異国の恋:厳喆珂の陥落

站点:NovelAI.one内容:前8章在线试读ID:9e8e1c66更新:2026-07-26 02:34
松城空港の出発ロビーは、八月の強い日差しを遮るガラス越しの柔らかな光に満ちていた。大きなスーツケースを引きながら、姚雨はほんの一瞬、目眩のような感覚にとらわれる。つい先ほどまで自分は別の世界にいたはずなのに、今はここに立っている。脳裏に流れ込む記憶が告げていた。ここは武道が人々の生活に深く根付いた異世界であり、自分は「
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空港での初めての出会い

松城空港の出発ロビーは、八月の強い日差しを遮るガラス越しの柔らかな光に満ちていた。大きなスーツケースを引きながら、姚雨はほんの一瞬、目眩のような感覚にとらわれる。つい先ほどまで自分は別の世界にいたはずなのに、今はここに立っている。脳裏に流れ込む記憶が告げていた。ここは武道が人々の生活に深く根付いた異世界であり、自分は「姚雨」という二十歳の天才武術家として新たな生を受けたのだと。そして今日、八月一日、彼はコーンウェル大学への留学のため、同じく留学生となる厳喆珂とともに旅立つことになっている。

スマートフォンの中で見た彼女の写真は確かに美しかった。しかし実物はどれほどのものか。そんなことを考えながら、彼は待ち合わせ場所へと歩を進めた。

「姚雨くん、こっち、こっち!」

澄んだ鈴のような声が聞こえ、姚雨は顔を上げる。そこに立っていた女性を見た瞬間、彼の時が止まった。

白いリブニットのタンクトップに、腰位置の高い細身のジーンズ。たったそれだけの装いなのに、彼女のすべてが完璧に映えている。百六十八センチという程よい身長から伸びる脚は信じられないほど長く、引き締まった太ももとふくらはぎの曲線が歩くたびにしなやかに動く。ジーンズのポケットがあしらわれた臀部は驚くほど形が良く、張りがあって、丸くて、それでいて柔らかそうな弾力を秘めている。胸元は慎ましくも確かな膨らみを見せ、白く透き通るようなデコルテの肌が夏の光を吸い込んでは輝いている。顔立ちは精巧な人形のようで、大きな瞳は濡れた黒曜石、長いまつ毛が影を落とし、小さな唇は桜の花びら色。秀山の至宝と呼ばれるのも当然だ、と彼は思った。

そして彼女の隣に立つ男。百八十センチ近い長身だが、どことなく肩をすぼめている。顔立ちは悪くないのに、眉間にうっすらと不安の影を浮かべた青年――これが彼氏の楼成か。

姚雨は心臓をがっちりと掴まれたような衝撃を覚えると同時に、研ぎ澄まされた観察眼がある事実を拾い上げた。厳喆珂の目の端に漂う、かすかな潤み。口元によぎる、無意識のうちの物足りなさ。歩く時の腰の揺れに混じる、ほんの僅かな焦れったさ。これは――欲求不満のサインだ。それもごく最近、初めて身体を開いたばかりの女だけが滲ませる、満たされきっていない渇き。

彼はすぐさま表情を整え、爽やかで親しみやすい笑みを浮かべる。

「厳さん、はじめまして。姚雨です。本日はお会いできて光栄です。これからどうぞよろしくお願いします」

あえて丁寧に、紳士的な物腰で頭を下げた。彼の百八十八センチの長身が折り目正しく礼をする姿は、それだけで周囲の視線を集めた。

厳喆珂は一瞬息を呑み、まじまじと彼を見つめた。なんて整った顔立ちなんだろう。肩幅は広く、胸板は厚く、それでいてウエストは引き締まり、長い脚がスラリと伸びている。顔は彫りの深い美丈夫で、瞳は星を散りばめたように輝き、笑みを浮かべた口元は驚くほど優しい印象を与える。格上のはずの職業九品武術家なのに、こんなに腰が低いんだ。

「こ、こちらこそ、はじめまして。あ、紹介しますね。彼が私の彼氏の楼成です」

彼女は少し慌てて隣の青年を手で示した。

楼成は精一杯の笑顔を作って一歩前に出た。

「姚雨さん、お噂はかねがね。喆珂とルームシェアをすると聞いて、正直ちょっとびっくりしましたけど……でも、あなたのようなしっかりした方で安心しました」

「ご心配はごもっともです」姚雨は誠実そのものの表情で楼成の目を見つめた。「ですが、私はただ厳さんの留学生活をサポートするために派遣されたに過ぎません。どうかご安心ください」

その言葉の裏で、彼は冷ややかに楼成を値踏みしていた。これが彼女を満たせていない男か。職業六品程度の武術家で、性格は悪くないが自信に欠け、何よりこの期に及んで恋人のルームシェアを渋々受け入れるしかない優柔不断さ。隙だらけじゃないか。だが、焦る必要はない。時間と優しさで、じわじわとこの関係を内部から蝕んでいけばいい。

厳喆珂は楼成の肘をつついた。

「大丈夫だってば。姚雨くん、すごくいい人みたいじゃない? ね、姚雨くん、留学中はお互い助け合おうね。あ、そうだ、私のことは喆珂でいいから。姚雨くんのことも、雨くんって呼んでもいい?」

彼女がそう言って少し首を傾げた仕草に、姚雨は年齢相応の無邪気な可愛らしさを見出した。呼び名を許されるということは、少なくとも心の距離はぐっと近づいた証拠だ。

「もちろん。ありがとう、喆珂。じゃあ俺のことは好きに呼んでくれていいよ。俺も喆珂って呼ばせてもらうね」

「うん!」

喆珂の顔にぱっと笑みが広がる。楼成はそのやりとりを少し複雑な表情で見守っていたが、口を挟むことはしなかった。

三人はしばらく搭乗口近くのベンチに腰掛け、とりとめのない会話を交わした。留学先の話、武道の話、互いの出身地の話。姚雨は話の合間にさりげなく喆珂の横顔を盗み見た。彼女が笑うたび、薄いニット越しに胸の膨らみが小さく揺れる。首筋から胸元へと続く曲線は白くきめ細かく、ほんのりと汗ばんで夏の光を受けて輝いている。視線を落とせば、ジーンズに包まれた太ももの付け根、そしてさらにもう少し視線を這わせれば、彼女の最も秘められた場所――これほど近くに座りながら、彼は既に彼女のすべてを想像の中で暴き始めていた。

と、その時だった。喆珂が何気なく動かした視線が、姚雨の脚の付け根のあたりで不意に止まった。

彼はごく自然に脚を組んだ姿勢をとっていたが、夏用の薄いグレーのスラックスには、確かに異様なまでの盛り上がりが生じていた。それはまだ完全にリラックスした状態でこれだ。まるで大蛇がとぐろを巻いて眠っているかのような質量感。目を凝らせば、その先端らしき丸みまでがうっすらと浮かび上がっている。

喆珂の頬が一瞬でボッと赤く染まった。彼女は慌てて視線を逸らし、心臓が早鐘を打つのを必死で抑えようとしたが、耳の裏まで熱くなるのを止められない。何あれ……信じられない。成の、あんな小さいのとは全然違う……。頭を振って邪念を追い払おうとしたが、一度知ってしまった衝撃は簡単には消えない。彼女は自分でも気づかないうちに、スカートの裾をぎゅっと握りしめていた。

「ちょっと、トイレ行ってくる」

楼成が立ち上がったのに合わせ、姚雨も自然に腰を浮かせる。

「俺も行くよ」

二人は連れ立って空港のトイレへと向かった。清潔に保たれた男子トイレは、淡い色のタイルと間接照明が落ち着いた空間を作っている。小便器が並ぶエリアに立ち、二人はほぼ同時にジッパーを下ろした。

楼成は用を足しながら、隣の男の気配に無意識に視線を走らせた。そして、彼の手は硬直した。

姚雨はまるでそれが当然であるかのように、ゆったりとした動作で自身のものを取り出していた。まだ完全に勃起してはいない。それなのに、その長さは優に二十センチを超え、太さは成人男性の手首ほどもある。血管が幾筋も浮き上がった竿は凶器のように逞しく、雁首はまるで子供の拳大の大きさで、存在感がありすぎる。こんなものを毎日パンツにしまっているのかと思うと、それだけで畏怖の念すら湧いてくる。

一方、自分のはどうだ。楼成はちっぽけな己の分身に目を落とした。精一杯大きく見せようとしても、せいぜい十センチ。太さも色も、隣の怪物とは比べるべくもない。彼女はこれでよかったのだろうか。一度しかまだ結ばれていないけれど、もしも彼女がもっと大きなものを知ってしまったら――。

胸の奥で、どす黒い劣等感が鎌首をもたげた。

こんな男が、喆珂とひとつ屋根の下に住む。朝も夜も、同じリビングでくつろぎ、同じキッチンを使い、もしかしたら寝間着姿を見ることもあるかもしれない。そして、何かの拍子に、もし彼女がこの巨大なものを見てしまったら……。

「……すごい体格してるんだな、姚雨は」

楼成は平静を装ったが、声の震えは隠せない。

姚雨はちらりと楼成を見下ろし、唇の端をほんの少しだけ吊り上げた。

「ああ、生まれつきなんだ。気にしないでくれ」

そう言って何事もなかったかのように、その凶器をパンツにしまい込む。彼は楼成の動揺をじっくりと味わっていた。この男は今日から、疑心暗鬼と自信喪失に苛まれ続けるだろう。自分と彼女の距離が遠ければ遠いほど、その猜疑心は膨れ上がる。あとはゆっくりと、その隙間に入り込んでいけばいいだけだ。

手を洗い、鏡の前で互いの顔を見合わせる。楼成の目には既に、不安という名の暗雲が立ち込め始めていた。だが彼はそれを口に出す術を持たず、ただ唇を噛みしめるだけだった。全国大学生武道大会のトレーニングが忙しく、時差と距離のために連絡もままならない。自分にはどうすることもできないという無力感が、彼の心をじわじわと締め付ける。

ロビーに戻ると、すぐに搭乗案内のアナウンスが流れた。いよいよ出発の時だ。

「成……」

喆珂は楼成の胸に飛び込むようにして抱きついた。細い腕が彼の背中に回り、髪の甘い香りがふわりと漂う。楼成も強く抱きしめ返したが、その胸の内では、彼女の温もりが何か得体の知れない力によって遠くへと引き離されていくような、そんな喪失感が渦巻いていた。

「気をつけてな。向こうについたらすぐ連絡して」

「うん。成も、トレーニング頑張ってね。私もちゃんと勉強と修行、両立させるから」

「ああ。俺も……もっと強くなるから」

二人の短い抱擁と別れの言葉を、姚雨は少し離れた場所から穏やかな微笑みを浮かべて見守っていた。異国恋愛など、所詮は隙間だらけの砂上の楼閣だ。時差、距離、不安、そして何よりこの男の器の小ささ。すべてが自分の追い風になる。焦る必要はまったくない。優しさで彼女の心の壁を一枚一枚溶かし、やがてはこの身体で彼女の奥深くを余すところなく満たしてやる。そうすれば彼女は、いつか必ず自らこの腕の中に落ちてくる。

