絶世の役立たずの十倍返しシステム

站点:NovelAI.one内容:前8章在线试读ID:0e2a6f81更新:2026-07-15 03:19
目が覚めると、そこは異臭漂うゴミの山だった。 「……は?」 唐志盛は瞬時に飛び起きようとして、身体が鉛のように重いことに気づいた。腐った野菜くずと錆びた鉄の匂いが鼻をつく。頭の中は混乱で満ちていた。確か昨日まで――いや、さっきまで、あのコンクリートジャングルの都会で、ただのフリーターとして適当に生きていたはずだ。 「夢
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乞食に転生

目が覚めると、そこは異臭漂うゴミの山だった。

「……は?」

唐志盛は瞬時に飛び起きようとして、身体が鉛のように重いことに気づいた。腐った野菜くずと錆びた鉄の匂いが鼻をつく。頭の中は混乱で満ちていた。確か昨日まで――いや、さっきまで、あのコンクリートジャングルの都会で、ただのフリーターとして適当に生きていたはずだ。

「夢か?」

目の前の異世界感満載の風景――苔むした石壁に、ところどころに貼られたぼろぼろの魔術的な模様のポスター、そして遠くから聞こえてくる馬車の音。どう考えても現実のようだった。

「まあ、いいや」

唐志盛は予想外にあっさりと転生を受け入れた。どうせ元の世界でも大した未練はない。むしろ、この異世界で二度目の人生をエンジョイするのも悪くなさそうだ。

まずは自分の身体を確認しよう。手を持ち上げてみると、驚くほど白く透き通った肌が目に入った。指一本一本が繊細で、まるで彫刻のように美しい。そういえば、この身体の顔も……。

近くの水たまりに顔を近づけると、そこには神がかった美貌を持った青年が映っていた。整った眉に、切れ長の少し垂れた目。高い鼻筋に、血色のいい唇。髪は漆黒で、腰まで届く長さだ。そして――何よりも、この顔の造形は、まるで物語の中から飛び出してきたような完璧さだった。

「おお……俺、めっちゃイケメンじゃね?」

思わず声が漏れる。しかし、自己陶酔に浸る暇もなく、自分の腕や腹や脚を触ってみて、すぐにある事実に気づいた。

「え、筋肉……ある?」

確かに見た目は細身だが、触ると意外にしっかりとした筋肉がついている。それもそのはず、よく見ると服の下から覗く腕や脚は、鍛え抜かれたものだった。だが、その一方で――。

「修行は……全くしてないのか」

体内を探ってみると、この世界の常識であろう「霊力」のようなものが一切感じられない。驚くべき美貌と恵まれた肉体を持ちながら、力はまったくのゼロ。しかも、この服はぼろぼろで、靴さえも履いていない。

「絶世の役立たず……って感じか」

自嘲気味に笑いながら、胸の前で両手を組んだ。

「だが、これも何かの縁だ。まずは腹を満たそう」

その言葉と同時に、腹の虫が盛大に鳴り響いた。

「ぐうううううううううう……」

まるでラッパのように響くその音に、唐志盛はしばらく呆然とした後、苦笑いを浮かべた。

「そうか、俺、今お腹ペコペコなのか」

辺りを見渡しても食べ物のありかは見当たらない。唯一の選択肢は――。

「物乞い……か」

気乗りはしなかったが、空腹には勝てない。唐志盛は立ち上がり、街の中心へと向かって歩き出した。

通りに出ると、そこは石畳の道が続く中世ヨーロッパ風の街だった。建物はどれも石材でできており、ところどころに魔法的な青い光が灯っている。人々は忙しなく行き交い、馬車が音を立てて通り過ぎる。

