。私は絶望的な状況に立たされていた。
いや、もしかしたら。
もしかしたら、私はこの状況を望んでいたのかもしれない。
そう思った瞬間、背筋に悪寒が走った。しかし、それと同時に、甘い興奮が全身を包み込んだ。
誰かに支配される。それは、私が長年夢見てきたことだ。自分で決断する責任から解放され、ただ感じるだけの存在になる。あの快感。あの充足感。
私は急いで階段を下りた。講義室から遠ざかりたくてたまらなかった。しかし、階段の途中で、再び振動が襲った。
「ああっ……」
今度は声が出てしまった。近くにいた学生が振り返る。私は必死に口を押さえ、顔を赤らめたまま、下りるのを中断した。壁に手をつき、息を整える。
「先生?」
声のする方を見ると、陳剛が立っていた。彼は心配そうな顔を装っていたが、その目は獲物を狩る肉食獣のそれだった。
「大丈夫ですか? だいぶお疲れのようですね」
彼の手が、私の肩に触れた。その瞬間、また振動が始まった。
「一緒に保健室に行きましょう」
「い、いいえ……大丈夫ですから」
私は彼の手を振り払おうとした。しかし、体が言うことを聞かない。肛塞の振動が強くなり、私は膝をつきそうになった。
「無理しないでください」
陳剛はそう言うと、私の腕を取った。彼の体温が、スーツ越しに伝わってくる。私は彼に支えられながら、階段を下りていった。
しかし、その途中でも、振動は止まらなかった。彼がリモコンを操作しているのだろうか。いや、彼のポケットに手が入っているのは見えない。しかし、もしかしたら、彼のズボンのポケットにリモコンが入っていて、それを指で操作しているのかもしれない。
そう考えると、ますます体が熱くなった。
「ここでいいです」
私は彼の手を振り解き、自分の研究室の前に立った。しかし、彼は離れようとしなかった。
「先生、本当に大丈夫ですか? 何かお困りのことがあれば言ってくださいね」
彼の目が、私の体を舐めるように見つめている。特に、腰のあたり。あのレースが見えた場所を。
「大丈夫です。気を遣ってくれてありがとう」
私はそう言うと、研究室のドアを閉めた。鍵をかけ、壁に寄りかかる。体中が震えていた。
なぜだ? なぜ、私はこの状況に興奮しているのか?
自分でも理解できない。しかし、確かに私は、あの振動に身を任せたいと思っている。誰かに支配されたい。誰かに私のすべてを委ねたい。
そう考えた瞬間、また振動が始まった。
今度は強かった。私は思わず壁に手をつき、声を漏らした。
「あ、ああっ……」
肛塞が奥まで押し込まれたような感覚。内壁をこすり上げる刺激。私は無意識のうちに、自分の手で陰茎を撫でていた。スーツのズボン越しに、それが硬くなっているのがわかる。
だめだ。やめなければ。
しかし、体は快感を求めて止まらなかった。私はゆっくりとスカートをたくし上げるようにズボンを下ろした。ストッキングに包まれた太ももが露わになる。
そして、さらに下着をずらす。肛塞が埋め込まれている部分を露出させた。
指でそっと触れる。振動が指先に伝わってくる。その感覚に、私は吐息を漏らした。
「んっ……んんっ……」
快感が全身を駆け巡る。私は自分で感じることに夢中になっていた。あのリモコンを誰が持っているのか。そんなことはもうどうでもよかった。ただ、この快感に身を任せていたかった。
振動が止んだ。
私は期待と不安で胸が高鳴るのを感じた。次はいつ来るのか。もっと強い刺激が欲しい。そんな欲求が湧き上がってくる。
しかし、もう振動は来なかった。
何分待っただろうか。私は時計を見た。もうすぐ次の講義の時間だ。慌てて服を整え、研究室を出た。
廊下を歩いていると、また振動が始まった。
「あっ……」
今回は弱かった。しかし、断続的に続く。まるで、私をからかうかのように。
私は唇を噛みしめ、振動に耐えながら歩き続けた。学生たちとすれ違うたびに、緊張が走る。誰かに気づかれたらどうしよう。そんな恐怖と、誰かに見られたいという欲望が入り混じる。
講義室に入ると、すでに学生たちが着席していた。陳剛もいた。彼は私を見るなり、口元に微かな笑みを浮かべた。
「それでは、講義を始めます」
私は教壇に立ち、教科書を開いた。しかし、振動が再び強くなる。私は必死に声を絞り出しながら、板書を続けた。
しかし、足は震え、手はペンを持つことさえ困難だった。ついには、膝が崩れ、教壇に手をついてしまう。
「林先生!」
学生たちが立ち上がる声が聞こえた。
「大丈夫です。ちょっと……立ちくらみがしただけで」