彼は視線を窓の外へと移した。滑走路には銀翼の機体が陽光を反射して輝いている。あの機内からが、彼女との本当の始まりだ。

搭乗が始まり、三人は最後の別れを交わした。楼成は二人の後ろ姿が見えなくなるまで、ロビーに立ち尽くしていた。彼の拳は固く握りしめられ、爪が手のひらに食い込む。

搭乗橋を歩きながら、喆珂は無意識のうちに隣を歩く姚雨の横顔を見上げていた。背が高く、頼もしい肩幅、端正な横顔、そして――あの巨大な――。

彼女の心臓がまた、ドキリと跳ねる。

これはただのルームメイト。彼はただの優しいルームメイト。そう自分に言い聞かせながら、しかし彼女の身体の奥では、楼成によって開かれたばかりの欲望という名の蕾が、まだ見ぬ圧倒的な質量を求めてかすかに疼き始めているのを、彼女は確かに感じていた。

異国の新居

海外の空港に降り立った時、厳喆珂はまだ少し現実感がなかった。長いフライトで体は重く、時差のせいで頭がぼんやりしている。それでも、隣を歩く姚雨の落ち着き払った横顔を見ると、不思議と心が安定するのを感じた。

「大丈夫?疲れたでしょう。まず家に着いて休もう」

彼はトランクを二つとも軽々と押しながら、目尻で厳喆珂を見つめている。その声は低くて優しく、長旅の疲れをそっと拭い去るかのようだ。

「うん、大丈夫。ちょっと眠いだけ」

厳喆珂は小さくあくびをした。空港の外に出ると、少し冷たい風が頬を撫で、ようやく目が覚めてきた。

姚雨はすでに車を手配してあった。黒塗りのビジネスカーは静かに道路を滑り、窓の外には見知らぬ街並みが流れていく。彼女はぼんやりと外を眺め、この先の留学生活に期待と少しの不安を感じていた。

「着いたよ、ここがこれからの家だ」

車が止まり、姚雨が先にドアを開けて彼女を促す。厳喆珂が見上げると、目の前にはスタイリッシュな外観の高層アパートがそびえ立っている。エントランスからして高級感が漂い、白い大理石の床は照明を映して品の良い輝きを放っていた。

エレベーターで最上階に上がると、ドアを開けた瞬間、厳喆珂は思わず声を上げた。

「わあ…、こんなに広いの?」

部屋は彼女の想像をはるかに超えていた。明るく開放的な2LDKで、リビングの大きな窓からは街全体が見渡せる。内装はモダンなミニマリズムで統一されており、トーンの低い家具が上質な雰囲気を醸し出している。

「気に入ってくれた?二人で住むには、やっぱり少しはゆとりがなきゃね」

姚雨はさりげなく言い、トランクを隅に寄せて、窓を少し開けた。新鮮な空気が流れ込む。

厳喆珂はうっとりしながら部屋を見て回る。リビング、二つの個室、キッチン…どれも清潔で整理整頓されている。そしてバスルームとトイレは共有だった。彼女の視線がそちらに向いた瞬間、心臓がほんの少し跳ねた。分かってはいたことだ。ルームシェアなのだから、生活空間を共有するのは当たり前。でも、目の前のこの男が、これから毎日、彼女の生活のすぐそばにいるのだと思うと、説明しがたい微妙な感情が湧き上がってきた。

「トイレ、とても綺麗にしてあるね。床もピカピカで」

彼女は体裁を取り繕うように言った。

「うん、大家が新しいのに変えたらしい。モップも掃除道具もちゃんと用意してあるから、これからは清潔に保とう」

姚雨はバスルームのドアを軽く叩きながら振り返る。その目は温かく、少しからかうような色が浮かんでいる。

「荷物は後で片付ければいいよ。お腹すいたでしょ?何か作ろうか」

「え?姚雨、まさか料理できるの?」

厳喆珂は驚いた顔で彼を見て、やがてパッと笑った。「これは楽しみだね。じゃあ今日からあなたのことを『姚シェフ』って呼ばなきゃ」

「姚シェフか…寛大にその称号を受け入れよう」

姚雨は真面目な顔でうなずき、目には笑みをたたえている。「でも、その代わり、これからはもっと直接『喆珂』って呼ぶよ。ルームメイト同士で他人行儀だとやりにくいからね」

「喆珂」という二文字が彼の唇から滑り出た瞬間、彼女の耳の根が少し熱くなった。

「まあ…いいよ。別に構わないし」

「じゃあ決まりだ」姚雨は満足げに口元をほころばせ、冷蔵庫に向かって歩き出す。彼の後ろ姿は高くて真っ直ぐで、肩幅が広く、キッチンの入口に立つとほとんど枠を塞いでしまいそうだった。

「姚シェフ、しっかり美味しいものを作ってね。私をお腹いっぱいにしてくれないと」

厳喆珂はリビングのソファにどさりと座り、足を組み、笑いながら彼をからかった。

「任せて。ただ、私の腕前はちょっと刺激的かもしれないから、心の準備をしてて」

姚雨は振り向かずにエプロンを手に取り、手慣れた様子で腰に巻いた。冷蔵庫を開けると、あらかじめ買い置きしてあった様々な食材が整然と並んでいる。彼がこれを手配したのだ。彼女の好みさえも事前に聞いていたのだろうか。厳喆珂はふと、そんなことが頭をよぎった。

台所からは瞬く間に、野菜を刻む軽やかな音が聞こえ始める。コトコト、リズミカルで、まるで彼の性格そのもののようだ。細やかで、せっかちではない。陽光が窓から差し込み、彼の体に金色の輪郭を描き、小麦色の肌の輪郭をより一層際立たせる。厳喆珂はこっそり目を向け、またすぐに視線を外した。こんなシーンに、説明できない胸の高まりを感じたからだ。

気を紛らわせようと、彼女は適当な話を探した。

「そういえば、この街は初めてだけど、近くに道場とかあるのかな。練習は続けたいんだよね」

「調べてあるよ。アパートの隣のブロックに設備の整った武道場がある。授業が始まったら一緒に行こうか」

姚雨が手を動かしながら答える。

「喆珂は…職業九品なんだよね。強いんだ」

「まあまあかな。あなたこそ、とっても強そうに見えるけど」

厳喆珂は抱き枕を抱えしめ、首をかしげて彼を見つめた。姚雨という人は全身に神秘のヴェールを纏っているようで、人には容易に見抜かれない。

「どうして急に海外に留学したいと思ったの?」

姚雨の手の動きが少しだけ止まり、低い笑い声を漏らした。

「運命だよ」

「運命?」

「うん、もしかしたら…運命の人のためかな」

彼はそう言いながら振り返らず、餡を炒める動作を続けている。でもその声にははっきりと、微妙に熱を含んだ何かが込められていた。

厳喆珂の心臓がまた跳ねた。慌てて枕をぎゅっと抱きしめ直し、話題をそらす。

「あ、そうだ…最近、楼成と連絡取ってる?彼、今、全国大会に向けて合宿練習で忙しそうで」

「うん…時々ね」

彼女の声が少し曇った。楼成の名前を口にすると、目の前にこの男の顔がちらつくのはなぜだろう。一ヶ月前、彼女は楼成に最初の純潔を捧げた。彼は良くしてくれる。だけど…。

「でも時差があるから、いつも時間が合わなくて。それに彼は練習が大変で、帰りが遅い」

彼女はうつむいて言った。声には、自分でも気づかないほどの無力感が滲んでいた。

姚雨はついに振り返って、深い目で穏やかに彼女を見つめた。

「離れているのは確かに辛いことだよね。でも心配しないで、これからの時間、私はずっとここにいるから。何かあったら、ちゃんと一番に来るよ」

何気なく紡がれた言葉が、心の最も柔らかいところに触れた。彼女は自分が、留学生活に対する不安や混乱の中で、目の前のこの男の存在に無意識のうちに頼り始めていることに気づき始めていた。

「姚雨…」

「うん?」

「いや…なんでもない。料理、まだかなー?」彼女は慌てて明るい調子に戻し、笑顔を作った。

「もうすぐだよ。食いしん坊だね」

彼もまたあっさりと笑い、これ以上追求しなかった。

この後、二人の会話は未来の留学生活へと移っていった。履修登録の話や、新しい環境の話題など、あっけないほど日常的な内容だ。しかし窓の外の日が傾くにつれ、その何気ない会話の中に、実はもう多くのことが変わり始めている。

一週間が瞬く間に過ぎた。

留学生活は思いのほか順調だったが、楼成との連絡だけは、目に見えて減っていった。時には彼女が送ったメッセージに何時間も返信がないことがあり、やっと返ってきたと思えばあっさりした数文字で、「疲れた、先に休むね、君も早く寝て」とだけ。

そしてその分を埋めるように、彼女の生活のあらゆる細部にまで、姚雨は静かに入り込んでいた。朝には温かい朝食を用意してくれ、夜遅くまで勉強していれば、そっとコップ一杯のホットミルクを置いてくれる。彼女が練習でうまくいかないと、何も言わずに防具を着けて相手を務め、露わになった欠点を指摘してくれた。彼の気遣いはあまりにも自然で、圧迫感をまったく与えず、最も孤独だった時に、一番求めていた優しさで彼女を包み込んだ。

ある日の午後、またそんな時間が流れた。

キッチンでは姚雨が手際よく食材を処理している。鍋の中で油の跳ねる音が、食欲をそそる香りと混じり合って、家全体に満ちていた。彼は料理に集中しているようでいて、時折視線をリビングに向ける。

厳喆珂はソファにだらりと凭れかかり、手には専門書を持っている。しかしその視線は行と行の間を何度もさまよっていて、いつの間にかキッチンへと向かってしまっていた。目が合うたびに、彼女はまるで盗み見を見つかったかのように慌ててうつむく。だけど、ハートの奥底に湧き起こるのは、甘やかで危険な小さな愉悦だった。

彼女は気づき始めている。この男の視線の先には、彼女を覆い包もうとするような熱があることを。そして、自分がその熱を拒んではいないということも。

スマホの画面が突然光った。楼成からのメッセージだ。「今日のトレーニング、すごくきつかった。君はどう?ご飯食べた?」

彼女はその言葉を見つめ、返信画面を開き、しばらく迷った末に、ロック画面を閉じた。

キッチンからは、姚雨のさりげなくも優しい声が聞こえる。

「喆珂、もうすぐご飯だよ。今日はお気に入りの紅焼きスペアリブを作ったんだ。さあ、ちょっと味見してくれる?」

彼女は顔を上げ、本を閉じ、口元をほころばせた。

「来たよ、ショーシェフ」

立ち上がった瞬間、彼女の心にそっと響くため息があった。たぶん、間もなく。私は、きっともうすぐ落ちてしまうのだろう。

夏の清涼

真夏の日差しが窓から差し込んで、リビングにはエアコンの微かな風が回っていた。八月初め、外は溶けそうな暑さだが、部屋の中は比較的涼しく、厳喆珂の装いも日に日に軽やかさを増していた。