どの顔も、厳しい。笑顔はない。

どうやらこの世界は、かなり厳しい修行社会のようだ。強者は巨大な武器を背負い、優雅に空中を飛び、弱者は地べたを這うように生きている。

「さて、まずは人通りの多いところで……というか、もうこれしかないか」

唐志盛は目立つ広場の端に立ち、道行く人々に手を差し出した。

「すみません、お恵みを……何か食べ物をいただけませんか?」

だが、通行人は誰も彼を見向きもしない。ある者は無視し、ある者は軽蔑の目を向け、鼻を鳴らして通り過ぎる。

「ふざけんな、こんな美少年が物乞いなんて」

「まったく、無駄にいい顔してやがる」

「修行もせずに、ただ飯を食おうなんて虫が良すぎる」

罵倒の言葉が容赦なく飛んでくる。だが唐志盛は、そんな言葉に動じなかった。むしろ、面白がっているような表情を浮かべている。

「おお、これはなかなか面白い世界だ。罵倒される度に、俺の心がどんどん強くなっていく気がするぜ」

やがて、一人の中年の女性が通りかかった。彼女は野菜が入った籠を抱えている。唐志盛はその姿を見て、声を張り上げた。

「お姉さん!助けてください!もう三日も何も食べてないんです!」

女性は振り返り、唐志盛の顔を見て一瞬固まった。その美貌に、彼女の心が揺れたのだ。

「……あなた、そんなに綺麗な顔をして、どうして物乞いなんてしているの?」

「修行をしてこなかったので、何もできないんです。でも、これからは真面目に働きます!だから、少しだけ食べ物をいただけませんか?」

女性はしばらく迷った後、籠から小さなパンを取り出し、差し出した。

「……これでいいなら」

「ありがとうございます!お姉さん、神様です!」

唐志盛は笑顔でパンを受け取り、大口を開けてかじりついた。パンは固かったが、この世界の味は悪くない。むしろ、素朴で美味しかった。

「ふう……生き返る」

その瞬間、頭の中に機械音声が響いた。

『十倍返しシステム起動確認』

「……は?」

『あなたは他人からもらった小さな恩義を、十倍にして返すシステムです。今、女性からパン一個を受け取りました。次のチャンスで、十倍の価値を持つ恩義を返すことができます』

「なるほど……これがあのネット小説でよく見る奴か」

唐志盛はにやりと笑った。このシステムがあれば、この厳しい世界でも生き抜けるかもしれない。何せ、十倍返しだ。うまく使えば、富も力も手に入る。

「さて、次はどうやってこのシステムを活用するか……」

彼はパンの最後の一口を飲み込み、新たな決意を胸に、再び街の中へと歩き出した。

背後では、さっきの女性がまだ彼の後ろ姿を見つめていた。

「……あんな綺麗な顔で、どうして修行しないのかしら。もったいない……」

その言葉に、唐志盛は振り返って笑顔を向けた。

「お姉さん、次に会った時は、きっと十倍返しで恩を返しますよ!」

女性は一瞬戸惑った後、思わず笑みを浮かべた。

「……変わった子ね」

その笑顔を見た唐志盛は、心の中でつぶやいた。

「十倍返しシステム……ゲーム開始だ」

過酷な生存

唐志盛は跳ね返るように町の壁にぶつかり、よろめきながらも立ち上がった。額から血が滲む。

「またあの役立たずの乞食だ!」

「邪魔だ、消えろ!」

通行人たちは彼を見るなり顔をしかめ、道を外れる者さえいた。昨夜雨に濡れたぼろぼろの衣服はまだ乾いておらず、肌に張り付いて気持ち悪い。前世では大企業のCEOだったというのに、今や誰からも蔑まれる落ちぶれ者とは――。

腹が鳴った。三日ぶりの食事だ。

彼は市場の方を向いた。蒸し器から立ち上る湯気、香ばしい包子の匂いが風に乗って漂ってくる。唾液が自然と溢れた。

「十倍返しシステムめ……稼動しろと言いながら、何もしてくれないじゃないか」

心の中で毒づきながら、彼はふらふらと包子屋に近づいた。店主が客の対応で忙しい隙を狙う。手を伸ばす。熱々の包子を鷲掴みにして――

「こらっ! この泥棒が!」

店主の怒声が響き渡り、太い腕が唐志盛の襟首を掴んだ。彼は必死に藻掻きながら、掴んだ包子を口に放り込む。熱い具が舌を焼くが、構っていられない。

「てめえ、よくも盗みやがったな!」

「すみません! でももう食っちまったもんは仕方ないでしょ! 代わりに将来十倍返しするから!」

「ふざけんな!」

唐志盛は店主の腕を振りほどき、人混みの中に飛び込んだ。後ろから怒声と足音が追いかけてくる。彼は狭い路地を縫うように走り、軒先の樽を蹴倒し、洗濯物を引きずり落とす。

