夜の帳が下りた醉香閣は、昼間とはまったく異なる顔を見せていた。廊下の両側には紅色の灯籠がともされ、ゆらゆらと揺れる灯りが紗の帳にぼんやりとした光を落としている。葉嬌は二階の廊下に立ち、手すりにもたれて自分の影法師をじっと見つめていた。
あのしわがれた老婆が術をかけてから、三日が過ぎた。人皮の衣はすでに完全に皮膚と一体化し、軽く指で触れても本物の身体との境目はまったくわからない。葉嬌はうつむいて自分の両手を見た。指はほっそりとして繊細で、爪は薄紅色に染まっている。手首はあでやかで、手のひらには武術の鍛錬でできたはずの無数の硬い胼胝はどこにもなかった。
「なにを立ってぼんやりしているの?」
背後から湘錦の声が聞こえ、いつものような優しい笑みをたたえている。彼女は青磁色のチャイナドレスをまとい、手に絹の扇を持って、足音もなく近づいてきた。
葉嬌はとっさに一歩後退したが、すぐにその動きが不自然すぎることに気づいた。彼女は腰を落として一礼しようとしたが、ふと自分が女物のスカートをはいていることを思い出し、あわてて足をそろえ、両手を腰の横で重ねて、軽く膝を曲げた。
「湘錦さま」
「何度言ったらわかるの。自分の人、そんなに畏まることはないわ」
湘錦が手を伸ばして葉嬌の頬を撫でると、指がほおをかすめて耳の後ろへと滑っていく。その感触に葉嬌は全身が粟立ち、思わず首をすくめた。
「あなたはとても綺麗なのに、立ち姿はまるで怒り狂った大男みたい。さあ、私についてきて、歩き方をもう一度習いましょう」
湘錦はそう言うと、自ら手本を示した。彼女の足取りは蓮の花が揺れるように軽やかで、スカートのすそが水の波紋のように揺れ、腰は柳の枝のようにしなやかに動く。葉嬌は後ろからそれを見て、ぎこちなくまねをしたが、武道の名手として身につけた大股の歩き方はどうしても抜けず、足を小さく縮めれば縮めるほど、姿勢はかえっておかしくなっていった。
「肩をもっと下げて、胸はそんなに張らなくていいの。あなたは今は女の子なんだから、女の子はやわらかくしなやかでいるものよ」
湘錦がふり返りざま、扇でかるく葉嬌の肩をたたいた。葉嬌は深く息を吸い込み、体中の力を抜こうとした。すると、驚いたことに、人皮の衣がかすかに熱を帯びはじめ、ある種の力が彼女の筋肉や骨格を導くかのように、硬い線を徐々にやわらげていくのだった。
「そう、その調子」
湘錦は満足げにうなずき、階下の大広間へと彼女を連れていった。
ちょうど卯の刻を過ぎたばかりで、醉香閣の宴はまだ始まったばかりだった。階下の舞台では胡弓の音が流れ、数名の舞姫が紗の衣をまとってゆったりと舞っている。二階の雅座にはすでに数人の客が座り、なかには色鮮やかな衣装をまとった娘たちが酌をしている姿もあった。
葉嬌は湘錦について雅座の一角に歩いていったが、途中、あの紫衣の女とすれ違った。彼女は柱にもたれて立ち、手にはまだあの不気味な鉄の鉤を持ち、冷たいまなざしが葉嬌の全身をなめるように突き刺した。葉嬌は背筋が凍るのを感じた。たとえ顔には出さなかったが、その視線には微かな敵意がこもっているのを感じ取ったのだ。
「あの方は酔蝶とおっしゃって、閣内の護衛を担当しているの。普段はあまり関わらないほうがいいわ」
湘錦はさも当然のように説明し、葉嬌をもっと奥まった席へと導いた。
「湘錦さま、何か聞きたいのですが……」
「遠慮しなくていいわ、何でも聞いて」
湘錦が器用に茶を注ぎ、白い湯気が立ちのぼる茶杯を彼女の前に差し出した。