今日の彼女は、白地に小さな花柄の入ったシンプルなTシャツを着て、下にはふんわりと広がる黒の膝丈シフォンスカートを合わせていた。スカートの裾が動くたびにふわりと揺れ、その下から覗くのはすらりとした素足。足元は赤と黒のストラップつきサンダルで、指先には何も塗らず、つややかな爪が控えめに光っていた。ハイヒールは履かない。家の中では楽に過ごしたいという気持ちがはっきりと表れている。それでも下着はきちんとつけているらしく、Tシャツ越しにうっすらとブラのラインが透けて見えた。

姚雨はキッチンで冷たい麦茶をグラスに注ぎながら、視線を自然に厳喆珂の方へと流した。彼女はソファに浅く腰掛けて、スマートフォンをいじっている。Tシャツの襟ぐりから覗く鎖骨のライン、豊かな胸の膨らみ、シフォンスカートのやわらかな布が太ももに沿って落ちる様子、膝から下のすらりとした美脚、そしてサンダルからこぼれる白い素足。すべてが目に入る。

「寒くない? エアコン、もう少し弱めようか?」

声をかけると、厳喆珂は顔を上げてくすりと笑った。

「大丈夫、これくらいがちょうどいいの。姚雨くんは暑がりだよね」

彼女がそう言いながら、わずかに身じろぎするだけで、また胸のあたりがTシャツの下でやわらかく揺れる。姚雨はそれを正面から見つめてしまうが、あえて視線を外さない。むしろ、そのまま彼女全体を味わうようにゆっくりと目を這わせた。

厳喆珂は一瞬、姚雨の視線に気づいて、かすかにまつげを伏せた。しかし、咎めるような言葉はひとつも出ない。かわりに、唇の端にほんの小さな笑みを浮かべ、まるでなにも気づかなかったかのように再びスマホの画面に目を落とす。それは二人のあいだにだけ通じる、暗黙の了解だった。

麦茶のグラスを二つ持って、姚雨は彼女の隣に腰を下ろした。テーブルにグラスを置くと、厳喆珂が「ありがとう」と小さく言って、片手で髪を耳にかける。その仕草にさえ、色香が滲む。彼女はわざとゆっくりと脚を組み替えた。黒いスカートの裾がずれて、太ももの肌が少しだけ多く露わになる。肌色のストッキング越しに、きめ細かく白い素肌が透けて見えた。

「今日はほんとに暑いから、あんまり外出たくないね」

厳喆珂が言いながら、ソファの背にもたれかかり、脱いだサンダルを床に放り出すと、裸足をすり合わせるようにして足首をほぐしていた。彼女の足は指の一本一本まで形がよく、土踏まずのアーチが美しい。肉感的でありながら、どこか壊れそうな繊細さもあわせ持っている。

姚雨はその足を盗み見て、それから彼女の横顔を見つめる。厳喆珂はそっと目を閉じて、涼しい風を楽しんでいるふうだった。

「でも、ちょっとだけ買い物に行かない? 近くのショッピングモールで化粧水が切れちゃって」

彼女がそう言って、目を開けて姚雨を振り向く。

「いいよ、つきあう。暑いけど、一緒なら楽しいし」

姚雨が微笑むと、厳喆珂も嬉しそうにうなずいた。

彼女は立ち上がり、裸足のまま玄関へ歩いていこうとした。サンダルを履き忘れた、というより、わざとそうしているように見える。白い足の裏がフローリングにぺたぺたと触れる音が、妙に艶めかしい。姚雨はその背中を見つめながら、スカートの上からでもわかるヒップのふくよかな曲線に視線を這わせた。

「あ、サンダル」

彼女はわざとらしく振り返り、いたずらっぽく笑ってから、ゆっくりとかがんで赤と黒のサンダルに足を通した。その一瞬の姿勢で、胸元がさらに強調され、姚雨は思わず息を呑む。彼女はそれを楽しんでいるのだ、と姚雨は確信していた。

二人は並んでアパートを出た。外の熱気が肌にまとわりつく。厳喆珂は歩きながら、ときどき姚雨に甘えるように近づき、彼の腕にそっと自分の肩を触れさせる。ショッピングモールまでは十分ほどの距離だったが、彼女のペースは遅く、まるでこの時間を引き延ばしたいかのようだった。

店内に入り、目的の化粧水を買ったあと、彼女はあちこちの店を冷やかして歩いた。姚雨は荷物を持ち、彼女のすぐ後ろを歩きながら、彼女が服を手に取るたびに「似合うんじゃない?」などと声をかける。その少し後ろからの視線は、自然と彼女の背中から腰、そしてスカートの下の脚へと注がれる。ショッピングモールの鏡に映る彼女の姿を見て、彼はにっこりと目を細めた。

「ちょっと疲れちゃった」

ひと通り見終えたあと、厳喆珂はそう言って、わざとらしく足をかばうように立ち止まった。

「おんぶする?」

姚雨がからかうように言うと、彼女は目を輝かせてうなずいた。

「ほんと? いいの? じゃあ、お願いしちゃおうかな」

姚雨はその場にしゃがみ、厳喆珂は嬉しそうに背後から彼の首に腕をまわした。彼が立ち上がると、彼女のふくよかな胸が背中にぴったりと押しつけられ、やわらかな感触が布越しにもはっきりと伝わってくる。彼女の心臓の鼓動さえ感じられるような密着感だった。

姚雨は自然な動作で、彼女の太ももの裏に手を回し、しっかりと支えた。指先がシフォンスカートの布地を押して、その下の張りのある肉に触れる。厳喆珂は恥ずかしそうに小さく笑い、耳元で「重くない?」とささやいた。

「ぜんぜん。むしろ軽すぎるくらいだ」

姚雨がそう言うと、彼女は彼の首にまわした腕にぎゅっと力をこめた。そのまま、ゆっくり歩き出す。背中に感じる彼女の体温、胸のふくらみ、そして手のひらの下にあるしなやかなヒップの感触。すべてが甘い毒のように彼の全身にまわっていく。

家までの帰り道、彼女は何度も彼の耳元でくすくす笑い、息がかかるたびに姚雨の肌がざらついた。アパートのエレベーターの中でも、彼女は降りようとせず、まるでこの時間を永遠に続けたいかのように彼の背中に顔をうずめた。

部屋に着き、姚雨は彼女をそっとソファにおろした。厳喆珂は「ふう」と息をつき、それから当たり前のように姚雨のすぐ隣に座りなおし、彼の太ももの上にすらりとした美脚を投げ出した。黒のスカートが乱れて、太もものつけ根近くまで露わになる。肌色のストッキングが照明を反射して、ぬめるような光沢を放っている。

「足がすごく疲れちゃった。ねえ、マッサージしてくれない?」

彼女が甘えるように上目遣いで見上げる。その声には甘ったるい響きが混じっていて、拒否する余地はまったくなかった。

「もちろん。任せて」

姚雨はうなずき、その両脚をそっと持ち上げて自分の膝の上にのせなおす。まずは足首から。彼の大きく温かい手が、彼女のほっそりとした足首を包み込む。親指でくるぶしのまわりを丁寧にほぐすように押しながら、ゆっくりとふくらはぎへと移動していく。ストッキング越しの肌はつるつるとしていて、指が滑るたびにささやかな快感が走る。

「痛くない?」

「ううん、気持ちいい……」

厳喆珂は目を閉じて、うっとりとした声を漏らした。

姚雨はさらに手を進める。ふくらはぎの筋肉をほぐすふりをして、実際にはその形を楽しむように指全体でなぞっていく。彼女の脚は細いのに、触れるとほどよく弾力があり、最高の手触りだった。膝の裏に指が触れると、彼女はくすぐったそうに身をよじったが、脚を引っ込めはしなかった。

「本当に綺麗な脚だ……」

姚雨が思わず声に出すと、厳喆珂は薄く目を開けて彼を見つめた。

「そう?」

「ああ。今まで見た中で、いちばん美しいよ」

彼はそう言いながら、太もものほうへと手を移動させる。ストッキングの上から、ふっくらとした太ももの外側をゆっくりと揉みほぐすように動かし、ときおり内側へと指を滑らせる。彼女の肌は熱を持ち始め、呼吸がわずかに乱れているのが手に取るように分かった。

「ね、姚雨くん……」

彼女が小さく呼びかけ、それ以上は何も言わずに、再び目を閉じた。その声はかすかに震え、期待と緊張が入り混じっているようだった。

姚雨は手を止めずに、まるで壊れものを扱うかのような優しさで、彼女の脚全体を撫で回し続けた。彼の親指が太もものつけ根、スカートの端の際どい場所をかすめると、彼女の脚がぴくりと跳ねる。しかし、それでも彼女は彼の手を拒否しない。

エアコンの風が静かに二人を包み、外の暑さとは無縁の、甘くて湿った空気がリビングに満ちていた。

初めての足への口づけ

部屋の中には、かすかなラベンダーの香りが漂っていた。これは厳喆珂がアロマセラピー用に買ってきたもので、彼女はベッドの端に座り、だらりと足を伸ばしていた。カーテンの隙間から差し込む午後の陽射しが、彼女のふくらはぎに筋のように降り注ぎ、もともと白くきめ細やかな肌をさらに透明感のあるものにしていた。彼女はうつむいてスマホをいじっていたが、その手つきはそぞろで、視線も定まっていない。ついさっき姚雨に投げかけた質問が、まだ頭の中でぐるぐると回っていたのだ。

「一番きれいな足?」厳喆珂は口元をほころばせ、わざと嘲笑を浮かべながら顔を上げた。「姚雨、君はいつもそんな口車で女の子を口説いているの?」

姚雨は彼女の真正面に立ち、背の高い体が床に長い影を落としていた。彼は彼女の足をじっと見つめ、その目はあまりにも真剣で、まるで世にも珍しい宝物を見つめているかのようだった。

「口車だと思う?」彼の声は低くかすれていて、笑っているようでもあり、笑っていないようでもある。「じゃあ、今ここで証明してあげるよ。」

厳喆珂はスマホを置き、警戒した目つきで彼を見つめた。まだ何が起こったのか理解できないうちに、姚雨はすでに片膝をつき、その姿勢は自然で、まるで彼女に忠誠を誓う騎士のようだった。彼女の心臓は大きく跳ね上がり、口を開けて彼を止めようとしたが、その前に彼がすでに彼女の右足首をそっと握っていた。

彼の指は熱く、彼女の白く繊細なふくらはぎの肌に触れると、静電気のような感覚が走った。厳喆珂は無意識に足を引こうとしたが、彼はごく軽くしか握っていなかったのに、まるで万力でガッチリと固定されたかのようにまったく動けなかった。

「何をするつもり――」

話し終わらないうちに、姚雨はすでにうつむいて、彼女の足首の内側にそっと口づけた。その口づけは羽根のように柔らかく、触れたのはほんの一瞬だったが、厳喆珂は電撃に打たれたように息をのんだ。顔が一気に赤くなり、リンゴのように真っ赤に染まった。

