猪猪

站点:NovelAI.one内容:前8章在线试读ID:48ba50fd更新:2026-06-30 14:48
# 第10章 朱蓬春は長い間、小龙女に会っていなかった。あの日以来、彼女は修行に専念すると言って、姿を消していたのだ。宿の仕事も手伝わず、どこで何をしているのかもわからない。心配になった朱蓬春は、通信法球を取り出し、小龙女に連絡を入れることにした。 法球に法力を通すと、ぼんやりと光が宿った。やがて向こう側の気配が繋がる
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第10章

# 第10章

朱蓬春は長い間、小龙女に会っていなかった。あの日以来、彼女は修行に専念すると言って、姿を消していたのだ。宿の仕事も手伝わず、どこで何をしているのかもわからない。心配になった朱蓬春は、通信法球を取り出し、小龙女に連絡を入れることにした。

法球に法力を通すと、ぼんやりと光が宿った。やがて向こう側の気配が繋がる。しかし、聞こえてきたのは小龙女の声だけではなかった。

「あっ……んっ……はぁ……!」

明らかに喘ぎ声だ。しかも、どこか切迫した、苦しそうな息遣い。朱蓬春は眉をひそめた。

「小龙女? どうしたんだ、その声は?」

しばらく間があった。ごほん、と咳ばらいをしてから、小龙女の声が返ってくる。

「あ……朱蓬春? いや、その……修行の最中なのよ。ちょうど体内の妖気を巡らせているところでね。ちょっと息が上がっているだけ」

「修行? そんなに苦しそうな修行なのか?」

「もちろんよ。高レベルの功法はね、息を整えるのが難しいの。大丈夫、問題ないわ」

朱蓬春は得心したように頷いた。小龙女は確かに真面目に修行に励んでいる。あの喘ぎ声も、よほど激しく体内の気を巡らせている証拠だろう。彼は疑うことなく、話題を変えた。

「そうか……最近、宿にも顔を出さないから、心配していたんだ。元気そうで何よりだ」

「ええ、心配かけてごめんね。でも、今は修行に集中したいの。あなたも頑張って宿を守ってね」

そう言いながらも、小龙女の声は時折途切れ途切れになった。そして、背後から何かが激しくぶつかる音が聞こえる。朱蓬春が首をかしげた、その時だった。

「ああっ! もうダメ……っ!」

突然、小龙女の声が裏返った。すぐに慌てた様子で付け加える。

「あ、違うの! ちょっと飼っている魔獣が暴れ出して! 檻を壊しそうなの! ごめん、一旦切るわ!」

「魔獣? お前、そんなもの飼っているのか?」

「うん……修行の役に立つから……じゃあ、また!」

通信が一方的に切れた。朱蓬春は法球を手に、呆然とつぶやく。

「魔獣……そんなに凶暴なのか。しかし、小龙女も大変だな」

彼は深く考えず、法球をしまい込んだ。今は宿のことを考えなければならない。小龙女がいなくなってから、妙妙と二人で何とか切り盛りしている。客足も以前より落ちているが、それでも細々と営業を続けていた。

その様子を、宿の片隅から妙妙が見つめていた。彼女の目には、朱蓬春の心配そうな横顔が映っている。小龙女がいなくなってから、朱蓬春はどこか寂しげだった。妙妙は心の中で固く誓った。

(小龙女がいなくても……私はずっと朱先生のそばにいる。絶対に)

この思いは、日を追うごとに強くなっていた。もともと朱蓬春には世話になっている。今度は自分が彼を支える番だ。妙妙は拳を握りしめ、決意を新たにした。

その時、一陣の風と共に一匹の猫妖が宿の中に飛び込んできた。妙妙の部下の一人だ。猫妖は息を切らせながら、妙妙の耳元で何かをささやく。妙妙の表情が一変した。

「何ですって? 獅子獣王が?」

「はい、お頭。老衰でお亡くなりになりました。今、妖怪動物城は大騒ぎです。新しい獣王を選ぶための武術大会が開かれるそうです」

妙妙は目を細めた。猫妖の首領として、彼女の武力は高い。かつては獣王の座も狙えると言われていた。その血が騒ぎ始めるのを感じた。

「面白い……獣王の座か」

朱蓬春が会話を聞きつけて近づいてきた。

「どうしたんだ、妙妙?」

「朱先生、聞いてください。妖怪動物城の獅子獣王が死にました。新しい獣王を決める武術大会が開かれるそうです」

「ほう、それは面白そうだな。お前、出るのか?」

「はい。猫妖の首領として、この機会を逃すわけにはいきません。獣王の座、狙ってみようと思います」

朱蓬春は顎に手を当て、考え込んだ。そして、にやりと笑った。

「いいだろう。俺も見物がてら一緒に行ってやる。宿は一時的に閉めよう。妙妙の晴れ舞台、見逃せないからな」

「朱先生! ありがとうございます!」

妙妙の顔がぱっと輝いた。二人はすぐに支度を整え、妖怪動物城へと向かった。

妖怪動物城は、様々な動物の妖怪たちが集まる巨大な都市だった。街に入ると、そこはまさに異種族のるつぼだった。虎妖、馬妖、兎妖、蛇妖、そして鳥妖まで、数え切れないほどの妖怪たちが行き交っている。みな、今年の獣王選抜武術大会を見物するために集まってきていた。街の中央には巨大な擂台が組まれ、その周りは熱気に包まれている。

妙妙はすぐに参加登録に向かった。朱蓬春は一人で街を散策することにする。人間の姿の彼は、妖怪たちの間では目立っていたが、特に問題は起きなかった。

しばらく歩いていると、前方で騒ぎが起きているのに気づいた。人だかりができている。朱蓬春が近づいてみると、そこでは一匹の鼠妖が二体の巨大な妖怪と対峙していた。水牛妖と犀妖だ。どちらも立派な体格で、筋肉が盛り上がっている。

しかし、鼠妖は全くひるんでいなかった。体長はせいぜい150センチほどの小柄な体つきだが、その体はよく鍛えられ、筋肉質だった。小麦色に焼けた肌は健康的で、細いながらも締まった体つきをしている。鋭い目つきには闘志が満ちあふれ、短い黒髪は乱れて逆立っていた。

「てめえら、さっきから何を騒いでるんだ!」

鼠妖が叫ぶ。水牛妖が低い声で答えた。

「小せえネズミが、でかい顔して歩いてんじゃねえよ。こっちは通ろうとしてるんだ」

「はっ、この道はお前のものじゃない。通れと言われて通る筋合いはない!」

「生意気な!」

水牛妖が角を下げて突進してきた。しかし、鼠妖はひらりと身をかわすと、水牛妖の脇腹に強烈な拳を叩き込んだ。ドン、という鈍い音と共に、水牛妖がよろめく。それに驚いた犀妖が割って入ろうとしたが、鼠妖は逆に跳び上がって犀妖の顔面に蹴りを入れた。二匹はあっという間に地面に倒れ伏した。

鼠妖が仁王立ちになって叫ぶ。

「まだやるか?」

水牛妖と犀妖は顔を見合わせると、慌てて這うように逃げ去った。周りの妖怪たちがどよめく。朱蓬春は感心して拍手を送った。

「見事な腕前だな」

鼠妖が振り返り、朱蓬春を見てにやりと笑った。

「おう、兄ちゃん、人間か? よく俺の戦いを見ていられたな」

「いや、ただ感心しただけだ。あの二匹を一瞬で倒すとは、大したものだ」

「ははは! 俺は李食米っていうんだ。鼠妖の中でも一段と強いって有名だぜ! さあ、気に入った。酒でもおごるから、話そうじゃないか」

李食米は気さくに朱蓬春の肩を叩いた。その手の力は意外に強く、朱蓬春は少し驚いた。彼は笑顔で応じた。

「ありがたくご馳走になるよ。俺は朱蓬春だ」

「朱蓬春? あの天蓬元帥の?」

「ああ、そうだ。天庭で天蓬元帥を務めていた」

李食米の目がまん丸になった。彼は朱蓬春をまじまじと見つめ、大声を上げる。

「うわあ! マジかよ! 兄貴はすごいなあ、天庭にまで上がったのか! 俺たち下界の妖怪からしたら、雲の上の存在だぜ!」

「大げさだな。今はただの一介の宿屋の主人だ」

「いやいや、それでもすごい! よし、今日は兄貴と酒を飲めるなんて、俺の人生最大の幸運だ!」

李食米は朱蓬春を連れて、近くの酒場に飛び込んだ。酒が並び、杯を交わすうちに、二人はすっかり意気投合した。李食米の豪快な性格と朱蓬春の鷹揚な人柄が、不思議と合ったのだ。