葉嬌は少し迷ったが、それでも思い切って尋ねた。「数日前、深夜に閣内に連れてこられた女性たちを何人か見かけました。彼女たちの様子がひどくおかしくて、まるで魂が抜けたみたいでした……今はどこにいるのですか?」
湘錦の茶杯を手に取るしぐさがほんの少し止まったが、すぐに元の通りになった。彼女は軽く茶を一口すすり、微笑んだ。
「ああ、彼女たちね。みんな行き場のない可哀そうな人たちで、閣主さまが手を差し伸べて助けてあげたの。今は別の場所で芸を仕込まれていて、学び終われば、あなたみたいに、ちゃんとした芸妓になれるのよ」
「芸妓を仕込む?」
「そうよ。醉香閣の芸妓はみな、清らかで名高いじゃない?琴や棋、書や画、舞や歌のひとつもできなければ、どうしてお客さまの前で芸をお見せできるでしょう?」
湘錦の語り口はきわめて自然で、少しもわざとらしさはなかった。しかし葉嬌はほんの少しの違和感を感じ取った。芸妓を仕込むというのに、なぜ真夜中に連れて行き、あのようにして術をかけなければならないのか?だが彼女は突っ込んで尋ねることはしなかった。あの紫衣の女の、毒蛇のような視線を思い出したからだ。
「それから、もうひとつ、醉香閣の規則をしっかり覚えておいてね」
湘錦は茶杯を置き、三本の細く白い指を立てた。
「第一に、許可なく閣を離れてはならない。第二に、お客さまの前では決してその身分を明かしてはならない。第三に……」彼女は声をひそめ、かすかに聞こえるか聞こえないかの声で言った。「三階へは、決して行ってはいけない」
葉嬌の心臓が大きく跳ねた。
彼女は醉香閣に数日間滞在していたが、三階のことは確かに不思議に思っていた。そこの階段の入り口にはいつも分厚いカーテンが下りていて、昼も夜も誰かしらが見張っている。時おり、かすかにすすり泣く声が聞こえてくるようでもあり、風が運ぶ幻聴のようでもあった。
「三階には……何があるのですか?」葉嬌は思わず尋ねた。
湘錦は首を振り、細長い指をそっと自分の唇に当てた。そのしぐさは優美だが、疑いを許さない雰囲気があった。
「知るべきことだけを知っていればいいの。さあ、今日の練習はちゃんとやった?」
話題を変えながら、湘錦は立ち上がり、手招きして彼女に広間の中央へついてくるように合図した。
「今日はあなたに座り方とお辞儀の仕方を教えるわ。お客さまの前で恥をかかないようにね」
湘錦は椅子を引き寄せ、まずは座る手本を見せた。彼女はまずスカートの裾をかるく撫でてから、ゆっくりと腰を下ろし、脚をきっちりとそろえてやや斜めにし、両手を重ねて膝の上に置いた。背筋はまっすぐ伸びているが、こわばった印象はまったくなく、かえってしなやかな風情があった。
葉嬌はその通りにまねをしたが、やはりぎこちなさは否めなかった。彼女はもともと天山派の大師兄として、教場で胡坐をかくことに慣れており、いまさらこのようなしとやかな座り方を求められると、全身の筋肉が抵抗してしまうのだった。
「力を抜いて、心配しないで。この身体を思い出して。今はもう葉楓じゃないんだから」
湘錦は背後に立ち、両手でやさしく彼女の肩を揉みながら、かすかに香る息を彼女の耳もとへ吹きかけた。
葉嬌は目を閉じ、湘錦の言葉に従って少しずつ全身の力を抜いていった。すると人皮の衣がふたたび熱を帯び、その温もりが彼女の四肢へと染みわたっていく。気がつくと、彼女の姿勢は自然とやわらかくなり、膝の上に置いた両手も自然体で美しく整っていた。