「あなた――」

姚雨は手を緩めず、親指でくるぶしの骨をそっとなでた。その指の腹にはうっすらと武道家らしい硬いタコができていたが、些細なことにも気を配る優しさも持ち合わせていた。彼は彼女のくるぶしからふくらはぎの滑らかなラインに沿って口づけをしながら、低く甘い声でささやいた。

「靴や靴下に擦られて、ここはちょっと貧血気味だね。ちゃんと手入れしないと。」

厳喆珂はもうまともに息ができなかった。彼の唇が足の甲の血管に触れるたびに、彼女のつま先は無意識に丸まり、淡いピンク色の爪がシーツにぎゅっと押し付けられた。彼のキスの仕方があまりにも丁寧で、あまりにも真剣で、まるで何か神聖な儀式を執り行っているかのようだった。これは完全に彼女の想像を超えていた――ついさっきまで彼が「一番きれいな足」と言っていたのを、彼女はてっきり社交辞令だと思っていたのに、まさか本気で、こんなふうに自分の手で証明するとは思いもしなかった。

彼の唇はさらに下へと移動し、つま先に触れた。厳喆珂は声を詰まらせて小さく叫び、足を引っ込めようとしたが、彼はとっくの昔に彼女の反応を予測していたかのように、片手で彼女の足の裏をしっかりと支え、もう片方の手でそっと彼女の足の指を包み込んだ。

「動かないで、まだ終わってないよ」と彼は言った。その声にはほとんど命令口調のような響きがあったが、限りない優しさが込められていて、拒むことができなかった。

彼はそのまま彼女の人差し指にキスをした。その動きはあまりにも自然で、あまりにも当然のことのように見えたため、厳喆珂は頭がくらくらした。胸の鼓動があまりにも激しくて、心臓が喉から飛び出しそうだった。心の奥底では喜びでいっぱいだった――こんなにも自分を大切に扱ってくれる男性がいることが――それでも外面では、彼女は口を固く結び、眉毛を逆立て、怒ったふりをしなければならなかった。

「姚雨!」彼女はようやく息を整え、怒っているふりを鋭くした。「ふざけるのも大概にしなさい!誰があなたに、こんな失礼なことをしていいって言ったのよ!」

彼女は勢いよく足を引っ込めた。今度こそ彼は力を緩め、足の裏を離したが、その顔には人を無力にさせる笑みが浮かんでいた。彼は悠然と立ち上がり、手のひらについた彼女の肌の感触を名残惜しむかのように、手のひらを拭く仕草をした。

「証明はもう終わった。君が受け入れないなら、仕方ないけど」彼は肩をすくめ、その瞳は深く沈んで、彼女を見つめた。「でも、君の怒った顔は、思ったよりずっとかわいいね。」

「口がうまい!」厳喆珂は枕を掴んで彼に投げつけた。彼は器用に避け、手を挙げて降参のポーズをした。「わかったわかった、もう言わないよ。でもね、俺の言ってることが正しいかどうかは君自身が一番よく分かってるはずだ。」

厳喆珂は背を向けて彼に背を向けたが、耳の後ろの赤みはまだ完全には引いていなかった。彼女は足の甲がまだ熱を帯びているのを感じた。それは彼の唇が残した温度だった。彼女は乱れた髪を直すふりをして、めちゃくちゃに跳ね回る心臓を必死に落ち着かせようとした。

部屋の中の空気が甘ったるくて、なんだか気まずい雰囲気になりかけたその時、姚雨が口を開いた。

「ねえ、提案があるんだけど。」

厳喆珂は警戒しながら振り返った。「何?」

「これから毎日、足のマッサージをさせてくれない?」彼の声は穏やかで、まるで今日は天気がいいですねと言うかのように自然だった。「武道家は足が一番負担がかかるから、ちゃんとメンテナンスしないと、放っておくと疲労骨折しやすくなるんだ。俺、松江の道場で特別にトレーニングを受けてきたから、プロ並みだよ。」

厳喆珂は唇を噛みながら彼を見つめた。彼女はこれが「マッサージ」などという単純なものではないことをよく知っていた。しかし、彼の目はあまりに澄んでいて、そこには露骨な下心など微塵も感じられなかった。まるで、心の底から彼女の疲れを取ってあげたいと願っているかのようだった。

「……まあいいわ」彼女は小声で言い、すぐに負け惜しみをつけ加えた。「でも、もし痛くしたら、ただじゃおかないからね。」

姚雨は口元に笑みを浮かべた。その笑顔はいつもの軽やかさではなく、願いが叶った心からの満足感に満ちていた。「安心して、君を泣かせたりしないよ。」

夜になって、二人はソファに座ってテレビを見ていた。画面の中ではつまらないバラエティ番組が流れていて、音も画像もただの背景に過ぎなかった。厳喆珂はソファの端にだらりと横たわり、両足を何のためらいもなく姚雨の方に伸ばした。つま先には淡いピンクのマニキュアが塗られていて、照明の下でキラキラと輝いていた。

姚雨は番組の見どころを分析しているふりをして、芸能人のゴシップに真剣に批評を加えていた。厳喆珂はうんうんと上の空で聞き流しながら、足先をゆっくりと彼の腿の方へ動かした。その動きはあまりにも自然で、まるで長い間に染みついた習慣のようだった。

彼女のつま先が姚雨の太ももの付け根に触れた。ほんの少し触れただけですぐに離れた。その触れ方は不注意を装っていて、彼女は視線をじっとテレビ画面に固定し、眉ひとつ動かさなかった。

姚雨の体は一瞬で硬直し、腹筋が無意識に引き締まった。彼は目を伏せて彼女のあどけない横顔をちらりと見たが、彼女の表情は画面の中のバラエティの笑いどころを鑑賞しているかのように平然としていて、足元ではひそかにたおやかに驚くような仕草をしていた。彼はすぐに視線を引き戻し、なおもさっきの話を続けたが、声の響きはすでに心ここにあらずで、喉の奥にかすかな詰まりがあった。

「……だから、あの司会者は本当に司会ができないんだよな」彼はなんとかその話題を続けた。テーブルの下では手のひらにじっとりと汗をかいていたが、決して手を出して彼女のいたずらな足首を掴もうとはしなかった。

厳喆珂は足を引っ込めず、つま先で再び彼の腿の内側をそっとこすった。今度はさっきよりもずっと長い時間だった。彼女の心臓もバクバクと激しく鼓動していたが、それ以上に彼をからかうことの楽しさを味わっていて、普段は何事にも動じないこの男が自制心を失い、焦る様子を見たかったのだ。

しかし姚雨はついに一切動かず、ただ呼吸だけが目に見えて重くなっていった。彼は右手の拳をぎゅっと握りしめ、指の関節が白くなっていた。それでも声は限りなく落ち着いていて、「そのあと、あの俳優は現場で怒っちゃってさ……」と語り続けた。

厳喆珂はようやく足を引っ込め、口元にちょっとした悪戯が成功した時のような得意げな笑みを浮かべた。彼女はソファの上のクッションを抱え、もぞもぞと座り直し、突然、あまり関係のない質問をした。

「ねえ、姚雨、あなたって何人彼女がいたの?」

姚雨は少し驚いて、こめかみがピクッと動いた。「どうして急にそんなこと聞くの?」

「ただの好奇心」彼女は目をぱちぱちさせ、クッションの端をもじもじといじった。「あなたみたいに口が上手くて、優しくて、マッサージまでプロ級なんだから、絶対にすごく経験豊富でしょ。」

姚雨は黙り込み、テレビのリモコンを置いた。画面の中のにぎやかな笑い声が、部屋の突然の静けさと鮮やかなコントラストをなしていた。彼は横を向いて彼女を見つめ、その目には何か別の真剣な感情がこもっていた。

「本当のことを言うとね……」

厳喆珂は知らず知らずのうちに息を詰めた。

「俺、まだ童貞なんだ。」

この言葉があまりにも直接的に響いたので、厳喆珂は一瞬言葉を失った。彼女は口をあんぐり開け、目をまん丸くして彼を見つめた。まるで彼が何かの冗談を言っているのかと疑うかのようだった。しかし彼の顔つきはあまりに誠実で、作り笑いの後でよく浮かべるような軽薄さは微塵もなかった。

「……嘘でしょ?」彼女はやっとの思いでその言葉を絞り出した。

「嘘をついてどうするんだ」姚雨は苦笑した。その笑みには自嘲のような、それでいてほっとしたような複雑な気持ちが込められていた。「実はね、俺は君のために来たんだ。松江武道館で長年修行してきた。ずっと独り身で、誰にも見向きもされなかった。やっと君に会えたんだ。何年片思いしてきたと思ってる?」

最後の言葉はごく軽く、ほとんど聞こえないほどのささやきだったが、厳喆珂の耳には一字一句はっきりと突き刺さった。彼女はぎゅっとクッションを抱きしめ、指が少し震えていた。心の奥底で大きな石が投げ込まれ、水面に一石が投じられ、四方八方に波紋が静かに広がっていった。

彼女は急に目を逸らし、テレビ画面を見つめた。バラエティ番組ではちょうど誰かがどっきりに引っかかって、周囲は爆笑の渦に包まれていた。だが彼女には何一つ笑えなかった。ただ心の中で、そのまるで子供のような純粋さと盲目的な告白を、何度も何度も噛みしめていた。一瞬、彼女はどう答えていいのか、どうやってこの突然の重みを受け止めたらいいのか、まったくわからなかった。

部屋の中はしばらく沈黙に包まれた。やがて姚雨が口を開いた。

「怖がらないでよ。俺はただ……隠し事をしたくなかっただけだから。」

厳喆珂はうつむき、長いまつげが下瞼に小さな影を落とした。彼女は唇の端を小さく動かし、何か言いたそうだったが、最終的には何も言わず、ただほとんど気づかれないほどのため息をついた。

テレビの中のお笑いはまだ続いていたが、二人の間を流れる空気はすでに元に戻れないところまで来ていた。厳喆珂は少し身じろぎし、足をソファの下にそっと引っ込め、何もなかったかのように正座した。しかし彼女の心の奥底には、すでにいくつもの小さなさざ波が立ち始めていた。その一つ一つに、姚雨の「君のために来たんだ」というあの言葉が映し出されていた。

初めての足コキ

八月下旬の夜、リビングには冷房の効いた涼しい空気が満ちていた。厳喆珂はソファにだらしなく座り、脚を組み、白くきめ細やかなふくらはぎを空中で軽く揺らしていた。彼女はスマホを手に、楼成との最後のチャットを開いたが、それはもう三時間以上も前のことで、相手はずっと忙しくトレーニングに没頭しているようだった。彼女は内心に少なからず苛立ちを覚え、唇を軽く噛み、隣で本を読んている姚雨に目をやった。

「姚雨」と彼女は突然口を開き、声には少し迷いと探るような響きが混じっていた。

姚雨は顔を上げ、優しい笑みを浮かべ、本を置いた。「どうしたの?」

厳喆珂は少し躊躇し、指が無意識にスマホの端を撫で回した。「…男の人にとって、あそこの…サイズは普通どれくらいなの?それに、普通はどのくらいもつの?一日に…何回くらいできるものなの?」