「いいだろう、李食米。お前のような気のいい奴と出会えて、俺も嬉しい」

「兄貴! 俺もだ! こうなったら、兄弟の契りを結ぼうじゃないか!」

「兄弟の契り? お前がそれでいいなら」

「もちろんいい! 兄貴は神仙で、俺は下界の小妖怪だけど、そんなの関係ない! 兄貴がいてくれて、俺は心強い!」

李食米が杯を高く掲げた。朱蓬春も笑って杯を合わせる。二人は盃を交わし、固い握手を交わした。

「よし、じゃあこれからよろしくな、弟よ」

「ありがとうございます、兄貴! 神仙の兄貴、これからも下界の小妖怪の俺をよろしく頼む!」

「もちろんいいぞ。何かあったら、いつでも頼れ」

酒を飲み終え、名残惜しそうに別れる。李食米は自分の用事があると言い、朱蓬春も妙妙のところへ戻らなければならなかった。二人は固い握手を交わし、再会を約束して別れた。

朱蓬春が妙妙のいる擂台の近くに戻ると、彼女はすでに参加登録を済ませていた。その表情は自信に満ち、目は獣王の座を見据えていた。

「朱先生、終わりました! 試合は二日後です。大擂台で獣王の座を争います」

「楽しみだな。頑張れよ、妙妙」

「はい! 絶対に勝ちます!」

妙妙の瞳には強い決意の光が宿っていた。朱蓬春はその姿を見て、心の中で彼女の健闘を祈った。妖怪動物城の夜風が、二人の間を吹き抜けていく。新たな獣王を決める武術大会は、いよいよ幕を開けようとしていた。

第1章

春の日差しがまぶしい、のどかな午後だった。村はずれの小さな家の前で、八歳の朱蓬春は青い顔で倒れていた。熱は高く、息は弱々しく、まるで命の灯が消えかけているかのようだった。

祖母が泣きながら彼の手を握り、祖父は無力そうに杖をついて立ちすくんでいた。両親はすでにこの世になく、この老夫婦だけが唯一の頼りだった。医者も手の施しようがないと言い、村人たちはただ遠くから見守るばかりだった。

その時、空から一条の光が降りてきた。白い髭を長く伸ばした老人が、ゆっくりと地面に降り立った。太白金星である。彼は天界から千里眼でこの少年の運命を見ていたのだ。

「この子、まだ幼いのに命を落とすとは惜しい。縁あって我と出会った。助けてやろう」

太白金星は袖の中から一つの光る珠を取り出した。それは先日、凡間で退治した豚妖怪の精華だった。彼はそれを朱蓬春の胸の上にかざし、呪文を唱えた。珠は溶けるように少年の体内に吸い込まれていった。

しばらくして、朱蓬春の顔色が次第に戻り始めた。呼吸も安定し、熱も引いていった。しかし、彼の体内では人間の魂と豚妖怪の精華が混ざり合い、半人半豚の存在へと変わりつつあった。太白金星はその異変を察知し、そっとため息をついた。

「これもまた一つの運命よのう。生きることに変わりはない。よいか、朱蓬春。お前はこれから普通の人間とは少し違う……だが、それでいいのだ」

そう言い残して、太白金星は再び光となって空へと消えていった。祖母と祖父は涙を流して喜び、村人たちも奇跡だと騒いだ。しかし、朱蓬春自身は何が起こったのかよくわからず、ただぼんやりとしていた。

それから二年が過ぎ、朱蓬春は十歳になった。彼は普通の少年とほとんど変わらずに育ったが、時折、何かに怯えたような表情を浮かべることがあった。それは自分の中に潜む別の何かを感じ取っていたからだ。

ある日、村の近くを流れる川辺で、朱蓬春は一人の少女に出会った。少女は九歳くらいで、真っ白い着物を着ていたが、その服は泥だらけで、顔には涙の跡があった。

「お姉ちゃん、どうしたの? 迷子になったの?」

朱蓬春が声をかけると、少女はびくっとして後ずさりした。そして、彼の顔をじっと見つめると、急に恐怖の表情を浮かべた。

「あ……あなたの顔の下に……何かいる……豚の顔が見える……」

少女は震えながら指を差した。朱蓬春は驚いて自分の頬を触った。何も変わった感じはしない。しかし、彼女には見えているらしい。それが自分の中の豚妖怪の部分だと、朱蓬春は直感した。

「怖がらないで。僕は君を傷つけないよ」

朱蓬春は優しく笑いかけ、手を差し伸べた。少女はしばらく迷ったが、その笑顔に心を開いたのだろう。おずおずと手を握り返してきた。

「私は敖灵儿……家出してきたの。お父様が許婚を決めたから……嫌で逃げてきたの」

龍族の王女だったのだ。朱蓬春は彼女を家に連れて行き、祖母に事情を話した。老夫婦は快く彼女を受け入れ、その日から朱蓬春と敖灵儿は一緒に過ごすようになった。

川で魚を捕まえ、野原で花を摘み、時には村の子どもたちと遊んだ。敖灵儿は最初こそ時折、朱蓬春の背後にちらりと見える豚の影に怯えたが、彼の優しさに触れるうちにそんなことは気にならなくなった。

「春くんは、本当はすごく優しいんだね。あの豚の顔はきっと、ただの見せかけだよ」

「そうかな……僕は自分が何なのか、よくわからないんだ」

「何でもいいよ。春くんは春くんだから」

そんな穏やかな日々は一年も続かなかった。ある日、空から黒い雲が近づき、川の水が逆巻き始めた。そして、たくさんの海の兵たち――蝦兵蟹将――が現れ、村中を包囲した。

「敖灵儿様! 王のお命じです。すぐにお連れします!」

先頭に立った老いた蟹の将軍が厳しい声で言った。敖灵儿は朱蓬春の腕を握りしめ、首を振った。

「行かない! 私はここにいたい!」

「お許しくださいませ。我らも命令に背くわけにはまいりません」

蝦兵蟹将たちが彼女を取り囲んだ。朱蓬春は立ち上がり、彼女を守ろうとしたが、蟹将軍の一振りで軽く弾き飛ばされた。

「春くん!」

敖灵儿の叫び声が響く中、彼女は無理やり連れ去られていった。朱蓬春は地面に倒れ込み、涙を流しながら空を見上げた。二度と彼女に会えないかもしれない。その想いが胸を締め付けた。

それからさらに四年が経った。朱蓬春は十四歳になっていた。祖父母は相次いで亡くなり、彼は親戚の家に引き取られたが、誰も彼を本当の家族として扱わなかった。村の者たちも、彼の中に時折感じる異様さを遠巻きに見ていた。

その年の春、村の大きな宴会が開かれた。朱蓬春も招かれたが、隅っこに座らされ、酒を勧められた。初めて飲む酒は、舌を焼くように辛く、体の中から熱くなった。

隣の席には、村で一番の美人と言われる姉さんが座っていた。朱蓬春は酔いに任せて、彼女のほほえみや仕草に目を奪われた。心の中に、今までにない欲しいという気持ちが湧き上がった。そして瞬間、彼の体が激しく震え始めた。

「うっ……!」

周りの人々が悲鳴を上げた。朱蓬春の顔が――見る見るうちに豚の顔に変わっていったのだ。耳は大きく突き出し、鼻は太く、目は血走っていた。彼は自分の手を見た。そこには豚の蹄があった。

「化け物だ!」

「追い出せ!」

村人たちは石や棒を手に、彼を罵った。美人の姉さんも恐怖で青ざめて逃げ出した。朱蓬春は自分が何をしたのか理解できず、ただ混乱してその場に立ち尽くした。そして、誰かに背中を押され、宴会場から追い出された。

それから数日間、彼は村はずれの小屋に隠れて暮らした。しかし、親戚たちがやってきて、彼の家の財産――祖父母が残したわずかな畑や家財――を奪い去った。彼らは言った。

「お前はもう朱蓬春じゃない。本物の朱蓬春はとっくに死んだんだ!」

朱蓬春はすべてを失った。家も、家族も、居場所も。彼は村を追われ、ただ一人、さまようことになった。

数日後、彼は森の中にある廃寺を見つけた。苔むした石段を上り、中に入ると、古びた仏像が埃をかぶって並んでいた。その中に、あの日の老人――太白金星が座っていた。

「待っておったぞ、朱蓬春」

太白金星は穏やかな声で言った。朱蓬春は疲れ切った体でその前にひざまずいた。

「なぜ……なぜ僕をこんな姿にしたんですか……」

「お前は死にかけていた。救うためには、あの方法しかなかった。すまぬな」

太白金星は説明を続けた。朱蓬春の体は、酒と色欲に弱くなっている。それを慎めば、人間の姿を保てる。しかし、もし破れば豚面に戻るが、二時間も経てば元に戻る。そして、彼は一つの腕輪を取り出した。

「これを着ければ、常に人間の姿を保てる。だが、外せば豚妖怪に変身できる。その時は怪力や妖術も使えるようになる。しかし、危険な時以外は使うなよ」

朱蓬春は腕輪を受け取り、手首にはめた。すると、体が軽くなり、自分が再び人間の姿に戻ったのを感じた。

太白金星はさらに二十両の金も与えた。

「これでどこかへ行くがよい。お前の道は、まだこれからだ」

そう言って、彼は再び光となって消えた。朱蓬春はしばらくその場に立ち尽くしたが、やがて決意した。もうこの地に未練はない。南へ行こう。海州という街があると聞いた。そこへ向かおう。