「とても上手になったわね」
湘錦がほほえみながら、扇を広げた。「さあ、次は声の練習よ。私と一緒に言ってごらんなさい。『旦那さま、もう少しだけお酒をどうぞ』」
葉嬌は口を開いたが、突然、自分の声が以前とは変わっていることに気づいた。以前のあの低く力強い響きはなくなり、かわりに少女のような、かすかにあまい、やわらかな響きがあったのだ。
「旦那さま……もう少しだけ……お酒を……」
二言、三言と話すうちに、彼女は言葉に詰まった。この声はまったく彼女のものとは思えず、まるで別の誰かが話しているかのようだった。
「声が少し震えているわ。もう一度」
「旦那さま……どうぞ、もう少しだけお酒を……」
「目つきをもっとやわらかくして、まるで愛しい人を見るように」
湘錦がそばで指図し、声のなかには抑えがたい満足感がこめられていた。
葉嬌はかろうじてその指示通りに何度か繰り返し、しだいに声は落ち着いていったが、心のなかでは言いようのない違和感と不快感が渦巻いていた。彼女ははっきりと自覚していた。自分はこれらすべての変化を心底から嫌っているのだと。しかし何よりもおそろしいのは、身体がしだいにこうした変化に慣れつつあることであり、人皮の衣に導かれて、女らしい仕草や言葉づかいを自然と身につけてしまうことだった。
練習は一時間近くも続き、湘錦がようやく満足したようにうなずき、手を引いて席へ戻ろうとした。
ちょうどそのとき、階下の大広間で一陣の騒がしい物音が起こった。葉嬌がふと見下ろすと、あの太った和尚が数人の荒くれ者を引き連れて大股に入ってくるところだった。彼はまだあの灰褐色の僧衣をまとい、上半身ははだけて、胸には黒々とした胸毛をのぞかせている。
「湘錦の姐さん!姐さんはどこだ!」
太った和尚は大声で叫び、その眼は赤く血走っていた。彼の視線は広間をぐるりと見まわし、やがて二階の葉嬌の姿にとまった。
「おや?あれは新しい娘っ子か?」
太った和尚の声のなかに、下品な笑みが混じった。彼は太った手で葉嬌のほうを指さしながら叫んだ。「姐さん、あの小娘をここへ呼んでくれ!和尚さまがちょっと検分してやる!」
葉嬌の心臓の鼓動が急に速くなった。彼女は思わず手を腰にまわしたが、太ももに隠していたはずの短剣は、人皮の衣に包まれてとっくにどこかへ消えていた。
「焦らないで」
湘錦がかるく葉嬌の手を握り、その手のひらは思いのほか熱かった。「あの者たちは酔っているだけよ、私が応対するから。あなたは先に部屋に戻りなさい」
彼女はそう言うと、葉嬌のために紗のカーテンをめくり、狭い通路を指さした。
「突き当たりを右へ曲がれば部屋よ。途中でほかの人に会っても、立ち止まってはだめ」
葉嬌はうなずき、通路へと早足で入った。数歩進んだところで、ふと立ち止まり、振り返って尋ねた。
「湘錦さま、あの方たちは……いつもこうなのですか?」
湘錦の微笑みがかすかにこわばり、その目に一瞬、つかみどころのない陰りが走った。しかし、すぐに彼女はまた何事もなかったかのように扇を軽く揺らしながら言った。
「商売だから仕方ないのよ。さあ、早く戻って」
葉嬌はそれ以上なにも言わず、足早に廊下の奥へと消えた。彼女の後ろ姿を見送る湘錦の唇もとには、かすかに冷たい曲線が浮かんでいた。
葉嬌は湘錦の言うとおりに廊下の突き当たりまで歩き、右に曲がった。こちら側の壁には灯籠が少なく、薄暗がりのなか、空気にはほのかに甘ったるい香りが漂っていた。彼女は部屋の前で立ち止まり、手を伸ばして扉を開けようとしたが、ふと隣の部屋から微かな話し声が聞こえてくるのに気づいた。