私はそう言って、無理やり立ち上がった。しかし、その瞬間、振動がピークに達した。
「ああっ!」
声が出てしまった。私は口を押さえ、必死にこらえた。しかし、体中が熱く、頭の中が真っ白になりかける。
「先生、保健室に行きましょう」
誰かが私の腕を取った。陳剛だ。彼は私を支えながら、教室を出ていった。
「一人で大丈夫です」
私は抵抗しようとした。しかし、彼は離そうとしなかった。
「無理しないでください。ちゃんと保健室まで連れて行きます」
彼の声は優しかった。しかし、その目の奥に浮かぶ冷たい光を見て、私はすべてを理解した。
彼が支配している。
私の体も、私の快感も、すべて彼の手中にある。
その事実に、私は恐怖と同時に、言い知れぬ安心感を覚えていた。誰かに任せられる。判断しなくていい。抵抗しなくていい。
すべてを委ねていいのだ。
保健室に着くと、彼は私をベッドに座らせた。
「ちょっと待っていてください。養護教諭を呼んできます」
彼が背を向けた瞬間、また振動が始まった。今度は弱かった。しかし、彼が振り返って私を見たとき、その振動は止まった。
やはり彼だ。
「大丈夫ですか? 何かあれば言ってください」
彼はそう言って、優しく微笑んだ。しかし、その微笑みの裏に何があるのか、私はもう知っていた。
「大丈夫です。ありがとう」
私はそう答えるしかなかった。
彼はそれ以上何も言わず、保健室を出ていった。一人取り残された私は、深く息を吐いた。体中が汗でびっしょりだ。震えが止まらない。
しかし、その震えは恐怖だけではない。興奮と期待が入り混じった感情で、私は体の奥が熱くなっていくのを感じていた。
これから、何が起こるのだろうか。
リモコンを手にしたあの学生は、私をどこまで追い詰めるつもりなのか。
私はベッドに横たわり、目を閉じた。すると、振動が再び始まった。弱く、断続的に。まるで私をからかうかのように。
私は唇を噛みしめた。そして、その快感に身を任せた。
もう戻れない。そんな気がした。
しかし、それでいい。むしろ、私はそれを受け入れたいと思っている自分に気づいた。
この快感。この支配される感覚。それが、私の渇望していたものだ。
振動が強くなる。私は全身を震わせながら、その刺激に身を任せた。
「……もっと」
私の口から、微かな声が漏れた。
もっと、もっと感じさせてほしい。
もっと、もっと支配してほしい。
そんな欲望が、私の中で渦巻いていた。
振動が止んだ。そして、すぐにまた始まった。弱くなったり強くなったり、不規則に続く。
それが、彼からの合図なのだろうか。これから始まる、新たな関係の合図。
私は目を開け、天井を見上げた。白い蛍光灯の光がまぶしい。
これから、私の人生は変わっていく。もう二度と、元には戻れない。
しかし、それでも構わない。
私はそう思った。むしろ、それを望んでいる自分がいる。
あの学生は、私の秘密を知っている。そして、それを利用して私を支配している。
でも、なぜか怖くなかった。
むしろ、安心感さえあった。
「……ありがとう」
私はそう呟いた。誰に向けての言葉か、自分でもわからない。しかし、確かに私は感謝していた。
この感覚を、この快感を、与えてくれた誰かに。
振動が再び止んだ。今度は長く続く。
彼はもう、リモコンを操作するのをやめたのだろうか。それとも、次の展開を待っているのだろうか。
私はゆっくりと身を起こした。そして、スーツのポケットからスマートフォンを取り出した。
何か新しいメッセージが届いているかもしれない。リモコンを拾ったという知らせ。脅迫のメッセージ。あるいは、もっと直接的な指示。
しかし、何もなかった。
ただ、一通の未読メッセージがあった。それは、講義の連絡事項だった。
私は深く息を吐いた。そして、立ち上がった。
もう次の講義に行かなくては。気持ちを切り替えなければ。
しかし、一歩踏み出した瞬間、振動が強烈に襲った。
「ああっ!」
私は声を漏らし、壁に手をついた。膝が崩れ、その場にしゃがみ込んでしまう。
振動は一秒以上続いた。そして、急に止んだ。
「……っ……」
私は荒い息を整えながら、ゆっくりと立ち上がった。体中が熱い。汗が背中を伝う。
もう、逃げられない。
そう確信した。誰かが私を見ている。私の秘密を知っている。私を支配している。
しかし、なぜか恐怖よりも興奮が勝っていた。
私はその快感を噛みしめながら、保健室を後にした。廊下に出ると、何人かの学生がすれ違う。私は平然を装って歩き続けた。