廃寺を出てしばらく歩いた時、道端で一匹の小さな猫が鳴いていた。白い毛並みだが、左の足が傷ついて血を流している。朱蓬春はしゃがみ込み、そっとその傷を確かめた。

「かわいそうに。待ってて、包帯をしてやるからな」

彼は自分の服の端を裂いて、猫の足に巻いてやった。猫は痛がる様子もなく、じっと朱蓬春を見つめていた。その目は人間のように澄んでいて、何かを訴えかけているようだった。

「よし、もう大丈夫だ。元気になれよ」

朱蓬春は猫の頭を撫でてから立ち上がり、再び歩き出した。後ろを振り返ると、猫はまだじっと彼を見送っていた。

その猫は猫妖・妙妙だった。修行中に襲われ、怪我をして人間の姿に戻れなくなっていたのだ。彼女は朱蓬春の後ろ姿を見つめながら、心に誓った。

いつか必ず、この恩人のもとへ行き、恩返しをしよう。

春の風が吹き抜け、朱蓬春は南へと続く道を歩き続けた。腕輪がかすかに光り、彼の新しい運命の始まりを予感させていた。

第2章

時は流れ、朱蓬春はもう二十三歳になっていた。身長は百六十七センチほどに伸び、顔つきも少年から大人の男へと変わりつつあった。あの日、太白金星からもらった二十両の金を元手に、彼は海州城の賑やかな通りのはずれに小さな宿屋を開いた。節約も兼ねて、従業員は自分ひとり。朝から晩まで掃除に洗濯、帳面付けに客の応対まで、すべてを一人でこなしていた。

宿の名は「蓬春楼」。看板は自分で書いた。字はあまり上手くないが、味があると言ってくれる客もいた。

太白金星からもらった腕輪は今も変わらず左手首に輝いている。あの奇妙な呪いを抑える効能は絶大で、酒を飲んでも美女を見ても、もう豚面に戻ることはなかった。ただ、時折思い出すのは、あの仙人が去り際に言い残した言葉だけだ。「この腕輪はお前を守るが、真の呪いを解くのはお前自身の心だ。」その言葉の真意は、まだ彼にはわからなかった。

ある初夏の夕方、蓬春楼ののれんが風に揺れる中、表の引き戸が静かに叩かれた。

「はいはい、ただいま——」

朱蓬春はカウンターの下に置いていた算盤を置き、のれんをくぐって玄関へ向かった。引き戸を開けると、夕日に照らされた一人の影があった。背の高い女性で、頭には大きな笠をかぶり、薄いベールで顔を隠していた。白い紗の衣をまとい、その下の肢体はしなやかで、胸のふくらみが衣の上からでもはっきりとわかるほどだった。

彼女は朱蓬春の姿を認めるやいなや、突然興奮したように飛びついてきた。

「朱お兄ちゃん——!私のこと、覚えてる?」

その声は風のように優しく、聞き覚えのある響きだった。朱蓬春はたじろぎながらも、相手の肩を支えて距離を取ろうとした。

「え、えっと…どちら様で?」

女性はくすりと笑い、ゆっくりと笠を外し、ベールを払った。

夕日を受けて現れたのは——一対の白く光る龍角だった。額の両側から優雅に生え、細かな鱗がきらめいている。その下の顔は天女のように美しく、白磁のような肌に、大きな瞳が潤んでいた。金色の縁の眼鏡が、彼女の優しい雰囲気をさらに引き立てる。黒髪は腰まで届き、風に揺れるたびに淡い光が舞った。

上半身は白い紗の衣一枚で、その胸元は豊かに盛り上がり、北半球と呼ぶにふさわしい丸みが露わになっていた。鎖骨の下から肩にかけて、ところどころに透き通るような龍鱗が散りばめられ、それが彼女の肌の白さと相まって、不思議な美しさを放っていた。腰は細く、尻は大きく豊満で、全体のシルエットはしなやかでありながらもたくましさを感じさせた。

「朱お兄ちゃん、私だよ。敖灵儿だよ」

その言葉に、朱蓬春の目が大きく見開かれた。

「お、敖灵儿?まさか…小龙女?」

彼女は嬉しそうにうなずき、その拍子に龍角が夕日を受けて輝いた。

「ああっ、本当に小龙女か!お前、ほんとに大きくなったな!」

朱蓬春は喜びのあまり、彼女の両肩を掴んでじっと見つめた。あの頃はまだ子供っぽくて、龍の鱗もほとんど見えなかったのに、今では立派な大人の女性に成長していた。

「でも、お前、お父さんの竜王に龍宮に連れ戻されたんじゃなかったのか?まさか抜け出してきたのか?」

敖灵儿はくすくす笑いながら首を振った。

「違うよ。自分で頑張って、お父さんの許可をもらったんだ。もう二度と龍宮には戻らないって、自分で決めたんだ。竜王も私の意思を止められなかったよ」

その瞳には強い意志の光が宿っていた。朱蓬春はその言葉を聞いて、彼女の成長を改めて感じた。

「それで、これからどうするんだ?」

「朱お兄ちゃんの宿、手伝いたいんだ。この街で一緒に暮らしたい」

その申し出に朱蓬春は心から嬉しくなった。幼い頃から彼女はいつも自分のそばにいて、妹のような存在だった。今またこうして一緒に過ごせるのなら、これほど心強いことはない。

「よし、じゃあ今日からお前も蓬春楼の一員だ。ただし、厳しいぞ!」

「任せてよ、朱お兄ちゃん!」

こうして二人の幼なじみの共同生活が始まった。

敖灵儿が手伝うようになってから、宿の商売はみるみる上向いた。彼女の優しい応対と美しい姿はすぐに評判になり、泊まり客だけでなく、彼女の顔を見たいだけの客も増えた。朱蓬春は相変わらず妹のように彼女をかわいがり、彼女も彼を「朱お兄ちゃん」と慕い、純粋な信頼で結ばれていた。

ただ、敖灵儿の心の中で、何かが静かに変わっていくのを彼女自身もまだ気づいていなかった。彼を見るたびに胸がときめき、その笑顔を見ると心が温かくなる。それは単なる幼なじみへの親しみ以上のものだった。

ある暑い日の午後、朱蓬春は昼の忙しさが一段落すると、汗を拭いながら裏手の風呂場へ向かった。桶に水を汲もうと、勢いよく引き戸を開けた——その瞬間、彼の目に飛び込んできたのは、白い湯気の中に浮かぶ一つの美しい裸体だった。

「あっ——!」

そこには、浴槽に浸かる敖灵儿の姿があった。彼女は体を丸めて、大きな胸の双峰が水面に半分浮かび、白く透き通るような肌に、ところどころに散らばった淡い龍鱗が湯気の中で神秘的に輝いていた。髪はしっとりと濡れて背中に張り付き、細い腰から大きく豊満な尻のラインまで、すべてがあらわになっていた。その姿は神話の仙女のように美しく、見る者の息をのむほどだった。

朱蓬春は一瞬で頭が真っ白になり、すぐに勢いよく引き戸を閉めた。

「す、すまない!まさかお前が入っているとは思わなかった!」

彼の声は慌てふためいていた。心臓は激しく打ち、顔から火が出そうだった。

中から、か細く恥ずかしそうな声が聞こえてきた。

「ち、違うの朱お兄ちゃん…私が悪いの。鍵をかけ忘れてたから…」

「いや、俺の方こそ悪かった!気をつける!」

朱蓬春はそのまま足早にその場を離れ、自分の部屋に飛び込んだ。ドアを閉めると、壁にもたれて深く息を吐いた。彼は心の中で繰り返し言い聞かせた——妹だ、あれは妹のような存在だ。何も特別なことじゃない。ただの事故だ。

それでも、彼の頬はしばらく赤く染まったままだった。

風呂場の中では、敖灵儿が浴槽に沈みながら、自分の胸を両手で隠していた。心臓の鼓動は激しく、耳の先まで真っ赤になっていた。恥ずかしさと、そして——もっと複雑な感情が胸の中で渦巻いていた。

「朱お兄ちゃん…」

彼女はただ、その名前を小さくつぶやいた。

湯気の中に消えていくその声には、まだ自分でも気づいていない、ほのかな想いが込められていた。

第3章

# 第3章

その朝、朱蓬春が宿の古びた木の扉を押し開けると、いつもと違う静けさが彼を包んだ。朝の通りには誰一人として人影がなく、冷たい風だけが砂塵を巻き上げて通り過ぎていく。彼は首をかしげ、後ろで準備をしている小龙女に声をかけた。

「小龙女、今日は妙に静かだな。人っ子一人いないぞ。」

小龙女が額の汗を拭いながら近づいてくる。彼女も異変に気づいたのか、眉をひそめて外の様子をうかがった。その時だった。

「にゃあ……」

かすかな鳴き声が聞こえたかと思うと、宿の入り口に次々と野猫が現れた。一匹、二匹、五匹、十匹――みるみるうちに二十匹以上の猫が石畳の上に座り込み、黄色や黒や白の瞳でじっと朱蓬春たちを見つめている。