「待て! このクソガキ!」

「待つわけないだろ! 俺は絶世の役立たずだぞ! 役立たずが捕まるわけにはいかない!」

全力で走りながら叫ぶ彼の姿は、滑稽で哀れだった。やがて曲がり角で蔵にぶつかり、痛みに転げ回る。その隙に追手は去っていった。

息を切らせながら、彼は廃寺の門をくぐった。崩れかけた本堂、蜘蛛の巣が張り巡らされた仏像。ここが今の住まいだ。

干からびた藁の上に寝転び、ぼんやりと天井の穴を見上げる。月明かりが差し込む。

「転生って……こんなもんかよ」

前世で死んだ時、神のようなシステムを授けられたと思った。だが実際は十倍返しも何も、食い扶持すら確保できない。まさに絶世の役立たずだ。

彼は自分の手を見つめた。この手で何ができる。ただの貧乏くじを引いただけの凡人だ。

「十倍返し……いつになったら本当に動くんだ」

呟きながら、彼は目を閉じた。明日も今日と同じ日々が待っている。そんな予感が胸を重くさせた。

その時、かすかに何かの気配がした。虫の音とも風の音とも違う、確かな存在感。

彼は跳ね起きた。心臓が早鐘を打つ。

「誰だ?」

闇の中から、小さな影が現れた。

宗門の弟子募集を聞く

# 第三章:宗門の弟子募集を聞く

唐志盛は街の大通りをぶらついていた。両側には様々な店が立ち並び、屋台からは湯気が立ち昇っている。人々が行き交い、喧騒が耳をつんざく。彼はこの世界に転生してからまだ日が浅いが、すでにこの賑わいには慣れつつあった。

「おい、聞いたか?天玄宗が大々的に弟子を募集するらしいぞ」

突然、耳に入ってきたその言葉に、唐志盛の足が止まった。彼は振り返り、声のした方を見る。そこには道端の茶屋で茶を啜りながら話し込む三人の男たちがいた。

「ああ、天玄宗か。五大宗門の一つだろ?そんなところが街中で募集するなんて、珍しいな」

「何でも今回は、身分や素質を問わず、やる気のある者なら誰でも受け入れるそうだ。試験に通れば正式な弟子にしてくれるらしい」

「ふーん。とはいえ、凡人じゃまず無理だろうな。天玄宗に入るには、せめて練気期の基礎ができてないと話にならん」

唐志盛は目を輝かせた。天玄宗——この世界で五指に入る大勢力だ。修行者なら誰もが憧れる場所。そこが今、広く門戸を開いているという。

「これは……運命を変えるチャンスだ!」

彼の口元が自然に歪む。これまで彼は「絶世の役立たず」と嘲笑われ、師匠の云曦にすら「お前はもう少し自重しろ」と毎日のように怒られている。しかし、十倍返しシステムがある。どんな逆境もチャンスに変えられる。天玄宗に入れば、さらなる力を得られるかもしれない。

「ちょっとすみません!その天玄宗の募集って、どこでやってるんですか?」

唐志盛は茶屋の男たちにずかずかと近づき、いきなり声をかけた。三人は突然の厚かましい態度に一瞬驚いたが、彼の神レベルの美貌に目を奪われる。

「あ、ああ……街の中央広場でやってるよ。看板が立ってるからすぐわかる」

「ありがとうございます!」

礼もそこそこに、唐志盛は足早に中央広場へ向かう。彼の筋肉質な体は、興奮で少し震えていた。

中央広場に着くと、確かに大きな看板が立てられていた。そこには「天玄宗・弟子大募集」と力強い文字で書かれ、その下に募集要項が記されている。

「身分不問……素質不問……年齢は十五歳以上五十歳以下……ふむふむ。試験内容は三日後、天玄宗本山にて行う……なるほどな」

唐志盛は看板をじっくりと読み込む。周りには同じように看板を見ている者が何人かいる。彼らは皆、期待と不安の入り混じった表情を浮かべていた。

「どうしようかな……俺、まだ凡人だし。修行すら始めてないし」

彼は顎に手を当てて考える。十倍返しシステムはあるが、まだ使いこなせているわけではない。そもそも練気すらできていないのだ。

「でも、追い出されても構わないか。どうせ今のままでも大して変わらん。ダメ元で行ってみよう」

彼は顔を上げ、決意の笑みを浮かべた。厚かましくも、それが彼の信条だ。恥をかけばかくほど、十倍返しで返ってくる。そう考えると、むしろワクワクしてくる。

「よし、三日後だな。それまでに何か準備できることをしよう」

唐志盛は踵を返し、今住んでいる小さな家へと向かった。頭の中では、すでに天玄宗でどう立ち回るかの計画が巡っている。師匠の云曦にどう説明しようか——いや、あのロリ師匠はきっと「お前ごときが天玄宗に入れるわけがない」と言うだろう。だが、それでいい。彼女の反応すら、楽しみの一部だ。