しかし、一歩一歩が重い。振動がいつ来るのか、常に警戒していなければならない。その緊張感が、逆に私を興奮させていた。
講義室に戻ると、陳剛が席に座っていた。彼は私を見ると、わずかにうなずいた。そして、口元に微かな笑みを浮かべた。
私は教壇に立ち、講義を再開した。しかし、頭の中は別のことで一杯だった。
あの学生に、私はどこまで支配されるのだろうか。
もっと。もっと深く。
そんな欲望が、私の中で膨らんでいた。
講義が終わり、私は研究室に戻った。一人きりになると、ドアに鍵をかけ、スーツを脱いだ。
下に着ていたレースブラ。ストッキング。ガーター。そして、肛塞。
鏡の前に立つ。スーツの下の自分。あの学生に見られた姿。
私はゆっくりと指を肛塞に伸ばした。触れると、まだ微かに振動しているのがわかる。
「……気持ちいい」
思わずそう呟いた。その声が部屋に響く。
私は肛塞を引き抜いた。シリコン製のそれは、私の体温で温まっていた。そして、先端には私の体液が絡みついている。
それを指でなぞる。舌で舐める。
自分の味。甘く、少し塩辛い。
「……もっと」
私はそう呟きながら、再び肛塞を挿入した。今度はもっと深く。もっと強く。
自分で操作しながら、私は快感に身を任せた。
しかし、本当に欲しいのは、誰かに操作される感覚。自分の意思とは関係なく、与えられる快感。
あの学生の手によって。
「……いつでも来て」
私はそう呟いた。誰に向けてか、自分でもわからない。
しかし、確かに私は待っている。
あの支配者の訪れを。
夜が更けていく。私はベッドに横たわり、天井を見つめていた。肛塞はまだ体内にある。自分で操作することもできたが、しなかった。
あの学生が、いつ連絡してくるのか。あるいは、明日の講義で再び振動を与えるのか。
その期待が、私の体中を熱くしている。
「……おやすみなさい、支配者様」
そう呟いて、私は目を閉じた。
翌朝、私はいつもより早く起きた。講義の準備をするためではない。今日、あの学生に何を見せられるのか。何をされるのか。その期待で、私は眠れなかったのだ。
スーツを着る。今日は、あえて白いワイシャツの下に、薄手のレースブラを選んだ。教室の空調が冷たくても、関係ない。あの学生が、私の体の変化に気づくように。
「行ってきます」
誰もいない部屋に向かって、そう呟いた。
キャンパスに向かう途中、スマートフォンが振動した。メッセージの着信だ。
「おはようございます、林先生」
差出人は、陳剛だった。
私は手が震えるのを感じながら、メッセージを開いた。
「今日も講義、楽しみにしています」
それだけのシンプルなメッセージ。しかし、それだけで私の体は熱く火照った。
「……ありがとう」
私はそう返信した。それ以上、何も書かなかった。
しかし、その短いやり取りだけで、私はもう彼の支配下にあることを自覚させられた。
キャンパスに着くと、すでに学生たちが集まっていた。私は講義室に向かう途中、陳剛とすれ違った。
「おはようございます、先生」
彼はごく普通に挨拶した。しかし、その目が私の体を一瞬舐めるように見たのを、私は見逃さなかった。
「おはよう」
私は平静を装って返事をした。しかし、心臓は激しく打ち鳴らされていた。
講義が始まった。今日は、より多くの学生が集まっている。しかし、私の視線は自然と、後方の席に座る陳剛に向かっていた。
彼はノートを取りながら、時折私を見上げる。その度に、私は胸が高鳴るのを感じた。
講義中盤、ペンが床に落ちる音がした。私は思わず見下ろす。すると、自分のペンが机の端にあった。それを拾おうと身をかがめた瞬間――
振動が始まった。
「あっ!」
私は声を漏らし、急いでペンを拾った。しかし、振動は止まらない。弱くなったり強くなったり、不規則に続く。
「失礼……」
私は講義を中断し、教壇に手をついた。全身が震えている。顔が熱い。股間が疼く。
「先生? 大丈夫ですか?」
前列の学生が心配そうに声をかけてきた。
「は、はい……大丈夫です。少し水分を……」
私は水筒を手に取り、口に含んだ。冷たい水が喉を潤す。しかし、体の火照りは収まらない。
振動が再び強くなった。
「んっ……」
私は唇を噛みしめ、耐えた。講義を続けなければ。しかし、頭が回らない。体が言うことを聞かない。
「すみません、ちょっと休憩を取ります。五分ほど……席を外します」
私はそう言って、講義室を飛び出した。男子トイレに駆け込み、個室に鍵をかける。
「……はあ……はあ……」