小龙女の顔色がさっと変わった。彼女は鋭く息を吸い込み、体を朱蓬春の前に滑り込ませた。

「違う……これらは普通の猫じゃない。妖気を感じる。いや、それだけじゃない……この気配には仙気も混じっている。」

小龙女が小声でつぶやく。彼女は腰の剣に手をかけ、野猫たちに向かって一声叫んだ。

「何者だ!名乗れ!」

猫たちの間から一斉に低い笑い声が漏れた。その時、彼らの頭上、宿の屋根の上から涼やかな声が降ってきた。

「おやおや、小龙女さん、そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか。」

声のした方を見上げると、一人の女性が屋根の瓦の上に立っていた。朝日を背に受け、そのシルエットは優雅で、まるで絵画から抜け出したかのようだ。

「我は大紅山猫妖幇幇主、猫妖妙妙なり!」

女性は軽やかに屋根から飛び降り、地面に着地すると同時に、スカートの裾をひらりと翻した。彼女の身長は173センチほどで、頭には猫耳の形をした赤い帽子をかぶり、その下から黒く長いストレートの髪がさらりと流れている。目尻には赤いアイシャドウが施され、猫のように吊り上がった目元が一層強調されていた。赤いワンピースはゆったりとしていて、白いエプロンとロングヒールを合わせた姿は、どこか神秘的な雰囲気を醸し出している。

彼女の視線が朱蓬春に留まると、その目がぱっと輝いた。

「朱先生!」

妙妙は叫ぶと同時に、両腕を広げて朱蓬春に飛びついた。突然のことに朱蓬春はたたらを踏み、よろめきながらも彼女を受け止める。妙妙の腕はしっかりと彼の首に回され、猫のようにすり寄るように頬を彼の肩に押し付けた。

「やっとあなたに会えました!あの日の恩を忘れたことは一度もありません!」

朱蓬春は困惑しながらも、彼女の顔をのぞき込んだ。

「ええと……どこかでお会いしましたか?」

妙妙は顔を上げ、目を潤ませてうなずく。

「覚えていらっしゃらないのも無理はありません。私はあの時、罠にかかって傷ついていた小さな猫でした。先生が私を助けて手当てをしてくださったのです。その命の恩人に、恩返しをしたくて参りました。」

その言葉に、小龙女は警戒を少し緩めたものの、まだ目を離さずに妙妙の全身を観察していた。猫妖でありながら、確かに仙気をまとっている。悪意は感じられない。

「ここで何をしたいんだ?」小龙女が冷めた口調で尋ねる。

妙妙は朱蓬春から離れ、小龙女に向き直ると、にっこりと笑った。その笑顔は可愛らしくもあり、どこか妖艶でもあった。狐のように美しい目が三日月のように細まり、笑うと口元が猫のように愛らしく歪む。

「私もここで働きたいんです!手伝いますよ、宿のこと。私、こう見えても結構できる子なんです。頭の回転も速いし、人付き合いだって得意ですから。」

小龙女はしばらく考え込んだ。妖気を放っているが、確かに仙気も感じられる。何より、朱蓬春を命の恩人と呼び、懐かしむ様子は偽りではないように思えた。

「よし、わかった。ただし、変な真似をしたらただじゃおかないぞ。」小龙女が警告する。

妙妙は嬉しそうに両手を合わせた。

「ありがとうございます!絶対に役に立ちますからね!」

こうして、妙妙は宿に住み込むことになった。彼女は明るく活発で、愛らしい笑顔と機転の利いた対応で、すぐに宿の客たちの人気者になった。朝早くから厨房を手伝い、客の注文をテキパキと捌き、時には聞き上手になって客の愚痴を聞く。その明るい性格は、重苦しい空気を吹き飛ばすようだった。

夜も更け、月が高く昇った頃。朱蓬春と小龙女がそれぞれの部屋で休んでいる中、妙妙はこっそりと宿の裏口に立った。しばらくすると、闇の中から数匹の野猫が音もなく現れ、彼女の足元にうずくまった。

「頭領。」猫たちが低い声で挨拶する。

妙妙は優雅にうなずき、猫たちの頭を優しく撫でた。

「皆、ご苦労。しばらくはこの宿を拠点にする。騒ぎを起こすなよ。朱先生には迷惑をかけるわけにはいかないからな。」

猫たちは一斉に「はい」と答えた。

次の日の朝、朱蓬春が階段を下りてくると、すでに妙妙がエプロンをつけて朝食の準備をしている。彼女は彼の姿を見るなり、ぱっと顔を輝かせた。

「朱先生!おはようございます!今、お粥を温め直しますね!」

妙妙は小走りに厨房へ向かいながら、振り返ってにっこり笑った。その瞳の奥には、深い感謝と忠誠の光が宿っていた。

第4章

# 第4章

朱蓬春は汗を拭いながら、宿の厨房に入れる食材を満載した荷車を引いて、夕暮れの道を急いでいた。米俵が三つ、野菜の入った籠が四つ、果物の入った籠が二つ、そして豚肉と鶏肉がぶら下がっている。彼の太い腕は荷車の把手をしっかりと握りしめ、その大きな体躯はまるで小さな山のように通り過ぎていく。

路地の入り口に差し掛かった時、何かもごもごと言う声と、打撃音が聞こえてきた。朱蓬春は足を止め、荷車を道端に寄せて、音のする方へと歩いていった。

路地の奥では、二人の男が一人の中年男性を壁際に追い詰めて蹴っていた。中年男性は醜い顔立ちで、唇は大きく分厚くカエルのようにめくれ上がり、肌は黒ずんで汚れている。体は大きいが、今は地面にうずくまって必死に頭を守っている。その姿は哀れだった。

「やめろ!」朱蓬春は大声を上げた。「もう十分だ。手を引け」

二人の男が同時に振り返った。鋭く光る目が朱蓬春を射抜く。その目には――獲物を見つけたときの獣のような冷たい光が宿っていた。

朱蓬春の心臓が警鐘を打ち鳴らした。この二人から漂う気配、これはただの人間ではない。彼はゆっくりと周囲を見回した――路地には他に誰もいない。自分の荷車を引いている姿も確かに目立たない、ただの車引きにしか見えないだろう。

二人の男のうち、より背の高い方が低く笑った。

「ちょうどいい。この車引きの奴もうまいことやれば、バレやしないだろう」

もう一人がうなずく。「人間を食うのは久しぶりだな」

人間を――食う?

朱蓬春の瞳孔が急に縮まった。妖怪だ。

二人の男の体が歪み始めた。衣服が裂け、代わりに黒と灰色の毛が生えていく。顔が伸び、牙がむき出しになり、目が獲物を狙う獣のように鋭くなる。一人は全身に豹柄の斑点があり、もう一人は灰色の毛に覆われた狼だった。

豹の妖怪が口を開ける――血の臭いがする。「運が悪かったな、車引き。だがこれも運命だ」

朱蓬春は無言のまま、手首に巻かれた金属製の腕輪に手をやった。指先がそれを外す。重さが腕から消えた瞬間、中に封印されていた力が騒ぎ始めるのを感じた。

彼は腰の瓢箪を外し、栓を抜いて中身の酒を二口、喉へと流し込んだ。酒精が腹の中で燃え上がり、血の中に熱を広げていく。

目を閉じる。

脳裏に浮かぶのは、これまでこっそりと見てきたあの春宮図の数々。肌を重ね合う男女の姿。官能の快楽に浸る表情。淫らな囁きと吐息。そのすべてが彼の心の中で色濃く渦巻く。

酒と色。

それが虎と朱蓬春の教えで、最も厳しく禁じられた二つの戒めだった。

猪八戒を地獄から救い出した虎は言った――「お前の前世の業は酒と色に深く絡んでいる。これを必ず戒めよ。さもなくばまた元の姿に戻り、同じ過ちを繰り返すことになる」と。

今、朱蓬春はその戒めを破る。

「俺は――妖怪じゃない」彼は低く呟く。「人間の部分もある。だが……今だけは違う」

体の内側で何かが引き裂かれるような音がした。骨が軋み、肉が膨張する。細かい黒い毛が肌を覆い、顔が前に突き出し、鼻が二つの穴だけになり、牙が伸びる。体は三倍に膨れ上がり、衣服がバラバラに裂ける。

豚だ。

巨大な豚の妖怪が路地に立っていた。その目には理性が半分、狂気が半分宿っている。腕輪を外し、酒を飲み、情欲を思い浮かべたことで、前世の八戒の力が朱蓬春の体に流れ込んでいた。

筋力が湧き上がる。

「来い」彼の声は低く響く。

豹の妖怪と狼の妖怪は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに戦闘態勢に入った。狼が先に飛びかかる。鋭い爪が朱蓬春の顔面を狙う。