「十倍返しシステムよ、俺に力を貸してくれ!」

彼は空を見上げ、大声で叫んだ。周りの通行人が一斉に振り返るが、彼は気にしない。これこそが、絶世の役立たずの生き様なのだから。

天玄宗へ向かう

唐志盛はぼろぼろの旅装をまとい、天玄宗へと続く山道を歩いていた。道端で恵んでもらった干し芋をかじりながら、彼は満足げに笑っている。

「十倍返しが発動すれば、この干し芋だって将来は山のような霊果になるってわけだ。ありがたい、ありがたい。」

胸の内で精霊形態のシステムが呆れたように光を揺らしたが、彼は気にしない。むしろ、貧乏くさい旅を楽しんでいる節すらあった。

何度か通りかかった行商人に頭を下げ、馬車の荷台に乗せてもらう。そのたびに礼を言い、次に会うときは十倍返しで恩を返すと心に誓う。やがて、天玄宗の山門が見える麓の町外れまでたどり着いた。

そこには、同じく宗門の弟子を志望する若い修行者たちが十数人集まっていた。皆、きらびやかな衣をまとい、腰には立派な刀剣や法器を下げている。彼らは一様に唐志盛の貧相な身なりを見て、嗤いを漏らした。

「なんだ、あの乞食のような奴も天玄宗を目指しているのか?ふざけるなよ。」

「俺たちのように修行を積んだ者だけが選ばれるんだ。凡人ごときが来るところじゃない。」

唐志盛はにこにこと笑いながら、彼らの前に歩み出た。

「いやあ、お兄さんたち、それは偏見ってやつですよ。俺みたいな絶世の役立たずでも、天玄宗には入れるかもしれないじゃないですか。十倍返しって言葉を知ってます?」

嘲笑していた小修士たちは一瞬戸惑い、次にまた大笑いした。

「十倍返し?そんなものはただの方便だ。凡人に何ができるっていうんだ。」

唐志盛は肩をすくめ、頭をかいた。

「まあ、そう言わずに。今日俺を笑った分、十倍返しで笑い返してやるのが俺の流儀ですから。でもその十倍は、笑いだけじゃなくて、いつか恩や力として返ってくるってわけですよ。楽しみにしててくださいよ。」

雲曦師匠に教わったわけではないが、彼の口から出るその言葉には妙な迫力があった。小修士たちは鼻で笑って背を向けたが、その目にはわずかな不安がよぎった。唐志盛の神レベルの美貌と、筋肉質ながらもどこか狂気を帯びた笑顔が、彼らの心に引っかかりを残したのだ。

彼はその後もへらへらと歩き続け、天玄宗の山門へと続く長い石段のふもとに立った。数百段はあろうかという石段を見上げ、彼は深く息を吸い込んだ。

「さあ、十倍返しの第一歩ってやつだ。師匠、見ててくださいよ。俺は必ず天玄宗に入って、役立たずから役立ちますからね。」

そうつぶやいて、彼は一歩一歩、力強く石段を踏みしめ始めた。背後からはまだ嘲笑の声が聞こえていたが、唐志盛の耳には、もはや届いていなかった。

山門前の混乱

天玄宗の山門前は、まるで蟻の這い出る隙間もないほどに人で埋め尽くされていた。陽の光が降り注ぐ石段の下、数百人もの少年たちが我先にと列を作り、ある者は武者震いし、ある者は緊張で唇を噛みしめている。彼らの目は一様に、雲の上にそびえ立つ山門へと向けられていた。あの門をくぐれば、人生が変わる。仙人への第一歩を踏み出せるのだ。

「おい、どけよガキ。ここは俺の場所だ」

唐志盛は平然と列に並びながら、後ろから肘鉄を食らわせてくる小僧を軽く睨んだ。彼の前に立っていた痩せぎすの少年が、いきなり割り込もうとしてきたのだ。しかし唐志盛は、まるで何事もなかったかのように、その少年の肩を掴み、ぐいと自分の後ろに引きずり戻した。

「お前こそ、後ろに並べ。この列はな、俺が守ってるんだ」

周囲の者たちがざわめいた。割り込まれた側が割り込み返すなど、普通はありえない。だが唐志盛は笑顔さえ浮かべて、手を振った。

「いやー、修行者ってのは、こういう時こそ図々しくないとな。遠慮してたら、いつまで経っても前に進めないぞ」

痩せぎすの少年は悔しそうな顔をしたが、唐志盛の体格とその妙な迫力に押され、黙って後ろに下がった。唐志盛は満足げにうなずき、列の先頭を見やる。

山門の前には、一人の受付の弟子が立っていた。彼は青い道袍を身にまとい、顔には明らかな疲れと苛立ちが浮かんでいる。毎年、この時期になると、大勢の少年たちが弟子入りを志願して押し寄せる。そのほとんどが、ろくな霊根も持たずに追い返されるのだ。彼は無造作に手を振りながら、声を張り上げた。