彼女の顔にほんのり赤みが差したが、それでも視線はまっすぐで、好奇心と隠しきれない満たされなさを帯びていた。彼女は口を挟んだ。「あなた、男性でしょ、きっとわかるはずよ。」

姚雨は眉をひそめ、目に一瞬軽蔑の色が走った。彼はすでに彼女が誰を指しているのか察していた。彼は背もたれに寄りかかり、わざとゆっくりとした口調で言った。「こればかりは個人差があるから一概には言えないよ。どうして急にそんなことを聞くの?まさか…何か悩みでもあるの?」

厳喆珂は唇を噛み、うつむいてしばらく沈黙した後、声を潜めて言った。「楼成…彼は10センチくらいで、一回が3分くらいなの。私…普通はどうなんだろうって気になって。」

「10センチ?3分?」姚雨は思わず軽蔑の笑みを漏らし、その目には隠しようのない優越感が浮かんだ。「それは…確かにちょっと、控えめすぎるね。彼がそれでよく君を満足できると思ってるなんて、まったく滑稽だよ。」

そう言うと、彼は突然立ち上がり、手を腰に当てた。「喆珂、普通って何かを知りたいなら、俺が教えてあげるよ。」

彼はベルトを外し、ジッパーを下ろした。黒いボクサーパンツの下から、すでに硬く張り詰めた巨根が抑えきれずに飛び出した。彼は下着をずらし、完全に勃起した肉棒を彼女の前にさらけ出した。それは太くて長く、先端はほのかな光沢を帯び、スジがくっきりと浮かび、熱く脈打っていた。

「見て、これが本物だ。20センチは優にある、完全に勃てば30センチ近くあるんだ。」彼の口調は冷たく、軽蔑の色が濃かったが、目は彼女の表情をじっと見つめていた。「しかも俺はまだ童貞だ。身を清めてきたのは、価値ある人のために取っておきたかったからだ。俺の精液も、君のためにしか流さない。」

厳喆珂の呼吸が一瞬で止まり、両目は一気に見開かれ、その巨大な肉棒に吸い寄せられたように釘付けになった。彼女の唇は微かに開き、喉が無意識に動いた。胸が激しく波打ち、息が次第に荒くなっていく。あの怒張した巨根はまるで魔力を持っているかのように彼女の視線を奪い、頭の中は空白になり、残ったのは最も原始的な欲求だけだった。彼女は足をぎゅっと閉じ、内腿が無意識にこすれ合った。

「君…」彼女の声は掠れていた。「どうして急に…」

「心配しないで、俺は君に無理強いはしない。」姚雨は姿勢を低くし、巨根をわずかに揺らすと、空気中に生々しい匂いが漂った。「俺のものを見せただけじゃ、何のルール違反にもならないだろう?それに、ただちょっと…頼みたいんだ。」

彼の声は低く響き、甘く誘惑するようだった。「ここ数日、トレーニングで疲れていたから、以前みたいに君の足でマッサージしてもらえないかな。おんぶのときみたいに。今回は、場所をちょっと変えるだけでいいんだ。」

厳喆珂の頬は燃えるように熱くなり、心臓は毛羽立った羽根でなでられているかのように、痒くて仕方なかった。彼女はそれが非常に危険な一線を越えることだとわかっていた。しかし楼成は遠く離れていて、連絡も減り、隠れた不満とこの一か月の抑えきれない欲求が、目の前の巨根と相まって理性をじわじわと崩しにかかっていた。彼女は唇を噛み、ついに蚊の羽音のような声で言った。「今回だけよ…おんぶと足マッサージのお礼だから。」

そう言って彼女は足を伸ばし、慎重にその白く繊細な足先をその巨大な肉棒に近づけた。指が触れた瞬間、彼女の全身がわずかに震え、足の甲に伝わる熱くて硬い感触は、これまで感じたことのない熱と張り詰めだった。彼女は息を深く吸い込み、ぎこちなく足を前後に動かし始め、足の裏でそっと亀頭をこすった。

「その調子だ、そう…力を少し入れて。」姚雨はソファの背にもたれ、喉を鳴らし、熱く湿った目で彼女の恥じらいと緊張が入り混じった顔を見つめていた。彼女の足の動きは未熟で不器用だったが、あの柔らかい足の裏がそっと包み込んだり、足の指が絡みついたり、時折足の甲で幹をこするたびに、彼は身がよじれるほどの快感を覚えた。

時間が一分一秒と過ぎていった。リビングにはエアコンの音と厳喆珂の乱れた呼吸だけが響き、空気はますます湿り気を帯び、匂いも濃くなっていった。彼女は徐々に夢中になり、足の動きも大胆になり、足の裏全体で太い肉棒を挟んで上下にしごき、親指でわざと張り出した筋をなぞった。彼女の両目は欲望に潤み、うっすらと汗がにじみ、胸元が激しく波打ち、下腹部が無意識にひくひくと痙攣した。

姚雨はほとんど与える側に身を任せ、荒い息を漏らし、腰をわずかに揺すって彼女の足の動きに合わせた。彼は彼女の恥部のピンク色と、太ももの内側のかすかな湿り気をはっきりと見て取ることができ、その征服欲はかつてなく膨れ上がった。

まる一時間が過ぎ、姚雨の呼吸が突然速くなり、彼は低くうめいた。「もうイきそうだ…喆珂、君にかけるよ…全部、君に…」

厳喆珂は心臓が止まりそうになり、足の動きが一瞬ぎこちなくなった。しかし彼女は足を引っ込めず、むしろ力を込めて巨根を擦り続けた。次の瞬間、熱くて臭みのある白濁した精液が噴水のように勢いよく飛び出し、彼女のふくらはぎ、太もも、下腹部、そして胸元にまで飛び散り、その量は驚くほど多かった。濃厚な匂いが一瞬にして四方に広がった。

「あっ…」厳喆珂は驚いて低く声をあげ、全身が硬直した。生臭く生々しい液体が肌の上を温かく熱く伝い、彼女の心臓は激しく胸を打った。彼女は荒く息をしながら、汚された体を見下ろし、我に返ったのか小声で罵った。「変態…大変態…」

姚雨はだらしなく笑った。体には汗が光り、満足げな顔だった。「君がその足で先に誘ってきたんだろう。」

厳喆珂は返事をせず、唇を噛みながらソファから立ち上がり、ほとんど逃げるように風呂場に駆け込んだ。浴室のドアが勢いよく閉まり、鍵の掛かる音がした。彼女は洗面台にもたれて、鏡の中の自分の姿を見つめた。髪は乱れ、肌は薄紅色に染まり、欲望に濡れて恥じらいを見せる目、そして体のあちこちに付着した濃厚な白い精液だった。

温水が勢いよく流れ出し、浴室は湯気でいっぱいになった。彼女はゆっくりと指で胸元の白濁液を拭い取ると、その生臭い匂いが鼻をかすめた。彼女は少し迷った後、こっそりとその指を唇に運び、慎重にほんの一滴を舐めとった。濃厚で、ねっとりとして、どこか生臭く…未知の、禁断の味がした。彼女は息を呑み、体の奥底から説明のつかない欲望と戦慄が沸き上がってきた。「これが…本物の男の味なの…」

彼女は慌てて指を洗い流したが、心の中の渦巻く感情を洗い流すことはできなかった。

自ら差し出す美脚

八月の下旬、松江の街は連日三十五度を超える猛暑に包まれていた。エアコンの効いた部屋の中といっても、外から帰ってくれば肌にまとわりつく熱気と汗の不快感はどうにもならない。

「ふう、ただいま」

玄関のドアを開けるなり、厳喆珂はヒールを脱ぎ捨てるようにして手に提げた買い物袋を床に置いた。細いストラップのサンダルから解放された足の裏が、ひんやりとしたフローリングに触れてほっと息をつく。

「おかえりなさい」

リビングから顔を出した姚雨の手には、いつものように氷の浮かんだ麦茶のグラスが二つ。彼のこういう気配りは、最初のうちこそ「気を遣わせて悪いな」と思っていたが、今ではすっかり日常の一部になっていた。

「今日も暑かったでしょう。足、疲れたんじゃないですか?」

それはもう、お決まりの台詞だった。ここ一週間ほど、彼女が外出から戻るたびに、姚雨は必ずそう言ってソファへと誘うのだ。

厳喆珂は少しだけ唇の端を上げて、「また?」と言いたげな表情を浮かべながらも、素直にソファの端に腰を下ろした。

今日の彼女は、膝上丈の白いフレアスカートに、シンプルな黒のカットソーを合わせている。立ちっぱなしだったせいか、ふくらはぎが少し張っている気がした。

「今日はストッキング履いてるから」

そう言って、彼女はスカートの裾をほんの少しだけ持ち上げてみせた。肌色のストッキングに包まれた膝から下が、蛍光灯の光を受けて淡く光沢を放っている。実際のところ、わざわざそうして見せる必要なんてないのだが、なんとなく、彼の視線がそこに吸い寄せられるのを見るのは悪い気がしなかった。

「じゃあ、脱いでもらわないと」

姚雨は至って真面目な顔でそう言うと、彼女の隣に座った。

「まったく、しょーがないなあ」

厳喆珂は小さくため息をついてみせながらも、腰のあたりに手をやって、するりとストッキングを下ろしていく。その仕草を、姚雨はじっと見つめていた。彼の視線が熱を帯びているのがわかる。それだけで、彼女の下腹部の奥のあたりが、きゅうっと締め付けられるような感覚を覚えた。

細くしなやかな脚が露わになる。白い肌は内側からほんのりと朱を差したように血色よく、触れれば吸い付いてきそうなほどすべらかだ。足の指は綺麗に揃っていて、ペディキュアこそしていないものの、その形の良さだけで充分に見る者の目を惹きつける。

姚雨はごくりと唾を飲み込む音を、彼女に聞かれないように細心の注意を払いながら、両手を彼女の右足に向かって伸ばした。

「じゃあ、失礼して」

彼の大きな手が、足首からふくらはぎへと這い上がっていく。最初は優しく、表面の皮膚をなぞるように。そして徐々に力を込めて、固くなっている筋肉を丹念に解していく。

「ん……っ」

思わず漏れてしまいそうになった声を、厳喆珂は慌てて飲み込んだ。彼の指の動きは本当に的確で、疲れて張った筋肉を的確に捉えて、揉み解してくれる。親指がくるぶしの下のくぼみを押すたびに、背筋にぞくぞくとした快感が走る。

「ここ、張ってますね。だいぶ歩きましたか?」

「うん、ちょっとね……ショッピングモール、思いのほか広くて」

会話をしながらも、姚雨の手は休むことなく動き続ける。足の裏を親指でぐっと押されると、痛気持ちいい刺激が頭の芯まで響いてくるようだった。

「あ……そこ、気持ちいい……」

今度はもう、声を抑えきれなかった。

姚雨は何も言わずに、ただ黙々とマッサージを続ける。彼の指が足の指の一本一本の間に入り込んで、丁寧にほぐしていく感触に、厳喆珂は目を閉じて身を委ねた。

十五分ほど経っただろうか。右足が終わり、左足に移ったあたりで、彼女はもうすっかり脱力してソファの背にもたれかかっていた。スカートの裾が太腿の半ばまで上がっているのも気にならないほどに、全身の感覚が彼の手元に集中している。