朱蓬春は一歩も動かず、巨大な拳を振りかぶった。拳は狼の顎を直撃し、骨が砕ける音がする。狼の体が地面に叩きつけられ、石畳にひびが入った。一撃だ。

豹の妖怪が背中から襲い掛かる。朱蓬春は反転し、肩で豹の体を正面から受け止める。両腕で豹を胴体ごと抱え込み、力を込めて締め上げる。豹の体が軋み、悲鳴が路地に響く。

数呼吸の間で、二匹の妖怪は地面に倒れて動かなくなった。

朱蓬春は息を整え、腕輪を再び手首に巻きつける。すぐに体が縮み、毛が消え、元の人間の姿に戻った。全身に脂汗をかいているが、目はしっかりと地面の妖怪たちを見据えている――彼らはまだ息がある。命に別状はない。

振り返って、壁際にうずくまるあの醜い男に歩み寄る。

「怪我はないか?」朱蓬春が手を差し伸べた。

中年男性はびくびくと顔を上げた。その大きなカエルのような唇が震えている。彼は朱蓬春の手を取って立ち上がった。

「ありがとう……ありがとうございます」彼の声はしわがれていた。「俺は……俺は王疙瘩と言います」

朱蓬春がうなずく。「朱蓬春だ。宿を営んでいる」

王疙瘩は周りの目を気にするように一度周囲を見てから、声を潜めて言った。「実は……俺は妖怪なんだ。ヒキガエルの精だ」

朱蓬春は驚かなかった。さっきの一連の出来事で、この男が普通の人間でないことは察していた。

「どうしてあんな連中に目をつけられたんだ?」

王疙瘩は気まずそうに頭を掻いた。「酒場で酒を飲んでたんだよ。ちょっと……通りかかったあいつらの悪口を言ったら、それで袋叩きにされたんだ。自分が醜いのはわかってるけど、他人に言われると腹が立つ」

朱蓬春は思わず笑った。このヒキガエル、案外面白い。

「それで、これからどうするつもりだ?」

王疙瘩の目が泳いだ。「行く当てがないんだ。もし……もしよかったら、俺も仲間に加えてくれないか? 同じ妖怪同士、助け合わないか?」

「俺は妖怪じゃない」朱蓬春は首を振った。「人間の部分の方が強い。だから戒めを守って……」

「そんなことはいいんだ!」王疙瘩は必死に食い下がる。「俺はどこにも行けない。一人じゃ生きていけない。お願いだ、三日でいい。三日だけでいいから泊めてくれ。すぐにどこかへ行くから」

その哀れな様子に、朱蓬春はため息をついた。

「わかった。だが、すぐに出て行くと言ったな。それを覚えておけよ」

王疙瘩の顔がぱっと明るくなった。「もちろんだ!」

朱蓬春は荷車を引き、王疙瘩を連れて宿へと戻った。

宿の扉を開けると、小龙女と妙妙が待っていた。小龙女の刺繍が施された服が夕日を受けて淡く輝いている。彼女は朱蓬春の後ろにいる王疙瘩を見て、顔色を一瞬で変えた。妙妙も眉をひそめる。

「朱蓬春、そいつは何だ?」小龙女の声に警戒心が滲む。

「道で助けたんだ。王疙瘩という。ちょっとだけ泊めてやろうと思って」朱蓬春は振り返って王疙瘩を紹介する。「三日で出ていくそうだ」

小龙女は王疙瘩を睨んだ。勘が働く。この男――いや、この妖怪は、ただ者ではない。

王疙瘩はへらへらと笑いながら頭を下げた。「よろしくお願いします。ご迷惑はかけませんから」

だがその目は、小龙女の体を上から下まで舐めるように見ていた。舌が無意識に唇を舐める。その動作に気づいた者は誰もいなかったが、王疙瘩の心の中では邪な考えが渦巻いていた。

夕食の席、三人は机を囲む。王疙瘩は猛烈な勢いで食べ物を口に運ぶ。箸の動きが速く、何度か大きなヒキガエルの舌が口から飛び出しそうになる。その舌はベトベトした油で汚れていて、妙妙が嫌悪の表情を浮かべた。

「すまんすまん」王疙瘩は慌てて舌を引っ込めたが、その目の輝きは変わらない。

食事が終わり、小龙女が風呂の準備をするために奥へと引っ込んだ。朱蓬春と妙妙は台所の後片付けを始める。

王疙瘩は「俺は薪小屋で寝るよ」と言い残して、こっそりと裏手に回る。

しかし彼の足は風呂場へと向かっていた。途中、隠身の術を使って気配を完全に消し去る。ヒキガエルは元々隠れるのが得意だ。王疙瘩はその術を完璧に使いこなしていた。

風呂場の裏側、小さな割れ目から中を覗き込む。

小龙女が服を脱いで桶の中に入るところだった。湯気が立ち上る中、彼女の白い肌が濡れ、湯の中で艶めかしく光る。王疙瘩の喉がごくりと鳴った。口が半開きになり、よだれが垂れそうになる。

風呂の中の小龙女は、何か視線を感じたように一瞬動きを止めた。

振り返る。

だがそこには何もいない。

気のせいか――? 彼女は眉をひそめたが、再び体を湯に沈めた。警戒心はまだ残っているが、明確な証拠がないため、そのまま風呂を続けることにした。

王疙瘩は壁の陰でにたりと笑っていた。彼の目は、まだ小龙女の体から離れない。

第5章

# 第5章

宿の戸を叩く音が響いたのは、夕暮れも近い頃合いだった。

「はいはい、ただいま!」

朱蓬春はのんびりした声を上げながら、引き戸を開けた。すると、そこには二人の客が立っていた。一人は全身を白い薄絹で包んだ女性で、顔にはベールをかけている。その隣には、身の丈八尺はあろうかという大男が立ちはだかっていた。男は黒く日に焼けた肌に、まるで岩を削り出したような筋肉質な体躯。厳つい顔つきで、無言のまま宿の中を見渡している。

「おやおや、これはこれは。ようこそお越しくださいました。当宿『天の川亭』でございます」

朱蓬春は営業スマイルを浮かべて頭を下げた。すると、女客が静かにベールを外した。

朱蓬春の呼吸が止まった。

そこに現れたのは、まさに天女のような美貌だった。雪のように白い肌、桜色の唇、そして吸い込まれそうなほど深い黒い瞳。細くしなやかな体つきは、腰のあたりでふわりと広がる衣装に包まれているが、その曲線は言葉を失うほど美しい。

「わ、わたくし、嫦娥と申します。こちらは共に旅をしております呉剛と申します」

女性が優しく微笑んだ。

「ち、嫦娥……さま?」

朱蓬春はどもりながらも、何とか返事をしようとした。だが、言葉が出てこない。目の前の女性があまりにも美しすぎて、脳が停止してしまったようだった。

呆けた顔で立ち尽くす朱蓬春の横を、妙妙と小龙女が顔を出した。

「お客様ですか? どうぞ中へお入りください」

「へえ、珍しいお客さんだねぇ」

小龙女が朱蓬春の顔色に気づいて、軽く肘で突いた。

「あんた、何ボーッとしてるのよ」

「あ、ああ、すいません! どうぞ、こちらへ」

朱蓬春は我に返り、二人を奥の部屋へと案内した。

茶を出すと、嫦娥は優雅に一口含んでから口を開いた。

「あなたたちのことは、太白金星から伺っております。朱蓬春さん、妙妙さん、そして小龙女さん。天界の罪人であるあなた方が、この地で真面目に宿を営んでいるとは聞いておりました」

朱蓬春たちは顔を見合わせた。まさか、自分たちの正体がばれているとは思わなかった。

「しかし、どうかご安心ください。私はあなた方を裁きに来たわけではありません。太白金星からも、あなた方がすでに改心し、人助けをしていると聞いております」

嫦娥の言葉に、三人はほっと息をついた。

「それで……嫦娥様がこちらに訪れたのは、何か理由がおありでしょうか?」

妙妙が問いかけた。

嫦娥の表情が少し曇った。

「実は……天界に異変が起きております。二つの太陽が昇り、大地は焼け、川は干上がり、人々は苦しんでおります」

「二つの太陽?」

朱蓬春が驚いて声を上げた。

「はい。本来であれば、后羿という英雄が神弓で余分な太陽を射落としたのですが……后羿はとうにこの世を去っております。玉帝は私に命じました。后羿が使った神弓を見つけ出し、再び太陽を射落とせ、と」

「后羿の神弓……それって、どこにあるんですか?」

小龙女が尋ねた。

「それが……私もはっきりとは分かりません。后羿は昔、私の夫でした。彼が亡くなる前に、神弓をどこかに隠したのです。私は彼の記憶だけを頼りに、地上を探し回っております」