「霊根検査を受ける者は、こちらの測定器に手を当てろ。一瞬で終わる。次、次!」

列が少しずつ前に進む。やがて唐志盛の番が来た。彼は胸を張って受付の弟子の前に立った。その姿を見た瞬間、弟子の眉がひそまる。何しろ唐志盛は、筋肉質で神レベルの美貌を持ちながら、全身から漂うのは凡人の匂いだけ。修行者の気配が微塵もないのだ。

「お前、本当に修行を志すのか?」

弟子は嫌そうな目で唐志盛を一瞥し、手近な測定器を指さした。

「霊根が何もなければ、即刻追い返すからな。覚悟しろ」

唐志盛はにやりと笑い、測定器に手を当てた。その瞬間、測定器が一瞬光ったかと思うと、すぐに消えた。数値はゼロ。全くの霊根なし。

弟子は冷たく鼻を鳴らした。

「やはりな。役立たずが来るんじゃない。次の者、前に出ろ」

周囲から笑い声が漏れる。しかし唐志盛は全く動じなかった。むしろ、その目には狂気にも似た輝きが宿っていた。

「十倍返し…か。面白くなってきたぞ」

彼は心の中でつぶやきながら、ゆっくりと山門を振り返った。雲の向こうには、天玄宗の壮麗な建物群が見える。あの場所に立つ日が、必ず来ると確信していた。

だが、その時だ。

突然、唐志盛の耳元に、か細くも鋭い声が響いた。

「おい、ガキ。どこに行くつもりだ?」

振り返ると、そこには背の低い少女が立っていた。腰まで届くツインテール。神レベルの美貌。そして、瞳の奥に潜む五千年の歳月。云曦その人だった。

霊根測定

# 第六章 霊根測定

雲曦に連れられてやって来たのは、山門にほど近い広場だった。

そこには既に数十人の若者たちが集まっていた。みな一様に緊張した面持ちで、広場の中央に据えられた巨大な玉石を見つめている。

「あれが測定石か」

唐志盛は心の中で呟いた。前世の記憶にある小説の世界そのものだ。あの石に手を置けば、自分の霊根の質が明らかになる。

「おい、見ろよ。あの後ろの小娘、めちゃくちゃ可愛くないか?」

「バカ、声が聞こえるぞ。あれは雲曦大人だ。大乗期の大物だって噂だ」

「え?あのロリが?」

ひそひそ声が聞こえてくる。唐志盛は思わず苦笑した。確かに、身長160センチの雲曦が腰までのツインテールを揺らして立っている様は、どう見ても少女にしか見えない。だが、その瞳の奥には5000年の時を経た老練さが宿っている。

「志盛、お前は最後でいい。他の連中の測定を見ておけ」

雲曦が淡々と言った。

「はい、師匠」

唐志盛は素直に頷いた。

最初に測定したのは、筋骨隆々の青年だった。彼が測定石に手を置くと、石が淡い金色に光り始めた。

「金霊根、中級!優秀だ!」

測定を担当する長老が声を上げた。周囲からは賞賛の声が上がる。

「すごいな!中級金霊根かよ!」

「あいつ、将来有望だな!」

次々と若者たちが測定を受けていく。上級は出ないものの、中級や下級でも霊根がある者は祝福された。

そして、いよいよ唐志盛の番が来た。

「次、唐志盛!」

長老が名を呼ぶ。

唐志盛はゆっくりと前に進み出た。彼の心臓は静かに鼓動を打っている。前世の知識から、自分の結果は分かっていた。それでも、実際に目にするまでは何とも言えない期待が胸の奥で燻っていた。

「万一、違っていたら……」

そんな淡い希望を抱きながら、彼は測定石に右手を置いた。

一瞬の静寂。

そして、石は微かに、本当にかすかに光った。まるで、か細いろうそくの灯りのように。その光は、今にも消え入りそうだった。

「……下等。いや、下等未満だ。霊根はあるが、ほとんど役に立たない。俗に言う“絶世の役立たず”というやつだ」

長老の声には、明らかな失望と軽蔑が混じっていた。

その言葉が合図だった。

「はははははっ!絶世の役立たずだって!」

「え?あのイケメンが?マジでありえない!」

「雑用にも値しないな!修行者になれるわけがない!」

「なんだよ、あの顔だけの役立たず!」

嘲笑が雨あられと降り注ぐ。

唐志盛の全身が氷水を浴びせられたように冷えていく。心の奥底で、何かが音を立てて砕ける音がした。

(……やっぱりか)

