夜の闇が街を覆い尽くす頃、陳鋒は古びたビルの一室にいた。薄汚れた窓からは、ネオンサインの鈍い光が差し込んでいる。室内には安物の机と椅子、そして壁に貼られた写真の数々。それらはすべて、彼がこれまでに手をかけた女たちのものだ。
「今週のノルマだ。三人、できれば上玉を探せ」
机の向こう側で、組長の田辺が煙草の煙を吐き出しながら言った。彼の指には太い金の指輪が光っている。陳鋒は無表情で頷いた。
「承知しました」
「お前の腕前なら問題ないだろう。だが、最近は警察の目も厳しい。面倒は起こすなよ」
「もちろんです」
陳鋒は立ち上がり、部屋を出た。廊下は薄暗く、所々で男たちが壁にもたれて煙草を吸っている。彼らは陳鋒を見ると、無言で道を空けた。この組織で、陳鋒の存在は特別だった。女の扱いに関しては右に出る者はいない。彼の手にかかれば、どんなに強気な女も三日と持たない。
外に出ると、冷たい風が頬を撫でた。陳鋒はコートの襟を立て、夜の繁華街へと向かった。今日もまた、獲物を探す時間だ。彼の頭の中では、既にいくつかの候補が浮かんでいる。クラブの常連客、深夜のバーで働く女、大学のキャンパスを歩く女子学生。狙うべきは、単独行動を好み、周囲に警戒心の薄い女だ。
目的のクラブは、繁華街の裏通りにあった。看板は派手だが、入り口は狭く、中は薄暗い。陳鋒はカウンターに腰かけ、ウイスキーを注文した。店内には、照明の下で無理やり笑顔を作る女たちが数人、カクテルグラスを手にしている。
彼の目は、すぐに一人の女性に留まった。彼女はカウンターの隅で、一人でグラスを傾けていた。二十代前半だろうか。長い黒髪、白いワンピース。飲み方はややぎこちなく、何か悩み事があるのか、時折ため息をついている。
陳鋒はゆっくりと彼女に近づいた。
「お一人ですか?」
声をかけると、彼女は驚いたように顔を上げた。目が合う。その瞳には、どこか脆さが漂っていた。
「ええ、まあ……」
「退屈そうですね。よかったら、次の店に付き合ってくれませんか?」
陳鋒の声は優しく、どこか安心感を与えるものだった。彼女は一瞬ためらったが、すぐに微笑んだ。
「いいですね……行きましょう」
陳鋒は会計を済ませ、彼女の手を取った。細く、冷たい手だった。外に出ると、彼女は少しよろめいた。飲みすぎたのだろう。
「大丈夫ですか?」
「はい……ちょっと、ふらふらします」
陳鋒は彼女を支えながら、人気のない路地へと誘導した。彼のポケットには、あらかじめ用意した睡眠薬が入っている。振り返ると、彼女の目はもう半分閉じかかっていた。
「もう少し、我慢してくださいね」
そう言って、彼は彼女の口元にハンカチを押し当てた。彼女は一瞬抵抗したが、すぐに力が抜けた。
数分後、彼女は陳鋒の車の後部座席に横たわっていた。運転席に座り、バックミラーでその様子を確認する。彼女は静かな寝息を立てている。何も知らずに。
車は夜の街を抜け、郊外へと向かった。行き先は、組織所有の廃工場。地下には、陳鋒が自分で手を加えた調教部屋がある。誰にも知られていない、秘密の空間だ。
工場に着くと、陳鋒は彼女を抱え上げ、地下へと続く階段を降りた。コンクリートの壁、むき出しの電球。部屋の中央には、簡素なベッドと椅子、壁には鎖と手錠が備え付けられている。
彼女をベッドに横たえ、陳鋒は手錠を取り出した。手首と足首をしっかりと固定する。まだ意識は戻らない。彼は椅子に座り、彼女が目を覚ますのを待った。
時計の針がゆっくりと進む。十分ほど経った頃、彼女のまぶたが微かに動いた。
「ここは……どこ……」
声は掠れ、震えている。彼女は自分の状況を理解しようと、必死に周囲を見回した。そして、自分の体が自由にならないことに気づく。顔色が一瞬で青ざめた。
「落ち着いてください」
陳鋒は優しい口調で言った。しかし、その目は冷たく、獲物を見る獣のそれだった。
「あなたは、これから私のものになります。抵抗は無駄です。ただ、素直に従えば、痛い思いはしません」
彼女の目に涙が浮かんだ。しかし、陳鋒はその涙に何の感情も抱かなかった。彼にとって、これはただの仕事。週末までに、三人分の報告を上げなければならない。
彼はゆっくりと立ち上がり、壁の棚からいくつかの道具を取り出した。今夜は、初期段階の調教。彼女に、自分の立場を理解させることだけが目的だ。
「さあ、始めましょう」
陳鋒の声が、薄暗い地下室に響いた。