嫦娥の声には、哀しみが混じっていた。

「それなら、私がお手伝いします!」

朱蓬春が勢いよく立ち上がった。

「嫦娥様のためなら、どんなことでもいたします! この地はある程度知っておりますし、私の力が必要なら喜んで!」

「ちょっと、あんた!」

小龙女が鋭い声を上げた。

「何でいきなりそうなるのよ。私たちは宿を預かってる身でしょ。お客様の手伝いをするのが仕事じゃないわ」

「でも、嫦娥様の頼みだ。これは大事なことだぞ。天界の平和がかかってるんだ」

「ふん、天界の平和ねぇ……」

小龙女は不機嫌そうにそっぽを向いた。心の中では、朱蓬春が嫦娥にうつつを抜かしているのが気に入らなかった。

「あの、その件ですが……」

そこへ、新たな声が割って入った。振り返ると、戸口に立っていたのは、この宿の常連である王疙瘩だった。

「わしゃ、このあたりの地理には詳しいんで。何か手伝えることがありゃあ、喜んで」

王疙瘩はにやにや笑いながら、小龙女の方をチラリと見た。

「おお、王疙瘩! いいところに来た。さすがはこの辺りの土地に詳しいだけあるな。嫦娥様、この男は王疙瘩と言って、この地のことに詳しいんです」

朱蓬春が大げさに紹介した。

嫦娥は優しくうなずいた。

「ありがとうございます。では、一つだけ手がかりがあります。后羿が若い頃、よく修行していた場所があるのです。長青山と呼ばれる山です。そこに何か隠されているかもしれません」

「長青山なら、わしゃ知っております。あそこは確かに、何か伝説が残っておりますな」

王疙瘩が得意げに言った。

「よし、決まりだ! 私と嫦娥様で長青山に向かいます!」

朱蓬春が胸を張ったが、すぐに小龙女が遮った。

「あんたが行くなんて何言ってるのよ。私は行かないわよ。宿は誰が守るの?」

「それなら……」

「いや、私が行く」

小龙女が突然言った。

「は?」

朱蓬春が驚いて目を丸くした。

「王疙瘩と私で行くわ。あんたはここで宿を守ってなさい」

「ちょ、ちょっと待て。お前、王疙瘩のこと嫌いだって言ってたじゃないか」

「うるさいわね。決めたら決めたの。文句ある?」

小龙女は朱蓬春を睨みつけた。心の中では、朱蓬春が嫦娥と二人きりになるのが許せなかった。それに、嫦娥に気に入られようと必死になる朱蓬春の姿を見ていると腹が立って仕方なかった。

「では、そう決まりましたね。王疙瘩さんと小龙女さんで長青山へ向かい、私と呉剛はこちらで待機いたします」

嫦娥が穏やかにまとめた。

朱蓬春は不服そうだったが、小龙女の剣幕に押されて黙るしかなかった。

一方、王疙瘩は内心でほくそ笑んでいた。

(これは絶好のチャンスじゃ。小龙女と二人きりになれるとはな。あの美しい体に手が出せるかもしれん)

小龙女は朱蓬春のことが好きだと知っている王疙瘩は、事故を装って彼女の体に触れる計画を練っていた。

翌朝早く、小龙女と王疙瘩は長青山へ向けて出発した。

道中、小龙女は一言も口をきかなかった。もともと王疙瘩のような汚い男が嫌いだったからだ。それに、昨日の朱蓬春の態度を思い出すと、また腹が立ってきた。

(何であんなに嫦娥に夢中になってるのよ。私たちのことはどうでもいいってわけ?)

考えれば考えるほど、胸の奥が締め付けられるようだった。

長青山に到着すると、二人は麓の村で神弓の行方を尋ねた。村人たちは誰も知らないと言うばかりだったが、一人の年老いた樵が思い出したように言った。

「そういやあ、数日前に変わったものを見たんじゃ。矢が一本、自分で飛んでいくのがな。真北の方向へ向かって、あっという間に見えなくなった」

「自分で飛ぶ矢?」

小龙女が目を輝かせた。

「それだ! きっと后羿の神弓の矢だわ。どこへ向かったか分かりますか?」

「北の深山じゃな。あそこは樹妖の縄張りだと言われておってな、村人は誰も近づかん」

「樹妖……」

小龙女は少し不安になったが、意を決した。

「案内してくれませんか?」

「わしは行けんが、お前さんたちが行くなら気をつけろよ。あの森は何が出るか分からん」

老人はそう言って去っていった。

「樹妖の縄張りか。面白いな」

王疙瘩がにやにやしながら言った。

「あんた、何を笑ってるのよ」

「いやいや、何でもない。わしが案内してやろう。道は良く知っとる」

王疙瘩は内心で別のことを考えていた。樹妖の罠にかかれば、小龙女を自分のものにできるかもしれない。

二人は北の深山へ向かった。森は薄暗く、樹々は不気味に枝を伸ばしていた。

しばらく歩くと、王疙瘩が立ち止まった。

「ちょっと休まんか。疲れたわい」

「まだ大丈夫よ」

「わしはもう駄目じゃ。年じゃからな」

王疙瘩はわざとらしく息を切らして地べたに座り込んだ。小龙女は仕方なく隣に腰を下ろした。

しばらく沈黙が続いた。小龙女は目を閉じて、心の中で朱蓬春のことを考えていた。

その時、周りの木々から異様な液体がにじみ出てきた。透明でねばねばした液体は、空気中に漂いながら二人にかかっていく。

「何だこれ!」

小龙女が目を開けた瞬間、自分の衣服が溶けて消えていくのに気づいた。

「ちょっと! やめて!」

慌てて手で隠そうとするが、液体は容赦なく衣服を溶かす。あっという間に、小龙女の体は裸になった。

「うっ……!」

小龙女は片手で胸を隠し、もう一方の手で股間を隠した。だが、胸が大きすぎて指の隙間から乳首がのぞいてしまう。恥ずかしさで顔が真っ赤になった。

「おっと、これは災難じゃのう」

王疙瘩も全裸になっていた。彼の体は脂肪と筋肉が混ざった太い体で、腕や胸には筋肉が盛り上がっている。

「こっちを見るな!」

小龙女が怒鳴ったが、王疙瘩はにやにや笑うばかりだった。彼はわざと油断したふりをして、実はこの罠を待っていたのだ。

「もう、仕方ないわね。矢の方角へ進むしかないわ」

小龙女は恥ずかしさを必死にこらえて、前を向いて歩き始めた。王疙瘩はその後ろをゆっくりとついていく。

二人は全裸のまま、人気のない森の中を進んでいった。

王疙瘩の目は、自然と小龙女の裸体に吸い寄せられた。白くてなめらかな背中、腰のくびれ、そして歩くたびに揺れる大きな尻。

(これはたまらんのう)

王疙瘩の股間が徐々に膨らみ始めた。やがて、それは完全に勃起した。長さは三十センチはあろうかという巨大な陰茎で、表面には血管が浮き出ている。先端からは雄の匂いが漂い、長年洗っていない包皮垢が固まってこびりついていた。巨大な睾丸の中では、濃いヒキガエルの精子が絶えず生成されている。

その匂いが空気に乗って、小龙女の鼻に届いた。

(何だ、この匂い……)

小龙女は思わず振り返った。そして、王疙瘩の股間に目が留まった。

「うわっ!」

慌てて顔をそらしたが、その巨大さに一瞬だけ目を奪われてしまった。心臓がドキドキと鳴り始める。自分でも説明できない、本能的な雌の反応だった。

「何じゃ、見たいんか?」

「ふ、ふん! 見るわけないでしょ!」

小龙女は怒って前を向き、足を速めた。しかし、頭の中からあの光景が消えなかった。

二人は全裸のまま、飛ぶ矢を探して森の奥へと進んでいった。

第6章

第6章

深山の奧深く、樹々は鬱蒼と茂り、昼なお薄暗い。全裸のままの王疙瘩と小龙女は、射日神弓の飛び去った矢を探して、岩場や藪を分け入っていた。小龙女の白い肌は木漏れ日の中でほのかに輝き、彼女の一挙一動に王疙瘩の目は釘付けになる。

「もうすぐだ。矢の気配が近づいている気がする」

小龙女がそう言い終わらないうちに、地響きが轟き、足元の地面が激しく揺れた。矢の神力が引き起こした地震だ。小龙女はバランスを崩し、岩場から滑り落ちそうになる。

「危ない!」

王疙瘩が反射的に彼女の身体を抱き支える。その拍子に、彼の大きな手が小龙女の豊かな双丘に触れた。柔らかく弾む感触が掌に広がる。同時に、彼の股間で猛り立った巨根が、小龙女の濡れた秘部の入り口に激しく当たった。

「あっ…」

小龙女の頬が一瞬で真っ赤に染まる。彼女は慌てて身体を離そうとするが、地震の余波で足元が覚束ない。

「す、すまん!わざとじゃなかったんだ!」

王疙瘩は口では謝りながらも、その柔らかな感触と秘部の湿り気を思い返し、心の中でほくそ笑んでいた。

やがて地震が収まると、二人は再び矢を探し始める。しかし、突然、周囲の藪がざわめき、無数の妖怪どもが飛び出してきた。牙を剥き出しにした野獣のような姿の者、蛇のように這いずる者、空を飛ぶ者——一斉に二人に襲いかかる。

「くっ!」

小龙女は素早く身をかわすが、全裸では動きが制限される。胸が揺れ、股間の露わな秘部が丸見えになるのが気になって、思うように戦えない。さらに、背後から小妖怪が忍び寄り、彼女の首筋に牙を立てようとした。