彼は内心で苦笑した。前世の記憶は正しかった。自分はこの世界でも“絶世の役立たず”なのだ。最高の美貌を持ちながら、修行の才能は最低。皮肉にも程がある。

しかし、彼は顔色一つ変えなかった。むしろ、悠然と笑みさえ浮かべた。

「はっ、下等未満か。まあ、そんなものだろうな」

軽く肩をすくめて、何でもないことのように言ってのける。

周囲の嘲笑はさらに大きくなった。

「なんだあの態度!開き直ってやがる!」

「笑える!落ちこぼれが粋がってる!」

唐志盛はゆっくりと測定石から手を離した。その手は微かに震えていたが、誰も気づかない。

(十倍返しシステム……。これで這い上がってみせる)

彼は心の中で固く誓った。表面は飄々としていても、内側では怒りと決意が渦巻いていた。

「志盛」

ふと、背後から声がした。振り返ると、雲曦が立っていた。彼女の小さな顔が、少しだけ歪んでいる。怒っているのか、心配しているのか、判断がつかない。

「師匠……」

「来い。もうここに用はない」

彼女は短く言うと、くるりと背を向けた。ツインテールがふわりと揺れる。

唐志盛は、まだ響き続ける嘲笑を背中で聞きながら、師匠の後を追った。

雲曦は振り返らずに歩き続ける。やがて、人気のない小道に入ったところで、唐志盛は口を開いた。

「師匠、すみません。役立たずの弟子を取らせてしまって」

「……何が言いたい」

雲曦の声は相変わらず冷たい。

「いえ、もし良ければ、弟子を解消してもらっても結構ですよ。こんな才能では、師匠の足を引っ張るだけでしょうから」

唐志盛が軽い口調で言うと、雲曦が突然立ち止まった。

次の瞬間、彼女が振り返り、その小さな拳が唐志盛の腹にめり込んだ。

「ぐぅっ!」

「馬鹿者!」

雲曦が怒鳴った。その目には、一瞬だけ心配の色が浮かんだように見えた。

「私は一度弟子にした者を、そう簡単に手放すつもりはない。それに、お前は私が選んだ弟子だ。他の連中が何と言おうと関係ない」

「師匠……」

「とにかく、これからお前は私が鍛える。役立たずとか言われて、自分を卑下するな。私の弟子になった以上、必ず強くしてやる」

雲曦はそう言うと、再び歩き始めた。その背中は小さくても、なぜか頼もしく見えた。

唐志盛は腹を押さえながら、自然と笑みがこぼれた。

(師匠、案外面白い人だな)

嘲笑に蝕まれた心が、少しだけ温かくなった気がした。

システム起動

# 第七章 システム起動

絶望のどん底。その言葉がこれほどぴったりな瞬間はない。

唐志盛は雲曦の姿が消えた方角を呆然と見つめていた。青空には雲一つなく、さっきまで師匠がいた場所には何の痕跡も残っていない。

「はあ……」

ため息が自然と漏れる。炉の前で半日以上も火加減を調整していたのに、とうとう一度も成功しなかったのだ。焦げるか、固まるか、あるいは炉の中で爆発するか。凡人には丹薬作りなど無理なのだと思い知らされた。

「でもなあ……あの師匠、こんな俺を見捨てずに付き合ってくれてるんだよな」

考えてみれば、雲曦が自分に課した課題は確かに常識外れだが、本当に見放してはいない。叱咤しながらも、何度もやり直しを許してくれた。大乗期の仙人が、こんな凡人の面倒をここまで見てくれること自体が奇跡だ。