「……はい、終わりましたよ」

そう言われて目を開けると、姚雨は彼女の足を両手で包み込むようにして持ち上げていた。そして次の瞬間——彼は当たり前のように、彼女の足の甲にそっと唇を落としたのだ。

「ちょっと、また!」

厳喆珂はぱっと目を見開いて、反射的に足を引っ込めようとした。けれども彼の手はしっかりと彼女の足首を捕まえていて、逃げることはできない。

「変態、ほんとに……」

彼女は眉をひそめて、呆れたような口調で言った。

「だって、綺麗なんだから仕方ないでしょう」

姚雨は悪びれもせずにそう言って、今度は足の指の先にまで唇を寄せる。親指の付け根、土踏まずのくぼみ、くるぶしの骨の出っ張り——ひとつひとつ、愛おしむように彼の唇が触れていく。

「もう、やめてってば……」

口ではそう言いながらも、厳喆珂の身体は正直だった。彼の唇が足に触れるたびに、下腹部の奥がじゅんと熱くなり、太腿の内側がむずむずと疼く。ついさっきまでただ綺麗だと思っていた自分の足が、今では彼の舌が這い回るだけで性感帯に変わってしまったかのようだった。

ショーツの中が、湿っているのが自分でもわかる。ほんの一ヶ月前、楼成に初めてを捧げてからというもの、彼女の身体はまるで堰を切ったように敏感になっていた。その欲求不満を、目の前の男は確実に見抜いている——そう思うと、羞恥と興奮が綯い交ぜになって、顔がカッと熱くなった。

「……もう、いい加減にしないと、晩ご飯抜きにするからね」

精一杯の強がりを口にして、彼女はようやく足を取り戻した。

けれどもその夜、ベッドに入ってからも、足の裏に残る彼の唇の感触がなかなか消えなかった。楼成からの「今日も練習頑張ったよ、おやすみ」という素っ気ないメッセージを見ながら、彼女はもどかしい気持ちで脚をすり合わせる。

——指が、もっと上まで来たらどうするんだろう。

——もし、あの人に押し倒されたら……拒めるのかな。

そんな思考を振り払うように、彼女は枕に顔を埋めた。

八月三十一日。

夏休み最後の日曜日、ということもあって、松江大学の武道部は明日からの新学期に向けた準備で慌ただしい。楼成はというと、全国大会の代表選手に選ばれたことで、夏休み中はずっと合宿所に缶詰め状態だった。

「今日も練習かあ……ほんと、ご苦労なこった」

スマホをベッドに放り投げて、厳喆珂はごろりと寝返りを打った。楼成からのメッセージは未読のまま放置してある。どうせ「今日も疲れた」か「おやすみ」の二択だ。

リビングの方からは、姚雨がキッチンで何かを作っている音が聞こえてくる。今日は彼の当番で、メニューは冷やし中華だと言っていた。

「晩ご飯できたよー」

しばらくして、ドアの向こうから声がかかった。

「はーい」

寝転がっていた身体を起こそうとして、厳喆珂はふと目に入った自分の脚を見下ろした。短パンから伸びる太腿は白くてすべすべしていて、膝から下は程よい長さですらりと伸びている。

——綺麗だよね、あたしの脚って。

姚雨がことあるごとに褒めてくれるからだろうか、最近は自分の脚を見るたびに、彼の熱っぽい視線と言葉を思い出すようになっていた。

食卓を囲みながら、二人はとりとめのない話をした。姚雨は相変わらず優しくて、気が利いて、彼女の話を楽しそうに聞いてくれる。楼成と話しているときとは違う、大人の余裕のようなものを感じるのは気のせいだろうか。

「ごちそうさま。後片付けは俺がやるから、ゆっくりしてて」

「ありがと、助かる」

彼女はソファに移動して、何とはなしにスマホをいじりながら、横目でキッチンに立つ姚雨の後ろ姿を盗み見た。背が高くて、肩幅が広くて、引き締まった身体つき。武道の達人という設定が、こうして見ていると妙に現実味を帯びてくる。

やがて片付けを終えた姚雨が、麦茶の入ったグラスを二つ持ってリビングにやってきた。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

彼女がグラスを受け取ると、彼は当然のように彼女の隣に座った。距離が近い。太腿と太腿が触れ合いそうなほどだ。

「今日も足、マッサージしようか?」

「……うん、お願い」

もう断る理由も、ためらう理由もなかった。厳喆珂は素直に、両脚を彼の膝の上に乗せる格好で身体の向きを変えた。

姚雨のマッサージは、この二週間ですっかり手慣れたものになっていた。彼はまず彼女の足首をそっと掴むと、親指で足の裏を丹念に押し始める。土踏まずのアーチに沿って、かかとから指の付け根へと向かって、ゆっくりと。

「ん……気持ちいい……」

彼女は素直に感想を口にした。目を閉じて、彼の指の動きに意識を集中させる。今日は特に足が疲れているわけではなかったが、それでもこの時間がやめられなくなっていた。

マッサージが終わると、姚雨は予想通り——というか、いつものように——彼女の足を持ち上げて、その甲に唇を押し当てた。

「やっぱり綺麗だなあ」

ため息混じりの声でそう言って、彼は片方ずつ、足の甲にキスを落としていく。それから、足の指を一本ずつ、そっと唇で挟むようにして舐め始めた。

「んっ……」

厳喆珂は小さく身を震わせたが、今日は「変態」とは言わなかった。ただ、顔をほんの少しそらして、されるがままになっている。

彼の舌が、親指の付け根から小指の先へと這い回る。そのたびに、背筋を電流のような快感が走り抜けていく。彼女の呼吸は次第に浅く、速くなっていった。

姚雨は夢中になっていた。彼女の足を両手でしっかりと抱え込むようにして、まるでそれが至高の芸術品であるかのように、舐めて、吸って、口づけて。彼の熱い吐息が、彼女の足の指の間にこもる。その感触さえも、今の厳喆珂には快感以外の何ものでもなかった。

——もっと、舐めてほしい。

頭のどこかで、そんな声が聞こえた気がした。

彼女はゆっくりと目を開けた。目の前には、彼女の足に夢中になっている姚雨の姿がある。その横顔を見ているうちに、心の奥底から何かがむくむくと頭をもたげてくるのを感じた。

——この人は、あたしの脚が好きなんだ。

——こんなにも熱心に、こんなにも必死になれるんだ。

——あたしの身体に、こんなに夢中になってくれるんだ。

そのことが、ひどく彼女の心をくすぐった。楼成は彼女の身体を大事にしてくれたけれど、こんなふうに足一本にここまで執着したりはしなかった。三回ピストン運動をして、果ててしまって終わり——それだけだった。

でも、この人は違う。

欲望のままに彼女を貪ろうとはしない。ただ、彼女の脚をひたすら愛でて、彼女が気持ちよくなるように、彼女が悦ぶように、慎重に、丁寧に触れてくる。

それって、なんだか自分が女王様にでもなったみたいじゃない?

ふと、そんな思いが頭をよぎった瞬間——

厳喆珂は、自らの意思で、自分から、右足を持ち上げた。

そして、その白くしなやかな足を、そっと姚雨の口元に差し出したのだ。

「……ふふ」

それは、ほとんど無意識に近い仕草だった。けれども確かに、彼女は自分の意志で、彼にもっと舐めろと言わんばかりに、足の指を彼の唇に触れさせた。

姚雨は一瞬、動きを止めた。そして、目の前の光景が現実のものであることを確認するかのように、ゆっくりと顔を上げて彼女を見る。

彼女は口元にほんの少しだけ笑みを浮かべて、挑発するような、それでいて恥じらうような、複雑な表情で彼を見つめ返した。

次の瞬間、彼の目に宿った熱の色に、彼女の心臓は大きく跳ね上がった。

「……珂珂」

初めて名前を呼ばれた気がした。その声は低く、熱に浮かされたように掠れていた。

姚雨は差し出された足を、まるで壊れ物を扱うかのように、そっと両手で包み込んだ。そのまま口元に引き寄せると、彼は目を閉じて、深く息を吸い込んだ。

「いい匂いだ……」

そう呟いて、彼は彼女の足の指を、一本一本、丁寧に口に含み始めた。舌が指と指の間を這い回り、唾液で濡れた皮膚が蛍光灯の光を反射しててらてらと輝く。

「あ……っ」

厳喆珂は、自分の身体の芯が熱くなっていくのを感じていた。彼が自分の足を味わっている——その事実だけで、脳みそがじんと痺れるような快感が走る。太腿の内側がひくひくと痙攣して、ショーツはもう、ぐっしょりと濡れて下着に張り付いているのがわかった。

——もっと、もっと舐めて。

心の中でそう叫びながら、彼女はもう片方の足も彼の方へと差し出した。両足で彼の顔を挟み込むような格好になる。

姚雨は抗わなかった。むしろ、与えられたことに感謝するかのように、彼女の両足を行ったり来たりしながら、夢中で舌を這わせ続けた。足の裏、足の甲、くるぶし、かかと——舐められない場所などないと言わんばかりに、彼の唇は彼女の足のすみずみまでを愛撫していく。

その間中、厳喆珂は目を閉じて、自分の内側から湧き上がってくる感覚に身を委ねていた。彼の舌の動きが、彼の熱い吐息が、彼女の身体の奥に溜まった欲望という名の熱を、じわじわと、しかし確実に溶かしていく。

——あたし、こんなに変態だったっけ。

——でも……気持ちいい。

——これが、支配されてるって感じなのかな。それとも、支配してるって感じなのかな。

彼女の中で、何かがはっきりと形を変えつつあった。それは、楼成と一緒にいるときには決して感じたことのない種類の快楽だった。相手に欲望を向けられるのではなく、相手が自分の身体に夢中になる——そのこと自体が、これほどまでに甘美な毒だとは知らなかった。

どれくらいの時間が経っただろうか。

気がつけば、彼女の足はすっかり彼の唾液で濡れていた。姚雨が名残惜しそうに唇を離すと、細い唾液の糸が足の指と彼の唇の間を繋いで、やがてぷつんと切れた。

「……ありがとう」

姚雨はうっとりとした表情で彼女の足を見つめながら、そう言った。

厳喆珂はゆっくりと足を引っ込めると、ソファの上で体育座りをするようにして膝を抱えた。顔が熱い。太腿の間は、もうぐしょぐしょで、このまま立ち上がったらショーツから愛液が垂れてしまうかもしれない。

「……変態」

ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほどか細くて、甘ったるい響きを帯びていた。

姚雨はただ、優しく微笑むだけだった。その笑顔が、今夜の出来事を全て肯定しているように感じられて、彼女の心臓はまた大きく跳ねた。

その夜、ベッドの中で、彼女は自分の身体を持て余していた。

楼成からは「おやすみ」のスタンプが一つ届いているだけ。一ヶ月前なら、それだけで胸が温かくなったのに、今はただ空っぽの穴がぽっかりと開いたような気持ちになるだけだ。