「危ねえ!」

王疙瘩が巨体をぶつけるように体当たりし、小妖怪を吹き飛ばす。その勢いで、彼の腕が鋭い岩角に擦れ、深い傷を負った。鮮血が滴る。

「王疙瘩!」

小龙女は声を上げるが、まだ妖怪は次々と襲い来る。彼女は目つきを鋭くし、残った妖怪たちを一掃した。岩肌を蹴って跳躍し、掌底で次々と妖怪の頭蓋を砕く。最後の一匹が悲鳴を上げて倒れると、辺りには静けさが戻った。

小龙女は血に染まる王疙瘩の手を見つめ、唇を噛んだ。

「私のせいだ…怪我をさせてしまった」

「大したことないさ。掠り傷だ」

王疙瘩は平然と振る舞うが、小龙女の罪悪感は消えない。

その夜、二人は山中の洞窟で焚き火を囲んだ。燃える薪がパチパチと音を立て、裸の身体に暖かい影を落とす。小龙女は布切れを水で濡らし、優しく王疙瘩の傷口を拭いた。

「痛くないか?」

「ああ。こんなの屁でもない。それよりお前こそ、疲れただろ?」

王疙瘩は平気な顔をしながらも、心の中で考えていた。(こいつは純粋だ。騙しやすい。このままうまく転がしてやろう)

その時、洞窟の外で雨が降り出した。最初はぱらぱらと、やがて激しく叩きつけるような土砂降りになる。

「雨だ。身体を洗おう」

小龙女が雨の中に足を踏み出す。滴り落ちる雨水が彼女の白い肌を濡らし、細い腰から滴る雫が地面に落ちる。自分の身体に付いた血や埃を丁寧に洗い流す様子は、絵画のように美しい。

「俺も洗うぜ」

王疙瘩も外に出る。わざと不注意を装い、振り返りざま、屹立した三十センチの巨根がパシッと音を立てて、小龙女の豊かな尻を打った。

「ひゃっ!」

小龙女は身体を跳ねさせ、振り返る。羞恥と怒りが混ざったような目で王疙瘩を睨むが、怪我をした彼の手を見ると、言葉を飲み込んだ。その頬は真っ赤に染まっている。

しばらくの沈黙の後、小龙女は視線を逸らしながら、震える声で言った。

「…あの…中の、包皮垢は…洗わないのか?」

「あ?ヒキガエル精だからな。汚くても平気だよ。気にしなくていい」

王疙瘩はからからと笑う。小龙女はそれ以上何も言えず、俯いたまま雨に濡れ続けた。

翌朝、雨は上がっていた。二人は再び矢を探す旅に出る。王疙瘩は案内と称して、小龙女をある場所へと誘導した。

「こっちの方に、変わった気配を感じるんだ」

そう言って連れて行かれた先には、古びた転移陣が地面に刻まれていた。小龙女が警戒する間もなく、陣が光り輝き、二人の身体が光の中に包まれる。

気がつくと、奇妙な部屋の中に立っていた。四方を石壁に囲まれ、窓も扉もない。壁には古い文字が刻まれている。

「ここは…!」

小龙女が手を壁にかざし、様々な方法で脱出を試みる。掌で叩き、押し、魔力を流す——しかし、壁はびくともしない。

「出られない…」

絶望に近い声で呟く時、壁の文字が光を放った。そこにはこう書かれている。

『女性が口にて陰茎を浄めよ。然らば隠し扉は開かん』

王疙瘩は一瞥すると、大げさに首を振って見せた。

「そんなことあるわけねえ。騙しだ。信じるな」

しかし、どれだけ待っても状況は変わらず、部屋の空気は重くなる一方だ。小龙女は苦渋の表情で唇を噛み、やがて小さな声で言った。

「…この数日のこと、朱お兄ちゃんには言わないでくれ」

王疙瘩は何も答えず、ただじっと立っている。小龙女はゆっくりと膝をつき、震える手を彼の股間へと伸ばした。

彼の三十センチの巨根は、血管が浮き出て蛇のように絡まり、表面にはヒキガエルの肌のような無数のブツブツがある。先端は鈍く光り、包皮の奥には大量の白い包皮垢が溜まっていた。

小龙女は目を閉じ、覚悟を決めて口を開く。鼻腔を刺す異臭に一瞬むせそうになるが、我慢して先端を口に含んだ。舌を絡め、歯を慎重に使いながら、包皮の奥にこびりついた汚れを削り落としていく。

剥がれた瞬間、強烈な悪臭と野性味あふれる雄の匂いが口中に広がった。思わずえずくが、その拍子に一部を飲み込んでしまった。慌てて吐き出すが、ざらつく異物が喉を通り過ぎる感触が残る。

何度も繰り返すうちに、陰茎から汚れが消え、ツヤのある健康的な色合いに変わった。その瞬間、壁が轟音とともに左右に開き、青白い光が差し込む。

「開いた…!」

小龙女は立ち上がり、そのまま出口へと走る。王疙瘩も後を追う。

しかし、飲み込んでしまった包皮垢が、小龙女の腹の中で熱を帯び始めていた。それはまるで媚薬のように彼女の身体の奥深くに染み渡り、雌の本能を刺激する。足の間が熱くなり、自然と太腿を擦り合わせたくなる衝動に駆られる。

「何だ…これは…」

彼女は首を振り、気を紛らわせながら王疙瘩の後を追った。

やがて山頂に辿り着くと、不意に強い金色の光が視界を包んだ。岩の裂け目に、一本の矢が突き刺さっている。神々しい輝きを放ち、周囲の空気を震わせるその矢は、間違いなく后羿神弓のものだった。

「見つけた…!」

小龙女が矢に駆け寄る一方、王疙瘩は近くの妖怪の知り合いの洞窟から二着の服を調達してきた。

「着ろ。全裸じゃ話にならん」

差し出された粗末な布の服を、小龙女は無言で受け取り、身に纏う。ようやく裸の恥ずかしさから解放され、彼女はほっと息をついた。

王疙瘩は矢を手に取り、その重みと力を掌で確かめながら、心の内で笑っていた。

(計画通りだ。あとは、あの女をどう使うかだな…)

小龙女の頬は、まだほんのり赤みを帯びていた。腹の中で熱が冷めやらず、彼女は己の身体の変化に戸惑いながら、王疙瘩の背中を見つめるのだった。

第8章

第8章

婚礼の部屋は、赤い蝋燭の火が揺らめき、壁に影を落としていた。王疙瘩は部屋の中央に立ち、落ち着かない様子で手を擦り合わせている。彼の姿はいつもと変わらず、粗末な普段着のままで、新しい衣服を着ることもなかった。襤褸の袖口はほつれ、襟元は少し黄ばんでいる。彼は何度も自分の服装を確認したが、結局はそのままにしておいた。

扉が静かに開かれる。

小龙女が入ってきた。彼女の姿は半龍半人で、半透明の白い古風なウェディングドレスを纏っている。薄い紗の布地は彼女の肢体に柔らかく絡みつき、歩くたびに太ももがうっすらと透けて見える。上半身は胸を覆う布の上に、豊かな北半球の双乳が今にもはみ出さんばかりで、全体に華やかでありながら色気が漂う。頭には白い半透明のベールをかぶり、その向こうに一対の龍角が美しく立っている。

王疙瘩は息を呑んだ。彼女の顔の左右にある龍鱗は、絶妙な位置に輝き、むしろその美しさを引き立てていた。眼鏡が知的な美しさを添え、背後では美しい龍の尾がゆっくりと揺れている。