「よし、もう一度やるか」

気を取り直して立ち上がった瞬間だった。

「――貴方、本当に馬鹿ね」

頭の中に直接響く、透き通った女性の声。

唐志盛は反射的に周囲を見回した。誰もいない。

「心の中だと言っているのに、外を見てどうするの」

今度ははっきりと、声の主が呆れているのが分かった。

「誰だ?まさか師匠が念話で……いや、あの人なら直接殴りに来るはず」

「私は『十倍返しシステム』。あなたに選ばれた存在よ」

そう言うと共に、唐志盛の眼前の空間が歪んだ。

ぱっと光の粒が集まり、一つの形を作り上げる。それは――なんと、10センチほどの極小の女性精霊だった。

透き通るような白い肌に、銀色の長い髪が風もないのにふわりと揺れている。薄い布を纏っただけの姿は神々しく、後ろには四枚の羽根が透けて見えた。

「な、なんだお前!」

唐志盛が後退りすると、精霊は口元に手を当ててくすくす笑った。

「驚くのも無理はないわね。でも、これからはこれがあなたの相棒よ。よろしくね、宿主」

「宿主?お前、まさか俺の体を乗っ取ろうとか……」

「そんな下品なことはしないわ。私はシステムよ。あなたに力を与えるために存在している」

精霊はくるりと宙で一回転すると、唐志盛の目の前まで飛んできた。その小さな手を胸の前で組んで、真剣な表情を作る。

「これから説明するから、ちゃんと聞きなさい。私は『十倍返しシステム』――その名の通り、あなたが使った資源を十倍にして返す力を持っている」

「十倍……返し?」

「そう。例えばあなたが丹薬の材料を十株使ったとする。普通なら十株分の効果しか得られない。でも私の力を使えば、百株分の効果が得られるの」

唐志盛の目が大きく見開かれた。

「ま、待て待て待て。それって……」

「ええ、あなたが凡人でも構わない。修行資源も対象よ。霊草も、霊石も、丹薬も、あなたが消費したもの全てに対して、十倍のリターンが保証される」

精霊の言葉に、唐志盛の頭の中で何かが弾けた。

――つまり、雲曦師匠からもらった素材で丹薬を作れば、師匠の十倍の効能を持つ丹薬ができるのか?

「ああ、もちろん。さっきの師匠からもらった素材も全部対象になるわ。あなたがそれを使って何かを作ったり、直接服用したりすれば、全て十倍の効果になる」

精霊が得意げに胸を張る。10センチの体でやるその仕草が妙にかわいらしい。

「ただし、制限もあるの。一つは一度に使える資源の量に限界があること。もう一つは――このシステムの存在を他者に教えてはいけないこと。もし誰かに話そうものなら、即座に契約は破棄されるわ」

