夜は更けていた。乾国の陣営を抜け出した白鳳は、百人ばかりの精鋭を率いて、密かに東瀛の大営へと迫っていた。
月は雲に隠れ、風は冷たく肌を刺す。白鳳の手には愛用の長槍が握られていた。かつてこの槍は数多の敵を屠り、乾国の威光を示す象徴であった。今夜もまた、そうなるはずだった。
「将軍、前方の物陰に動きが」
斥候の報告に白鳳は手を上げ、部隊を止めた。目を凝らすと、確かに遠くの野営地に複数の人影が動いている。燈火も少なく、警戒も緩いように見える。
「あれが東瀛の本陣か」
白鳳は唇を歪めた。乾国を蹂躙した賊は、自国の陣営で安閑と眠りに就いている。その油断が命取りだ。
「総員、突撃準備。我が槍が天に掲げられたら、一斉に突入せよ」
将兵たちが息を潜めて頷く。白鳳は馬腹を軽く蹴り、ゆっくりと前進を始めた。
しかし、その瞬間だった。
周囲の闇が、まるで生き物のように蠢き始めた。地の底から這い出るような不気味な気配が、白鳳の全身を包み込む。
「待て…これは」
白鳳が足を止めた時、空気が揺れた。地面に描かれていたのは、細かな陰陽術の紋様。気づかぬうちに、彼女は術式の中心に立っていたのだ。
「遅かったな、乾国の女将軍」
響く声は、馬上の白鳳からそう遠くない場所から聞こえてきた。闇を裂くように、一人の男が現れた。東瀛天皇、織田信雅。その口元には蠱惑的な笑みが浮かんでいる。
「罠だと…!」
白鳳は即座に振り返り、部隊に撤退の合図を送ろうとした。しかし、既に時は遅かった。
轟音と共に、地面から幾重もの光の柱が立ち昇る。術式が完全に起動したのだ。白鳳の周囲で将兵たちが悲鳴を上げ、次々と倒れていく。陰陽師たちが潜伏していたのだ。
「貴様らが仕掛けたのか!」
白鳳は長槍を構え、織田信雅に突撃した。槍の先は正確に相手の喉元を狙っている。しかし、信雅は身をかわすどころか、ただ笑った。
「その程度の攻撃が、朕に通じると思ったか」
信雅が手を振ると、空気が一瞬で重くなった。白鳳の身体がまるで水の中でもがくように動きを鈍らせられる。次の瞬間、信雅の手刀が白鳳の手首を打ち、長槍が地面に落ちた。
「うっ…!」
白鳳は馬から落下し、背中から地面に叩きつけられた。鎧が重くのしかかり、息が詰まる。
「乾国第一の女将軍と聞いていたが、朕にはこんなものか」
信雅は馬を降り、白鳳の顎を無理やり掴んで上向かせた。その瞳には、絶対的な支配者の傲慢さがぎらついている。
「離せ、この賊!」
白鳳は唾を吐きかけた。しかし信雅はそれを避けることなく、むしろ楽しそうに笑った。
「良い目だ。その不屈の魂が、朕にとっては最も美味な獲物だ」
信雅が指を鳴らすと、二人の陰陽師が進み出た。彼らは白鳳の四肢を押さえつけ、彼女の鎧を剥ぎ始めた。
「やめろっ! 貴様らにそんな真似が許されると…!」
白鳳は必死に抵抗した。しかし霊力を封じられた今、彼女の剛力は虚しいだけだった。鎧が外され、下着だけの姿が露わになる。
織田信雅は満足げに頷き、周囲に向かって声を張り上げた。
「皆の者、見よ! これが乾国が誇った英雄の成れの果てだ!」
野営地の至る所から、東瀛の将兵たちが集まってきた。彼らの視線が白鳳の裸身に突き刺さる。嘲笑、好奇、そして獣のような欲望の眼差し。
「笑うがいい…いつか必ず…」
白鳳の言葉は途中で止められた。陰陽師の一人が彼女の口に布を押し込み、猿轡をかましたのだ。
「そんなに喋りたいなら、後で十分に喋らせてやろう。朕の玩具としてな」
信雅はそう言いながら、白鳳の額に手を当てた。彼の掌から冷たい霊力が流れ込み、白鳳の体内を巡る。それはまるで蟻が這い回るような不快感で、彼女の霊力を一つ一つ絡め取り、封印していく。
「ぐっ…ああっ…」
白鳳の身体が痙攣する。霊力の流れが断たれていく感覚は、手足を一本ずつ切り落とされるような痛みと絶望を伴っていた。
「陰陽術は良い。霊力の封印はもちろん、精神を弄ぶことも自在だ」
信雅は隣に立つ陰陽師を見やる。安倍晴海。長身痩躯の男で、その瞳には常に冷たい叡智の光が宿っている。
「晴海、準備はできているな」
「はい、陛下。既に調教台と監視結晶の設置は完了しております。この女将軍の精神波動を余すところなく記録し、人格排泄の術式に活用いたします」
晴海は恭しく頭を下げた。その声には何の感情も込められていない。ただ淡々と、己の研究対象として白鳳を見ているだけだ。
「よし。ならば、朕が第一回の調教を始めよう。白鳳、貴様の誇りがどこまで保てるか、朕に見せてみよ」
信雅が指を鳴らすと、数人の兵士が檻を運んできた。それは鉄格子の檻ではなく、何故か木製の台座に鎖と革ベルトが取り付けられた奇妙な装置だった。台座の上には、人間がうつ伏せに横たわるための窪みがあり、手足を固定する枷が備わっている。
「そ、それは…」