「お、お前…」王疙瘩は声を震わせた。

小龙女はうつむき、ベールの向こうで頬を赤らめた。

王疙瘩は嬉しそうに歩み寄り、手を伸ばしてベールを取ろうとした。小龙女は少し後退したが、やがて観念して立ち止まる。ベールがはがされ、その美しい顔が露わになる。

「すげえ…本物の龍の嫁さんだ…」王疙瘩は目を輝かせ、興奮して手を伸ばそうとした。

「だめ!」

小龙女が慌てて制止する。彼女の声には恐怖が混じっていた。王疙瘩の手は空中で止まり、彼はその反応を見て、一瞬で表情を曇らせた。

彼の心に察しがついた。まだ、彼女の心には朱蓬春がいるのだ。

王疙瘩はすぐに哀れな芝居を始めた。顔を歪め、声を震わせて言う。

「占い師に言われたんだ…俺は一生妻を持てないってな。本当だったのかよ…」

小龙女が戸惑ったように彼を見る。

「いつか朱蓬春が自分の本心に気づいたら、その時は離婚して彼のもとへ行けばいい…俺は独り身で結構だ…」王疙瘩は泣き真似をして、目の端を拭う仕草をした。

小龙女は心優しい。彼の哀れな様子に、心が揺れた。

「まだ…ベールを取っていないから夫婦じゃないのよ。夫婦の行為はできないわ」

王疙瘩は一瞬で顔を上げた。「じゃあ、ベールを取れば夫婦か?」

小龙女は黙ってうつむいた。

王疙瘩は素早くベールを取り、正式に夫婦となった。彼は顔を近づけ、キスをしようとする。

「待って!」

小龙女が手で彼の口を塞ぐ。王疙瘩の唇は彼女の手のひらに当たった。

王疙瘩はまた哀れな表情を作る。目に涙を溜め、声を詰まらせて言う。

「やっぱり俺は愛されていないんだな…一生独り身でいい…」

「違うの!」

小龙女は焦った。彼の哀れな声に心を打たれ、ため息をつく。

「キスさえしなければ…それ以外なら何をしてもいいから」

王疙瘩の目が一瞬で輝いた。彼は一歩進み、背後から小龙女を抱きしめた。

薄い紗のウェディングドレス越しに、彼女の体温が伝わる。王疙瘩はその体を撫で、貪るように香りを吸い込む。両手がゆっくりと上に移動し、豊かな双乳を掴んで揉みしだく。

「んっ…」

小龙女はかすかに息を漏らし、唇を噛んで我慢する。彼女の龍の尾が不安そうに揺れた。

王疙瘩の手はさらに下へと移動する。細い腰から、魅惑的な尻へとたどり着き、指がその曲線をなぞる。さらに、濡れた膣口を弄る。

小龙女の尾が震え、激しく揺れた。

その時、王疙瘩の股間が膨れ上がる。彼は帯を解き、巨根を露わにした。太い血管の浮き出た30cmの頑強な雄根が、強い雄の匂いを放つ。

その匂いが小龙女の鼻をくすぐる。彼女の内なる雌の本能が刺激され、体が熱くなる。彼女はそれを自覚し、恥ずかしさに震えた。

王疙瘩は巨根を彼女の膣口に当てる。亀頭が熱く、小龙女の蕾を刺激する。彼女は少し発情し始めていた。

王疙瘩はわざと少しだけ挿入した。大きな亀頭が膣口をこじ開ける。

「だめ!挿入しちゃだめ!」

小龙女が大声で叫ぶ。彼女の声には必死さがにじんでいた。

王疙瘩はここで欲擒故縦の手を使う。わざと彼女を解放し、一歩後退した。

「わかったよ…でもな、今や俺たちは夫婦だ。何かはしないと、気まずいだろ?」

小龙女はどうすればいいか迷う。彼女の尾は落ち着かずに揺れている。

王疙瘩はすぐに提案した。「乳交はどうだ?」

小龙女は顔を赤らめ、内心激しく葛藤した。長い沈黙の後、ようやく頷いた。

彼女は自分の大きな乳房を両手で持ち、その間に王疙瘩の巨根を挟む。その長さは驚くべきもので、彼女の口元にまで達していた。

小龙女はこの巨根を見るのは初めてではない。しかし、これほど近くで見るのは初めてだ。その凶暴な雄根の偉大さをまざまざと感じ取り、思わず息を呑む。巨根の匂いが鼻に入り込み、体がさらに発情する。

乳交が始まった。

小龙女は両手で自分の大きな乳房を持ち、上下に動かす。柔らかい乳房が巨根を包み込み、上下するたびに王疙瘩の腹に当たる。

「ああ…いいぞ…」王疙瘩は声を漏らす。

「もっと…口も使え」

小龙女は一瞬迷ったが、「こう?」と言いながら、両手で乳房を挟み、口で亀頭を吸い始めた。前後に動かしながら、彼を奉仕する。

王疙瘩は思わず声が出そうになった。巨根はますます硬くなり、大きな睾丸は絶えずヒキガエルの精子を生成し、睾丸が膨れ上がる。

長い時間が経ち、王疙瘩が最初の射精を迎える。

小龙女が気づかないうちに、口の中に濃い精液が直接放たれる。彼女は驚いて口を離そうとしたが、その瞬間、巨根からまだ精液が噴き出し、彼女の顔中に浴びせられる。眼鏡にもかかり、巨乳の谷間にもたっぷりと溜まる。

小龙女は目を閉じ、精液に濡れた顔をそらした。

「ふう…」

王疙瘩は満足げに息をつく。彼は布を持ってきて、小龙女の顔や体を拭いた。

「さて、寝よう」

王疙瘩はそう言って、寝台に寝転がる。小龙女は仕方なく、彼の隣に横たわった。

寝る前に、小龙女は王疙瘩に言った。「約束して。寝ている間に何もしないと」

王疙瘩は偽善的に手を胸の前に置き、「誓うよ」と言った。

こうして新婚夫婦は同じ床で眠りについた。

夜中。

小龙女は半分寝ぼけながら目を覚ますと、背後から手が伸びてきて、自分の巨乳を揉んでいることに気づいた。

王疙瘩の手だ。

小龙女は寝たふりをしてやり過ごすことにした。胸を揉むくらいなら、許せる範囲だ。

しばらくすると、彼女の尻に王疙瘩の巨根が当たっていることに気づく。

小龙女は驚いた。あれだけ射精したのに、まだ収まっていないのか。

巨根の亀頭が膣口をこじ開ける。小龙女は口を閉ざし、声を殺す。巨根がゆっくりと入り始め、半分ほど入ったところで、彼女の体が痙攣する。

起き上がって止めようとしたその瞬間、王疙瘩が先に動いた。彼は背後から小龙女を押さえつける。

「いつまで寝たふりを続けるつもりだ?」

王疙瘩は最初から、小龙女が寝たふりをしているのを見抜いていたのだ。

「ちょっと待って、やめて!」

小龙女が言う間もなく、王疙瘩は一気に腰を打ち込み、巨根を根本まで挿入する。

「ううっ!」

小龙女は大きな声を漏らす。その声は部屋中に響き渡った。

激しい性交が始まる。ベッドが軋み、音を立てる。王疙瘩は一貫して腰を打ち込み、小龙女はその動きに翻弄される。

30分後、王疙瘩は濃厚な精液を一発、小龙女の膣の奥深くに放つ。小龙女は腰を反らせ、50秒もの長い射精を感じた。

その後も二人は性交を続けた。体位を変えながら、場所も変える。ベッドの上、壁際、机の上、あらゆる場所で交わり、二時間の間に四発もの精液が注ぎ込まれた。

王疙瘩は小龙女をベッドに戻し、正常位で向かい合う。彼の目が小龙女の目と合う。その視線の先で、王疙瘩の巨根がまた硬くなり、ゆっくりと彼女の中へと進む。

小龙女は両手で掛け布団を握りしめ、一気に深く挿入されると、頭を後ろに反らし、体を弓なりにして震える。

彼女の両目は涙で潤み、情熱的な眼差しを王疙瘩に向ける。

王疙瘩はその美しい姿に衝動的に頭を下げ、強引に口づけした。

小龙女は最初驚いて拒否し、両手で王疙瘩の広い背中を掴んで引っかく。しかし、王疙瘩は離れない。性交を続けながらの熱い口づけ。

一時間が過ぎると、小龙女は次第にキスを嫌がらなくなった。その後も二人は体位を変えながら性交を繰り返し、王疙瘩は時折軽くキスを落とす。小龙女は徐々にその感覚に慣れていく。

深夜。

嫦娥が寝室の前を通りかかると、部屋からベッドの軋む音と、男女の激しい喘ぎ声が聞こえてくる。

嫦娥は立ち止まり、耳を澄ませた。彼女の顔に複雑な表情が浮かぶ。

「王疙瘩という男はすごい…普通のヒキガエルは白鳥の肉を食えやしないのに、高貴な龍族の体内に種を放つとは…」

その物音は彼女の心を揺さぶり、体が熱くなる。嫦娥はその場を離れ、自室に戻ると、呉剛のことを考えながら自慰にふけった。

朝。

王疙瘩が起きて風呂場へ行く。その隙に、好奇心から妙妙が寝室を覗いた。

部屋の中は乱れていた。小龙女が尻を突き出して横たわり、膣から精液が絶えず流れ出ている。周りにも王疙瘩の精液が飛び散り、異臭が漂う。

小龙女は一晩中から朝まで十数回も射精されたため、意識がもうろうとしている。

「ひどい…」

妙妙は小龙女を哀れに思い、彼女を背負って風呂場へ連れて行く。

ちょうど王疙瘩も風呂場にいた。

「妻の小龙女は俺に任せろ」

王疙瘩がそう言うと、妙妙は小龙女を下ろし、去っていった。

王疙瘩は小龙女を抱きかかえ、浴槽に入れる。湯の温かさが体に広がる。

小龙女は目を覚ますと、王疙瘩にぴったりとくっつかれて抱きしめられていることに気づいた。巨乳が王疙瘩の胸に押し付けられ、強く抱かれるため、潰れている。

王疙瘩はこの姿勢のまま浴槽に留まり、小龙女が寝入っている間もずっと、彼女の口にキスをし続けた。ほとんど唇を離さなかった。

小龙女は仕方なくそれを受け入れる。

浴槽に浸かりながら、王疙瘩は長いヒキガエルの舌を伸ばして、ディープキスをする。小龙女は拒まず、舌を絡ませる。そのうち、彼女の尾が王疙瘩の体に巻きついた。

ディープキスの最中、小龙女はわずかな快感を感じ始める。

通りかかった嫦娥は、新婚夫婦が朝から風呂場で抱き合い、熱烈なキスをしているのを見て、思わず呟いた。

「本当に元気なことね…」