東瀛の使節団が神凰宮殿の正門に到着したのは、秋の日差しが斜めに差し込む午後のことだった。
先頭に立つのは女帝・天照。その足元には、薄絹のように透ける衣の裾から、かすかに覗く素足——いや、何か纏っている。遠目には素肌と見紛うほどに自然な、しかし確かに人工の輝きを放つ絹足だった。彼女は一歩踏み出すごとに、その繊維が微かに擦れる音を立て、周囲の空気に甘やかな香りを漂わせた。
その後ろに従うのは、東瀛の公主・天雪。彼女の脚もまた、天照と同じく「光腿神器」と称される透明ストッキングに覆われていた。しかし彼女のは少し異なる。肉色のグラデーションが微妙に変化し、まるで生きているかのように脚の曲線に沿って光を反射する。その足音はか細く、しかし確かに男性たちの視線を釘付けにした。
さらにその後方には、桜公主・天落が控えていた。彼女は一見して柔弱な印象を与える。瞳は潤み、唇はほんのりと赤い。しかしその足元——短い肉色ストッキングが、くるぶしのすぐ上で切れていた。その境界線が、なぜか見る者に異様な緊張感を与える。彼女は視線を伏せ、従順を装いながらも、その奥で冷たい光が一瞬瞬いた。
「よくぞ参られた、東瀛の帝よ。」
神凰女帝・顔璃が玉座から立ち上がり、両腕を広げて歓迎の意を示した。彼女の声は低く、しかし響きは宮殿全体に渡る。その瞳は鋭く、天照の一挙一動を見逃さない。
「神凰の帝よ。この度のご招待、心より感謝申し上げる。」
天照は深く一礼しながら、顔を上げた。その目には敬意が浮かんでいるが、同時に——何か計算し尽くされた狡猾な光が宿っていた。
「遠路はるばる、お疲れであろう。まずは休息を取られよ。」
顔璃は手を上げ、侍女たちに合図を送る。しかし天照は首を振った。
「その前に、一つ提案がある。」
「提案?」
「我が東瀛には『桜マッサージ』と呼ばれる技がございます。これは単なる揉み解しではなく、足裏から全身の気を整え、心身を清める秘術。特に——」
天照は一瞬言葉を切り、顔璃の足元に視線を落とした。
「——絹足を持つ者同士の、深き交感を促す効果がございます。」
顔璃の眉が微かに動いた。彼女は自分の足元を見下ろす。確かに、彼女もまた薄絹のストッキング——神凰製の高級品——を履いている。しかしそれは東瀛のものとは異なり、純白で、輝きは抑えめだった。
「桜マッサージ……興味深い。」
「もしお許しいただければ、我が国の女技士・酒井英子が直接施術を。」
天照が手を叩くと、後方から一人の女性が進み出る。彼女は地味な和服姿で、一見して目立たない。しかしその手——指先が異常に長く、そして柔らかそうだった。
「酒井英子と申します。桜マッサージの技をお受けいただくには、まず——」
彼女は腰をかがめ、小さな漆塗りの箱を取り出した。蓋を開けると、中から微かに酸っぱい香りが立ち上る。
「この精油を足裏に塗布し、特殊な絹布で包みます。そうすることで、体内の邪気が引き出され、後に爽快な感覚が得られます。」
顔璃はその香りを嗅ぎ、眉をひそめた。酸っぱい——しかしどこか魅力的な匂いだった。彼女の内奥で、何かが疼いた。それは長年封印してきた欲望——絹足への秘密の嗜好——だった。
「試してみたい。」
顔璃の口から、思わずその言葉が漏れた。周囲の大臣たちが驚いた顔をする。しかし顔璃はその言葉を撤回しなかった。
「では、早速——」
天照は微笑みながら一歩前に出た。その目には、確かに勝利の光が宿っていた。彼女の計画は、第一段階を達成したのだ。
「ただし——」
顔璃が突然手を挙げた。
「私一人ではなく、我が娘の顔末も同席させる。彼女もまた、東瀛の技術に興味があるだろう。」
天照の顔が一瞬硬直した。しかしすぐに優雅な笑みを取り戻す。
「それは喜んで。公主も一緒に、ご堪能ください。」
その背後で、天雪と天落が顔を見合わせた。二人の間で、何か暗黙の合図が交わされる。
酒井英子は静かに漆箱を抱え、顔璃の前に進み出た。彼女の指先が、そっと箱の蓋を開ける。酸っぱい香りが再び広がり、宮殿の中に異様な空気が流れた。
顔璃の足元——純白のストッキングが微かに震えた。彼女はその感覚を必死に抑えながら、自分がこれから踏み入れる世界の深淵に、まだ気づいていなかった。
そして、天照の計画は静かに、しかし確実に動き出したのである。