# 第一章 オフィスの誘惑
午後三時。高層ビルの最上階にある会議室に、春の柔らかな陽射しが差し込んでいた。
陳峰はスーツの袖口を整えながら、窓際に立っていた。三十五歳になったばかりの彼は、温厚そうな笑みを浮かべているが、その目だけは獲物を狙う鷹のように鋭く光っている。
「陳社長、お待たせしました」
ドアが開き、林雪が入ってきた。二十八歳とは思えない落ち着いた佇まい。上品なグレーのタイトスカートが、彼女の完璧な曲線を強調している。化粧は控えめだが、その知性的な美貌は誰の目も引きつける。
「林さん、お久しぶりです。お元気そうで何より」
陳峰は優しげな声で挨拶した。しかし、その視線は林雪の胸元を這うように動いている。
「張さんは?」
「夫なら、さっき電話がありまして。緊急の取引先対応で、少々遅れるそうです」
林雪が資料をテーブルに置きながら答えた。その指がわずかに震えていることに、陳峰は気づいていた。
「そうですか。ならば、少しお話ししたいことがあるのですが」
陳峰はポケットからスマートフォンを取り出した。画面をタップすると、そこには大学時代の林雪の姿があった。酒に酔った彼女が、見知らぬ男たちに囲まれ、服をはだけさせている写真。あの忘れたい過去の一場面。
「覚えていますか? あの楽しかった大学のパーティーを」
林雪の顔色が一瞬で青ざめた。
「どうしてそれを…」
「ずっと大切に保管していたんですよ。こういう時、きっと役に立つと思ってね」
陳峰の笑顔は変わらない。しかし、その声には冷たい支配の色が滲んでいた。
「何が目的なんですか?」
林雪の声が震える。
「目的? 別に大したことじゃない。ただ、あなたとより深い関係を築きたいだけです。昔から、あなたはずっと私の憧れだったんですから」
陳峰はゆっくりと林雪に近づいた。彼女の肩に手を置くと、その体温を感じながら、耳元でささやいた。
「もしこの写真が張さんの目に入ったら、どうなるでしょうね? あなたの家庭も、会社での立場も…全てが壊れるかもしれない」
「やめて…お願い」
林雪の抵抗は弱々しかった。彼女は逃げ出したい衝動を必死に抑えていた。しかし、陳峰の手はすでに彼女の腕をしっかりと掴んでいた。
「ソファに行きましょう」
陳峰は命令口調だった。林雪は従うしかなかった。
大きな革張りのソファの前に立つと、陳峰はベルトを外し始めた。
「始めてください」
「ここで? ダメです…誰かが来たら…」
「だからこそ、スリルがあるんでしょう?」
陳峰の目には背徳的な愉悦の光が宿っていた。林雪は涙をこらえながら床に跪いた。
「昔みたいに、上手にやってください」
その言葉に、林雪の身体が硬直した。そう、彼女は知っていた。陳峰は大学時代からずっと彼女を狙っていたのだ。あの日々の恥辱の記憶が蘇る。
抵抗しようとする気持ち。しかし、写真が公開される恐怖。そして、自分の中に潜む、予想もしなかった興奮が芽生え始めていた。
「お願い、やめさせて…」
その言葉は、陳峰の耳には届かなかった。彼は彼女の髪を掴み、無理やり自分の方へ引き寄せた。
最初は拒絶していた林雪も、徐々にその動きに合わせるようになった。何度も経験した服従の感覚。それは、忘れていた快楽の記憶を呼び覚ました。
「そうそう、それでいいんだ」
陳峰の声が部屋に響く。彼の指が林雪の頬を撫でた。
「あなたは本当に美しい。特に、こうして従順な姿がね」
林雪の目に涙が滲んでいた。しかし、それは悔しさの涙か、抑えきれない欲望の涙か、自分でもわからなかった。
時計の針がゆっくりと進む。オフィスには不釣り合いな卑猥な音だけが響いていた。
全てが終わった後、陳峰は優雅に服を整えながら、ソファに座り込んでいる林雪を見下ろした。
「今夜、あなたの家に行きます」
「嫌です…夫がいます。娘も…」
「張さんは今夜も遅くなるでしょう? それに…小柔ちゃんも楽しみにしているはずですよ」
陳峰の口元に、不気味な笑みが浮かんだ。
「小柔はまだ八歳よ!」
「だからこそ、なおさらね。私は子どもが好きなんです。特に、純粋で可愛い子が」
林雪の身体が震えた。彼女はすべてを理解した。陳峰が欲しいのは、彼女だけではない。すべてを支配することなのだ。
「時間は八時。遅れないでくださいね」
陳峰はそう言い残して、会議室を去っていった。
一人残された林雪は、化粧が乱れた顔を直そうと、バッグからコンパクトを取り出した。鏡に映る自分の顔は、恐怖と共に、かすかな期待感に染まっていた。
彼女はスマートフォンを手に取り、夫にメッセージを打とうとした。しかし、指は途中で止まった。
『今夜は遅くなる?』
代わりに送ったのは、そんな当たり障りのない言葉だけだった。
返信はすぐに来た。『うん。取引先との会食がある。多分十一時頃になる』
林雪は深いため息をついた。窓の外を見ると、空は夕暮れに染まり始めていた。
彼女の心の中で、抵抗する声と、堕ちていく自分への期待が激しく戦っていた。そして、どちらが勝つのか、すでにわかっているかのように、彼女の指は陳峰にメッセージを送っていた。
『わかりました。お待ちしています』
送信ボタンを押した瞬間、林雪は自分がもう戻れない場所に足を踏み入れてしまったことを悟った。しかし、その感覚は不思議と心地よかった。
オフィスの時計が、午後五時を知らせる。もうすぐ夜が来る。どんな夜になるのか。林雪は震える手でスカートの裾を整えながら、自分の家へと向かう準備を始めた。