「……あの新入り、ようやく落ち着いてきたな」しわがれた声、あの黒衣の老婆のものだ。
「焦るな、湘錦には湘錦なりの手はずがある」今度はあの紫衣の女の声だった。「ただ上のやつらが、引き渡しはできるだけ早くしろと言っている。あまり長引かせるわけにはいかない」
「あの娘っ子は気が強い。薬の量を増やしてもらわんとな」
「増やすだと?あれはただの気の強い娘っ子じゃないぞ。何せ天山派の大師兄――」
「シッ!」
突然、部屋のなかの声がぴたりと止んだ。
葉嬌は息をひそめ、全身の血液が凍りついたかのようだった。彼女はそっと壁に身を寄せ、背中には冷や汗が流れていた。
部屋のなかでなにやら衣擦れの音がし、やがて足音が扉のほうへと近づいてきた。
葉嬌はもうためらわず、素早く自分の部屋へと飛び込み、扉を閉めた。彼女は扉にもたれかかり、胸が激しく波打ち、耳の奥では心臓の音がズキンズキンと響いていた。
なんと、彼女たちはすでに自分の正体を知っていたのか。
天山派の大師兄――この言葉が頭のなかを何度もこだました。自分は巧妙に変装しているつもりでいたのに、まさか相手には最初から見抜かれていたとは。葉嬌は拳を握りしめ、悔しさと恐怖が入り混じった感情が込み上げた。
彼女は窓辺に歩み寄り、そっと窓のすきまを開けて外をのぞいた。階下の庭にはまだ数人の人影が揺れており、あの紫衣の女と太った和尚の他に、見慣れない数人の護衛が巡回していた。
醉香閣は、外から見ればただの歓楽街の楼閣にすぎない。しかし、秘密はあまりにも多く、深すぎる。妙な酔蝶、神出鬼没の老婆、三階の立ち入り禁止の場所、そして湘錦、優しげな笑顔の裏に隠された正体不明の素顔……。
葉嬌は窓を閉め、寝台の端に腰を下ろした。彼女はうつむいて自分のしなやかな指を見つめ、しばらくすると、その手を持ち上げて、静かに頬をなでた。皮膚の下からはかすかな熱が感じられ、人皮の衣が静かに彼女の身体を蝕みつつあるのを感じ取れた。
どうやってここから抜け出すか。師妹はまだ救出を待っている。葉楓である自分は、こんなふうに雌伏するわけにはいかない。
心のなかは混乱しきっていたが、とにかくまずは休むことにした。彼女は服を脱がずに横になり、手は無意識のうちに枕の下に隠した短剣を握りしめていた。
知らないうちに、眠りが彼女を深く包み込んでしまった。
霧が立ちこめ、目にするものすべてが灰色にかすんでいた。
葉楓は見慣れた山道を歩き、足元の石段は露で濡れ、両脇には見慣れた松や柏の木が生い茂っていた。ここは天山派、彼が十八年ものあいだ修行してきた場所だ。
ふと、前方の霧のなかからかすかな泣き声が聞こえてきた。
「大師兄……」
それは師妹、柳天心の声だった。
葉楓の心臓が激しく鼓動し、声の方向へ走り出した。しかし、どれだけ走っても霧はますます濃くなるばかりで、師妹の泣き声はすぐ近くにあるようでいて、どこまでも遠く感じられた。
「師妹!どこにいるんだ!」
彼は叫んだが、自分の声は恐ろしいほどか細く、まるで少女のささやきのようだった。
「大師兄……助けて……」
師妹の声は弱々しく、はかないものに変わっていた。葉楓は必死に両手を伸ばして前方の霧をかき分けた。すると突然、目の前が急に開けた。
師妹は崖のふちに立っていた。彼女はまだあの白い衣をまとい、風に吹かれて裾を揺らめかせ、なかば開いた口もとには血のあとが滲んでいた。彼女の目はうつろで、両手をこちらに差し伸べているが、全身からは異様な紫黒色の気が立ちこめていた。