白鳳の顔が恐怖に歪んだ。彼女にも、それが何のためにあるのかは直感的に理解できた。
兵士たちが白鳳を台座に押し上げ、うつ伏せに倒した。革ベルトが彼女の首、背中、腰、太腿、足首を締め上げ、台座に固定する。身動きは完全に封じられた。
「まずは鞭からだ。乾国の女将軍は、どんな鞭の音に泣くのか」
信雅は自ら鞭を手に取った。それは先端が細かく裂けた七尾鞭。一振りするだけで空気を切り裂く鋭い音が響く。
「い、いや…待て…」
白鳳は無意識に体を縮めた。しかしどこにも逃げ場はない。
「数えるぞ。一」
信雅が鞭を振るった。七つの鞭先が白鳳の背中を鋭く叩く。皮膚が裂け、鮮血が飛び散る。
「あああっ!」
白鳳は悲鳴を上げた。身体が跳ねるが、革ベルトがそれを許さない。
「二」
また鞭が振るわれる。今度は腰の辺り。傷口が重なり合い、痛みが倍増する。
「や、やめ…三!」
「四」
鞭は止まらない。白鳳の背中は見る見るうちに赤く染まっていく。彼女は歯を食いしばり、声を殺そうとしたが、あまりの痛みにそれができない。
三十を数えたところで、信雅は鞭を置いた。白鳳の背中は無数の傷で埋め尽くされ、台座の上には血だまりができている。
「まだまだ序の口だ。次は電撃を味わわせてやろう」
信雅が合図すると、陰陽師が小さな箱を持ってきた。そこから伸びた二本の導線の先には、金属製のクリップが付いている。
「そ、それをどこに…」
白鳳の問いには答えず、信雅は自らクリップを手に取った。一つは白鳳の左胸の頂に、もう一つは彼女の下腹部の柔らかな丘に、無造作に挟み込む。
「出すぞ」
信雅が箱のスイッチを入れると、白鳳の全身に電流が走った。
「あああああっ!」
声にならない悲鳴。身体が激しく痙攣し、歯がガチガチと鳴る。胸から下腹部にかけて、内部の神経が焼かれるような苦痛が走る。
「どうだ、これは。乾国の戦場では味わえなかった感覚だろう」
信雅は電流の強さを少しずつ上げていく。白鳳の悲鳴はやがて喘ぎ声に変わり、全身から汗と涙が溢れ出た。
「もう…やめて…頼む…」
白鳳の口から、無意識にそんな言葉が漏れた。信雅はそれを聞き逃さず、笑みを深くした。
「何と言った? 朕には聞こえなかったぞ」
「た、頼む…もう…」
白鳳は涙で霞む視界の中で、必死に言葉を紡いだ。屈辱で胸が張り裂けそうだったが、身体の痛みはそれ以上だった。
「良いだろう。少しだけ休憩だ」
信雅がスイッチを切ると、電流の痺れがゆっくりと引いていく。しかし、すぐに次の恐怖が待っていることを白鳳は知っていた。
「さて、最後の仕上げだ。浣腸を施してやる」
「浣…腸?」
白鳳がその言葉の意味を理解する間もなく、陰陽師たちが別の器具を準備し始めた。大きなガラスの容器に、乳白色の液体が満たされている。そこから伸びたゴム管の先には、潤滑油を塗られた細いノズルが付いていた。
「これは朕が特別に調合した薬液だ。腸内を洗浄するだけでなく、お前の精神を弱らせる効果がある」
信雅が説明しながら、白鳳の下半身に取り付けられた革ベルトを外す。そして彼女の臀部を無理やり開かせると、ノズルをゆっくりと挿入した。
「や、やめ…そ、そこは…!」
白鳳は必死に腰を振って抵抗しようとした。しかし身体は完全に固定されており、逃げることはできない。
「大人しくしていろ」
信雅がゴム管の途中にあるバルブを開くと、ガラス容器の中の液体が重力に従って白鳳の腸内に流れ込んでいく。
「うっ…ううっ…」
白鳳の腹部がみるみるうちに膨らんでいく。液体の冷たさと異物感が、彼女の意識を蝕んでいく。同時に、腸内で何かが溶け出していくような、気持ち悪い感覚が広がった。
「これで十分だろう」
信雅がノズルを抜き、白鳳の肛門に栓をする。彼女の下腹部は臨月の妊婦のように膨れ上がっていた。
「この状態でしばらく放置する。お前の精神がどれだけ持つか、朕は興味がある」
信雅はそう言うと、檻の側に設置された椅子に腰掛け、酒杯を手に取った。白鳳の苦しむ姿を、ゆっくりと味わうように眺めている。
その傍らで、安倍晴海は結晶板に刻まれた白鳳の精神波動を記録していた。波長は激しく乱れ、強い苦痛と絶望を示している。
「陛下、第一回の調教は順調です。このまま続ければ、数日後には人格排泄の準備が整いましょう」
「うむ。朕も久しぶりに良い玩具を手に入れた。じっくりと味わいたい」
信雅は酒杯を傾け、満足げに目を細めた。
檻の中で、白鳳は腹を押さえながら、必死に耐えていた。膨満感と痛みで意識が遠のきそうになる。しかし、それ以上に辛かったのは、自分の誇りが少しずつ崩れていく感覚だった。
(私は…乾国の将軍…こんな場所で…)
涙が止まらず、こぼれ落ちる。かつては戦場で敵を震え上がらせた瞳も、今はただ虚ろに揺れるばかりだ。白鳳の心に、初めて本当の恐怖が根を下ろし始めていた。