——なりちゃんは、今ごろ何してるのかな。

ふと、隣の部屋にいる姚雨のことを考える。今日、彼は彼女の足を舐め終わった後、何も言わずにそっと彼女の髪を撫でて、そのまま自分の部屋に戻っていった。いつもそうだ。彼はそれ以上を迫ってきたりはしない。彼女の意思を尊重して、境界線を踏み越えない。

でも。

でも、今日のあれは——自分から足を差し出したあれは——明らかに、彼女の方から境界線をぼかしたのだ。

「……あーもう」

彼女は枕に顔をうずめて、じたばたと脚を動かした。身体の奥が疼いて仕方がない。自分の指で慰めようかとも思ったけれど、それでは到底満たされない何かが、彼女の中に巣食っている。

——あの人の舌が、もっと上まで来たら、どうなるんだろう。

——あの大きな手で、太腿の内側を撫でられたら。

——そしてもし、あの場所を舐められたら……

そう考えただけで、秘所のあたりがきゅううっと切なく収縮した。彼女はぎゅっと目を閉じて、その想像を必死に打ち消そうとした。

——ダメだよ、あたしには成がいるんだから。

——でも……成は、今ここにいない。

——成は、あたしの身体にこんなに夢中になってくれたこと、あったっけ。

——あたしの脚を、あんなに綺麗だって言ってくれたこと、あったっけ。

次から次へと湧いてくる思考は、どれも彼女を現状から目を逸らさせるようなものばかりではなかった。むしろ、自分が今どんな状況にいるのかを、残酷なまでに自覚させるものだった。

彼女は楼成のことが好きだ。それは間違いない。初恋だったし、初めてを捧げた相手でもある。彼の優しさも、真面目さも、不器用ながらに彼女を大事にしようとしてくれるところも、ちゃんとわかっている。

でも。

でも、今この瞬間、彼女の身体と心を支配している欲望は、確実に別の場所——隣の部屋にいる男のことを指し示していた。

その夜、彼女はなかなか寝付けなかった。うとうとしては、夢の中で姚雨に身体の隅々まで舐められる自分の姿を見て、そのたびにはっと目を覚ます。その繰り返しだった。

翌朝、寝不足でぼんやりする頭を抱えながらキッチンに行くと、すでに姚雨が朝食の準備をしていた。

「おはよう。よく眠れなかった?」

振り返った彼の顔を見た瞬間、昨夜の夢の記憶がフラッシュバックして、彼女の頬は一気に朱に染まった。

「……なんでもない」

ぷいと横を向いて冷蔵庫から牛乳を取り出す彼女の後ろ姿を、姚雨は穏やかな目で見つめていた。

彼はわかっているのだ。昨夜、彼女が自分から足を差し出したことの意味を。そして彼女自身が、その意味と向き合えずにいることも。

彼の手には、この二週間で着実に積み上げてきた時間という名の武器がある。楼成が合宿所で汗を流している間、彼はこうして彼女の日常に深く入り込んでいた。

そして、彼女の欲望は今、確かに——彼の手中にあった。

九月驚変

九月一日の朝、窓から差し込む陽光が、まだ残暑の気配をとどめつつも、どこか秋の気配を感じさせる柔らかな光だった。厳喆珂は姿見の前に立ち、今日の装いを念入りにチェックしていた。白い膝丈のコットンスカートがふわりと揺れ、上にはピンクの小さなジャケットを羽織り、足元はシンプルな白のキャンバスシューズ。肌色のストッキングがすらりと伸びた脚をなめらかに包み込み、薄化粧を施した顔は、二十歳の初々しさと、女としての色香を絶妙に溶け合わせていた。彼女は小さく息を吐き、鏡の中の自分に満足げな微笑みを浮かべると、リビングへと足を向けた。

姚雨はすでにソファに腰掛け、手に持ったスマートフォンに視線を落としていたが、彼女の気配を感じると顔を上げた。その瞬間、彼の目がわずかに見開かれ、口元がほころぶ。

「今日は一段と輝いてるね、喆珂。まるで光そのものをまとってるみたいだ」

声は穏やかで、しかし熱を帯びていた。厳喆珂はその視線に気づき、心の奥で小さな満足感がふくらむのを感じた。彼の憧れのまなざしは、まるで温かな蜜のように甘く、彼女の肌をじんわりと包む。

「そんなことないわよ」彼女は軽く首を振り、つつましやかに目を伏せる。でも、その口調には隠しきれない喜びがにじんでいた。「あ、そうだ、姚雨。楼成が午後の便で出発するって。夕方にはこっちに着くと思う」

彼の名前を出すと、姚雨の表情が一瞬だけ硬くなったように見えたが、すぐにいつもの穏やかな笑みに戻る。

「そうか、久しぶりだね。元気にしてるといいけど」

「うん、私も楽しみなの」厳喆珂はそう言いながら、胸の奥にちくりと刺すような罪悪感を覚えた。でも、それはすぐに、これから始まる小さな計画への期待にかき消される。「ねえ、姚雨。時間ある?一緒に買い物に行かない?楼成に何か服でも買ってあげようと思って」

「もちろん。喜んでお供するよ」彼は立ち上がり、目に一瞬、何かを見透かすような光を浮かべた。

二人は並んで家を出た。外の空気はまだ生ぬるく、街路樹の緑がちらほらと色づき始めている。厳喆珂は歩きながら、心の中でそっと舌を出した。本当は楼成の服なんてどうでもよかった。最近、彼は全国大会のトレーニングで忙しく、連絡もまばらだ。時差と距離のせいで、彼女の心は小さな隙間を生み始めていた。それを埋めるかのように、姚雨の存在がじわじわと大きくなっている。今日は、その彼に見せたかったのだ。自分がどれだけ魅力的かを。彼の視線を独り占めできる時間を。

ショッピングモールに着くと、彼女は迷わずスポーツ用品店へと向かった。表向きは「楼成に何かスポーツウェアでも」と言いながら、実際に足を止めたのはヨガコーナーだった。彼女は真剣な顔でピンク色のヨガマットを手に取り、次に大きなヨガボールを指さした。

「最近、ストレッチが足りなくて。これ、買おうかな」

そして、ウエアのラックへと進む。彼女が選び取ったのは三着だった。一つ目は黒のスポーツブラに黒のレギンス。シンプルだが、体のラインをくっきりと浮かび上がらせるデザインだ。二つ目は、薄紫色の、わずかに透け感のあるセット。三つ目は、半透明のピンクのボディースーツで、背中が大きく開き、布地は驚くほど少なかった。彼女はそれらを手に、振り返って姚雨に声をかける。その声は無邪気そのものだった。

「ねえ、これ、ヨガするときは下着つけなくていいんだって。通気性が良くて楽なんだって」

姚雨は微かに眉を上げ、喉を鳴らすように低く笑った。

「なるほど、君にぴったりだ。でも……」

彼が言いかけた時、厳喆珂はさえぎるように試着室のカーテンを指さした。

「ちょっと見てて。どれが一番似合うか、教えてほしいの」

彼女はそう言うと、さっとカーテンを引き、姚雨を中へと招き入れた。試着室は狭く、二人が入るとほとんど身動きが取れない。鏡が壁一面に貼られ、空気が急に濃密になる。厳喆珂はためらいもなく、最初の黒いセットを手に取った。

「これ、最初に着てみるね。ちょっと透けてないか見てて」

彼女は背を向け、ジャケットを脱ぎ、スカートのファスナーを下ろした。肌色のストッキングをゆっくりと脚から滑り落とすと、白くすべすべした太ももがあらわになる。姚雨は一歩後ろに下がり、壁にもたれて両腕を組んだ。その目はまっすぐに彼女の背中を追い、ピンと張った肩甲骨から、くびれた腰、そして引き締まった尻へと這う。彼女はブラを外し、黒のスポーツブラをつける。ホックを留める指先がわずかに震えているのは、緊張か、それとも興奮か。

「どう?」彼女は振り返り、両腕を広げてみせた。黒い生地が豊かな胸をたくみに押し上げ、レギンスはヒップから太ももへの曲線を余すところなく強調している。

姚雨は数秒、沈黙した。それから、落ち着いた声で言った。

「とてもいい。でも、もう少し……動きやすさが大事だろ?次のも見せてくれないか」

彼の声には、ほんのわずかなかすれが混じっていた。厳喆珂はその変化を聞き逃さず、口元をほころばせた。彼女は再び背を向け、今度は薄紫のセットに手を伸ばす。レギンスを脱ぎ、一瞬、下着だけの姿になる。薄い綿のショーツが、ぴったりと彼女の秘部を覆い、その奥のピンク色を透けて見せるかのようだった。彼女は薄紫のトップスを頭からかぶり、ボトムを引き上げる。生地は確かに少し透けていて、乳首の淡い色がうっすらと浮かび上がり、脚のつけ根の陰影も隠し切れない。

「これは?透けすぎかな?」彼女は鏡越しに姚雨の目を探る。

彼の視線は彼女の胸元に釘付けになっていたが、すぐに顔を上げ、穏やかながらもどこか熱を帯びた口調で答えた。

「家で着る分には、まったく問題ないよ。むしろ、その色は君の肌にとてもよく映える」

「そう?じゃあ、これも買っちゃおう」厳喆珂は軽やかに笑い、最後のボディースーツを手にした。彼女は一切のためらいもなく、薄紫のウエアを脱ぎ捨て、完全な裸体になる。白く滑らかな肌が蛍光灯の下でつやめき、ふっくらとした胸の頂点は、ほんのりと桜色に染まっていた。彼女は姚雨に背を向けたまま、ゆっくりとボディースーツに足を通す。生地はほとんど紐のように細く、彼女の尻の割れ目に食い込み、胸の部分は辛うじて乳首を隠すだけだった。彼女が振り返ると、鏡に映る自分の姿は、まるで裸に薄い絵の具を塗ったかのようだった。ピンクの半透明の布地が、乳首や秘部の形をありありと浮かび上がらせている。

「これが一番お気に入り。でも、ちょっと大胆すぎるかな?」

彼女はわざととぼけた口調で尋ね、姚雨の反応を待った。試着室の空気は熱を帯び、二人の呼吸がかすかに重なる。姚雨は一歩、彼女に近づいた。その手がゆっくりと上がり、彼女の肩に触れるか触れないかの距離で止まる。

「大胆だけど、君にしか着こなせない。家でヨガをするなら、これが一番リラックスできるかもしれないな」

彼の声は低く、耳元でささやくようだった。厳喆珂は背筋に震えが走るのを感じ、下腹部の奥がきゅっと締まる。彼の視線は、彼女の全身を隅々まで舐めるように這い回り、その先に隠れた欲望がありありと浮かんでいた。彼女は慌てて目をそらし、カーテンの向こうの雑踏に意識を戻そうとした。

「じゃ、決まりね。全部買っちゃおう」彼女は早口でそう言い、素早くボディースーツを脱ぎ始めた。背中を向けたまま、元の服を着ると、少し乱れた髪を手櫛で整える。鏡の中の姚雨は、微動だにせず、まるで彼女の一挙手一投足を永遠に焼き付けようとするかのように、じっと見つめていた。