「師妹!」
葉楓は駆け寄ろうとしたが、何か大きな力に足をすくまれたように、どうしても一歩も踏み出せなかった。彼はうつむくと、自分の服がいつのまにかあの淡紅色のチャイナドレスに変わっているのに気づき、両手もまた、あのように繊細な女の手になっていた。
「大師兄……あなたは変わってしまった……もう、あの大師兄じゃない……」
師妹の声はかすれて震え、目には二すじの血の涙が流れていた。
「違う!違うんだ!私は騙されたんだ!どうか私を信じてくれ!」
葉楓は必死に説明しようとしたが、口からはまったくあの柔らかな女の声しか出てこず、声を張り上げれば張り上げるほど、ますますか細くなっていった。
師妹の姿は徐々に薄れ、まるでインクが水のなかで散っていくかのように消えていった。崖のむこうから、あの老婆の笑い声が聞こえてくるようだった。しわがれた声が風にのって彼方から近づき、鼓膜をかすめる。
「フフフ……可哀そうな子よ……もうずっと、ここにいなさい……」
「いやだ!」
葉楓はガバリと身を起こし、息が荒く乱れていた。
寝台の周りはひっそりと静まりかえり、わずかに窓の外の風が紙障子を揺らす音だけが聞こえていた。彼女は全身が冷や汗にまみれ、心臓の鼓動はまだ鎮まらず、目の前には師妹の口もとから血を滲ませた姿がちらついていた。
夢だった。
しかし、その夢はあまりにもリアルすぎた。
葉嬌は寝台に座り込んだまま、体をきつく抱きしめていた。彼女は震える手を持ち上げて顔をなでた。その手触りは繊細でなめらかだったが、その下には無数の細かな針が蠢いているようで、いつでも骨の奥まで刺し通そうと待っているかのようだった。
師妹の最後の言葉が彼女の耳の奥でこだましていた。
「あなたは変わってしまった…もう、あの大師兄じゃない…」
葉嬌は唇を噛みしめ、目になみだがあふれた。これは彼女が初めて流すなみだだったが、こんなに弱々しい自分をこれまでにないほど憎んだ。
彼女は必死に顔をこすった。まるで人皮の衣をはぎ取るかのように。しかし皮膚はぴったりと肉に貼りつき、指先の下からはかすかな熱が脈打ち、まるで生命がその存在を宣言しているかのようだった。
「師妹……きっと助けてみせる……必ずだ……」
彼女はかすれた声でささやき、声のなかには少女の柔らかさと、言葉にできない決意が入り混じっていた。
窓の外では空が少しずつ白み始め、朝の光が紙障子を透かして部屋のなかを淡い影で満たしていた。葉嬌は寝台から降り、鏡台へ歩み寄った。
銅鏡のなかの顔は、やはりあでやかで愛らしい。しかしよく見ると、眉をひそめたようすに、かすかな鋭さが宿っているのがわかる。それは彼女の内面の最後の拠りどころだった。
彼女は鏡のなかの自分を見つめ、湘錦の優しげな笑顔と、あの紫衣の女の冷たい視線を思い出し、あの黒衣の老婆の不気味な手つきを思い出した。
湘錦への信頼は、この夜のうちに、音もなくひび割れ始めていた。
しかし彼女はまだその顔を取り繕うしかなかった。なぜなら、今はまだ力が足りず、機も熟していない。この偽りの日常のなかで、彼女は女としての生き方を学びつつ、忍び、次の一手を待たなければならない。
葉嬌は深く息を吸い込み、髪を結い上げ、浮かべるべき笑みを浮かべた。
扉の外から聞き慣れた足音が響いた。湘錦が来たのだ。
新たな一日が、再び始まろうとしていた。