激しい息遣い。ズボンを下ろし、ストッキングの上から陰茎を撫でる。硬く勃起している。
私は手を震わせながら、肛塞の振動を確かめた。手のひらに伝わる振動。それが、私を狂わせる。
「……もっと……もっと……」
私はそう呟きながら、自分の手で陰茎を扱いた。すると、振動が弱くなった。まるで、私が自分で快感を得ることを許さないかのように。
「……そんな……」
私は焦った。さらに手を動かそうとしたが、振動が止んでしまった。
「いや……やめて……」
体が疼く。もっと欲しい。もっと感じたい。
しかし、振動はもう来ない。
数分待った。しかし、何も起こらなかった。
私は仕方なく服を整え、講義室に戻った。陳剛は何事もなかったかのようにノートを取っている。
しかし、私を見るその目が、勝ち誇っているように感じられた。
講義が終わると、私はすぐに研究室に戻った。ドアを閉め、鍵をかける。体がまだ熱い。震えが止まらない。
「……あなたのせいだ」
私はそう呟いた。誰に向けてか、自分でもわからない。
しかし、確かに私は、あの学生に支配されている。
そして、それを楽しんでいる自分がいる。
私は鏡の前に立ち、スーツを整えた。襟元のネクタイを直し、髪を撫でつける。
「……私、あなたに全てを捧げます」
そう呟く自分の声が、耳に残った。
あの日から、私の生活は変わった。毎日、どこかで振動が私を襲う。講義中、廊下で、研究室で、食事中にさえ。
私はいつも緊張していた。しかし、その緊張が逆に快感を増幅させていた。
そして、私は徐々に、あの振動を待ち望むようになった。もっと強い刺激。もっと深い快感。
私は自分から進んで、肛塞を装着するようになった。振動がない日は、物足りなく感じるほどだ。
あの学生は、私の変化を察知しているのだろうか。
陳剛は、毎日のように私にメッセージを送ってくる。それは講義の連絡だったり、質問だったり、日常の些細なことだったりする。しかし、その一つ一つが、私にとっては命令のように感じられた。
「今日の講義、とてもわかりやすかったです」
「先生、体調に気をつけてくださいね」
「明日の打ち合わせ、よろしくお願いします」
そんな何気ない言葉が、私を支配する道具に変わっていた。
私は彼の言うことを聞く。講義に遅れないように。体調を崩さないように。打ち合わせに時間通りに行くように。
すべてが、彼の支配下にある。
そう気づいたとき、私はある決断をした。
もう、この快感から逃れられないなら。この支配を受け入れるしかないなら。
いっそ、完全に身を委ねてしまおう。
私はそう思った。
そして、あの頃から数週間が経ったある日、私は陳剛を研究室に呼び出した。
「林先生、お呼びですか?」
彼はドアを開けて入ってきた。その顔には、いつもの笑みが浮かんでいた。
「ええ……話したいことがあって」
私はそう言って、ドアを閉めた。鍵をかける音が、部屋に響く。
彼の目が、わずかに細められた。
「どんなお話ですか?」
私は深く息を吸った。そして、震える声で言った。
「あのリモコン……あなたが持っているんですよね」
彼の表情が、一瞬で変わった。驚き。そして、歓喜。
「……気づいていたんですね」
彼はそう言って、ポケットから小さなリモコンを取り出した。
「これですか?」
私はうなずいた。
「返してください」
そう言うのが精一杯だった。しかし、彼は首を振った。
「いいえ、これは僕が拾ったものです。そして、あなたが使っているものだと知っています」
彼の声は冷たかった。しかし、その目は熱く燃えていた。
「あなたは、これに興奮している。違いますか?」
私は答えられなかった。しかし、その沈黙が答えだった。
「あなたは、支配されたいんだ」
彼の言葉は、私の心臓を貫いた。
「……そういうわけじゃ……」
「違う?」
彼はリモコンのスイッチを押した。振動が始まる。
「ああっ!」
私は声を漏らし、机に手をついた。
「違うんですか?」
彼はもう一度押した。振動が強くなる。
「やめて……お願い……」
「やめてほしいなら、正直に言ってください。あなたは、支配されたいのか?」
私は必死に答えを探した。しかし、頭の中は快感でいっぱいだった。
「……はい……」
やっとの思いで、そう言った。
彼の顔に、満足げな笑みが浮かんだ。
「本当ですね?」
「……はい……」
「もう一度言ってください」
「……私は……支配されたい……」
そう言った瞬間、涙が溢れ出した。
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