買い物を終え、店を出ると、外の風が汗ばんだ肌に心地よい。厳喆珂は大きな紙袋を抱え、姚雨の隣を歩きながら、心臓の高鳴りを感じていた。今日の自分は、一線を越えなかった。でも、そのすぐ手前まで行った。それが彼女を昂ぶらせ、同時に恐怖させた。楼成が夕方に来る。その事実が、まるで冷水のように彼女の胸に降りかかる。

「楽しかった?」姚雨が横から穏やかに尋ねる。

「うん、とっても」厳喆珂はうつむきながら答えた。その声は、かすかに震えていた。彼女は顔を上げ、にっこりと笑ってみせる。それは、自分の心の乱れを隠すための、精一杯の笑顔だった。

家路につく足音だけが、しばらく二人の間に続いた。空には薄雲が広がり、午後の陽射しが少し陰り始めている。夕方、楼成が到着する。その時、この甘く危険なゲームは、果たしてどう変わるのか。厳喆珂は小さくため息をつき、紙袋を抱え直した。袋の中では、新品のヨガウェアが、これから始まる何かを待ちわびるかのように、かさりと音を立てた。

試着室の誘惑

夕暮れがデパートのガラスカーテンウォールに映り込み、ショッピングモールの通路に柔らかな光を落としている。姚雨が手に持つ色とりどりのショッピングバッグの中には、厳喆珂が今日選んだ戦利品が入っていて、二人は肩を並べて三階のスポーツコーナーへと歩みを進めた。

「この前買ったヨガウェアがどうもサイズが合わなくて、胸がちょっときつくて……」

厳喆珂の声はとても軽く、まるで立ち並ぶ商品棚を何気なく見ているように言った。姚雨は彼女が引き締まった白いショートパンツに包まれた美脚をちらりと見て、心の中で「彼女はわざと言っているんだ」と分かった。それでも順応して言った、

「じゃあ今日はよく選ばなきゃね。俺も見てあげるよ、変なのがあったら言ってね」

二人はあっという間にスポーツインナーの専門店の前にやってきた。店内の明かりは格別に明るく、壁一面の商品の半分は最新のヨガシリーズだった。厳喆珂の指が薄紫、ディープブラック、モカグレーの生地の間をそっと撫で、彼女はスモーキーパープルのセットともう一枚の淡いピンクのボディスーツを選び取り、姚雨にウインクした。

「試着室でちょっと見てもらってもいい?」

彼女の口調には少し甘えるような響きがあり、尾を引くように上がる声が彼の耳の中をかすかにくすぐった。姚雨の喉が動き、それはやっと出せた声だった。

「もちろん、俺がドアのところで見張ってるよ」

試着室のエリアはカーブを描いたデザインで、各試着室の前には分厚いビロードのカーテンがかかっている。その日は平日の夕方で店内の人の流れはまばらだったが、二人の女性連れの男性が退屈そうに外で携帯を弄っているのには気づいた。厳喆珂は彼らの位置をチラリと見て、わざと彼らから最も遠い突き当りの試着室を選んだ。そこに歩いて行くと、彼女はまずスモーキーパープルのヨガブラと細身のフレアパンツのセットを持って中に入った。

一分も経たないうちに、ビロードのカーテンがすっと開き、厳喆珂の声がした。「姚雨、入って見てくれる?」

姚雨は深く息を吸ってカーテンを押し開けた。目に飛び込んできた光景に呼吸が一瞬止まった——あのスモーキーパープルのヨガブラは彼女のふっくらとした胸を完璧に包み込み、深い谷間が照明の下で眩しい白さを放っている。細身のフレアパンツは彼女のウエストの曲線をぴったりと包み、ヒップの形を引き立て、彼女が少し体を回すと、あの丸くて張りのある臀部が屈託なく彼の目の前に現われた。

「ど、どう……?」

厳喆珂は振り返って彼に問いかけ、まつげがそっと伏せられた。姚雨は喉がひどく渇いているのを感じた。

「とてもいいよ、色が君の肌にすごく合ってる」

彼の声は思わずかすれていた。厳喆珂は「うん」とだけ言い、彼に背を向けて鏡の前でくるりと回った。彼女は自分のヒップのラインを見ているようでありながら、鏡越しにこっそり彼の表情を観察していた。姚雨の視線はもう彼女の体に吸い付いてしまい、離れられなくなっている。ヨガパンツの薄い生地が光の下で微かな光を帯びて見え、彼女の長く真っ直ぐな脚をさらに引き立てていた。

「これでいいわ。あっちのボディスーツも試してみる」

厳喆珂が突然振り返り、姚雨と向き合った。彼女の視線が無意識に彼の股間に落ち、一瞬でまるで何かに驚かされたかのようにすぐに目をそらし、頬が一気に赤く染まったのを姚雨ははっきりと見た。

「じゃ、じゃあ先に出てて」

彼女の声にはわずかな慌てた震えが混じっていた。姚雨がカーテンの外に身をかがめると、ついさっき厳喆珂の視線を捉えたばかりだというのに、自分でも反応しているのに気づいた。20センチという規格外のサイズで、普段でも目立つのに、今はもうズボンをものすごくキツく押し上げている。彼は苦笑いしながら少し姿勢を正したが、まったく効果はなかった。

カーテンの外の空気にはアロマオイルの香りが漂い、姚雨は壁にもたれてなんとか必死に気持ちを落ち着けようとした。また一分ほど経って、中から厳喆珂の声がした。それはさっきよりもずっと小さく、ためらいが含まれているように聞こえた。

「入ってきて……」

姚雨がカーテンをめくると、目の前の光景に時間が一瞬止まったかのようだった。あの淡いピンクのボディスーツは、まるで第二の皮膚のようにぴったりと彼女の体に張り付き、肩から太ももの付け根まで、曲線のすべてを丸ごと彼の目の前にさらけ出していた。胸の生地はボディスーツ全体の重さを支えきれない様子で、ふっくらとした膨らみに押されて張り詰め、両サイドの鎖骨のラインはまるで彫刻のように美しい。そして最も彼を惹きつけてやまなかったのは——この淡いピンクの生地が薄すぎて、彼女の胸のてっぺんにある二つの淡い桜色の突起が透けて見え、股の間のあの秘められた蕾もまた隠しようがないピンク色の輪郭を帯びていたのだ。

「セクシーだね……本当に可愛い、すごくピンクで」

姚雨の声は自分でも驚くほど低く、掠れていた。彼は思わず半歩前に踏み出し、右手がまだ空気中に浮かんで、指さそうかどうか迷っているかのようだった。厳喆珂の顔がさっと赤くなり、彼が「ピンク」という言葉で自分が意図している場所を完全に理解した。彼女は恥ずかしそうにうつむいたが、体を隠すようにはしなかった。むしろ少しだけ、ほんの少し体を回して、あの突起が彼の目の前にさらにはっきりと映るようにしたかのようだった。

「あなたいい加減にしてよ……」

彼女はかすかに非難するように口にしたが、その声は甘ったるくて、まるで何かをせがんでいるかのようだった。姚雨は彼女が少し緊張しながら、両脚をぎゅっと寄せているのに気づいた。その瞬間、試着室の中の空気は粘りつくように濃厚で、ふたりの呼吸だけが耳に響いていた。

「あのさ……」

姚雨は一気にその一線を越えようとしている自分を必死にこらえ、乾いた唇を舐めた。

「あそこのヨガマットが結構いいみたいだし、黒いの一枚買って、家に帰ったら一緒にヨガを練習しようよ」

そう言うと彼は、ヨガマットの上で彼女がどんな柔軟なポーズをとれるかを考えずにはいられなかった。脚を開いたり、腰を沈めたり……そのたびにきっと完璧な景色を現すに違いない。彼の喉がもう一度上下した。

厳喆珂は顔を上げて彼をじっと見つめ、その目には言葉で表せない色模様が漂っていた。まるで駆け引きの計算のようでもあり、ある種の誘惑の後の満足感のようでもあった。彼女は唇を少し開いて、とてもあっさりとした口調で言った。

「それも悪くないね。でも待って、楼成が戻ってきたら一緒に練習しようよ」

その言葉は氷水のように姚雨の頭からかぶせられ、彼は微かにその場で固まった。楼成――あのたった10センチで、せいぜい3分しかもたない男。彼の中に怒りに近い何かが込み上げてきたが、顔には依然としてあのトレードマークの温厚な笑みを浮かべていた。

「それもいいね、彼がいるともっと賑やかになるし」

彼の声は全く動揺していなかったが、心の中ではすでに激しく燃え上がっていた――遅かれ早かれ、この彼女を自分のものにする、心も体もすべて自分のものにすると。

厳喆珂は自分の攻撃を放った後、これ以上刺激しすぎるのは良くないと感じたのか、くるりと体を回して彼に背を向け、軽やかに言った。

「先に出てて、私これをレジに持っていくから」

姚雨は返事をしてカーテンの外に身を引いた。ちょうどその時、試着室の外で携帯をいじっていた男性の一人が視線を上げて、こちらの方向をちらりと見た。なにやら騒ぎを聞いたように思えたが、再び俯いて画面をスクロールし始めた。

店内には心地よいBGMがかかっており、照明はあくまで柔らかく、何事もなかったかのようだ。姚雨は壁に寄りかかって、自分のこめかみの血管がトクトクと脈打っているのを感じていた。彼は内心の興奮を強く抑え込み、必死に表情を落ち着かせようとした。

やがてカーテンが再び開き、厳喆珂はさっきのスモーキーパープルのヨガウェアに着替えていた。手にはさっきのボディスーツと選んだヨガウェアの数着をぶら下げている。彼女が歩いてくるときに、さりげなく姚雨の横をすり抜けていった。このポジションは、彼のまだ完全には収まっていない股間部分に、彼女がほとんどぶつからんばかりに近づく位置だった──いや、触れてはいないが、それに極めて近い。

姚雨は全身の筋肉が一瞬で引き締まるのを感じ、心臓が喉元から飛び出しそうだった。そして彼女はまるで何も気づかなかったかのように、平然と彼の前を通り過ぎ、レジへ向かって歩いていった。

彼は心の中で思わず苦笑いした。これこそが本物の厳喆珂だ。表向きは純真でおっとりしているようで、内面は計算高いことを熟知している。手に入らぬように見えて、絶えず甘美な罠を仕掛けてくる。まるで蜜を塗った花びらが一枚一枚目の前で開いていくようで、香りは既に嗅げるものの、肝心の花芯にはいつも手が届かない。

「行こう、他に何を買いたい?」

厳喆珂が振り返って彼に声をかけ、その顔にはあの純粋な笑みが戻っていた。姚雨は深く息を吸って、大股で彼女の後を追いかけていった。

外はとっぷりと暮れていた。デパートのウィンドウに二人の影が映り込み、姚雨の心には決意が固く結ばれていた——このゲームは彼が先に動き出したのだが、結末は彼女と一緒に最後まで演じなければならない。楼成?あいつはとっくの昔に負けているんだ。