「契約?」

「そう。あなたがこの力を使うことを承諾したという契約よ。もう既に結ばれている」

唐志盛が自分の手のひらを見ると、銀色に光る紋様が一瞬浮かび上がり、すぐに消えた。

「信じられないかもしれないけど、今あなたの周りにある霊気の密度を測ってみましょうか」

精霊が細い指を一振りすると、空中に光の文字が浮かび上がった。

『現在の周辺霊気密度:一般下級エリアの標準値』

「普通だな」

「そう。でもね、これからあなたが修行を始めたら、十倍のスピードで霊気を吸収できるようになるの。つまり……」

「十倍の速さで修行できるってことか!」

唐志盛の声が思わず大きくなった。

「そういうこと。ただし、あなたが凡人だという現実は変わらないわ。最初の一歩を踏み出すまではね」

精霊はそう言うと、ぱちんと指を鳴らした。すると、唐志盛の体内に暖かいものが流れ込んできた。

「これは……?」

「初期エネルギーよ。これを元に、あなたはこの世界の修行法を始められる。さあ、今すぐ座って呼吸法を試してみなさい」

唐志盛は言われるままにあぐらをかいた。目を閉じて、雲曦から教わった基礎呼吸法を思い出す。

鼻から息を吸い、腹の中に溜めて、ゆっくりと口から吐き出す。

最初は何も感じなかった。しかし三度目の呼吸の時、確かに感じた。空気の中に混じった暖かい粒子が、自分の体内に引き込まれる感覚。

「どう?」

精霊が期待を込めた声をかける。

「感じる……感じるぞ!霊気だ!」

唐志盛が目を開けると、精霊がにこにこと笑っていた。

「これであなたも立派な修行者よ。ただし、一番下の凡人レベルからだけどね」

「それで十分だ!ありがとう、システム……いや、お前の名前は?」

「名前?そうねえ……私はシステムだから、名前なんて必要ないと思ってたけど」

精霊が顎に手を当てて考える仕草をする。

「折角だから付けてくれない?宿主」

「そうだな……じゃあ、『玲瓏』ってのはどうだ?小さくて透き通ってて、美しいっていう意味の」

「玲瓏……玲瓏、か。いい名前ね。気に入ったわ」

精霊――玲瓏が嬉しそうにくるっと回る。

「よし、これからは玲瓏って呼ぶ。で、玲瓏、早速だが修行を始めたい。具体的にどうすればいい?」

「まずは基本よ。さっきの呼吸法を続けながら、体内の霊気を丹田に集めるの。イメージとしては、川の流れを一本の管に集める感じ」

唐志盛は再び目を閉じた。さっきよりも意識的に、空気中の霊気を感じ取ろうと集中する。

すると、驚くべきことに、霊気が自分の意思に従って体内に流れ込んできた。まるで生き物のように、いや、それ以上にスムーズに。

「十倍効果、発動中」

玲瓏の声が聞こえる。

確かに、呼吸のたびに体内に流れ込む霊気の量が増えているのが分かる。最初は糸のような細さだった霊気が、今では小川のように太くなっていた。

「すごい……すごいぞ、玲瓏!」

「まだまだこれからよ。この調子で修行を続ければ、あなたは必ず強くなれる。私が保証するわ」

唐志盛の目に、希望の光が宿った。

絶望しかなかったこの世界で、初めて手にした可能性。

十倍返しシステム。

この力さえあれば、凡人からでも最強の修行者になれるかもしれない。

「師匠、俺は絶対に強くなってみせる」

その決意は、空に向かって宣言するように、力強く響いた。

厚かましい師事

唐志盛は、十倍返しシステムが本物の力であることを確信していた。凡人から修行を始めたばかりの自分が、このシステムの恩恵を無駄にするわけにはいかない。天玄宗に残ることは、もはや選択肢ではなく、必然だった。

「ふん、俺はここに居座るぞ。どれだけ嫌われようが、しがみついてやる。役立たずなんて言われても、十倍返しで十倍役に立つんだからな。」

システムの精霊は、彼の肩に浮かびながら軽く笑った。

「宿主、その図太さは評価しますよ。でも、修行の道は厳しいですからね。」

「厳しいからこそ面白い。さあ、まずは師匠を見つけるぞ。」

唐志盛はそう言って、天玄宗の境内を歩き始めた。門弟たちは彼を一瞥し、すぐに目をそらす。役立たずと烙印を押された男の存在は、彼らにとって空気のように透明だった。しかし唐志盛は気にしない。むしろ、その状況を楽しんでいるようだった。

人混みの中を進んでいくと、ふと視界に飛び込んできたのは、小さな背丈の女性修練者だった。腰までの長いツインテールが風に揺れ、その姿はまるで幼い少女のようだった。しかし、彼女から放たれる気場は、群衆の中で一際異質だった。圧倒的な強者の風格が、周囲の空気を震わせている。

「おい、あのロリ……いや、あの女修練者、すごいオーラだな。」

唐志盛は目を細め、彼女の存在に釘付けになった。システムの精霊も、その場の空気を察して声を潜めた。

「宿主、あれはただ者じゃありませんよ。おそらく大乗期の域に達しています。外見に惑わされてはいけません。」

「大乗期?つまり、めちゃくちゃ強いってことか。」

唐志盛の目が輝いた。彼の中で、ある考えが閃いた。厚かましいことこの上ないが、それが彼のやり方だ。

「よし、決めた。あの人を師匠にしよう。」

「えっ、宿主、ちょっと待って——」

システムの止める声も聞かず、唐志盛は猛ダッシュでその女性修練者に駆け寄った。周囲の門弟たちは突然の動きに驚き、何事かと彼を見つめる。

彼は彼女の目前で勢いよく地面にひざまずいた。そして、次の瞬間、両腕を広げて彼女の太ももに抱きついた。

「師匠!どうか、どうか俺を弟子にしてください!」

大声で叫ぶその声は、境内中に響き渡った。周囲の門弟たちは一瞬で静まり返り、信じられないような表情で唐志盛を見つめる。

女性修練者——云曦は、突然の出来事に一瞬固まった。彼女のツインテールが微かに震え、その小さな顔に驚愕と怒りが交錯する。

「な……何をする、この馬鹿者!」

云曦は慌てて身をよじろうとしたが、唐志盛の腕は鋼のように強固で、びくともしない。

「離れろ、この厚かましい奴め!」

「嫌です!師匠に弟子入りするまでは離れません!」

唐志盛の目は真剣そのものだった。その強引なまでの執着心に、云曦は呆れと困惑を同時に感じた。

「お前、何者だ?こんな無礼な真似をして、命が惜しくないのか?」

「命なんて惜しくありません!修行の道に邁進するためなら、死んでもいい!」

「……本当に馬鹿だな。」

云曦は深く息を吐き、頭を押さえた。しかし、彼女の目の奥には、わずかに興味の色が浮かんでいた。この変わり者の若者は、他の門弟たちとは一味違う。その無謀さが、逆に新鮮だったのだ。

「いいだろう。お前のその図太さ、買ってやる。ただし、俺の弟子になるということは、死ぬ気で修行しろということだ。覚悟はあるか?」

「もちろんです!師匠!」

唐志盛は満面の笑みを浮かべ、さらに強く彼女の太ももに抱きついた。云曦は仕方なくため息をつき、その光景を見守る門弟たちはただ呆然と立ち尽くしていた。

こうして、厚かましい弟子入りが成立した。天玄宗の歴史に、また一筋の波乱が巻き起ころうとしていた。